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六十七話 失敗の影響

 オレイショとティメニが出て行ってから、俺はコケットと食事を取りながら、これからも組んでいくかどうかを話すことにした。

 しかし、話題の決着は意外なほど早かった。


「あ~、悪いけどさー。あたしぃ、バルティニーとも別れるつもりだからー」


 予想外の言葉に、俺は驚いてしまった。


「えっ……コケットに嫌われるようなことをした覚えは、ないんだけど?」

「別にー、嫌っているわけじゃないしぃ。ただ、あたしぃ、危険なことしてまで、お金稼ぎたくないんだよね~」

「もしかして、コケットが冒険者になったのって」

「そっ、生きるために、仕方なくー。あたしぃ、この町に捨てられた子供だったから、まともな働き口って、冒険者以外になかったんだよね~。でも、組合が身元を保証してくれて、こうして働けているんだから、なってよかったって気もするけどねー」


 流石に、コケットが捨て子だとは予想していなかった。

 そして、あっけらかんとした口調だったことに、この世界の無常さを垣間見た気がした。


「じゃあ、コケットは冒険者として、これからどうするつもりなの?」

「んぅ~~。日々生きられるぐらいに稼いで、それで誰かのお嫁さんになってー、子供生んで育てられればそれでいっかな~」

「……なんだか、すごく普通な女性の夢だね」

「そっ。普通の幸せが欲しいからー、危険を冒してまで活躍する気はないんだ~。だから、バルティニーが嫌いで、別れたいわけじゃないから~」


 にっこりとこちらに笑いかけているけど、仲間で居続ける気はないんだなって分かる、そんな不思議な表情だった。

 俺は魔の森っていう、物凄く危険な場所に行こうとしているわけだから、コケットが別れたいっていう判断は理解できるかな。


「分かった。じゃあ、いままでありがとう。これから頑張って」

「あんがと。バルティニーもねー。そうそう、この町に居る間、この食堂を贔屓にしてよー。仲間だったよしみで~」

「あはは。揚げ物を毎日はちょっと嫌だから、たまに顔を出す程度なら約束するよ」


 お互いに手を伸ばしあって、握手を交わす。

 まかないを食べ切っていたコケットは皿を手に仕事に戻っていき、俺はまだ残っている料理を食べ始める。

 冷めかけているせいか、それともコケットとの別れは予想外だったからか、ちょっとだけ味気なく感じたのだった。




 食堂での一件の後、俺は宿屋に一泊することにした。

 久しぶりのベッドでぐっすりと眠り、起き抜けに軽く体を解してから、宿で朝食を取る。

 それでもまだ小腹が空いていたので、朝市がある通りを歩いて、桃を橙色にしたような果物を買って食べる。

 桃に洋梨の風味を足したような味で、なかなか美味しい。

 飽きるまで見かけるたびに一つ買おうって決めながら、冒険者組合へと向かう。

 建物の内外には、新しい依頼を受けようと、多くの冒険者たちが来ていた。

 対応する職員さんたちは、忙しそうに出される要望に合った依頼を案内しているみたいだった。

 俺も依頼を受ける列に並び、どんな依頼を受けようかなと考えながら、待ち時間を潰す。

 少し経って俺の番になった。

 顔見知りではない、男性の職員さんだったので、俺は自分の冒険者証を提示する。


「ああ、君がバルティニーくんか。君が依頼を受けにきたら、この依頼を勧めるようにと、指示がでているんだ」


 対応の仕方が、少し顔見知りの職員さんとは違う名と思いながら、内容を確認する。

 働き先は、あのガラス工房だった。

 オレイショたちに貸した武器代を稼ぐ際に、大変にお世話になったので、依頼を引き受けるのはいいんだけど――


「――なんで、俺にこの依頼を勧めるんですか?」

「あのね。君は以前、唐突にここの依頼を受けるのを止めて、長期にわたって町を離れてしまっただろう。当てにしていたのにと、苦情が入ったそうだよ。当職員が、止むに止まれぬ事情だと先方に説明はしてあるのだけど、君の口からも直接説明をした方がいい。それと、なにやら仲間同士に不和があるそうだね。一旦離れて、関係の冷却を図った方がいいという判断もあるそうだよ」


