表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.4 虎狼の元帥と復讐の代償
27/49

06.神殺しの代償

 一人の少女がこの場から離れたのを確認し、再びアギルとやらの方へ顔を向ける。さっき蹴りを入れた時の感触、それはまるで硬い壁を蹴った時のようなものだった。石材でできた壁なら蹴り一発で粉砕できる自信はあるが金属だったら……ああ、考えてもキリがない。

 オレにできることはただ一つ。この力を生かしてあのうぜぇヤツを捻じ伏せること。それができなければ、エルが力の秘密を解くまで時間を稼ぐこと。それだけだ。


 目に見えない武器なんかに怯えるもんか。オレは「破壊の悪魔」だ。どんなものでもぶっ壊してやる。


 低姿勢で飛び出して肉薄し、顔面の下側に思いっきり拳をぶつける。しかし、当たる寸前、ギリギリのところで何らかのものに阻まれてしまった。それを前に、当のアギルは微かに笑みを浮かべた。まるでそれを面白がるかのように。


「やぶれかぶれで接近戦にでるとは……まったく、悪魔というのは学習しないものなのか?」


 突然、腹のあたりに衝撃が走る。勿論、表情に気をとられていたわけではない。これは避けれる避けれないの問題じゃないんだ。

 視認できないのだから。


 後方へ吹っ飛ばされ、着地点の割れたタイルが手の平に擦り傷を作る。だがやられたところで、いつまでも空を見上げているわけにはいかない。体力のもつ限り、オレは耐えなければいけないんだ。


「その力を見る限り……貴様はアイリーンだな?」


「……それがどうしたってんだよ」


 潰し切らなかった残りの戦車三台を生徒たちが相手をしている。そんな中で、アギルは攻撃を仕掛けずに、オレに向かって話を始めた。

 やはり、正体は既にバレているようだ。天使……この前聞いた話だとファイザーの側近のような存在なのだから、知っていて当然か。


「一つ聞きたいことがあったんでね。貴様は何故、ファイザー様を討とうとするのだ」


「ハッ、オレの目的はディザニークをぶっ潰すことだ」


 そう。信者たちに配分される神の力、それを束ねるファイザーを殺すことで供給を絶ち、そしてディザニークの憑依する先を無くす。これで、オレの復讐は達成される。


「ふむ、それならば警告する……べきか? その行為には代償が生じるだろう」


 突如、白髪野郎の口から飛び出したその言葉。「代償」か……バカだ、なんて言われるオレでもそれは容易に理解できた。


 オレが復讐を達成し、ディザニークの存在が消え去った瞬間から起こること。それは勿論、信者の消失だ。力を失った神を信じて何の意味がある? どうせ、人間どもは別の神にでも縋りつくのだろう。


 ただ、()()()()無くなるものがある。「それ」への恐怖心から、「それ」に勝る存在である神が信じられた。

 その「それ」とは……オレ達、悪魔だ。


 薄々、気づいていた。神を殺した瞬間に、自分も殺してしまうのではないかと。


「自らの消滅が分かっているのに、誰からもその存在を信じられなくなるのに、それでもファイザー様を討とうとするのか?」


 ふぅ、「誰からも信じられなくなる」か……ふざけんなよ。


「あのなぁ、悪魔であるオレにも『信じる』って言ってくれたやつがいるんだ。だから……」


 踏み出された右足が、手を傷つけたタイルの突起を粉砕する。そこへと全ての力を注ぎ、再びその懐へと突撃した。


「オレはそいつの為に戦わなくちゃいけねぇんだよ!!」



 * * * * *



 校舎に入って一番近くの階段、その一階と二階の間の踊り場に付けられた大きな窓から、下で繰り広げられる激闘を見ていた。

 暴れまわる戦車に苦戦する生徒たち。そして、何度やられても諦めずに、アギルと一対一で戦い続けるリーンの姿。


 早く、作戦を考えなきゃ!


