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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.5 神域の時計と少女の秘密
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05.神域への片道切符

 白い布のかけられた円卓の上に並べられた豪華料理の数々、そして強そうなお酒。あれ? 昨日の夜は死闘を繰り広げていたはずなんだけど。


「ねぇ? ちょっと頼み過ぎじゃないかしら」


 店の雰囲気など気にかけず、普段着のままな二人の仲間に問う。周りからの視線が痛い。すると、彼らは同時に声を発した。


「「『好きなもの頼んでいい』って言いましたよね?」」


 まあ、悪いというか、こうなったのはアタシの発言のせいなのだけれど……何事にも「限度」ってあると思うのよねぇ……。


 アギルを倒した後、急いでレティを病院に連れて行った。勿論、国営のよ。そしたら「出血は多いけれど傷自体は深くない」って。アタシは入院しておくのを進めたけれど……レティが頑なに拒み続けてねぇ。まさかの、縫って即日退院。それで、理由を聞いたら――


「すぐにでもシャノンさんのお仕事を手伝いたいからです」


 泣きそうになった。その勢いで言っちゃったわけだ。


「二人には感謝しないといけないわ。そうねぇ……あ、じゃあ明日の夜、高級なとこ行きましょ! 全部奢ってあげるから、好きな物頼みなさい!」


 と。それを聞いた二人は目を輝かせていた。もう撤回などできるわけがない。今月のアタシの取り分の殆どが消し飛ぶことが確定した。


「ていうか、よくお腹切られた次の日にそんな食べれるわね……」


「私の中では食欲と痛みは関係ありませんから」


 普段なら、食事中の彼女を見ていると心が和むんだけどさ……なんか今日に限って、ひらひらと飛んでいくお札が見えてしまう。高級料理に怖気づくな、アタシ!


「それにしても、あの人はどうしてアタシを殺そうとしたのかしら」


 テーブル中央に顔を寄せ、周りに聞こえないよう小声で二人に意見を求める。


「私を人質にするくらいですから、かなり本気だとは思うんですけど……」


「そうですねぇ……あっ、もしかして例の事件に関係があったり……」


 レオンの言う「例の事件」というのは勿論、アタシとアギルの関係を歪ませた、列車の脱線事故のこと。お互いの意見が食い違っているから何とも言えないけれど、それだけでアタシを殺そうとまで思うだろうか。それに、あれは一年前のことだ。今更掘り返してくるものおかしい。


「……あ」


 信じたくない。それでもアギルの動機にはなりうる。そんな答えを思いついてしまった。逆らいたくとも逆らえない。だけれど、それはこの国にとって最善の選択なのかもしれない。


『ファイザー様がアギルに、アタシを殺すよう命じた』


 アタシはファイザー様によって天使として選ばれた。「天使は死んでも天使」みたいな感じの言葉が聖典にも書かれているけれど……天使は死んだらどうなるのだろう。言わば、人間に神の力の一部を注ぎ込んだようなもの。体が無くなっても精神は残るだとか、力の集合体になるとか、そんなものだろうか。


 天使は神の手足となって働く存在。自分の意志など切り捨て、神の意志に基づいて行動していればいい。


 でも、アタシはまだ死ねない。従うべきものと守るべきもの……そのどちらか片方を選べと言われたら勿論――


「アナタたち、ちょっと話があるの」



 * * * * *



 見覚えのある天井が目に映っている。いや、でも、ここは絶対に俺がいるはずの無い場所だ。


「お、やっと起きた?」


 声のした方へ顔を向けようとするが、首が思うように回らない。それだけじゃない。手も足も……拘束具が取り付けられていた。


「まさか、シャノンにボッコボコにされるとはね」


 見えなくとも、声の主は分かる。子供のくせに天使に選ばれた男――


「トリリ、貴様!! 何のつもりだ!」


「まあまあ、落ち着いてよ。君に用があるだけさ」


 空気は十分にある。いくらでも攻撃を加えることはできるが、この男は……俺とシャノンとは明らかに何かが違う。怪我を負った状態で勝てるような相手ではないのだ。万全だったとしても、傷一つつけられるかどうかすら怪しい。


