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偽神のラキュエル  作者: 彩雨カナエ
Chapter.3 孤独な弩砲と想起の悪魔
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02.神の奇跡の根源

 大会の規則をもう一度読み直し、小さく溜息をつく。心を落ち着かせたいという気持ちによるものかもしれない。


「攻略法とかあったらなあ……」


 ぽつりとそう呟くと、イルカナは奥の方の棚から紙の束を取り、端に金具をつけて差し出した。


「強さというものは能力だけではない。ここも大事だからな」


 右手の人差し指で、私の頭の横を突きながらそう言った。渡された紙に目をやると、これまた文字がびっしりで。

 時折、図なんかも混じっている。これ、もしかして理科ってやつ?


「えっと、これをどうしろと……」


「私からの宿題だ。当日までに全部叩き込みなさい」


 ざっと三十枚くらい重なっているのだが……覚える意味はあるのだろうか。知識量だったら大半の生徒に負けているだろうが、その差が勝敗に直結するとはにわかに信じがたい。


「意味が無いと思っているのか? 確かに、能力に弱点が無ければあまり意味も無いだろうけどね」


「弱点……」


 私の力の弱点……炎に対して有効なもの、それは水だ。湿っているものに火を近づけても引火しにくい。それと同じような現象が戦いの中で起これば、私は圧倒的に不利になる。自然の法則という弱点があるのだ。


「はぁ……分かりました、頑張ります……」


「うむ、よろしい」


 自然と溜息が出てしまった。取り敢えず、水を使うような生徒と当たらないことを祈っておく。

 それにしても、今のままでは私の力は応用性に欠ける気がする。火炎放射しかできないとなると、距離をとられ続けたら攻撃のしようがない。


 しかしながら、いまいち奇跡の力を理解できていないのが現状である。

 リーンが言うには「悪魔の力」と「自分を信じる気持ち」が主な二要素。前者はリーンに依存するから、力の強さは後者次第なのだろう。


 だが、力の扱いに関しては経験も大事なようだ。試しに、手の平の上に小さな火の玉を出してみる。窓を割ってしまった時よりかは、安定して使えるようになった気がする。

 技術的な面では練習の意味があるのかもしれない。


「ラキュエル、一つ気になることがあるんだが」


「何ですか?」


 私が炎を出しているところをみたイルカナが、妙な反応を見せた。別に変なところなんてないような……あっ。


「炎って、紫色だったか?」


 これについては私も全く分からない。悪魔の奇跡は気持ちに左右されるということだから、きっと私の持つファイザーへの憎悪の念が色として表に出ているのだろう。紫色は、不思議とそういったイメージがある。


「ところで、君は神を信じているか?」


 唐突に投げつけられた質問に対し、私は首を横に振ってしまった。気づいた時にはもう遅い。ディザニークを信じていない人は圧倒的に少数で、しかも私がこの学園に来た目的がファイザーに会うことだと言ってしまった。

 復讐が……バレてしまう。


「そうか、別に怖がらなくてもいい。私も同じだからな。レイクロック学園はあくまでも生徒たちが勉学に励む場所。宗教なんてものは関係ないだろう?」


 何の躊躇もなく、イルカナは教育の場に持ち込むべきではないと、確かにそう言った。


「私は、科学によって全ての謎は解明できると思っている。だからこそ、この学園で教師をしながら、ずっと研究しているんだ。皆が『能力』と呼ぶ力についてね」


 どおりで、私に興味を持ったわけだ。すると、教師をしているのも様々な生徒たちの情報を集める為なのだろう。

 ただ、私はその答えを知ってしまっている。話すべきか、否か……黙っていれば、面倒事に巻き込まれることはなさそうだ。


「それで、ここの全生徒に対しある一つ質問をぶつけたら、その解に近いものが得られたのさ」


「質問というのは……」


 それを聞いたイルカナはフッと笑い、少しずれていた片眼鏡を直してから口を開いた。


「同じように、『あなたは神を信じていますか』とね」


 その言葉によって、体中に悪寒が走る。神への信仰と力、その関係にどこまで近づいているのだろう。もしも、解明されていたとしたら……。


「能力のある人は皆、『はい』と答えたさ。一般的には『生まれつき備わる力』と言われているが、それは違うんじゃないかと思ったんだ。私はこう考えた。『ディザニークへの信仰が力の源である』と」


「そ、そうなんですか……」


 恐怖を紛らわすように、得意気に話すイルカナに対し相槌をうつ。そんな、もうそんなところまで……。


「しかし、例の生徒だけはこう言ったよ。『僕は神を殺す』とね」


 彼女の言う生徒……それすなわち、あの弓使いのことだ。「神を殺す」……か。その点、私とその生徒は似ているようだ。


「だが、これでは矛盾が生じる。何も信じていない人が能力を使うなんて例を、私は初めて見た。そんな貴重な研究資料が今年になって二人も現れるとは……」


「え……?」


 急にイルカナの声色が変わる。手に持っていた研究書類をパサッと前の机に放って、こちらに近づいてきた。


「ラキュエル、君は一体……何なんだ?」


 その足取りは明らかに不自然で、何かへの強い執念が、なんとしてもそれを手に入れようという欲望が、表出したかのようだった。


 逃げければ。そんな焦りを感じるも、恐怖心が私の足を掴んで離さなかった。


「……なーんて、別にそんなこと考えてないさ。君に対して仮設が矛盾するなら、その仮説が間違ってるってことだろう。驚かせてしまったかな? 第一、私が見込んだ君に何か危害を加えるわけないじゃないか」



 * * * * *



 椅子を借りて、紙とにらめっこを始めてから数時間が経過し、窓から上に昇りきった日が見えた。いやぁ、集中すれば意外とできるものだね。普通に読んでただけだから、殆ど頭に入っていないけれど。


「よく頑張ったじゃないか。もう帰ってもいいぞ」


 ただ一点、気になることがある。こんなに早い時間に帰れるものだっただろうか。昨日渡された大量の書類には、基本的に午後まであると書いてあった気がするが……。


「本当は、それを全部覚えられるまで帰らせないつもりだったが……まったく、今から会議とはね……」


 もしも会議が無かったら、そう考えただけでゾッとする。爆薬を常に携帯している教師に監視されるなんて、もうごめんだ。ありがとう、会議。

 ペコっと頭を下げ、その牢獄から飛び出した。


 外に出ると、同じように帰り際の生徒達がちらほらと目に入る。他の教員たちも会議に呼び出されているのだろうか。もう毎日会議してくれないかな。


「……エ、エルさんっ!!」


 そんな下らないことを考えていると、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返ってみると、そこに立っていたのは、同じく深緑色の制服を着たミラだった。


「編入できたんですね! おめでとうございます!」


 そう言えば、彼はこ大会の詳細まで知っていたじゃないか。ミラがレイクロック学園の生徒であることに、どうして気付かなかったのだろう。制服のサイズに対し肩幅が足りず、端の方が少し余っている。可愛い。


「あの……」


 ミラがもじもじしながらこちらを見ている。


「一緒に帰りませんか?」

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