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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.6 異教の鍵番と異神の天註
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05.具現した意志

 間一髪で(かわ)した火球が金属の欄干を熱し、光線が床を断ち切り、煙幕が視界を遮る。


「なんだコイツっ!」


 攻撃の種類が明らかに多すぎる。ディザニークを信じている奴らの力は一種類じゃないのか?

 単純に考えれば、力の正体を暴いて、その弱点をつけば勝てるはずだ。まあ、その仕事はエルに任せているわけだが……。


「ぐあぁっ!!」


 体中を未知の刺激が走り抜ける。この感覚……電気ってやつか? 金属なら流れるとか何とかって聞いたような……。


 あの時は、ここまで文明が進んでいなかった。だから、そういう近代的なものはよく分からない。列車なんて名前の、動く巨大な鉄の塊を見たときには心底驚いた。

 まさか、戦闘でも仇になるとは……。


「やっぱ……悪魔、丈夫だ……」


「あぁ?」


 女はボソッと呟くと、同時に三枚の紙札をオレに向かって放り投げた。やはり三枚とも星の模様で……配色が全く同じだ。さっきから、一枚一枚をじっくりと見る余裕はなかったが、微かにその見た目は記憶に残っている。


 もしかして、配色によって攻撃の種類が決まるのか?


「……しまっ」


 いつの間にか目の前まで迫っていた紙札。考え過ぎた。

 咄嗟に二本の腕で防御の構えをとる。その瞬間、三枚は凄まじい音を伴って爆発した。


「くっ……」


 爆風によって飛ばされた体が、欄干に叩きつけられる。腕力や脚力はあっても、体が軽い。踏ん張りがきかないのだ。


「ってぇな……」


 どうも、オレには頭脳戦は向いていないようだ。頭と体が同時に動かねぇ……。


「これで……終わり」


 立て続けに投げられた二枚の紙札、その模様の中央部がこちらを向く。


 何だ。何が来る。火か? 水か? 風か? それとも光か? それ以外なのか?

 分からない。オレにはそんなことを見極めることすらできない。


 いや……考えるだけ無駄か。オレはオレができることをやればいい。エルにもそう言ったんだ。こんなところで諦めてたまるか!


 軽く跳ねて欄干に足をつき、元いた上層の橋を目掛けて飛び上がる。紙札から放たれた二本の光線が、曲線を描きながら向かってきた。ジュッと髪の端を掠った音がしたが、気にしない。


「お前みたいに面倒なやつは、舞台から引きずりおろしてやるよ!!」


「……っ!」


 女の足元、橋の床面を全力で蹴り上げつつ、欄干を掴んで金属棒の接合部を引きちぎる。衝撃で支えの金具は外れ、単純な構造の橋は空中でぐにゃりと曲がった。

 バランスを崩した女が頭から落下し、下層へと消えていく。勿論、助けはしない。


 紙札を使った、特殊な攻撃。これに関しては、バカなオレでも分かる。この女はディザニークの信者ではない。

 まだ、そうと決まったわけではないが……多分、コイツが「鍵番」だ。だったら、助ける必要なんてない。殺してしまえばいい。


 邪魔な物は何でも壊せ。邪魔な人は誰でも殺せ。それが、オレのやり方だ。


「ふぅ……こんなもんか」


 壁の突起に指をかけてぶら下がり、一息つく。流石にこの高さから落ちたら……ん? 今なんか光っ――


「あっぶねぇ!!」


 ギリギリのところで、下方からの火炎放射を避けた。数秒前までオレがいた場所は煤で真っ黒になっている。


「……これだけじゃ死なないってかっ!!」


 壁を蹴った反動で歪んだ橋に移り、通路との接合部に一発、拳を叩き込む。バキンと床面も割れ、完全に支えの無くなった橋は自重に耐えられず崩落した。


「クソっ……どうせまだ生きてんだろ!?」


 通路に逃げ込み、飛んでくる岩石を回避する。今度は氷じゃなくて岩かよ……。

 なんなんだコイツ……信じている神がディザニークじゃないとしても、戦闘能力が異常だ。もしや、こちらにおける天使のような存在なのか……?

 取り敢えず、アイツがここまで上がってくる前に何か対策を――


「……マジかよ」


 少しくらい余裕はあると思っていたが……現れたのはとんでもないものだった。


「カタリ、ア様……を、守ら……なきゃ……」


 赤、青、緑の三色がぐちゃぐちゃに混じった、気味の悪い色をした羽。それが、左に二枚、右に三枚ついた女が、下から飛翔してきたのだ。


「五枚羽……カタリア様の、象徴……」


 目を見開いて、己の信じる神の名前を連呼している。不気味なんてもんじゃない。操られているような、人間の心というものすら失っているような……。


「これで……終わり……」


 ポケットから取り出した一枚の紙札。それには、先程までとは間違いなく異なる点があった。

 星印の一部が塗られていないのだ。地の白色がやけに目立っている。


 それと同時に、自分の過ちに気付いた。オレが今いるのは分かれ道のない通路。全体を埋めつくすような攻撃をされたら逃げ場が無くなる。


 どうする!? ここから紙札を破壊できる程の時間はもう――


「くっ!!」


 眩い光線が放たれる。先程までとは段違いに高出力な、オレでも耐えられるか分からないような……避け方も分からず、思わず目を瞑ってしまった。


 オレがここで負けたら、エルが……。


 オレたちの復讐が……。


 今まで積み重ねてきた思い出が……。


 全てが終わっちまう。まだ、負けるわけにはいかねぇんだよ!!


「……私も、負けたくないよ」


 そんな言葉が、すぐ傍から聞こえた。それに一拍遅れて、ブワッと熱が伝わってきた。


「……遅ぇよ」


 そこには、銀色の髪を靡かせ、赤い目を光らせる少女が立っていた。



 * * * * *



 赤く染まった視界が揺らぐ。この状態の間に決着をつけなければ……。


「ねぇ、リーン」


「なんだ?」


 彼女に問いかける。

 五枚羽の人間はもう一枚、紙札を取り出し今度は投げずに上に掲げた。


「今、私がリーンの力の一部を受け取った状態なんだけど」


「だろうな。外見がオレと一緒だ」


 リーンもきっと、戦いながら気づいただろう。鍵になるのは、星印の配色だ。

 今度は……さらに白の範囲が増えている。


「だから、リーンの力がちょっと弱くなってるかもしれない」


「そうか? オレには違いなんて分かんねぇけどな」


 それでもリーンは強気だった。

 私たちの後方に、もう一人の五枚羽が現れる。分身か。


「背中、預けてもいいかな?」


「ああ。オレも同じこと言おうと思ってた」


 私は前を向き、リーンは反対を向き、ピタリと背中が合わさる。

 その接点を通して、二人の意志の重なりを感じた。


 私は炎の剣を、リーンはその拳を構え、互いの敵に目を移す。


「死ぬんじゃねぇぞ」


「そっちこそ」


 スッと背中を離し、それぞれの標的に向かって足を踏み出した。

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