昇格と恋
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ルビーと出会ってからは異様なまでに順調に…いや恐怖を覚えるほどに事がうまく進んでいった。
出会ってから初めての依頼は、子供のゴブリン退治。
山に入る村人に悪さをしたり、村の畑に入り農作物を荒らしていた。
農家の子として、丹精込めた農作物をダメにする輩は万死に値する。
そう思えるほどに怒りを覚えた。
だが事は一瞬のことだった。
「何をしている小僧ども…」
なにも表情を作らず少し睨むように放った言葉。
その瞬間それまで悪さをしていたゴブリンたちが武器を捨て、泣きながら逃げ帰っていった。
俺達は何もしていない。
ルビーが〈何をしている?〉と聞いただけだ。
だがその言葉はとても重く絶対に敵には回したくない…そう思えるほどに。
この結果を疑問に思ったが依頼は完了したので良しとした。
翌日、昨日逃げ帰ったゴブリン達の親らしきゴブリンがぞろぞろとやってきた。
_復讐だ…子を泣かされて黙ってる親はいない…やばい…やばすぎる!_
恐怖で足が震え子鹿のようになっていた俺を横目に、ルビーは凛とした姿でいてすごくかっこよく見えた。
そして何も心配はいらなかった。
親ゴブリン達は復讐ではなく、謝罪をしにきたのだ。
沢山の果物と仕留めたのであろう豚を数匹、今まで村人達に悪さをしてきた魔族とはおもえないほど、律儀に謝罪をしてきた。
俺はその事と昨日の事について、疑問が頭の中を飛び交っていた。
子供ゴブリンは逃げ帰り、謝罪をする親ゴブリン、ましてや謝礼として食べ物まで持ってくるとは…
だが村人はそれに対し喜び、何も害が無かったからこの件はこれでいいと言ってきた。
俺も勇者だ。
深入りして良い結果を悪い結果にするような、野暮なことはしたくない。
俺とルビーはこれで決着したという事にした。
ゴブリンの依頼を終えてからは、
森で巨大な巣を作っている蜂型魔獣の討伐
村付近に突如現れた家畜を食べる植物の討伐
などを受けたが、次々とルビーがあっさりこなしていく。
それはもう淡々と進んだ。
数日後、酒場に行くと受付嬢が俺に駆け寄り
「おめでとうございます!中級魔獣討伐の依頼が受けられるようになりました!これからも頑張ってくださいね!」
あまり嬉しくはない。
俺はまだそんなに大それたことはしていないし、全てルビーの手柄だ…
だがそれにしても昇格が早い。
まだ数回しか依頼を受けていないのにもかかわらず、この短期間では流石に早い。
頭を整理しようと少しうなされていると、すぐにその答えがわかった。
他の勇者が口にしているのが耳に入った。
噂だ。
ゴブリン達が俺達に謝罪している様子をそこにいた村人が
「この前うちの村を助けてくれたら勇者様がゴブリンを従えていたぞ!あの悪さしかしない魔獣をあんなに屈服させるなんて…あの方はすごい手練れの方だ!」
確かにあれを見られていたら、そう思うかもしれない…
その噂を勇者管理局が耳にし、その村に事情を聴きに行った所みんな口を揃えて同じことを言うので、昇格を決定したらしい。
「噂とはすごいなあ!噂で昇格とは運が良いなネフ!さすが私の相方!」
「あ、ありがとうございます!」
ルビーは相変わらず元気が良い。
あの時の重圧が嘘かのようにニコニコと笑っている。
少し納得はいかなかったが運が良かったと思い次の依頼、"ドラゴンの巣の調査"の概要に目を通していた。
最近ドラゴンをあちこちで見かけるという声が多く、管理局からの依頼であった。
見つけ次第その場所を報告するだけの簡単な依頼だが、ドラゴンに遭遇する確率が高いため中級指定らしい。
ドラゴン討伐なら上級依頼だが今回は倒さなくても良い。
そしてこの依頼、見つけたものは大きな収穫・危険をかえりみず勇敢に行ったとして昇格が報酬である。
あまりにも話がうますぎるが、つい先ほど昇格した俺にとっては願っても無いことだ。
_これで昇格したら上級が受けられる一人前の勇者!俺もモテモテライフが始まる!_
目的達成の速さに嬉しさを隠しきれずにやけてしまう。
善は急げ。
「行きましょう!ルビーさん!」
ルビーの手を取り張り切る俺。
「ネフ…その…"さん"はやめろ!ルビーでいい!あと歳も近いことだ、そんなにかしこまらなくても良いぞ!」
笑顔で優しいルビー。
俺は相方に恵まれたとすごく嬉しくなった。
「じゃあ行こう!ルビー!」
俺達はドラゴンがいそうな場所、渓谷へ向かうことにした。
渓谷に向かう前に、溜まった軍資金で装備を整えた。
町一番の鍛冶屋に、かっこ良くてごつい装備をこしらえてもらった。
安くはなかったがとても良い出来でウキウキした。
まるで遠足の前の日のような感覚だ。
だが依頼は今まで全部ルビーのおかげ。
実力が育っていない俺には、宝の持ち腐れに思えた。
「ルビー、今回の依頼は俺が率先するから援護を頼む!」
「大丈夫か?無理と思えばすぐに変わるからな?」
少し不安そうな顔をするルビー。
_今回は俺が頑張ってる所をルビーに見せつけて、俺の気持ちを伝えよう!_
いつのまにか俺はルビーの事がき気になりはじめていた。
まだ数日しか一緒にいないが、いつも笑顔で強い、そしてかわいいルビーにいつのまにか心を奪われていた。
準備が整い渓谷に向かう俺達。
今までと違い渓谷は遠い。
途中色々な村に立ち寄り宿をとったり、村がない時はキャンプをしながらようやくの思いで渓谷にたどり着いた。
だが到着してから気づいた。
目の前に広がっている事がこの依頼の大変さを物語っている。
数匹のドラゴンなどではない、ドラゴンの群がそこを巣にしていたのだ。
ドラゴンは本来群れを為さず単体でいることが多い。
_なぜ群れを成しているのか…ってかこの状況はやばい!_
考えてみたが俺の頭じゃ何も解決策は見つからず、とりあえず逃げようと思ったその矢先…
3頭のドラゴンに見つかった。
巣を荒らしにきたと思われたのか威嚇し始める。
それに気づいた群れの全体が一斉に威嚇し始め、俺は死を覚悟した。
_ルビーにあんなカッコつけといてこれはカッコ悪いな…あー死にてー、いやこれ死ぬか…_
だが俺の体はルビーの前に出て剣を抜いていた。
自分でも何をしているのかわからない。
死を覚悟しながらなぜ戦おうとしているのか。
そして俺は震えそうな声を抑え、勇ましく
「ルビー!俺が時間を稼ぐ!早くにげろ!」
_あ、気になってたとかじゃなくて俺はルビーが好きなのか…好きな女を守るために前に出て囮になっているのか_
それに気づいた俺は、時間を作ろうと立ち向かおうとしたその時…
突如後頭部に強い衝撃を感じた。
そして俺は気を失いそうな時に
「守ろうとしてくれてありがとう、だが安心しろネフ…私たちは大丈夫だ」
そんな言葉が聞こえたような気がした。
そしてルビーの顔が少し赤かったような…
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