??.二人の命の分岐点
ラキュエルたちの潜伏場所へと出向いたら、トリリと戦ったことを聞いた……生きて帰ってきたのが不思議なくらいだ。神には程遠いだろうが、天使にとっても、勿論常人にとっても、そして悪魔にとっても、あれは絶対的な力……気が付いた時には既に……いや、気づけないか、死んでいるもの。
あんな化け物勝つ方法なんて、アタシには思いつかないだろう。だから、彼女たちの選択も間違っているとは言えない。だけれど、それによってアタシは……大事な選択の期日が一気に早められてしまった。
アタシは……どうしよう。ただ、あの二人を守るだけだったら、この町に残ればいいだけ……でも、本当にそれが正しいのかしら。
ダメ……アタシには分からない。
「ねえ、アナタたち」
自分の拠点へと戻ったアタシは、すぐレティとレオンを集め、話を始めた。
「いきなりだけど……ごめんなさい」
座ったまま、限界まで深く頭を下げた。見えてはいないが、目の前の二人は困っているに違いない。
「その……ラキュエルたちは神殿に行くらしいの。別に、アタシはあの子たちの戦いに参加しなきゃいけないわけじゃないわ。だけれど……このままだと、トリリの標的が私になりかねないのよ」
「トリリって……あの……」
そりゃ、国家機密の一つや二つ、この子たちにこっそり吹き込んでるもの。天使だってことぐらいはすぐに分かるだろう。そして、アタシがどう言葉を続けるかも、察してくれるのではないだろうか。
「トリリは、アギルを殺したそうよ……このままじゃ、アタシはアナタたちを守れない」
「「……」」
どう足掻いても、勝てっこない。ラキュエルたちが移動し、一瞬でも標的から外れれば、今度はこっちに来るんじゃないか、そんな恐怖に怯えていた。
「全員惨殺されて終わり、なんてのは嫌なの。トリリになんて殺されたくないもの。アタシも、アナタたちもね……だから」
窓を開け、外を眺める。見覚えのある工場の灯りは無く、その部分だけぽつんと暗くなっていた。吹き込む冷たい夜風が、アタシの冷静さを保ってくれている。ふぅ、と息を吐き、二人の方を向く。そして、覚悟を決めて右手で壁に触れた。
「決めて欲しいの。死ぬ覚悟を持ってアタシについてくるか、それともここで死ぬか……アナタたちが決めて!」
本当はこんなことしたくない。暗殺屋としての最後の仕事が仲間の殺害だなんて、嫌に決まってる。だけれど、トリリが相手じゃどうしようもない。あんなのに殺されるなら、アタシが殺す!!
「あ、そんな、えっ、えぇと」
急に選択を突きつけられ、取り乱すレオン。当たり前だ。立場が逆ならアタシだってそうなる。ずっとついてきた人に、殺されかけているのだから――
――そう決めつけそうになったその時、ダンッと踏み込んできたのはレティだった。
「その右手、建物ごと崩す気でしょう? それなら、やってみてください! 私たちを殺す覚悟はありますか!!」
「……え?」
てっきり、「ついていく」と答えると思っていた。この子たちなら絶対ついて来てくれる、そう思っていたアタシがバカだった。
「ずるい……殺せるわけ、ないじゃないのっ!」
いつの間にか、涙が溢れていた。そして、二人を抱きしめていた。上司だとか部下だとか、人間だとか天使だとか、そんなものは関係ない。やっぱり私は……この子たちを守りたい。
「はぁ……『ついていく』に決まってるじゃないですか。ね、レオン?」
「そ、そうっす! 一人で戦おうとしないで、もっと頼ってください!!」
二人とも……そっか。どうしよう、さっきからにやけ顔が治らない。
「ふふっ……今日で、暗殺屋は廃業よっ!!」
* * * * *
「ねえ、レオン……私たちの名前『ミークシュヴァリア』って、どんな意味か知ってる?」
「知らないけど……てか何語?」
「なにやら、この国の超古い言葉らしいよ。どっかの地方で語りつがれている物語から意味も調べないでテキトーに選んだ……ってシャノンさんが言ってた」
「大事な名前なのに、雑だなぁ……じゃあ、なんでレティは意味知ってるのさ」
「町の図書館で調べたの。別に顔割れて無いしね。そしたら、びっくりしちゃった」
「ふーん……それで、答えは?」
「シャノンさんには秘密にしてね? それは……『わがままなお姫様』」