09.復讐の先に待つもの
「……で、逃げられたと」
「いや、仕方ねーだろ」
いつもの空き家に戻ると、すぐさま会議が始まった。勿論、今後どう動くかについてだ。
「それにしても厄介ですよね、時間を止める力って」
私たちの話を一通り聞いたミラが、話し始めた。
「だって、それ、どんな攻撃も効かないじゃないですか。殴ろうと近づけば背後に回られるし、遠距離攻撃は躱されるし……天使とはいえ、滅茶苦茶ですよね」
確かにそうだ。上から見ていたが、リーンの周りを瞬間移動して翻弄し、武器を使って攻撃していた。いや、でもそれって……。
「……ってことは、どう力を使っても直接攻撃することはできないんじゃない?」
「なるほど。武器を使わないと攻撃できないってことは、どうにか工夫すれば防御することは可能なのかも……」
鎧なんかを着れば、刃物なんて刺さらないもんね。着ないけど。
「あ。平気そうだったから完全に忘れてた……リーン、刺された傷大丈夫なの? なんか塗ってあったみたいだけど」
「そりゃ、一回刺されただけで死ぬわけないだろ。あんな傷、すぐ治るからな」
痺れ薬と言っていた気がするが、悪魔だから効かないのか、それとも単に効かないほど強いのか……。どちらにせよ、もしあのとき私とリーンの立場が逆だったら、私は致命傷を負っていただろう。最悪の場合、大量出血で死んでいたかもしれない。
「さて、どうしましょうか。これではゲイルの解放ができません。『鍵番』をもう一度探すのは困難かもしれませんし……」
リズがパンッと手を叩いて話を切り、議論を先に進める。そうだ、コゼットはあの後どうなったのだろう。「捨て駒」とは言っていたが、ゲイルの封印がある以上、殺されることはないはずだ。
「ゲイルならトリリに勝つことができるかもしれませんが、トリリを倒さないとゲイルという切り札が使えない……ダメですね。これでは埒が明かないです。だったら……」
するとリズは立ち上がり、窓の方に視線を移してこう言った。
「こちらも切り捨てるのです。ここで止まっていても仕方ありません。この町から出て、ファイザーのいる神殿へ……直接叩きに行きましょう!!」
* * * * *
「ねえ」
リズが証拠隠滅のため色々片付けているのを横目に、ミラに話しかける。
「あの時矢で助けようとしてくれたの、ミラでしょ?」
トリリの不意を突いた光の矢。力によって避けられてしまったけれど、その正体が分かっただけでも十分だ。
「ああ、僕がやった……って言っていいんでしょうか……」
「どういうこと?」
「僕たちは地上にいましたから。リズさんがリーンさんの場所を特定してくれて……悪魔同士はその力の強さで大体場所が分かるとか……それで、リズさんが記憶の中にあった僕の矢を、直感で撃ち込んだだけです……」
そういえば、リズと会った時にそんなことを言っていたような……。
いや、それ……たまたまトリリに当たっただけじゃん! 少しズレていたら私たちに命中してたんだけど!!
「はぁ……」
まあ、思い切って賭けにでるというのも大事ではある。何かしなければ、何も進まない。
それは、私たちの復讐にも言えることだ。
ファイザーを直接殺しに行く……天使は残り一人だけれど、倒せる手段が無い以上、そうせざるを得ない。だが、そうすれば結局どこかで交戦することになるだろう。
何か……トリリの力を超えられる何かを見つけなければ。
「こんなことを考えるのは変なのかもしれませんが……もし僕たちが復讐を達成したら、その後この国はどうなるんでしょうね。皆が頼りきっていたファイザーがいなくなったら……政治の中心が消えたら、大混乱間違いなしですよ」
「ふふっ……」
急にミラがそんな話を始め、思わず笑ってしまった。それは、これから始まる戦いの、さらに先に待っていることだ。
「私も、それ考えてた。そうだなぁ……別に、政治とかどーでもいいや! 生まれてからそういうのとは縁のない生活してたし……また端っこの方で、のんびりまったり生きていきたいな」
「エルさんらしいですね……まあ、でも、そういうのも悪くないかもしれないです。町とか人目につくようなところには、居場所なんて無いかもしれませんし……その時はまたよろしくお願いしますね?」
「へ!? あ、うんうん!!」
復讐が終わったら、ずっとミラと……ああ、もう! 何考えてんだ私は……。
とにかく、今は目先のことに集中しよう。復讐の最終盤、ファイザーに手が届くまで、あと少しだ。




