ある噂
1日の授業が終わり、僕、凛、大我、雷也は教室に居残って受験勉強をしていた。
「そろそろ帰るか」
外が真っ暗だと気づいたのは、凛がその言葉を言ってくれたからだ。時計を見ると、もう7時を超えている。
「そうだな。また明日にしよう。」
僕が言うと、いつものメンバーは勉強道具をそれぞれのカバンに直して、学校を出た。
この街は県内でも栄えている方だ。近くに少し大きめの駅があるし、飲食店、レンタルビデオ店、コンビニエンスストアもあり、生活を送っていく上では充実している。街頭もあり、教室から眺めた景色よりは歩きやすい明るさだ。
「京子、結局来なかったな。」
凛は寂しそうな表情で言った。
「途中で来るのめんどくさくなったんじゃない?それか風邪引いたとか」
僕は思いつくようなことを並べて言っただけだったが、大我と雷也は賛同してくれた。
「そうだよ。また明日来るといいな!」
大我はいつでも前向きだ。
そして、雷也が後に続けて言った。
「そういえばさ、最近隣町の森の噂が広まってるよな?」
「ああ、あれか。森の中に紫色の建物があるってやつだろ?気味わりーよな」
大我は知っていた。勿論、僕と凛も知っている。この噂は有名だからだ。
ーーーーー森にある紫色の建物。
そこには誰も住んでおらず、誰も入ったことが無いと言う噂の建物。隣町の森は面積が広く、夜になると森から出ることが困難になってしまうことからあまり近寄る人はいない。
「なあ、今週の土曜日行ってみねーか?京子も連れてさ。」
大我は期待に満ち溢れた表情をしながら、僕たちに問いただした。
「無理だろ。夜になると、森から出れるか分かんねーし、それに本当に紫色の建物なんてあるのか?」
僕、凛、雷也全員が思っているであろう意見を、僕が先に言ってやった。
「そこでだ。せっかく土曜日なんだし、夜が明けてからすぐいくってのはどうだ?」
大我の意見に賛成する人はいないと思った。
「その話乗った!」
雷也が言った。また他人の意見に合わせていると思い、凛の方に目を向けると
「俺もだ。京子にも明日話してみよう。」
凛がその言葉を発するのは意外だった。僕は賛成出来なかった、
「ちょっと待てよ、今日木曜日だぜ?明後日って早すぎないか?それにもっと時間を費やして情報を集めてから行こう。」
本当はこの言葉を凛に言って欲しかった。
雷也はともかく、何故凛は賛成しているのだろう。僕には理解できなかった。
「 受験勉強控えてるんだし、早めにいこう!情報なんて誰も行ったことねーんだから分かんねーよ!それに建物の存在だけ確かめたらすぐ帰ればいいじゃねぇか。」
大我はもう意見を変えるつもりはないらしい。
「そうだよ誠。京子も俺たちから説得しよう。」
凛が真剣な表情で言っている。
「高校生活ももうすぐ終わるし、思い出作りで行ってみるか」
俺はあっさり森へ行くことを承諾してしまった。
俺はこれを後悔することになる。
そして、その時は分からなかった。
これから恐怖を知ることになることを。