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2ー2.シュシュの森


「みゅみゅっ!」


「きゅっきゅーっ!」


ガサガサガサ……


村へ繋がる魔脈を辿りながら森を分け入っていくと、進行方向に集っていたシュシュたちが繁みへと姿を消した……と思ったら、丸くて大きな頭をちょこんと飛び出させて、様子を伺っている。

セスとネリアはそんな状況に、今日だけでもう何度も繰り返し遭遇していた。


「ピアちゃんの言ってたとおり、この森って本当にシュシュが多いね~! これって外敵になる凶暴な魔物がいない証拠だよね?」


「ああ、おかげで仕事が捗るよ。安全確保に困らない。向こうにいた頃は、魔物のせいで作業中断してやり直し……ってことも多かったからな」


「魔脈調査盤の術式実行や情報読み込みには時間がかかるもんねぇ……ふあぁ……でも、こうも緊張感が無いとちょっぴり眠いかも〜」


魔脈管理士の現地作業は、大きく2段階に分けられる。


まずは魔脈を探し当てて、魔脈調査盤に魔脈情報を読み込む魔脈調査作業。その調査情報をもとに、魔脈の調整計画を立てる。

その後、目的に合った術式を込めた『クサビ魔石』を調達し、魔脈へと順番に打ち込んでいく。それが、魔脈の流れる向きや勢いを調整する魔脈調整作業だ。


シュシュたちのつぶらな瞳に見守られながら、2人は東の山の魔脈調査作業を進めていった。


***


「ん〜……順調過ぎて休憩するのも忘れてたね~。セス、そろそろランチにしようよっ」


「そうだな。せっかくピアさんがお弁当作ってくれたもんな」


穏やかな昼下がり。セスとネリアはちょうど良い木蔭に並んで腰を下ろし、弁当と水筒を取り出した。

見た目の割にはずしりと重量感がある、折り畳み式のサンドイッチボックス。

セスはまるでピクニックに来た子供のような気持ちで、ワクワクしながらその蓋を開ける。


ぱかっ!


「おおっ‼︎」


中を見るなり、セスは思わず声をあげた。


彩り豊かにたくさんの具材を挟んだサンドイッチが、箱いっぱいにぎっしり詰められている。

しかも、具材だけでなくそれを挟むパンにも種類があって、2色が交互になるように配置されている。

想像よりもずっと豪華で洒落たサンドイッチ弁当だ!


「ねっ! 私も朝、ピアちゃんが準備してるとこ見て感激しちゃった! しかもね、詰める前に私たちの苦手な物がないか、私にちゃんと確認してくれたんだよー。ピアちゃん、思慮深くて、家庭的で、美人で、本当にすっごい! しかも私より1つ歳下だったの。びっくりしちゃった」


「なるほど、じゃあ俺より2つ下か。本当にしっかりしてるなぁ」


「うんうん! もう私、ピアちゃんと結婚したいくらいだよ~。あ!……ってことは、やっぱりセスもピアちゃんみたいな人、お嫁さんにしたい?」


唐突な質問だったが、セスは動揺することなく答える。


「いや、ああいう人は高嶺の花として見るくらいがいいんだよ。完璧すぎる女って、男は気後れするから。俺はもっと、一緒にいて気楽な女と付き合いたいね」


高嶺の花……というか、ピアの場合は清廉潔白な存在過ぎて、そういう対象としては見られないようにセスは感じていた。

他の男にとっても、きっとそうだ。レミのように幼馴染であれば、話は違うようだが。


「気楽な女かぁ……それって、私みたいな?」


「ん゛⁉︎」


今度はまんまと動揺させられたセス。喉にサンドイッチを詰まらせ、慌てて水筒の水を呷る。

そんなセスを横目に、ネリアも自分の水筒へと手を伸ばす。


「へっへっへー! 私の水筒の中身、ピアちゃんが用意してくれたハーブティーなんだよ! セスが自分で用意したのって、どうせただの水でしょ? 羨ましーい?」


「はいはい、羨ましーデスヨー」


先の質問がすっかり流れてくれたのを幸いとしつつ、セスは適当に相槌を打った。

そんなセスに、ネリアは自身の水筒を差し出す。


「ふふっ♪ セスにも少し飲ませてあげるねっ」


「ん、ありがとな」


間接キスごときで反応してやるのも癪だと思ったセスは、素直にそれを受け取った。

口に含んだ瞬間、爽やかな香りが鼻へと抜けていく。砂糖とは違うほのかな甘みは、柔らかく舌に残った。


「……美味しいな」


「でしょっ!」


にひひと笑ってセスの手から水筒を返してもらうと、ネリアはサンドイッチを頬張り始めた。

セスの視線は自然とそんなネリアの唇にフォーカスされてしまう。


さっきの質問だが、ネリアについて正直に答えるなら、嫁にしたいタイプではない。

付き合いが長い分、性格に難があるのはよく知っている。

ただ、容姿に関してはかなり良いので、前々から肉体的な意味で惹かれる瞬間があったのは、セスとしても認めざるを得なかった。


「きゃっ!」


突然ネリアが悲鳴をあげて、セスはハッとした。

次の瞬間、セスの股座をモコモコとした違和感が襲う。


「きゅー……」


「うわっ! なんだコイツ⁉︎」


見ると、スカーフを巻いたシュシュが、胡座で座るセスの股にすぽんと飛び込んだところだった。

シュシュは少しの間その場で丸まっていたかと思うと、いきなり砲弾の発射されるかの如く飛び出して去っていった。


「な、なんだったんだよ⁇ あいつ……」


「スカーフ巻いてたってことは、今のは村人と交流があるシュシュかな? きっとそれで人間に馴れてたんだねー」


「やばいな、完全に気が緩んでた。一応ここも魔物の出る森だってのに…………ああ‼︎」


反省する間も無く、セスは取り乱して叫んだ。


「弁当‼︎ あいつ、ピアさんの手作り弁当を箱ごと持って行きやがった‼︎」


たかが弁当。されど美少女の手作り弁当。とはいえ、わざわざ野性の魔物から取り返そうと躍起になるべきではない。

セスにもそれはわかっているが、人間に馴れているさっきのシュシュ相手なら、少しは懸けてもいい気がした。


「箱だけでも取り返せるかもしれないし、俺ちょっと探してくる!」


「えっえ~~⁉︎ ちょっと待ってよ、もう~~‼︎」


ネリアを置いて、セスは山道を駆け出した。



スカーフ拘ってる陽気なシュシュさん

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