 伝聞の話だし、なんだか冷たい対応だな。

 でも、いつもの職員さんじゃないから、仕方がないかな。 


「事情は分かりました、この依頼を受けて、直接謝罪しにいきます。あと、仲間のことなんですけど」

「ああ、詳しい話は今は止めて欲しい。後ろに並んでいる人がいるから」


 振り向くと、早くしろと言いたげな顔が並んでいた。

 そういえば、朝の忙しい時間帯だったと思い出す。

 軽く仕草で謝罪してから組合を後にし、ガラス工房に向かった。




 ガラス工房の親方は、俺の顔を見ると少し不機嫌そうになり、手招きしてきた。

 これは怒っているなと思いながら、前世で教師に呼び出されことが想起して、少しビクビクとしながら近づく。

 硬い口調で唐突にこの町を離れた事情説明を求められたので、簡潔に努めて話した。


「仲間が勝手に長期の仕事を請けて、その当日に町を離れることになったと。嘘じゃないな?」

「はい。誓って、本当のことです」

「そうか、組合の職員から聞いて、そんな訳があるかと思っていたんだが……」


 どうやら、以前に職員さんがした説明と、齟齬がないかの確認だったらしい。

 そして、親方は事情を理解してくれたようで、同情的な目を俺に向けてくる。


「そんな考え無しが仲間にいて、苦労したようだな。でもな、いくら急でも、世話になった場所だけでも義理は果たすように、気をつけろよ。まあ、坊主は冒険者になりたてってことだし、今回のことはなかったことにしてやる」

「はい、ありがとうございます」


 どうやら、親方の怒りは消えたみたいだ。

 けど、俺もあのときは、ガラス工房のことをすっぱりと忘れてしまっていた。

 義理を欠く行為だなと反省して、気をつけることにする。

 そのときふと、オレイショがコケットが働く食堂には、町を離れる断りを入れていたんだっけと思い出した。

 あのとき気付いていればなって、オレイショに常識負けしていることを反省する。

 謝罪を終えた後は、前と同じように仕事をさせてもらえた。

 さらには、仕事の終わり際に「次からもよろしく」と、言葉をかけてくれた。


「はい、またよろしくお願いします。けど、もしなにか事情ができたら、まっさきにお知らせしますね」

「おう、そうしてくれ。硝子工芸のように、何事も失敗はしてもいいが、繰り返さないことが肝心だぞ」


 言葉をかけ合ってから、依頼が終わったという証をもらった。

 そうして工房から冒険者組合へと、依頼の報酬をもらいに行く。

 建物の中に入ると、朝と違ってかなり空いていた。

 顔見知りの職員さんも暇そうにしているので、完了の報告はそっちにしにいくことにした。


「こんばんは。依頼が終わりました」

「はい、確認したわ。これが報酬――だけどバルティニーくん、朝にオレイショくんから聞いたわよ。仲間、解散しちゃったんですって?」


 鉈斬りを探すといってた割りには、依頼は受けたんだ。

 そういえば、俺に借金を返した上に、革鎧を新調していたから、お金があまりないのかな。

 オレイショのことは、どうでもいいとして――


「――昨日、話し合った結果、そう決まってしまいました。一応は、円満に解散しましたよ?」

「ああ、勘違いしないで、責めたいわけじゃないの。やっぱり、そうなっちゃったかって思ってね。それと今回のお節介は、バルティニーくんに利点があまりなかったかなって、申し訳なく思っているの」


 眉尻を下げて困った風な職員さんの顔を見ながら、俺は得る物がなかったのかなって、もう一度考える。


「うーん。たしかに、オレイショたちと組んで、直接的に何かを得たことはなかったですね。けど、仕事を通して、色々なことを学びましたから、利点はあったと思います。偵察のやりかた、魔物が大勢きたときの対処法。それと、二つ名なんてものも、もらってしまいましたし」


