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3ー6.食事会


「ピアの料理手伝お~って思って早く来たら、あんな格好のセスさんがいるんだもの。さっきはビックリしちゃったわ!」


「俺だって驚いたさ、とんでもない誤解されて」


「あははっ! ゴメン、ゴメン。だって後ろ姿なんか、もろ不審者だったし。あっはははは!」


リーナは笑いながら、セスの背中をバシバシと叩いた。

もちろん今のセスはもうシャツを着ている。

ピアに洗濯してもらったシャツは、いつもより柔らかく、良い香りに仕上がっていた。


「もう! リーナちゃんってば、セスさんに失礼ですよ! せっかく今日は朝からお手伝いしてくれていたのに」


春野菜のキッシュを切り分けつつ、ピアはリーナに注意した。

キッシュに使われている野菜は、今日セスがピアと共に収穫したものだ。

勿論、キッシュだけではない。サラダも、スープもだ。

白兎亭のベーグルだけは、レミが焼きたてを買ってきていたものだった。


「セスさん、今日は本当にお疲れ様でした」


「いえいえ、大したことないですよ。また男手が必要なときには、俺に声をかけてください」


円型の食卓で、セスの両隣にはうら若き乙女たち。正に両手に花。

ガラスのティーポットの中でも、ピアの育てた花が華やかに花弁を広げている。

さっきセスが被っていた籠にも、庭でとれた果実と一緒に花が美しく盛られている。


「きゅー……」

「んみゅ……」


デッキの端には、先に食事を終えていたシュシュが4匹。

もっちゃりとひっつきあって、日向ぼっこしている。


さらば、網目越しに見た惨めな世界!

セスは料理と共に、再び訪れた平和な時間を噛みしめていた。


「どれもすごく美味しいですよ。ピアさんは本当に料理上手ですね」


「料理上手ならリーナちゃんですよ。3人でする食事会以外にも、よく一緒に作って食べているんです」


「あたしたち、お隣さんだからね。最近はネリアも一緒よ。あの子は食べる専門だけど……」


セスも、ピアも、リーナも、笑顔。素晴らしき食事会。


だが、ただ1人……セスの真正面に座ったレミだけは、面白くなさそうにセスを睨みつけていた。


「……男手だったら、ピアには僕がいるんだ。魔脈管理士は自分の仕事だけしてればいい」


レミが小声で呟くやいなや、リーナが大袈裟に笑って首を横に振る。


「無理無理‼︎ レミに力仕事なんて! 女のあたしより非力なんだから! 前もピアのこと手伝おうとして、鉢を落として割ったり、腰を痛めたりしたじゃない。結局、あの時はあたしの方が役に立ってたし。諦めなさ〜い」


すると、ピアはレミを庇ってリーナに注意する。


「リーナちゃん、そんな言い方はよくないです。……レミくん、気にしないで。レミくんには、他に得意なことがあります。それでもう充分に助けてもらっていますから。それに……リーナちゃん、本当はレミくんが怪我しないように心配して、わざとああ言ってるだけですから」


「なっ……! べっ、別にそんなんじゃないわよ! 勘違いしないでよねっ」


3人とも同い年のはずなのに、まるでピアが母親でリーナとレミが幼い姉弟のようだ。

レミの容姿が美少女過ぎるせいで3人姉妹に見えなくもない。

そんな幼馴染トリオを、よそ者のセスは疎外感を感じつつ見守っていた。


ふと、レミがピアの手を取って、ぐっと真剣な顔を寄せる。


「ねぇ、ピア……本当にあのよそ者のことは、なんっっとも思ってないんだよね?」


「セスさんのことですか? 親切で頼りになる魔脈管理士さんだと思っていますよ」


ピアはにこやかに答えた。


「そっ、そうじゃなくて、その……つまり、い、異性としては……」


「ばっかねー、レミ! ピアがセスさんのこと、恋愛対象として見るわけないじゃん!」


レミがピアに聞くのを待たず、リーナがバッサリと断言した。

わかりきったことでも、ちょっぴり傷つくセス。


「だってセスさん、任務が終わったら故郷に帰るもの。ピアが火の国に嫁ぐなんて、あり得ないんだから!」


「それは……そうだけど……」


リーナより本人の口から言葉が欲しいレミは、チラリと上目遣いでピアを見た。

ピアはいつものようににっこり笑って答える。


「ええ、わたしはこの村にいます。師匠の帰りを待たないといけませんから。結婚だって、師匠も戻らないうちに考えられませんよ。それにこんな話、セスさんに失礼ですよ。本当に何もないんですから」


