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大団円、です…?

 その後、梓はいつもと変わらず学校へ行った。

 いつも通り授業を終えて、桜花と弁当をかこって、久しぶりの部活に出て料理する。作った料理は今夜のおかずだ。今まで命が狙われていて、それをつい先日解決したばかりだというのに、戻ってきた日常はあまりに変化がない。


 ただ違うとすれば、昼休みに図書室へ行っても、たけるがいなかったことだ。

 図書委員のクラスメートにそれとなくたけるのことを聞いてみたが、クラスメートはたけるの存在自体知らなかった。休んでいるとか退学とかではなく、まるで最初からいなかったかのように、クラスや委員会どころか、学校全体が、たけるのことを記憶から消されていた。その神様は、梓を狙うことを完全に諦めた証拠になりえるんだろう。ちなみに、もう一方の柴犬だったかも――賀茂建角身命は、もうしばらく家にいると言ってくれていた。


 梓は何だか寂しい気持ちになりながら、部室で料理を風呂敷に包む。

 調理器具をきれいに片づけて、部室に鍵をかけ、教室を後にした。鍵を職員室へ戻してそのまま帰る。


 校門まで歩いてきたとき――



「あ、いたいた」


 見慣れた姿が、そこに立っていた。


「た……っ、たける君!? ……いや、ちゃん? 君?」

「君でお願いします」


 無邪気な笑みは相変わらず。ぱりぱりの学ランに袖を通した少年――たけるが、梓に近付いてきた。長かった髪はばっさりと切っている。学生鞄には青い狼のキーホルダーが着いている。ミツミネだ。思わず梓は鞄を盾にしながら後ずさる。


「えー、なーにその反応? そこまで露骨に怖がられると傷つくんだけどー」

「今までさんざんつけ回してたことを棚に上げてませんか……?」

「もう危ない目に遭わせたりはしないって。へーきへーき」


(どうしよう……かもさんの『平気』と違って、たける君のいう『へーき』は全然安心できないっ!)


「まあ、それはそれとして」


 たけるは咳払いする。


「ありがとうね、梓」

「……え」

「あの後ね、タチバナがもういないってこととずっと向き合ってた。もう体の水分なくなるんじゃないかってくらい大泣きしてね、ベッドにこもってさ。でも泣き止むとさ、悩んでたこととか悲しいこととか、全部がきれいに流れてくれた気がしてさ」

「そう、でしたか」

「こっちの学校にいたのは、ひとえに梓を手に入れるための潜入みたいなもんだったから、その必要もなくなって、生徒の記憶は全消しした。んで、また別の学校にちゃんと行くことにした」

「……記憶を操って?」

「そっ。人間に交じって暮らすのがもともと好きだもん」

「立ち直れたのなら、何よりです」

「うん、ありがとう、梓。もうタチバナを追わない。これからは陸で何とか生きてくよ」

「はい」


 そういうと、たけるは微笑を悪戯っぽく緩ませて、梓にもう一歩近づいた。


「それでねっ、こっからが本題なんだけど」

「……はい?」


 梓は嫌な予感しかしなかった。何せ、たけるの笑顔が、いたずらを思いついた近所の子供と同じ表情だったのだから。


「タチバナじゃなくてね、今度は君を追いかけようと思ってね!」

「……あの、わたしタチバナさんじゃない、そっくりなだけの他人ですけど?」

「知ってる。タチバナ関係なくね、僕は梓自身が好きなの! だって、この僕に立ち向かう強さ、弓を引く凛々しさ、ちょっと見せる弱さ……どれも僕を魅了してやまないんだよね! 吹っ切れた時に一番最初に思い浮かんだのは、誰でもない梓だった」


 冷や汗が額をつたった。梓の手はたけるに強く握られている。憧れが目の前にいるような子供の煌いた目が、梓の目と合う。


「だから! これからは全力で梓を追いかけるっ。いつか僕を一人前の男として認めてもらえるように、一緒になれるように……」

「ざっけんなああぁ!!」


 突如、空から頼もしい声が降って来た。


「いてっ」


 空から落ちてきた物体は茶色の毛並ふさふさの、豆柴犬だった。


「あ、かもさん」

「てめー、ようやく懲りたと思ったらコレかよ。却下だ却下! お前に梓は渡さん!」


 梓とたけるの間に割って入り、かもは牙をむき出しにして反抗した。


「引っ込んでてよ、犬君。もう家が当人同士の結婚に口を出す時代は終わったんだよ」


 たけるは唇を尖らせ、かもに反論する。


「てめーみてーな危なっかしいクソガキに娘を任せられるか! お父さんは許しません!」

「誰がお父さんですか……。っていうか、ミツミネさん! そのキーホルダーはミツミネさんですよね!? ご自分の飼い主さんに何か言ってやってください!」


 話題を投げられらキーホルダーは、しばらく沈黙して、「申し訳ありません。我が主はこういう方なのです」と逃げた。


「ほらー、ミツミネもいいって言ってるじゃん! あとは梓が僕に惚れればいいだけ。これからとってもいい男になるからさ、そん時は僕の手を取ってよ」

「ざけんなガキ!!」

「黙ってろ犬ッころ」

「ご先祖様の恩人にそんな口叩いていいのかぁ……? 末代まで祟るぞ」

「やってみろよ返り討ちにしてやるから」

「あのっ! いいから帰らせてくださーい!!」


 梓の平穏は、まだ遠い。


 

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