 それと口には出さないけど、オーガ戦で水を体に纏う攻撃魔法が、だいぶ上手くなったのも収獲だったな。

 そんな風に、俺が利点が合ったと感じているからか、職員さんの顔から険が取れた。


「そう言ってくれると、また少し気持ちが晴れたわ。それで、これからバルティニーくんはどうするの。新たに仲間を集めるの? それとも一人で活動するの?」

「あれ? 単独活動を認めてくれるんですか?」


 意外な言葉を受けて、思わずそう聞き返す。

 すると、大いに呆れられてしまった。


「オーガを倒したっていう経歴がある人を、組合が新米扱いのままにすると思う?」


 魔物を一匹倒したぐらいで大げさな。

 けど、思い出した。


「ああ、そういえば。オーガって強い魔物だったんでしたね」

「あのねぇ……。バルティニーくんがそれほど自覚が薄いのが、こっちは不思議でしょうがないわ。オーガを一匹倒すのは、かなりの難事なのよ」

「そうなんですか? 石のゴーレムと鉈で戦ったときより、簡単だった気がするんですけど?」

「石のゴーレムは皹が入ったら治らないけど、オーガは時間が少し経てば傷が消えちゃうでしょうに」

「あーあー。そうだった、傷が治るんだった」


 言われて思い出した。

 鉈に水の魔法を纏わせて、バッサリと斬っちゃったから、傷が治るっていう印象が薄くなっちゃっていたよ。

 職員さんは、俺が惚けていると思ったのか、呆れ顔のままで話を元に戻してきた。


「それで、どうするの。仲間を探す気があるなら、組合から仲間を欲している冒険者たちを紹介するわよ。もしくは、バルティニーくんの出した条件で、仲間を探してもいいわ」

「なんだか、至れり尽くせりですね。怪しく見えますよ?」

「別に、バルティニーくんを特別扱いしているわけじゃないわ。新米たちの人となりや仕事振りを、別の冒険者たちに教えることも、こちらの職分なの。バルティニーくんみたいな二つ名持ちは、新米や熟練者関係なく人気になるから、逆に選ぶことが出来るって話なだけ」


 事情は理解したけど、なんとなく別れたばかりで仲間を集めることに、気が引けた。

 それに単独活動を認めてくれるんだから、しばらくは一人でいてみてもいいって気もするしね。


「いえ、仲間の紹介はいりません。しばらくは一人で活動してみようと思います」

「そうなの。じゃあ勧誘は邪魔でしょうから、バルティニーくんの個人情報は、拡散させないようにするわ。けど、すでに流れている二つ名は、組合側じゃ止められないから、そのつもりでね」

「それは分かりますけど。あえて断りを入れるからには、なにか俺にまずいことでもあるんですか?」

「ええ、あるわ。なにせ、バルティニーくんを倒せれば、間接的にオーガを倒したってことにもできるでしょ」


 なるほど、挑戦者がくるってことか。

 それで道場破りみたいに、倒したから二つ名は貰っていくぜ、みたいなことになると。

 でもそれって、こっちが受けなければいいだけじゃ?

 あ、それだと、俺が逃げたってことになって、挑戦者の不戦勝になるのか?

 うーん。そうなると、二つ名って邪魔にしかならない気がするんだけどなぁ。

 けど、職員さんは俺の情報を拡散させないって言ったから、俺が鉈斬りだって分かる手がかりはないんじゃないかな。

 そこでふと、俺が鉈斬りだと知る人物が、何人かこの町にいることに気がついた。

 ここまで同行した商人とその護衛たち。

 そして、ティメニだ。

 さらには、挑戦者って言葉が似合いそうなヤツに、心当たりがある。

 そう、オレイショだ。

 自分の失策に舌打ちして、内心で嫌な予感がしてきたと思っていると、背中に視線が突き刺さった気がした。

 後ろを振り向くと、大きな木剣を手にしながら、挑戦的な目を向けてくるオレイショが、組合建物の入り口に立っているのが見えたのだった。

前話の名前間違いを訂正しました。

その指摘と、ランキング順が上がっている事も合わせまして、お礼を申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拠点を変える時といい、ギルドへの挨拶、今回の工房への連絡とか、何度かギルド職員や指導員に注意されてるよね? 日本人なら常識だと思うけど、モノ知らずや鈍いキャラ設定にしても、不自然すぎないか?…
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