??.暁闇の町に潜む闇
幾本もの柱の隙間から月光が射し込む、深夜の神殿。自分以外、誰もいない空間にカツカツとヒールの音だけが響き渡る。
大理石の祭壇の前で一礼し、右へと方向を変えてその先の階段を降りる。神殿の地下に空間があることなど、知っている国民はいないだろう。ファイザー様が「神聖な場所だから」と言って、一般人の立ち入りを禁止しているのだから。
長い廊下を進み、指定された部屋の扉をノックする。
「シャノンよ。入っていい?」
「いいぞ」
焦げ茶色の木製の机と椅子が置かれただけの、簡素な室内。表現するならば「必要最低限」という言葉がふさわしいだろう。
二つある椅子のうちの空いている方に腰掛ける。それを見た、向いに座っていた青髪の女が二枚の紙を机上に出した。
「あら? 子供なの?」
それぞれに貼り付けられた写真には、金髪の女の子と茶髪の男の子が移されていた。その容姿からして年齢は十代前半だろう。
「そうだが、何か問題でも?」
「アタシ、弱い者イジメは好きじゃ無いのよ」
圧倒的な力の差を見せつけたところで、何も生まれやしない。別に、絶望した人の顔が好きなわけでもない。
大体、弱いやつを叩き潰す為にわざわざアタシが出る必要が無いじゃないか。そんなもの、下っ端に任せておけばいいだろう。
「確かに、本気を出さずとも勝てる相手だろうな。『この二人に関しては』だが」
「何よ、その言い方。他にも誰かいるの?」
この二人の子供はそこまで強くない。そういうことだろうが……後ろに大きな組織でも絡んでいるのか、はたまた重大な事件の鍵となる人物だったりするのか。
アタシ達の活動に影響が出るのなら断りたいところだが……まあ、許されはしないだろう。
「本来ならば、天使よりも強かったであろう存在。それが二人もだ」
神の力をファイザー様の次に多く受ける天使。それを超えるものだなんて……いや、でも封印されたはずじゃ……。
「まさか……」
「この二人を仕留めるなら二人きりのときにするといい、死にたくなければな」
置かれた書類をつまみ上げ、そのままポケットに突っ込み席を立つ。机から飛び出した椅子も戻さずに、扉に手をかけた。
「勿論、これはファイザー様が望むことなのよね?」
「ああ、そうだ」
アタシは神に使える三天使のうちの一人。ファイザー様の手足となって、神が望む世界を創り上げるのがその使命だ。
どんな相手だろうが、やってやろうじゃないの。「ミークシュヴァリア」の名にかけて。
部屋を出て、わざと強めに扉を閉めた。