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七十六話 浜での宴会

 網漁と俺の銛撃ちで、大漁も大漁だった。

 なので、船員からオール漕ぎや冒険者まで駆り出され、バケツリレーのように魚や貝が詰まった箱を移動させて、港に下ろすだけでも一苦労だった。

 それを買い付ける商人たちも、量の多さに目を丸め、銛撃ちで取られた大物をこぞって競り落としていった。

 そんな商人たちの中で一番多く魚介類を買い、カジキマグロの魔物を高値で競り落としたのは、俺がこの町に来るときに乗せてもらった、あの大型トラックのような高速馬車の人だった。


「いやー、余裕をもって作ったはずの荷台が、久々にパンパンですよ。とくに、外見の状態の良い海の魔物まであるなんて。今日はここ数年でも、随一に儲けられそうですよ」

「はっはっは。こっちはすでに、船員どもがしばらくは働きたくないって思うぐらい、今年一番の儲けになりましたよ」


 そんな話をしている横で、話のダシに使われた船員たちはというと、大量すぎて売れ残った魚介類を詰めた箱を持って、砂浜の方に移動を開始していた。

 これから魚介の浜焼き――つまり、バーベキューをするらしい。


「銛撃ち上手な兄ちゃんも、参加するよな?」

「はい、もちろんです!」


 タダ飯にありつける機会を逃す気はなく、船員さんの指示で隠しておいた、銛で取った百キログラムはありそうなマグロのような魚を運ぶ手伝いをする。

 砂浜には、大きな石組みの竈が数個と、その中に薪の準備が出来ていた。

 けど、焼き網とか鉄板みたいなのはなく、どうするのかと思っていると、建物のある方角から新たな人たちが現れた。


「おーい。倉庫から穴開き鉄板と、近くの酒屋で買った酒を持ってきた! さっそくやろうぜ!」


 何人かが浜辺に、取っ手がついた格子状になった鉄板と、壷に入った瓶を掲げて見せる。

 すると、浜辺にいた船員の人たちは、早くこいとばかりに手招きし始めた。

 どうやってあの鉄板を作ったのだろうとふと考え、鍛冶魔法を使えば粘度細工のように作れるかと、一人で勝手に納得する。

 そうしている間に、騒ぎを聞きつけたらしき猫獣人たちが、砂浜に現れ始めた。


「こっちは野菜と獣肉を持ってきたー! 参加させてくれー!」

「やっぱりきたな、濡れるのが嫌なくせに魚が大好きな猫ども! 今日はたくさんあるからな、遠慮しなくていいぞ!」

「「「やったーーー!!」」」


 そんな風に船にいなかった人たちも、食材や飲み物、または食器を手に浜辺の中に入ってくる。

 そうして、人だかりが出来始めた頃、船に誘ってくれた船員さんが空き箱の上に乗り、周囲の注意を集め始めた。


「よーし。みんな、今日の漁はお疲れ様だったな。予想外に網でも銛でも大漁だった。その働きを労うため、あまりモノと持ち寄ったモノではあるが、存分に楽しんでくれ。じゃあ、浜焼きの開始だー!」