 あの力、見ることはできないが確かに剣や盾、あの高速移動から羽としても機能していることが分かる。リーンの蹴りを止めた時も二人の間には少し隙間があったし、切り傷を負わせたときもアギルは腕を動かしたりはしなかった。

 となると、アギルの体の動きとあの力は関係ないことになる。


 触れずに何かを動かすような力……所謂、念力的なものだろうか。いや、でもそうだとしたら、リーンの体を直接抑えつけた方が簡単に倒すことができるだろう。物を浮かせたり、撃ち出すこともできるだろうし、アギルの戦い方を見る限りはその線はなさそうだ。


 ちょっと待て、能力を使う時なんて言っていた? そうだ、確か「自然よ」って……目に見えなくて、自在に変形できて、この場にある自然が関係するもの。

 もうこれしかない!


 それに気づき、急いでリーンのところへ戻ろうと階段を降りかけたその瞬間、背後のガラスが砕け散り、校舎内に暴風が吹きこんだ。それに押され踏み外し、階段から転げ落ちる。


「いったぁ……」


 幸い頭はぶつけなかったものの、一階の床に体を強打する。するとまた、後ろからガラスの割れる音がした。ただ、今度は窓の割れる音ではない。散乱したガラス片を靴で踏んづけた音だ。


「あの悪魔は後回しでいい。俺の目的は、悪魔と共に国に逆らう少女と少年を殺すことだ」


 本当に国民を守る軍人なのかと思ってしまうほど、歪んだ表情をしたアギルがそこにいた。こちらを見下ろしながら、一段一段と近づいてくる。


「宣告する。貴様の負けだ。その罪を、死をもって償え」


 屋外ではなく校舎内だからか、頬に微かな風を感じた。それこそが、アギルの力の正体が空気であることの証明になる。だが、それは私が危機的な状況にあることも同時に示しているのだ。

 いつ振り下ろされるのかすら分からない天使の剣。きっと今、私を真っ二つに切り裂こうとしていることだろう。


 その時、起き上がろうとした私の視界の隅に何かが映り込んだ。真っ白な塗装が施された、こんな廊下にはあり得ないような色の……それを見て、思い出した。

 私にはまだ()()がいることを。


「残念ながら、悪魔は一人じゃないんですよねぇ」


 この怒りを買うような喋り方。ジャラジャラという金属の擦れる音。間違いない。


「憑りついた人間を殺せば、悪魔はこの体をこの世界で保てなくなる。そんな、ディザニークと同じような性質があることを知ってるから、真っ先に二人を殺そうとしたのでしょう?」


「いずれは出てくるだろうと思っていたが、ここまで空気を読めないものか。想起の悪魔……リズ!」


 アギルは明らかに顔をしかめた。リズとの相性が悪いのか……あれ、そう言えばリズの力って一度も見たことないような……。

 とにかく、今はこの場を任せるしかない。腰の痛みなど気にせず立ち上がり、足を前に出す。


「ラキュエルさん、あなたの記憶お借りしますよ!」


 その言葉と共に、親指と中指でパチンと鳴らすリズ。そこに出現したのは廊下をめいっぱいに塞ぐ、くすんだ緑色の巨大な物体……この前見た軍用機関車だった。


 軌道のないそれは方向を変えず、一直線にアギルを轢きにかかる。逃げ遅れていたら私まで巻き込まれていたかもしれない。

 衝突した瞬間、鼓膜が破れそうなくらいの轟音を発し、校舎の壁にヒビが走る。しかし、舞い上がった煙で確認できないが、確かにそれは少し進んだところで停止した。あんな大きなものでも止めてしまうというのか。


「今じゃ制約が多すぎてまともに使えないこの力ですが、時間稼ぎならお任せを。さあ、早く行きなさい!」


 リズの声に後押しされ、驚きのあまり硬直していた足が再び動き出す。私の記憶にあった機関車を出現させるだなんて、どれほど滅茶苦茶な力なんだ。リーンの悪魔の力がただの馬鹿力なせいで、その強さを把握しきれないでいたが……リズの力は想像を絶するものだった。


 天使の力と悪魔の力、それらをこの目で見てしまった私は思う。なんて自分は非力なのだろうと。そんな半端な力で「復讐してやる」と意気込んでいたのかと。


 確かにそうだ。私は弱い。正面から突っ込んだって勝ち目などあるわけが無い。でもね、そこから思いつくことだってあるんだ。


 弱者なりの、強者を叩く方法を。


 その羽をもぎ取って、天使を地に堕とす方法を。


 近くの割れた窓から中庭へ抜け出し、ある場所へと急いだ。アレを使えば、私の力だけでもアギルの力を逆に利用できるはず!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