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3ー1.精霊少女との生活

2021/08/30『治癒魔法』を『回復薬』に訂正

夢の中。


光が溢れて真っ白な空間に、緑色の長い髪をした美しい女性が立っている。


「…………………………」


彼女はセスを真っ直ぐ見つめ、何か語りかけてくるのだが、その声は全く聞こえない。

セスは彼女にもっと近づこうとしたが、まるで自身の肉体がその空間には存在していないかのように、手足も指も何も動かせない。

彼女に呼びかけたくても、まるで空気の無い空間にいるかのように、声すら出せない。


「っ!」


空気が無いと思った途端、セスは本当に息ができなくなった。

苦しくて意識が遠のく。次第に暗くなっていく視界の中、彼女の姿が遠くなっていく。

そうしてセスの世界は終に何も動かない真っ暗闇になった…………


***


「…………んん……っ」


早朝のベッドの中、セスは目を閉じたまま寝返りをうった。

まぶた越しに感じる窓辺の光は、まだそれほど明るくなっていない。

もし二度寝で遅れてしまっても、相棒のネリアが起こしに来るはずだ。

それならこのままもう少し眠っていよう。セスはそう思ったのだが……


「⁇」


胸元にゾワゾワとした不快感がある。それに、なんとなく視線も感じる。

音も匂いも無い、漠然とした、気配。


「…………」


セスはゆっくりと目を開けてみた。

すると、鼻先が触れそうなほど間近から、大きな碧い目がセスの顔を見つめていた!


「…………っうおああああ⁉︎⁉︎」


ズデデン‼︎


セスは情けなく絶叫しながら床へ転がり落ちた。

本来ならクールなエリートキャラのポテンシャルを持っていると自負していたのに、現実は無情である。

背中を強く打ったセスが起き上がれずに悶えていると、ベッドの上から緑色の長い髪がユラユラと垂れてくる。


「お、お前なあぁ……っ」


セスが涙目で睨み付けても、ベッドの上の精霊少女はただただニコニコと笑いかけてくるのだった。


***


「へえぇ……それは災難だったねぇ」


セスから今朝の出来事を聞かされたネリアは、他人事だと言わんばかりの暢気な声でそう返した。


「ったく、冗談じゃない……洗顔中だって、パッと顔を上げたら鏡からコイツがニョキッと飛び出してきたんだ! おかげで今朝からもう2回も、自分の後頭部にできたコブのために回復薬を使ってる。こんな生活がこれからしばらく続くなんて俺は気が狂いそうだ……」


昨日に引き続き東の山の魔脈調査作業を進めながら、セスはネリアに愚痴を聞かせていた。

精霊少女はというと、自身を非難し続けているセスの背中にニコニコしながら憑いている。


ここでの任務中に魔物に襲われる可能性は低く、雑魚相手ならネリア1人に戦闘を任せたっていい。

一応セスは精霊少女の霊体を傷付けない予備の剣も携えているので、いざとなったらそれで戦うこともできる。

そんなわけで、結局精霊少女を引き連れたまま作業することにしたのだ。

それに、魔脈の乱れに近付けば、精霊少女は何か思い出してくれるかもしれない。


「人が着替えてようが、飯食ってようが、コイツはお構いなしに体をすり抜けてきたり、ジロジロ観察してきたりするんだ。一日中逃げ場無しでプライバシー完全無視のストーカーに付き纏われ続けるんだぞ? ネリア、いくら能天気なお前だって絶対耐えられないだろ?」


「まあまあ、きっとすぐ慣れるってば。相手は人間の女の子の形はしていても、やっぱり精霊なんだから。裸を見られようが、体をすり抜けられようが、いちいち気にしなければいいんだよ。セスは神経質すぎ~」


裸と聞くと、セスはネリアのはだけた浴衣姿を思い出した。

昨日はあんな無防備な姿のネリアと、2人きりの部屋で密着していたのだ。

セスにとってネリアは、ちゃんと触れられる肉体で、強烈に意識せずにはいられない異性。

そう考えると、生身の人間の女と比べれば、精霊少女の存在は取るに足らないものに思えてきた。


「ま、確かにそうだよな。気にしないようにするしかないよな。うん」


「お? セス、いつもより素直~。その意気だよっ。がんばれ、がんばれ♪」


ネリアの暢気な声に励まされ、セスは精霊少女との生活に前向きになれた。


だが、…………


***


「…………」


無事にその日の作業を終え、帰ってきたセス。

山でかいた汗を流すべく、シャワーを浴びようとする。


「…………」


剣は玄関へ置いてきたというのに、やはり動いている人間が面白いのか、憑いてくる精霊少女。


無心、無心……そう心の中で呟きながら、セスは服を脱いで裸になる。

それでも遠慮なしに、精霊少女はセスの背に憑いたままだ。


それなら無遠慮には無遠慮、こちらの意を無視する相手などこちらも無視だ!

セスは背中の精霊少女に遠慮せず、シャワーをひねる。


サアアアアァァ…………


「…………」


セスが目を閉じて髪を洗っていると、ふと、背中からゾワゾワが消えた。

精霊少女が飽きて離れたのだ! セスは安堵した。


何も気にしなければいい! ネリアの言う通りだった!

……やっぱなんだかんだで良い相棒だ……胸はデカいし太腿は見放題だし……


なんだかんだで役に立つ相棒のことを考えつつ、セスはシャワーを止めて目を開けた。

その瞬間、視界に入る、緑色の頭。


「…………」


セスの背後から離れた精霊少女が、セスの正面のタイル壁に半分埋まってしゃがんでいる。

精霊少女は真顔で、真っ直ぐ、真正面を見つめている。


じーーーーっ


「…………」


じぃぃーーーーーーーーっ


「こっちの剣は駄目ええぇぇ~~っっ‼︎‼︎」


精霊少女に大事なところを注視されたセスは、男に裸を見られた生娘の如く顔を覆って泣いた。

そのとき覆うべきところはそこじゃなかったはずだが。


結局そんな日々が続き、セスは精神的に消耗していった。



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