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2ー1.魔脈調査開始

到着翌日、セスとネリアは土砂に埋まってしまったエリアをメインに村内の魔脈調査を試みた。


調査に使う魔動機『魔脈調査盤』は、一見するとただの石版のようだが、中には複雑な魔術式がぎっしりと詰まっている。

扱いは難しく、単に高い魔力を流すだけでは機械を壊してしまうので、専門知識の他に繊細な魔力制御技術が必須である。

しかし、これはあくまでもデータの計測や保存などに使う道具で、探知機ではない。


自然界にある魔脈の中で、特に重要視されているのは『地下魔脈』。

地上の影響を受けにくい分、安定性があり、繋がりも広く、力も大きい。

この地下魔脈を感じとるには、地下魔脈と自身の体内魔脈とを繋げる能力が必要だった。


この能力というのが、鍛錬によって得られるものではなく、現在までに開発されている魔術式で補えるものでもなく、才能に依存するものであった。

セスがネリアの父に引き取られたのも、この才能を見出されたからだ。


まず地下魔脈と体内魔脈を繋いで情報を読み取り、体内魔脈から魔脈調査盤へと情報を送り込む。

その後、魔脈調査盤に組み込まれた演算術式が詳細な分析データを出してくれる。

地下魔脈と直接繋げる魔動機の開発は難航中で、魔脈管理士の需要が下がる心配は今のところ無さそうである。


その日の調査の結果、やはり村へ流れてくる地下魔脈が痩せ細っていることがわかった。

村周辺の魔脈の内、主なものは3本。

セスたちが昨日通って来た東の山に1本。風の国との国境がある西の山に2本。


そこで、翌日からは、比較的安定していて修復しやすそうな東の山へ調査に入ることにした。


***


到着翌々日の朝、セスはピアの家へネリアを迎えに行った。

セスが玄関扉をノックすると、ピアが出て一礼する。


「おはようございます、セスさん」


「おはようございます、ピアさん。ネリアを呼んでもらえますか? もしまだ寝てたら、無理矢理叩き起こしてやってもいいんで」


セスがそう言うと、ピアはくすりと笑って答える。


「その必要はありませんよ。ネリアさん、今のノックですぐにセスさんだと気付いて、ご自分の荷物を取りに部屋へ戻っただけですから」


「そうですか。では、ここで待たせてもらいます」


セスは家の中を見回した。カントリー調の可愛らしい家だ。

玄関から入ってすぐの部屋はダイニングで、奥にはペニンシュラ型のオープンキッチンが見えた。

白木の腰板が張られた黄色い壁のあちこちには、ドライフラワーが吊るされている。その優しい香りは、そこで暮らすピアの香りにもなっていた。


「あの、セスさん。これを……」


「はい?」


ピアが小花柄の小さな布包みを差し出し、セスはそれを少し緊張しながら受け取った。


「ネリアさんの分と一緒に、今日はセスさんのお弁当も作ってみました。中身はサンドイッチです。お邪魔でなければ、持っていってくれませんか?」


「え! あ、ありがとうございますっ。俺、持参の弁当っていうと携行食ばっかだったんで、ちゃんとした弁当、マジで嬉しいです!」


セスはついつい興奮気味に答えていた。無理もない。思いがけず美少女の手作り弁当を得たのだ。


「喜んで頂けてわたしも嬉しいです。差し出がましいかと心配だったので。……あの、よろしければ明日からも毎日ご用意しましょうか? お口に合うかはわかりませんけど……」


「俺は、嬉しいですけど……やっぱり悪いですよ。材料費も手間も、ピアさんの負担になってしまうので」


本当は甘えてしまいたいのを堪えるセスに、ピアは優しく微笑みかける。


「お気遣いありがとうございます。セスさんは優しいですね。でも、ご心配には及びません。材料の多くは家庭菜園で採れたものですし、お料理はわたしの趣味なので。それになんといっても、この村の為に働いてくださるお二人には感謝していますから。わたしも何かお役に立ちたいのです」


