魔 女
ルイスはライリよりも5つ歳上で、西の色彩都市ブール帝国出身である。ブール帝国では高貴な血筋を大切にしていた。それ故、病気で亡くなる兄弟も多くいたという。
ルイスにも二つ年上になるはずの兄がいた。ルイスの母親はそのこと心の片隅に忘れられずにいたので、自分の息子には同じ道を歩んで欲しくないと思い、幼い頃から他国との交流を多岐にわたり、そして他の国の姫との婚約をも応援した。
ルイスはすくすくと育ち、無事に成人の儀を終えると、一本の電話が東と西に遠く離れた地『シュリア帝国』と『ブール帝国』の運命を繋いだ。
シュリア帝国の国王が『珍しい花』を探しているというのだ。
彼は当時の仕事でブール帝国に咲いている様々な花を抱え、シュリア帝国の侍女に渡した。国王は病気で寝室で休まれていたため、直接『花』を選んで貰うことは出来なかったが、その時『彼女』に出逢った。
淡い色のドレスの裾が揺れ、隙間から甘い香りがほのかに薫る。ブール帝国は様々な花が咲いているが、彼女のように汚染された水を吸うことのなく、暖かい温室で充分に優しい言葉を毎日かけられながら育った『可憐で純粋な花』は見たことがない。
完全にルイスの一目惚れだったーー……。
しかし、二人は出会い結ばれた今、彼に更なる難関の壁が立ちはだかる。彼女の母親からあまり良い顔をされていないのだ。
綺麗に手入れされた庭園を悠々と日傘を差し歩く王妃。真っ赤な生地に百合の白い糸で刺繍が施されたドレス。燃えるような芯が強い眼差し。彼女には『深紅』という色がよく似合う。
胸元は大きく開けられ、コルセットできつく締められ、後ろで御付きの物がはしゃいでいたとしても惑わされる事なく、自我をしっかりと持ち、隙は見せまいと扇子で口元を隠す堂々とした仕草。
暖かい春の風が吹き付け、彼女を隠していた日傘が手から離れ、遠くの木陰で見ていたルイスの足元へと転がる。
彼女はにっこりと微笑むと首を傾げる。
あのときの優しさも偽りだったのだろうか。
***
ライリは弱い自分に泣いていた。どこにもぶつけられない怒りは自身を責め心を病ませた。
慕っていた姉は消え、父親が亡くなり、母親には辛く当たれる。
机の引き出しを開けては鋏を取りだし、何度も神に願っても、腕や喉を切り裂くそんな強さもない。
真っ暗な庭園を黙々と一人で歩く。城の門を越え、馬車でしか通ったことない木が生い茂る並木道から村の方へと更に進む。とにかく母親に見つからないように少しでも遠く、朝が来る前に安全な場所へ逃げたかった。
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……どれくらい歩いただろう。涙は枯れ、足は靴擦れを起こし、もう一歩たりとも歩けないという所で、草原にぽつりと一軒だけ家が建っていた。
ここは母親の友人が暮らすお家だった。
体力に限界が来ているライリは、頼める場所はもうここしかないと思い、必死で玄関のドアをノックする。