「「「よっしゃーー!!」」」


 開会宣言と共に、温められていた穴の開いた鉄板に、魚介類や野菜がどっさりと置かれる。

 じゅーじゅーと鳴り、魚が焼かれ始めた匂いがしてきた。

 いい音と匂いに、たまらないなって、口の中が唾でいっぱいになってしまう。

 しかし、まだ焼き始めたばかりで、鉄板の上には食べられるようなものはない。

 どうしようかと周囲を見回すと、木板に乗せられたマグロっぽい魚が、三日月形の剣で解体され始めていた。

 前世では見たことがなかった、生の解体ショーに、俺は近づいて見学する。

 解体しているのは、船内で女性を守っていた、屈強な魚人の一人だった。


「ふぅんぬぅ!」


 一息で腹を捌くと、内臓が自然と出てくる間に、エラから差し入れた剣で頭を斬り落とす。

 内臓と頭はすぐに別の魚人によって竈まで運ばれる。

 内蔵は野菜と炒められ、頭は縦二つにしてから断面を下にして焼かれ始める。

 その間にも解体は進み、背の部分と尾っぽから下腹までの部位も、各鉄板へと運ばれて焼かれ始めた。

 背骨の部分は適当な大きさに折られて、水が入った大鍋の中に投げ込まれている。

 さて、一番美味しいお腹の部分――いわゆる大トロの部分はどうするのかなと見ていると、骨から外された後で木板の上に放置されたままだ。

 不思議に思って見ていると、解体していた魚人の人が、俺に顔を向けてきた。


「どうしたんだ、この漁一番の功労者よ」

「どうして、このお腹の部分だけ残しているんだろうって、疑問に思って」


 そう言うと理解を示し、魚人の独特な声で、理由を答えてくれた。


「その部位は、脂が多い。鉄板で焼ぐと、何もがもが、その脂の味になってしまう。だから、置いてあるんだ」

「焼いたら駄目ってことは、食べないんですか?」

「いや、食べる。だが、生で食べる」


 その言葉を聞いて安心した。

 この世界でも、魚を生で食べる人はいるんだって。


「それなら、俺も食べますから、一さくください」

「……お前が? 生だぞ?」

「はい。なにか変ですか?」


 不思議に思って問いかけると、魚人の人はなぜか恐る恐るという感じで、一口分の切り身をくれた。

 一さくって言ったのにって、ちょっとだけ不満に思いながらも、今世で初めてとなる刺身を口に入れる。

 漁でお腹が減っていたからか、それともこの世界のこのマグロっぽい魚が良いものだったのか、前世で食べたお寿司とは比べ物にならないほど、脂と魚の味が濃くて美味しかった。

 ゆっくりと噛み締めて、舌にトロける魚の身を味わう。

 しかし、溶け消えてしまうようにして、口の中からなくなってしまった。


「……足りないので、もっと下さい」

「あ、ああ。ちゃんと食べられるようだがらな、ごれだげもってげ」


 なんでか驚かれながら、一抱えはありそうな量を差し出された。

 流石にそのまま噛み付いて食べるのは無理っぽいので、木板の上に置いてもらい、自分でナイフで削って食べることにする。

 そのまま食べていって、生のままで飽きたら、生活用の魔法で火を指先に生んで、炙って食べていく。

 美味しいなって食べていたら、別の魚人の人が海水に濡れた様子で、二枚貝を大量に抱えながら声をかけてきた。


「なあ、お前。生で、がいを食うが?」

「是非!」


 今度は生の貝が食べられるぞって、喜んだ。

 魚人の人たちは顔を見合わせると、貝を一つ細いナイフのようなもので剥いてくれた。

 外見からだと、ホタテの貝に見えたけんだけど、中に入っていたのは牡蠣のような身だった。

 砂がついていたので、生活用の魔法で水洗いし、ぱくっと口に入れる。

 すると、味と食感が不思議だった。

 味は牡蠣なんだけど、噛み応えはホタテのような弾力がある。

 しかも、噛めば噛むほど、牡蠣味は濃くなって美味しくなってきた。

 さすがは違う世界だなって、感心しながら、もう一つ受け取って食べる。

 嬉々として食べていて、ふと視線を感じて、鉄板がある方向に顔を向けた。

 すると、船員の人たちが信じられないって顔で、こっちを見ている。

 何だろうと思って、新しい貝を口に入れながら近づく。


「もぐもぐ、どうかしたんですか?」

「いや、兄ちゃん。なんつーもんを食ってんだよ……」

「なにって、魚の切り身と、貝の身ですよ?」

「いやいや! それはそうだろうけど、料理もしてねえ、まんまの生じゃねえか!?」


 その何が問題なんだろうと、首を傾げる。


「あれ? 生で食べるって、さっき聞きましたけど?」


 顔を魚人の人に向けると、なぜか困ったような顔をされた。

 そして、船員の人には呆れられてしまう。


「そりゃあ、魚人の人らだけだ。人間は、こうやって、焼いて食うもんだぞ」

「へー、そうなんですかー」


 気のない返事を装いつつ、これは失敗しちゃったなって、自分でも分かる。

 でも、いまさら訂正してもしょうがないから、このまま生食を押し通すことに決めた。


「焼かなくても美味しいですから、俺は生でも食べることにします」

「えっ!? 本気か?!」

「はい。だって、魚人の人が食べられるなら、俺が食べたっていいってことですよね?」


 また、ぱくっと貝の身を食べてみせる。

 すると、船員の人たちはぽかんとした後で、急に大笑いし始めた。


「あはっはっは。そうだな、その通りかもな」

「いやぁ、海の常識を知らないってのは、勇気があるっていうか、無謀っていうか。末恐ろしいものだな」

「おーい、魚人の人ら! この兄ちゃんが、あんたらの食う物を食ってみたいんだとよ。飽きるほど食わせてやってくれよ!」


 船員さんたちは、俺に対して呆れと感心が半分ずつな様子になった。

 その姿を見て、よっし切り抜けたと、心の中でガッツポーズする。

 そうしている間に、砂浜にいた魚人の人たちが、面白そうに俺の周りに集まってきた。


「お前、生で海の物を食べるんだな。もっと獲ってぎてやるぞ」

「このり身をってみろ。さっぱりした味だ」

さがなの切り身には、この黒液ぐろえきが合うぞ」

「は、はい。いただきますね」


 差し出されるままに食べていく。

 黒液っていうのは、魚のにおいのする醤油――たしかナンプラーっていうのかな、あれに似ていた。

 魚の切り身や貝の刺身、塩のアラ汁なんかも頂いて、なんとなく前世の日本を思い出してしまう。

 あ、そうだ。あのマグロっぽい魚のトロの部分、フィシリスに持っていってあげよう。

 次に遊びにくるときには、お土産持参でって言われてたしね。


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