天使だ! 天使がいる‼︎ と、セスは感動に震えた。

酒場で特訓中、セスの尻にしこたま蹴り込んできた自称天使アリスへ、こちらへ居られる方こそが本物の天使だと説いてやりたくなった。


「それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます。えっと、ネリアにももう話してあるんですか?」


「はい。実は、ネリアさんも最初は遠慮なさってたんですよ。でも、わたしの想いを汲んで、願い出を受けてくださったんです。ネリアさん、優しくて素敵な女性ですよね」


「えー……⁇」


セスが返答に困っていると、……


ガチャッ…………バタン!


廊下の奥から音がして、ネリアがいろいろ揺らしながらバタバタと駆けてくる。


「おっまたせー! おはよ、セス!」


「おはよう、ネリア。お前は朝から元気すぎるな」


「だってこれから登山だもんっ。元気はありすぎるくらいでいいんだよー。あ、セスもお弁当受け取ったね! じゃあ、これでもう準備万端かなっ」


「ああ、行こう。ピアさん、俺たち行きますね」


「行ってきまぁーす!」


「あのっ」


出発しようとしたセスたちを、ピアが呼び止めた。


「1つだけ、お約束して頂きたいことがあるのです。ネリアさんにはもうお話してあるのですが、セスさんにも、やっぱりわたしから……」


「はい? なんでしょう?」


立ち止まったセスは、腰に帯びた剣の柄にただ癖でなんとなく手を引っかけていた。

ピアはその手元を見つめて、心配そうな表情で言う。


「セスさんたちが身を守る為、武器が必要なこともあるというのは理解しています。ですから帯剣について、お止めしようとまでは思っていません。ただ、その使用は最低限に抑えて、不要な殺生はお控え頂きたいのです。魔物さんたちも、基本的には自分たちの領域で生活しているだけですから」


「……まあ、こちらとしても戦闘はなるべく回避するつもりですよ? 自分たちにとっても、余計な危険になりますから」


セスは歯切れ悪く答えた。

実のところ、今回の任務で新しい剣の切れ味を試すのを、セスはずっと楽しみにしていたのだ。


「この村の周辺に住む魔物さんたちは、大人しくて臆病な子たちが多いのです。きっとほんのちょっと威嚇しただけでも、すぐに逃げていってしまうでしょう。特に、今日お二人が向かわれる森には、人間に協力的な『シュシュ』さんたちが多く住んでいます。中には、村の田畑へやって来て、お手伝いしてくれるシュシュさんたちもいるんですよ」


「へぇ! 野生のシュシュですか。確かに、シュシュ相手に武器は必要無いですね」


シュシュは世界中に生息している有名な魔物の一種だ。


平均的には成人女性の膝の高さくらいの背丈で、フワフワの体毛に覆われたぬいぐるみのような見た目をしている。

雌雄の区別は無い。頭部に咲いた花のような器官が、魔力を吸って育ち、球根状に変化すると地面に落ちる。やがてそこから芽吹いたキャベツのような葉の塊から、新しい個体が生まれるのだ。


シュシュの体毛や花のような器官は環境によって様々に変化し、そのバリエーションは豊か。

人懐こくて飼いやすく、魔力を供給することで体毛もすぐ伸びるので、火の国でも素材確保のために大量飼育されている。


「はい! それと、もし森で困っているシュシュさんに会ったら、助けてあげてください。種族は違っても、わたしたちの大切なご近所さんですから」


そんなピアの純真さに打たれて、セスも彼女の願いを叶えるべく努めようと思う。


「……わかりました。魔脈が乱れている以上、実際の現場に行ってみないと魔物たちの変化はわかりません。けれども、なるべくピアさんの意向に添えるよう、俺たちなりに善処します。……こんな約束でも、いいですか?」


「はい。誠実にお答え頂き、感謝します。どうかお気を付けて、無事に帰って来てくださいね」


心優しき少女ピアに見送られ、セスとネリアは東の山の魔脈調査へと出発した。



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