ようこそ旦那様
また読みに来ていただきありがとうございます。
目がさめるとそこには見知らぬ天井。
宿屋の天井でもない俺の部屋の物でもない。
まだ痛む後頭部を抑えながらここがどこなのか辺りを見渡すも、見たことのない家具があちらこちらにあり、今自分が置かれている状況に整理がつかない。
少し混乱しているとドアをノックする音がなり、返事をするとドアが開いた。
「おはようございます、お目覚めでしたか。目覚めが遅いので犬のおやつにでもしようかと思っておりました。」
入ってきたのは少し目つきが悪く、背の高い金髪のメイドだった。
部屋に入って来て早々初対面の人から、まさかこんなに罵声を浴びさせられるとは思っていなかった。
だが、都合がいい。
ここがどこなのか、なぜ俺は眠っていたのか知りたかったからだ。
「あ…あなたはここのメイドさんですか?」
「申し遅れました。私はここでメイド長をしております、クリスタル・カーネーションと申します。質問などその他ご要望がありましたらお申し付けください。以後、お見知り置きを。」
厳つい見た目に似合わず美しい名前に目を疑った。
冗談なのかと疑ったが、そんなことをするような人ではないと思う…
_あんな蔑んだ目で冗談など言わないだろう。_
「あの…クリスタル…」
「クリスで構いません。」
食い気味で反応…
「じゃあクリスさん、俺はネフライト・アリウム、ネフと呼んでください。」
「かしこまりました。ネフ様。」
「そして質問させてください。ここはどこですか?なぜ俺はここで眠っていたのかも教えてもらえますか?」
「質問を受け付けます。まず、ネフ様が"なぜ俺はここで眠っていたのか?"という質問ですが、貴方がドラゴンを見つけた祭急に倒れ、魔…ルビー様にお姫様抱っこをされこちらに連れて来られました。」
_…お姫様抱っこ?!"俺が時間を稼ぐ!"ってかっこよく言っておきながら、その相手に俺は担がれてここにきたのか!?…恥ずかしい…穴掘って土に埋まりたい…_
顔を真っ赤にしながらなんとか自我を保った。
「そうなんですか…けど俺は誰かに頭を殴られたような…」
「石でも飛んできたのでは?それくらい感じ取って避けてください。」
また食い気味で相変わらず冷たい…
「もう1つの"ここがどこなのか?"という質問ですが、それはこれからルビー様からのご説明があります。なので早くルビー様の元に参りますよ。」
先に廊下に出て歩いていくクリス。
「ちょ…ちょっとまってください!?」
慌ててベットから飛び降り追いかけた。
すごく立派な廊下。
一国の王の城に思える…っていうか城だ。
_なぜ城…それよりまずルビーは城に住んでいる?!_
だが、廊下を歩いていると少し不思議に思えることがあった。
なぜかカーテンが全て閉め切られている。
俺が寝ていた部屋は多分俺が寝やすくするからであろうと思っていたが、廊下まで締め切る必要はないと思う。
カーテンの隙間からは、明るい光がが差している。
「なぜカーテンを閉めているのですか?」
「ルビー様からのご命令です。」
外を見てはいけない理由でもあるのか?と、その理由を予想しながら廊下を歩く。
_きっと外の絶景で驚いた俺の顔がみたいのかな?可愛いところもあるんだな_
変な妄想で少し顔がにやけた。
そんなことを考えていたら、いつの間にかルビーの部屋についたらしい。
「そのにやけた顔でルビー様に会うつもりですか?私が整えてさしあげましょうか?」
ポケットから何かを取り出そうと、ゴソゴソするクリス。
一瞬ナイフの頭のようなものが見えた。
_あの人ポケットにやばい物入れてる…_
「いや大丈夫です!大丈夫ですから!」
両手で自分の頬を叩いて、気を引き締めた。
焦って勢い良く叩きすぎたから、少し頬が赤い。
だが、そのおかげで気が引き締まった。
「ルビー様。ネフライト・アリウム様がお目覚めでしたのでお連れしました。」
ドアをノックしながら、クリスがルビーを呼びかけた。
「入っていいぞ。」
久しぶりのルビーの声に少し緊張した。
「かしこまりました。」
クリスはドアを開け、ルビーに向かい頭を下げている。
そこにはいつものフードはなく、深い赤色のドレスに身を包んだルビーが、両手を腰に当て仁王立ちしていた。
「目が覚めたか!心配したぞ!」
服装は変わってもいつものルビーだ。
歯をむき出し無邪気に笑うルビー。
「心配かけてすまない。そして俺を運んでくれてありがとう。俺重くなかったか?」
「私は力持ちでな!ネフくらい軽いもんだ!」
_確かに俺はそんなに大きいわけでもなく、あまり重くはないが1人の女性が軽々と持てるわけじゃない。ってかなんで助かった?あのドラゴン達の前で無事だったのが、全然理解できない。_
「そうだルビー。なぜ俺たちは助かったんだ?なぜ俺はここにいるのか聞かせてくれ」
俺の問いに少し目を逸らしながら、ルビーは苦笑いしながら話し出した。
「ネフ。まずは君に嘘をついていたことを謝る。」
