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九十五話 ゆったりとすぎる日々

 一日の見学期間の後に、シャチクジラの魔物が解体され始めた。

 陸に上げられると本当に無力になってしまうのか、刃物を体に突き立てられても、魔物は痛みを感じていないかのように、全く動かない。

 けど、作業をしている人たちとって、この魔物は予想外の難物らしかった。


「なんだコイツの皮膚!? 刃物がなかなか通らねえぞ!!」

「切れても、その下の脂身で、すぐ刃がなまくらになっちまう!?」

「骨に当てるなよ! オレの道具みたいに、折れちまうぞ!」


 彼らが大声で愚痴を言っているように、作業はゆっくりとしか進まない。

 十日経って、ようやく腹を半分切り終え、開いた傷口から内臓を掻きだそうと四苦八苦をしている。

 高層ビルみたいな巨体だから、さばききるまでに、どれだけ時間がかかるんだろうなって、つい思ってしまう。

 解体作業する人たちが苦労しているように、高速馬車の商会の人たちも、センシシ商会の傘下を切り崩そうと頑張っているらしい。

 シャチクジラの魔物は、大量の肉や内臓がある。

 それらを町や周辺の村の店や加工工場に食肉や加工用の肉として卸す交渉で、センシシ商会の下から離れるようにと迫っているそうだ。

 次はいつ獲れるか分からない魔物だからと、高速馬車の商会が大型漁船を持っていて漁獲がかなりあることから、多くの人が離脱しそうだと聞いた。


 一方で、切り崩されているセンシシ商会はというと。

 怪我をしてベッドの住人になったセンシシに代わり、息子夫婦が商会の切り盛りを率先して行っているらしい。

 そして、遅かれ早かれ切り崩されるのならと、渡来船と貸し漁船業以外の傘下を渡す交渉を、高速馬車の商会に持ちかけているそうだ。

 その噂が町に流れた後に、離脱する傘下はいなくなったらしい。

 理由は、二つの商会間で交渉がまとまれば、傘下の店は離脱するときの違約金を、センシシ商会に払わなくていいから。

 だから、商会の交渉が終わるまで、座して待つ気なのだそうだ。


 そんな風に双方の商会が色々とやっているなか、俺とフィシリスの生活も少しだけ変わった。

 大物釣りの装置に必要だった崖が崩れてしまったので、大きな魔物を獲ることは出来なくなった。

 なので俺は、冒険者組合で大型漁船の依頼を受けて、船に備え付けの大型ボウガンで、大きな魚や中型の海の魔物を獲っている。

 中型であっても海の魔物は珍しいので、高速馬車で運ばれ、遠くの町で行われたオークションで高値がつく。

 あまりにも大もうけできるものだから、二隻目の大型漁船でも作ろうかなと冗談を言うほど、御者の人は笑みが止まらないみたいだった。

 フィシリスは素潜り漁をして、小型の魔物を集めて、冒険者組合に売ることを始めていた。


「オゥラナーガを売って手に入れた金貨があるのに、働くんだ?」

「もちろんともさ。ま、あたいは魚人だからねえ。海で泳ぐのが好きってのもあるのさ。というより、バルティニーだって、あのデカブツを売り払ううんだから、大金を手にする予定なのに、依頼を受けているじゃないか」


 それもそうだったと、俺は苦笑いする。

 まだまだ解体の途中だから、大金が入るなんて実感が薄いんだよね。

 魚鱗の布の防具を、あの魔物の皮から作る予定なんだけど、いつから作業に入れるかも分かっていないしね。

 作製を頼んだスカヴァノ衣料防具店の人も、ちょっと困惑していた。


「大昔にあの魔物の子供の死体が浜に打ちあがった際に、曽祖父がその皮で魚鱗の布を作ったという記述が見つかったので、作業自体は出来るはずです。ですが、やはり子供と大人とでは皮の状態が違うようで、試作などで時間がかかるかと……」