「……うん。そうだよな……」


レミは何かまだ言いたげだったが、すっとピアの手を放した。


「みゅーん!」

「みゅみゅ」

「きゅっきゅきゅ!」


すると俯いたレミの足元に、日向ぼっこをやめてシュシュたちが駆け寄ってきた。

1匹が膝へとよじ登ると、出遅れた2匹はすねにしがみ付く。


「ははは、レミは懐かれてるなぁ…………わっ」


レミを見て他人事のように笑っていると、セスの背中へも1匹登ってきた。

シュシュの小さな手は意外と力強く、ギュッと掴まれるとちょっと痛い。

料理にイタズラされないように両腕でしっかり捕まえると、陽光でふかふかになったシュシュの体毛が気持ち良い。


「ん? このスカーフ……こいつ、さっき俺を泥塗れにした毛玉シュシュ⁇」


「ええ、そうですよ。さっき毛を刈ったんです。毛糸にするのが楽しみです」


「へぇ、みちがえたな~」


よく見ると、シュシュのスカーフには青と紫の花の刺繍が施されている。

花に詳しくないセスだが、ピアの前庭のプランターに咲いているものだとわかった。


「もしかして、このスカーフはレミが? レミに懐いてるシュシュたちのも……」


「こっちの3匹のはそうだよ。でも、そいつのは違う。ピアが縫ったんだ」


レミはセスの方を見ずに答えた。

よりによってピアのスカーフを巻いたシュシュだけがセスに懐いてしまい、内心かなり悔しがっていた。


「ピアさん、裁縫も得意なんですね。とても綺麗な刺繍だ」


セスが感心して褒めると、ピアは静かに首を横に振る。


「得意というほどではありませんよ。ただお裁縫も師匠に教わっただけで。本職のレミくんと比べたら、わたしなんてまだまだ……」


「いや、プロの僕の目から見ても、ピアは本当に裁縫が上手い。しかもデザインから縫製までが主な僕と違って、ピアは染色、糸紡ぎ、機織りまでできる。シュシュの毛からセーターを編んだり、自分で育てた綿花や亜麻で布を織ることだってできるんだ。ほら、今僕たちが使ってるプレースマットもそうだよ」


謙遜したピアに代わって、レミはセスにそう教えた。

セスが皿を動かして見ると、マットには草花をモチーフにした模様が織り込まれている。

とても素人作とは思えない、見事な仕上がりだ。


「すごいですね、ピアさんは。料理も上手だし、裁縫も上手だし、あんなにたくさんの植物を1人で育てているなんて。俺より歳下なのに……本気で尊敬しますよ」


セスは更に感心して褒めたが、やはりピアは静かに首を横に振る。


「いいえ、わたしはすごくないですよ。お料理ならリーナちゃんも得意だし、お裁縫はレミくんには敵いません。植物のお世話はシュシュさんたちに助けてもらっています。それに……わたしができることは、どれも師匠が教えてくれたおかげですから! 本当にすごいのは師匠です! 師匠は料理、裁縫、調合、工作なんでもできて、植物、天文、歴史、魔法にも詳しかったんですよ」


師匠について話すときのピアは、目を輝かせて本当に生き生きとした表情になる。

それをピアの幼馴染たちは寂しそうな目で見ていたが、セスはそれには気付かなかった。


「ピアは自分のお師匠さんを本当に尊敬してるんだな。俺も興味が出てきた。……リーナたちも、ピアと幼馴染ならお師匠さんとは面識があるよな? いったいどんな人物なんだ?」


セスは身内の贔屓目無しの意見も聞いてやろうと思って、リーナとレミに尋ねてみた。

2人は一瞬顔を見合わせて、それから口を開いた。


「……村の英雄、だよ。優秀な魔導士で、学者で、村の開拓に大きく貢献した。魔物を手懐け、森を切り開き、建築の指揮を執り、大地を耕し、様々な作物と肥料を村にもたらした」


「うん……人柄も立派だった。能力や功績に驕らず、清廉で献身的。いつも困ってる村人の相談にのっては、問題を解決してた。優しくて働き者で、本当に村中の人たちから好かれてたよ」


「すごい、な……それは……本当にすごい人物だ」


にわかには信じられないながらもセスがそう褒めると、リーナとレミは「でも……」と何か言いかけて口ごもった。

ピアだけはニコニコして、嬉しそうに頷いている。


「師匠はあの災害の直前、わたしに留守番を言いつけて、この家を発ったんです。あの災害で、この村は確かに大きな被害を受けました。でも、土砂はちょうど村の中心を避けるように両端の田畑や果樹園を通り、奇跡的に死傷者は1人も出なかったんです。わたし、実は信じてるんです……きっと師匠がこの村の人たちを守ってくれたのだと。村の被害を最小限に抑えるよう、わたしたちの知らないところで頑張ってくれたのだと」


「へぇ……そう、ですか……なるほど……」


押し黙ってしまったリーナとレミを横目にハラハラしながらも、セスはなんとか相槌を打っていた。

ピアは笑顔を絶やさず話し続ける。


「師匠はあれからずっと行方不明です。でも、師匠は絶対に生きています。だって、必ず帰ってくると、わたしにそう約束しましたから! だから、わたしは師匠の教えを大事にしながら、この家を守って待ち続けます……師匠が帰ってくる、そのときを」


「…………」


ついにセスも、ピアに返事をしてやれなくなってしまった。

だが、居心地の悪い間を作ることなく、ピアは席を立つ。


「さて、そろそろ冷やしておいたデザートもお持ちしましょう。今日はリーナちゃんの大好きな苺のムースですよ♪」


ピアがデッキからキッチンへ入ると、リーナとレミはセスへ「ピアに師匠の話はなるべくしないように」と釘を刺した。

「きっと災害に巻き込まれて、もう死んでいる。諦めろ」と言える者は、ピアの周りにいないのだ。



めっちゃインスタ映えしそうな食卓

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