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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.2 奇跡の力と試練の学園
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03.気弱そうな少年

 雑多な人の溢れる大通りを抜け、建物と建物の境目、道とは言えないような路地に進路を変える。近道でもしたいのか、それとも目的地がそっちにあるのか。


 大通りから離れるにつれて、耳に届く二人分の足音が徐々に大きくなっていく。射し込む光も減り、増えていくのは建物から飛び出た配管やゴミばかりだった。


 静寂に包まれた狭い道。チャリンという小さな金属音が驚くほど透き通って聞こえた。

 私の足の向く先に目をやると、そこに転がっていたのは微かな日光を反射して光る、一枚の金属板。拾い上げて表面の埃を掃うと、見覚えのある模様が浮かび上がる。


「あ……これ、お金だ」


 ただ、硬貨であることは分かっても、どれほどの価値があるのかは判別できない。金色ならきっと高価値なのだろうが、拾ったそれは銀色。

 迷惑極まりないが、どこかの店で出してみれば判明するはずだ。


「おい、早く行くぞ」


 立ち止まった私を急かそうと、再び歩みを進め始めたリーン。硬貨をポケットにねじ込み、彼女のもとに駆け寄った。



 * * * * *



 二つほど角を曲がり、入り組んだ管の隙間を潜ると、突然リーンは足を止め、手を横に伸ばして私を制止した。次の角にゆっくりと近づき、慎重にその先を覗き見る。


「エル、どんなやつに聞こうとしてるか、分かったよな?」


 リーンは私に顔を近づけ、そう小声で問うた。裏路地に居て、かつファイザーの情報を持ってそうな人……そうだ、お父さんから聞いたことがある。大きめの町の裏路地には「危ない人たちがいる」って。


「ああ……荒くれものたちってことね……」


 同じように、小声で言葉を返す。裏社会に通じている人たちなら、ファイザーに接触できる手段を知っているのではないか。そういった発想だろう。


 すると、リーンがさらに一歩前に出た。死角ギリギリ、といったところか。


「おい、今そこに誰か居なかったか?」


 路地の先から怖そうな男の声。あっさりバレてるじゃん。


「お前、ちょっと見てこい」


 先程と同じ声によって指示が出される。この声の主はリーダー格なのだろうか。となると、今こちらに足音を立てて向かってきているのは、この男の部下だろう。その後に「へい」と気の抜けた声が聞こえた。


 曲がり角から足が見えた瞬間、リーンがそちらに向かって飛び出した。両側の建物を繋ぐ配管に手をかけ、勢いに任せてさらに高く体を持ち上げる。壁を蹴ってから宙で一回転して着地し、敵の背後に回り込み横っ腹目掛けて回し蹴りを一発。

 強く打ち付けられた部下っぽい人は、崩れた壁の破片を浴び、地面で伸びていた。


 ああ、成る程。理解した。

 リーンが荒くれものに聞き出そうとした理由、それは「裏で繋がってそうだから」なんてものではない。「多少は殴ったりしても問題なさそうだから」である。いや、露見しにくいだけで問題はあるのだが……。

 頭を使わず、力で解決。


「だ、誰だお前!?」


 リーダー格の男の声が少し上ずっていた。そりゃ、可愛がっている……のかは分からないけど、一瞬で部下が倒されたら驚くだろう。


 私もこっそり角から顔を出してみる。こちらに背を向けているリーンの先、喧嘩腰の三人の男たちの後ろに一人、男の子がいた。丁度私と同じくらいの年齢に見える。


「あ? 今オレのこと『お前』って言ったか?」


 リーンの真っ赤な目が、ギロリと男たちを睨みつける。不気味に上がった口角は、悪魔が愚かな人間達を嘲笑うかのようだった。


「立場をわきまえろ……」


 姿勢を低くし、目にも留まらぬ速さで一人目の手前へ。顎に向かって頭突きを繰り出し、よろけたところに右拳を叩き込む。

 鉄の棒を持って突っ込んできた二人目の攻撃をギリギリで(かわ)し、その回転を利用して左腕を首の後ろに打ち付ける。


「ひ、ひぃっ!」


 腰が抜け、地面に尻をついて怯えるリーダー格の男。哀れなその姿に、リーダーとしての威厳などこれっぽちも感じられなかった。


「ずみませんでじたっ!!」


 男は涙を流しながら、頭を地面について謝罪を述べた。喧嘩で勝てる相手じゃない。それをようやく理解したのだろう。


「……そうか。じゃあオレの言うことくらい聞けるよなぁ?」


「な、なんでしょうか?」


 さっきまで威勢のよかったはずの人が急に敬語を使い始める。結局、全ては力の強さ。弱者は強者にひれ伏すしかないのである。


「知っている限りでいい。ファイザーに会う一番簡単な方法を言え」


「……知らないです」


 バキッ。


「あ? 言えよ。そのくらい分かってんだろ?」


「……わ、分からないです」


 ボコッ。


「裏社会にいて分かんねえのか? いいから早く吐け」


「……ゴホッゴホッ……ホントに知らないんですって! てかさっき『知ってる限り』でいいって」


 ポキッ。あ、骨折れた。


 力が抜け、その場にドサッと倒れた。痛みで気絶してしまったのだろうか。

 リーンが掴んでいた腕を地面に向かって叩きつけた。


「あー、こいつら使えねえ。帰るか……」


「あの……僕は……」


 奥にちょこんと座っていた男の子が、恐る恐るリーンに声をかける。もしかして、あの男達に絡まれていたのではないだろうか。


「……お前、誰だ?」


 おっと、これは予想外の展開。まさか戦闘に集中しすぎて、男の子の存在に気付いていなかった……?

 このままだと二人の会話が噛み合わず、ややこしくなるだけなので、私も彼女らのところへ出ていった。


「おい、エル。こいつ……」


「多分捕まってたんだよ。リーンが助けたってことにすれば、別に犯罪にならないから……そういうことにしておけば?」


 男の子には聞こえないように、リーンに耳打ちする。当初の目的は違えど、結果的に助けることになったのだから。よし、これなら合法。


「えっと……助けてくれてありがとうございました……」


「お、おう……」


 彼のお礼の言葉に、リーンが少し照れながら不器用な返事をした。本人はただ、無慈悲な尋問をしただけなんだけどなぁ。


 私の背後からズサッと、地面と何かが擦れる音がした。振り返ると、さっきの男が気を取り戻し、立ち上がろうとしていた。腕の骨が折れていて、中々起きることができないようだ。


 それを見て何やらピンときたリーンが、先程と同じ悪魔のような表情で告げた。


「言う気がないならもういい。だから……ありったけの金を出してもらおうか」


 ねえ、誤魔化した意味ないじゃん。それ犯罪。

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