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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Interlude
39/49

??.天使長の日記

 この日記帳を最後に開いたのはいつだったか。書き込みのあるページを見ても、日付しか書かれていなかった。しかも数日だけ続けて、その後はずっと白紙。その頃のボクはすぐに飽きてしまったのだろう。


 何故だろう。不意に、今の気持ちを何らかの形で書き残さなければ。そう感じた。だから、ボクは筆記具を手に持ち、この日記帳の前で思いを巡らせている。


 カミサマの完璧な設計に則って作られたのがこの世界。そして、それを乱す存在が悪魔だ。悪魔がいなければ、常に世界は完全な状態を保つことができて、皆が幸せになれる。ボクはそう信じている。


 だが、そんな厄介者を簡単に排除することはできない。機械を例にすると、分かりやすいことだ。歯車の回転が悪くなったら、油を指せばいい。ゴミが挟まったなら、取り除けばいい。

 ただ、歯車自体にヒビが入った場合は、そう簡単にはいかない。その歯車ごと弾き飛ばし、新しいものを作って同じ位置に設置する。


 天使の仕事もそんなものだ。自然な状態はカミサマが望む状態。けれど、カミサマの手足として存在する天使は自然に干渉する力を持つ。不純物を除去するために、一度、完全なものを歪めるのだ。カミサマの望む世界を創り上げるために。


 この前、アギルを殺した。天使から羽を捥ぎ取るとどうなるか。勿論、体は人間なのだから、いずれ朽ち、土に還る。でも、カミサマに与えられた力は行方を失う。納める器が無くなった瞬間、それは拡散してこの国を覆いつくす。一時的に、異常気象か何かは起きるだろう。

 そして、カミサマの領域へと昇っていき、最終的に肉体を失った天使は力の塊となる。人間の身体という制限から解放された天使はどう振舞うのか。言われなくとも分かる。


 完璧な世界を大きく歪ませてしまう。でも、これはカミサマの命令の通りにボクが動いた結果だ。カミサマはどこまで先を読んでいるのだろう。もしかしたら、最後まで読み切っているのかもしれない。天使のボクにも辿り着けない領域まで……。


 今日もあの人から荷物が届いた。箱の中は銀色の硬貨でいっぱいだった。無論、お金を受け取った訳ではない。もしそうだったら、札束の方が嵩張らないだろう。

 表面上は硬貨の形をしているが、側面に爪を立てて軽く回すと二枚に分かれる仕様になっている。隠れていた二つの面には、円状に細かく傷がつけられていた。


 ボクの力は他の二人の天使たちと比べると、かなり複雑なものだ。その制御を安定させるために、あの人が考え出したのがこの硬貨。

 力の発動状況によって場合分けし、それを傷によって記録しておくことで、次に使うときの体への負担を軽減できる。まあ、問題はその使い方なのだが。色々と試行錯誤した結果、それこそがアギルの殺害へと繋がっている。


 ここで、アギルの力が生きてくる。力の塊となった後、カミサマがその一部をボクに再分配するのだ。微力でも空気の制御ができれば、この手法は上手くいくだろう。物理的にカミサマに最も近いあの人はそう言った。


 悪いが、アギルにはボクの踏み台になって貰う。このまま順調に作戦が進めば、シャノンも死ぬ運命にある。三人分の力を一人の体に宿らせたらどうなるか。間違いなく弾け飛んでしまうだろう。それでも、その一瞬だけ、カミサマの領域に手が届くかもしれない。


 死など怖くない。ボクの夢は、カミサマと同じ世界を見ることだから。


 そうだ。ボクは三天使の中の頂点。何かカッコいい称号が欲しいな。「天使長」とか、いいかもしれない。あの人に提案してみよう。どうせ却下されるだろうけど。まあ、そのときは勝手に名乗っちゃおうかな。


 最低でもボクが生きてる間は、もう日記は書かないと思う。もし書いたとしたら、それはボクがカミサマと同等の力を手に入れたときだ。

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