 頭の側から俺の顔を覗き込むトリリ。緑と黄の混ざった、なんとも毒々しい色を一部にのせた髪の毛が不気味さを醸し出している。


「ま、ここがどこなのかは分かるよね?」


「……軍の施設の牢だろう」


「おぉ、せいかーい!」


 神が与えてくれた力であるから、その差に対して文句を言うことなどできない。神の決めたことは全てが正しいのだから。

 俺がこの男に永遠に追いつけないとしても、それは神によって定められた運命なのだ。


「もし暴れたりしたらどうなるか分かってる?」


「……拘束具に仕込まれた毒針で殺す、と」


「連続正解だね! あ、でもこれは数えちゃダメかな。そりゃ、元帥なら軍の施設のものを知ってて当然だもんね」


 俺を煽り、攻撃させ、正当防衛だと言って殺すつもりなのだろうか。それとも、元々こんなひねくれた性格なのか。


「あー、ごめんごめん。それで本題に入るんだけど、ちょっと君の力が必要でね」


「……何に使うつもりだ」


「『三神殿の儀式』って言ったらわかる?」


 それは、聖典に書かれた神の力を取り戻すための儀式のことだ。だが、同時に溢れ出た力によって「副作用」のような現象が起こると言われている。それへの恐怖が抑止力となってか、一度も行われたことはない。


「ま、分かるよね。ボク、あの人に言われたんだ。『やる』って」


「ば、馬鹿なっ! この国がどうなってもいいということか!?」


「カミサマと天使の力の比が一瞬だけ安定した状態から崩れる……大雨に大雪、落雷や突風、地殻変動とか、まあ色々起きるだろうね……普通なら」


 ファイザー様には一体何が見えているのだろう。そんなことをしては、最悪町が瓦礫の山と化してしまうというのに。


「でもね、それを回避する方法があるんだよ。ボクがなんて呼ばれてるか、知ってる?」


 知っている。だが、俺は答えるのを拒否した。


「言ってくれないのかぁ……まあいいや、正解は『カミサマに一番近い天使』だよ!」


「……それがなんだ」


「まだ分からないの? 相変わらず頭が固いねぇ……カミサマと天使の差が災害を起こすなら、天使がカミサマに近づけばいいでしょ? だったら、一番近いボクがカミサマのところまで行けばいい。君とシャノンは力だけ残してくれればいいのさ」


 この男は何を言っているのだろう。神に近づく? できるわけがないだろう。所詮、俺たちは人間なのだ。何をしたところで、何人集まったところであの領域に辿り着くことは……。


「天使は本当に与えられた力を扱いきれていないんだよ。だって、器が人間なんだもん。カミサマの力の一部だったとしても、ほとんど使えてない」


「貴様、まさか……」


「おぉ、今度は察しが早かったね。まあ、そういうことだから……君の力、いただくよ」


 トリリがそう言い終えた瞬間、腕と脚に強烈な痛みが走った。


「っ! 天使の力を……一つに集めるなど……」


「ふふ、できるよ。君には無理かもしれないけど、ボクならね。絶対とは断言できないけど、これがボクの中での最善策なんだ。成功すれば、この国の人たちを救えるんだよ? 天使は人間を救うべきなんじゃないのかな?」


 まるで洗脳されているかのように、次々の口から言葉が発せられる。


「だったら……儀式を、執り行うこと自体が……」


「何? カミサマの選択が間違っているってこと? 天使の君なら分かると思ったんだけどなぁ。カミサマは正しいんだよ。みんな、カミサマの言うことさえ聞いていれば幸せになれる。君は平和な世界が作るための人柱になれるんだよ? むしろ羨ましいくらいさ」


 狂気に満ちたその顔は、到底天使のものではなかった。悪魔だ。


「俺に……シャノ、ンを……殺、すよう、に……命、令し……たの……は……」


「アハハ! やっと気づいたの? そうさ、あの人の名前を借りて送ったのはボクだよ!! 二人をぶつけて、死ななかった方をボクが殺すだけ! 君がシャノンを殺そうが、君がシャノンに殺されようが、結果は何も変わらないのさ!! さて、僕はそろそろ行くよ! シャノンを殺しに、ね?」

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