なぜかわからないが俺は頭を下げられた。
「嘘?頭を下げるほどの?」
「…君は魔族が嫌いか?」
「嫌いが好きかじゃなくて魔族は悪だ。人間を殺す。悪さをする。敵だ。」
唐突な質問に疑問を持ちながら答えた。
そしてルビーは真剣な顔になり話し出す。
「人間を殺すのは戦いだからしょうがないし、悪さをするのは子供だけで、村の人間が殺されたなどということを聞いたことはあるか?」
「…ない」
少し考えたが、確かにそんなことを聞いたことがない。
「戦えば魔族も人間も死ぬ。死んでいくやつにはみんな家族がいる。戦いが続けば続くほど互いの国が悲しみで満ちていく…だから私は考えた…この戦いを終わらせる!」
「…は?!」
俺はびっくりを通り越して、何を言っているのか理解できないし、口が開きっぱなしで閉じない。
「君は王族か何かは知らないけどそれは無理だ!何年もの間人間と魔族は戦い続けた!もう互いのどちらかが絶滅しなければ終わらない!ルビーが何を決めようが何も変わらない!」
「いやできる!私ならな!」
「なぜ?!ルビーは俺たちの王なのか?!」
そう問いただすとルビーは笑いながら答えた。
「あぁ王だ!だが人間ではない!私は魔王!魔族の王だ!」
そう言うとカーテンを勢いよく開けた。
そこにはドラゴンが飛び、遠くの方に魔族の街があり、人間の国ではなかった。
俺はここ、魔族の国の城、魔王の城にいた。
「ようこそネフテリア・アリウム!我が城へ!」
_…俺はこれからどーしたらいいんだ?_
自分がなぜここにいるのか、知りたがったが知りたくなかった事実。
そして何よりルビーが魔族だった、しかも魔王、という衝撃的な事に頭がパンクしそうだった。
嘘だと思ったがこの現状を見た限り、嘘ではない。
だから俺は現状を受け止める事にした。
今自分の身に起こっている事を受け止めなければ、話が進まない。
ゆっくりと状況を理解しようと悩んでいると、ルビーもそれを察したのか静かに待ってくれた。
「安心しろ。ネフ、君を殺したり元いた場所に返さないなどといったことはしない。」
大体のことを理解し、ルビーを見るとそう告げられた。
「じゃあなぜ俺をここに?」
「それは…その…あれだよ…」
少し顔が赤くなりもじもじしだした。
「ルビー様。目が覚めたら言うとおっしゃいましたよね?さぁ今ですよ!頑張って!」
今まで静かにたっていたクリスさんが、急にルビーの近くにより励まし始めた。
「いやでも早くね?今さっき"私は魔王"って言ったところでそれは早いよ…」
2人でこそこそ話し始めた。
そしてしばらく話した後、決意したのかこちらを見ながら
「わ…私の…私の伴侶…旦那になってくれ!」
まさかの告白。
全く予想のできなかった出来事。
嬉しい…願ってもいないことだが、相手は人間じゃない、しかも魔王。
_確かに俺はルビーに惚れていたがこれは少し戸惑う…_
少し考えたが、やはり人間と魔族…でも好きな気持ちは変わらなかった。
_魔王と言われようが、惚れた女が何者でもそれは関係ない。俺はルビーが好きだ!_
「き…気持ちは嬉しい。俺もルビーとなら…」
「よかったですねルビー様!これで先代もお喜びになりますよ!」
_また食い気味に…けどルビーも同じ気持ちでよかった_
複雑ながらも嬉しい。
ルビーとクリスはハイタッチしながら喜ぶ。
どうやらルビーとクリスは仲が良いのだろう。
_けど魔族との婚約…少し不安だ…そういやなぜ俺を?_
不安に思ったが、それより理由が気になった。
「なぜ俺なんかを?」
「それは私も同感です。なぜこのような男と…この国にはもっと強く、男らしい者がいらっしゃいますよ?」
「もしかしてクリスさんは俺のこと嫌いなの!?さっきから酷いですよー…」
ツッコミのように聞いてみた。
すると嘲笑うかのように
「いえ、失礼しました。私の言動がそのように聞こえてしまったのですね。嫌いではありませんが、弱い者に興味はありません。」
「あ…良かったです…」
心に矢を打つかのように放たれた言葉に、返す言葉がない。
「まぁ落ち着けクリス。確かにこの国にはネフよりもいい者は山のようにいる。だがネフにはその者達には無いものを持っておる。」
「私には何も持ってないとしか見えません…むしろ軟弱さしか…」
「その軟弱さだ!それ故に母性がくすぐられるのだ!私は強い!だから守られるのではなく守りたいのだ!」
「さすがルビー様…そのお心、眼福致します」
すごくかっこいいことを言っているが、その言葉はまたもや俺の心を射抜く。
ひび割れたガラスのハート…だが、ルビーは俺に駆け寄り
「ドラゴン達の前で、私を守ろうとしてくれたのは男らしくかっこよかったぞ。」
と、耳元で囁きながら頬を赤らめた。
ルビーは魔王であり、妻になった。
そして俺の新婚生活が始まる。
読んでくださりありがとうございました。
また次も読んでくださると光栄です。
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