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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.1 無垢な少女と破壊の悪魔
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04.この手で神に復讐を

 ここまでリーンの話を聞いて分かったこと。それは、ファイザーが村の襲撃を命じたことだ。

 だけれど、まだ疑問が残る。


 どうして神殿を建てる必要があるのか。そして、なぜ村のあった場所に建てなければいけないのか。

 ただ、明らかなことが一つだけある。

 私達にとっては、決して得をするものではない。


「エル、言わなきゃならねぇことがある」


「何?」


 リーンは一息置いて、口を開いた。


「ファイザーが神殿をあそこに建てようとしたのは……オレを完全に封印するためだ」


 悪魔を封印するため。それによって起こる変化は……ディザニークの力が増す?


「オレ達三人の悪魔はディザニークにやられた後……それぞれが、この国のどこかに封じられた。そしてオレが封印されていたのが、丁度エルの村の……さっき出会った場所の地下だ」


 私が隠れていた石造りの展望台。湖に臨むその場所の下に……リーンがいた。

 彼女が私を、「分かっただろ」と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。


 神に反する悪魔の力。過去に封じ込めた場所から溢れるそれを、完全に封印することで、ディザニークの力はその分だけ強くなる。

 則ち、神官であるファイザーも更なる力を得ることになるのだ。


「結局は……あいつの自分勝手で……」


「ディザニークの力が増えたところで、殆どの人間には関係ねぇよ。なんせ数が多いからな」


 ただ自分の利益の為に、立場と権力を利用して、考えの違う他人の命と財産を根こそぎ奪う。

 異なる思想を否定し、全体を優先する。

 向こう側としては、最も合理的な手段なのかもしれない。


 だが、それは「正しい」ことなのか?


 私は絶対に違うと思う。


 どうして現状で満足できない?

 どうして他の手段を考えない?

 どうして自分を正しいとする?


 あんなやつ、絶対に許さない。消えろ消えろ消えろ……


「エル!!」


 リーンの声によって、怨恨の底から現実に引き戻される。強く握っていた手には、食い込んだ爪の痕がはっきりと残っていた。

 手をだらんと垂らし、全身の力が抜けてへたり込む。


「お前のその……負の感情。あいつにぶつけたいって思わないか?」


「えっ?」


 この恨みを……ファイザーに?

 神殿に乗り込んで、罵声でも浴びせるのか? 一瞬で捕まるに決まってる。

 町の新聞屋にでも頼んで情報をばら撒く? それだと新聞屋まで捕まる。


「いろんな過程を踏まなきゃならねぇだろうが……最終的には、あいつを思う存分叩き潰す。だから……」


 椅子に座っていたリーンは再び腰を上げ、座り込む私の目の前で立ち止まる。

 そして右手をこちらへ伸ばし、作ったわけでなければ不気味なものでもない、純粋な笑顔でこう言った。


「だから、オレに協力してくれ」


 そんな悪魔の誘いに頷いて、私は彼女の温かい手を握った。



 * * * * *



「それで、協力って? 私、何もできないよ?」


 何かを手にする余裕もなく、家から逃げ出した私は今現在、大切な手紙以外は何も持っていなかった。

 非力な私に力仕事を頼まれても困るし、お財布係だったとしてもコインの1枚すら無いのだ。


「いやいや、別に力なら手に入るし、今頼みたいのはそんなんじゃなくて……オレをこの世界に留めるために、エルの体に()りつくってことだ」


「なにそれ……」


 悪魔が「憑りつく」って言うと、何だか私の体が悪用されそうで怖いのだが……。


「あー……あれだ。海に浮いてる船って何もしないと波で動くだろ? その場に留めるために(いかり)を下ろすわけだ。何となく分かるか? まあ、海見たことねーけど」


「あ、うん。私もない」


 多分、その船がリーン自身で海がこの世界。ここからは推測だけれど、「悪魔」は人々によって生み出された概念的な存在だから、今みたいに実体を保つには、この世界の何かに憑りつく必要がある……的な感じだろう。


 ちなみに私は、生まれてから一度も村の外に出たことがない。


「それ、私に悪影響だったりしないよね?」


「ディザニークを信じてるやつには、まあ何か起きるかもしれないが……エルは何も信じてねぇから大丈夫だろ……多分」


 最後の「多分」がこれ程まで恐ろしいのは、十三年間の人生で初めてかもしれない。

 そしてリーンの年齢が神話レベルであることに気付いたが、口が裂けても言えない。


「って説明したけど、もう勝手にやってたしな」


「は?」


「こうしないと、あの村から離れられねぇんだよ。エルが『助けて』って言ったんだから、仕方ないだろ」


 正論。助けて貰った私は文句の言いようなどなかった。

 今のところ特に問題はなさそうだから、大丈夫なのだろう……多分。


「村も無くなって、何も持ってなくて……それなのに、私なんかを助けてくれて……」


「ん? 急にどうし……」


「リーンって、やっぱり優しいんだね」


 私も彼女と同じように、素の笑顔を見せられただろうか。

 それを聞いたリーンが、すぐさま両手で顔を覆い隠す。指の隙間から、赤面しているのがバレバレだった。


「か、からかうんじゃねぇっ!!」


 飛んできた拳を、しゃがんでかわす。勢いは収まらず、そのまま壁に直撃。バキッと音を立てて、木の壁に大穴が開いた。


「おいっ!! そっちになんかいたぞっ!!」


 しまった。逃走中だったのを、すっかり忘れていた。


「……逃げるぞ」


 リーンが差し出した手を握り、今度は声に出して私の意思を伝えた。


「うん!」


 壁の穴からひょいと飛び出し、坂道を駆ける。これが私の第二の人生、復讐の物語の始まりだった。

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