「どのぐらいかかりそうですか?」

「……恐らく、夏が終わるまでには無理でしょう。もしかしたら、冬を越して次の夏にようやくということもありえるかと」


 つまり、どうなるか分からないってことが、分かっているみたいだ。

 見通しだけでも、半年から一年もかかるのかと、ちょっと落胆した。

 作業の見通しがつくまで、どこかに行ってみようかって考えた。

 けど、この港町サーペイアルはいいところだから、一年ぐらい長居してもいいかなという気もしている。

 最近はごたごたしていたけど、もともとは朝の忙しい時間以外はのんびりとした町だし、住民は気のいい人が多い。

 他の地域では食べられない、魚介類と長粒米がある。

 冒険者組合で受ける、漁船に乗って行う魔物釣りの依頼の報酬は多いので、懐が暖かくなって仕方がない。

 漁業に飽きても、渡来船の依頼を受けたり、少し遠出すれば魔の森で狩りをすることも出来る。

 そんな住み心地のいい場所なので、無理に離れる必要はない気がしている。

 なにより、俺とフィシリスの関係が、幾つかの命の危険を経たからか、友達から一歩進んだ関係になったことも大きい。

 一緒に食事を取り、同じ屋根の下で暮しているのは同じだけど、肌を触れ合わせることが多くなった。

 いまも、同じ長椅子に隣に座って、囲炉裏の火を見ながらお互いの片腕を絡めている。


「……バルティニー」

「ん? どうかしたの?」

「少し、名前を呼んでみたかった、それだけさね」


 そう言って、フィシリスは喜びがにじみ出てきたような、微笑みを向けてくる。

 俺が笑顔を返すと、フィシリスは俺の肩に頭を乗せた。

 そのままの状態で、少し時間が経つ。

 すると、囲炉裏の火が移ったような情熱的な目で、フィシリスがそっと俺を見てくる。

 どういう意味かは、ここ何日かで理解しているから、俺はゆっくりと彼女の唇に口を近づけた。

 淡いキスをして離した後で、少し長めのキスをする。


「はぁ……バルティニー」


 熱っぽい吐息を零したフィシリスを、俺はゆっくりと長椅子に横たわらせる。

 フィシリスはビキニ水着のような格好なので、体を撫で上げていくのに不便はなかった。

 気分が高まってきて、お互いの息が少し荒くなった頃、俺たちの下半身がぴったりとくっ付いた。

 魚人は人間と骨盤の形が違っているようで、フィシリスのアレはかなりお腹側にあるためだ。

 なんとなくだけど、前世で見たイルカの位地に近いんじゃないかって気がする。

 そんなことはいいとして、二人のお腹があった状態のまま、腰を前後させて激しい運動を行っていく。

 艶めいたフィシリスの鳴き声と、俺の荒い息遣いが家の中に溢れた。

 やがて限界が来て、お互いにぐったりと長椅子に体を預ける。

 俺もフィシリスも、気持ちよかったと相手に伝えようと、キスの雨を口や首筋に降らせていく。

 その最中、フィシリスが笑みを零した。


「ふふっ。なんだか不思議だねえ。バルティニーと出会ったときは、こんな関係になるなんて予想もしなかったのにさ」

「それは確かにそうかもね。装置に触るなって怒鳴られたのが、出会いだしね」


 お互いに笑顔を向けあうと、フィシリスがたまらなくなったように、俺の唇に吸いついてきた。

 そして、舌を絡ませ、唾液と呼吸を交換しあってから、ようやく離れる。


「あたいとバルティニーじゃ、子供はできないけどさ。あたいがアンタを愛しているって、一生忘れないように、この体に刻んでおくれよ。そうしてくれさえすれば、バルティニーがどこかに行ってもやっていけるだろうからさ」


 いつか訪れる別れを覚悟しているような言葉に、俺は思わず口を開く。

 しかしフィシリスに、人差し指で塞がれてしまった。


「いまは、愛しておくれよ。言葉を交わすのは、終わった後でゆっくりとね」


 フィシリスは言いながら、俺のの体を抱き寄せ、腰に足を絡ませて、行為をねだる。

 求められたら応じるのが礼儀だって、俺は一層頑張ることにした。

 夜がとっぷりと深けるまで、お互いが息が絶え絶えになるほど動くと、まずフィシリスが、すぐに続いて俺が、電源を落としたようにすとんと眠りに落ちてしまったのだった。


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