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2ー6.つけてない。あててる。


「はぁ~~……いい湯だったなぁ……」


時は既に夕刻。温泉上がりのセスは座敷で余韻に浸っていた。

煤で汚れた服を魔動洗濯乾燥機で綺麗にする間は、温泉の浴衣を貸してもらっている。

しかも温泉饅頭と冷たい抹茶のサービス付きだ。


「ネリアの奴、遅いなぁ……ピアさんの晩飯が入らなくなっても困るだろうし、俺が全部食っといてやるか♪」


ガタッ……


セスが残りの饅頭に手を伸ばしかけたところで、ようやくネリアが座敷の入り口に現れた。

だが、その足取りはフラフラとして覚束ない。


「ネリア?」


「ふにゃ〜〜……」


突然、ネリアがセスの背に覆い被さった。ぐったりと、重力に従順に。


「私、ちょっとのぼせちゃったぁ……しばらくこのまま休ませて~……」


「ば、ばかっ! 何考えてんだよ⁉︎」


「だってぇ、美肌効果あるって聞いたから……実際、ニナさんたち綺麗だし……つい欲張っちゃったぁ……へへへ」


サイドテールにした濡れ髪から、石鹸の良い香りがする。

少し苦しそうな熱い吐息。しっとり火照った柔肌。

薄い布2枚隔ててセスの背へ伝わる、ネリアの生々しい感触。


「⁇…………⁉︎⁉︎」


柔らかすぎる。


もしかして、ネリアは下着も洗濯してしまって、今は着けていないのでは?……そんな思考がセスの頭をよぎった。そのとき……


にょきっ!


「わっ⁉︎ お前っ……」 


「セス、どうしたの⁇…………きゃあっ⁉︎」


セスもネリアも床の間の壁を見てギョッとした。あの精霊少女が壁をすり抜けて現れたのだ。

掛け軸の墨絵に半分埋まりながら、2人の様子を興味深そうに見つめている。

なかなか斬新な立体カラー掛け軸状態だ。


「こいつ、勝手に結界を破ってここに来たのか⁉︎ ネリア、すぐに鍛冶屋へ戻るぞ!」


「ええっ、まだ服乾いてないよ? 浴衣のまま行くの⁇」


セスが慌てて立ち上がり、振り落とされたネリアが困惑して尋ねると……


「その必要はないよ」


カヅキが答えた。精霊と違って普通に入り口から現れる、常識的かつ良心的な登場だ。

カヅキはやけに疲れた様子で、彼にとって本来さほど重くないはずの剣を重そうにその場へ置く。


「今日はもう店を閉めて帰って来たんだ。さあ、剣についてわかったことを話そう……」


「お父さんっ‼︎ 畳に煤落とさないでって言ってるでしょっ! せっかくサクラとお母さんがいつも綺麗にしてるのに……早くお風呂行ってよ、もぉ~~っ」


カヅキが座敷に上がろうとすると、モモの怒声が飛んできた。

まだ少し残業したいというカオルコのことは置いて、モモもカヅキと一緒に帰って来たのだ。

娘に逆らえないカヅキは、客人たちに申し訳なさそうに尋ねる。


「すまない。君たち、もう少し待ってもらえるかい?」


「はい。俺たちはかまいません」


セスが答えると、ネリアも頷く。


「ああ、ありがとう。なるべく急いで戻ろう。…………ただ、君たち……仲が良いのは良いことだが、節度は守るようにしてくれ」


最後にそう釘を刺してカヅキは立ち去った。

その言葉にハッとしたセスがネリアを見ると、さっき振り落とされたせいで浴衣が肩から落ちそうなほどはだけてしまっていた。裾の方も太腿が覗いている。

そしてネリアを振り落としたセスもまた、掴まれたせいで着崩れてしまっていた。


「完全に誤解されたぞ……」


「まあまあ、どーせ私たちの地元じゃないんだから。一時的に噂になるくらい平気だよ?」


そう言いながらネリアは立ち上がり、しゅるりと帯を解く。

セスは慌てて入り口へ視線を戻す。


「ば、ばか……誰か来たらやばいって……」


「うん。だから着崩れたの直す間、セスが見張ってて」


「……」


一瞬でもばかばかしい期待を膨らませたことを悔やみつつ、セスはネリアに背を向けてどかっと座り込んだ。

すると、その背に今度は重さの無いゾワゾワとした違和感が降りてくる。精霊少女だ。


「あはは、セスの背中は精霊ちゃんに取られちゃったか~。じゃあ私は膝枕でもしてもらおうかな?」


「今、絶対無理。てか、お前もう復活してるじゃねーか……」


「そういえばそうかも? 精霊ちゃんに癒しの力でもあるのかな~!」


まだ真実を知らないネリアは、キラキラと目を輝かせて精霊少女を見つめるのであった。



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