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六十四話 ヒューヴィレの町に帰ってきた

 出立する日の早朝。

 出入り口を守っている顔見知りの警備の人が、手紙を一通差し出してきた。


「これは?」

「警備隊長が、鉈斬りの坊主がこの村で働いてくれたと、そう書いたものだ。冒険者組合に戻って、事情説明するときに役立つだろ?」


 有り難く受け取り、別れの挨拶を交わした後で、商隊と共に中継村を出発する。

 俺はこっちから申し出て偵察役として先行しながら、街道を歩いていく。


「鉈斬りさん、どうせなら露払いもしちゃってくださいよ」


 ってことを、今回同行する商人さんから言われちゃったけどね。

 でも、中継村を襲う戦力を蓄えているのか、魔物たちが街道近くに現れることは少なかった。

 そして中継村から離れれば離れるほど、現れる頻度はさらに少なくなっていったから、戦闘らしい戦闘もせずに危険地帯を通り抜けられた。

 運が良いなと思っていると、こちらを襲おうと草むらに隠れている人を発見した。

 盗賊なのかなと思いながら、商隊に向けて注意するよう身振りしてから、俺はその人たちがいる草むらへと分け入る。


「なっ!? くそ、ばれていたか。構うか、この小さいガキからやっちまえ!」

「小さいは、余計じゃないかな?」


 腹を立てながら、草むらにいる人数を数える。

 八人と、意外に少ない。

 他に潜んでいる人がいるのかな?

 そう考えながら、斬りかかってきた人の片手剣を、攻撃用の水の魔法を薄く纏わせた腕で防御する。


「なにぃ、斬れねえ!?」

「とりあえずは、殺さないほうがいいんだったっけ?」


 故郷から出てきたときに同行させてもらった商人さんが、そんな事を言っていたなって思い出した。

 ならっと、目の前で驚いている男性に向かって、抜いた鉈で峰打ちする。


「ぐぼっ――」


 腹を打たれて、その人は草むらの奥へ吹っ飛んでいった。

 しまった。

 水の魔法を纏っているから、力が上がっているんだった。

 今度はアシストを弱めながら、別の一人を鉈で殴る。


「ぐっぉ、よくもやって――ぎゃぁぅ」


 弱めすぎると倒れてくれないな。調整が難しいや。

 そう思いながら、アシストを少し強めた腕で顔面を殴って気絶させる。

 色々と調節を試しながら戦っていくと、いつの間にやら立っている人がいなくなっていた。

 倒れ伏した人たちを見ながら、あまりこの魔法に頼るのもよくないなって、考えを改める。

 なんだか戦い方が大雑把になりそうだし、魔塊が小さくなりすぎて魔法が使えなくなったときに困りそうだ。

 そんな事を思いながら、一人一人を草むらから街道上へと引きずりだしていく。最初に鉈で殴った人も半死だけど生きていたことは、幸いだったかな。

 追いついてきた商隊の護衛の人たちも手伝ってくれて、八人の盗賊たちは身包み剥がされた後で縄で縛られた。

 そうした後で護衛の一人が、盗賊の一人を蹴って起こして、アジトの場所を聞き出し始める。

 一方で、商人は揉み手で俺に近づいてきた。


「流石は鉈斬りさま、見事な手腕です。それでぇ、この盗賊たちの処遇は、こちらにお任せくださっても?」

「いいですよ。でも、苦労に見合う分の報酬は欲しいですね」

「はい、もちろんのことですとも。そうですね、犯罪奴隷として売って得た利益から、コレぐらいをそちらでどうでしょう?」


 指を影絵の狐に似た形にして、こっちに示してきた。

 どういう意味か分からないから、どう返答するか少し考える。

 オーガの首を売って、銀貨を数十枚手に入れたから、お金に困ってないから――


「――その割合で護衛の人たちにも満足いく分配金が出るなら、それでいいですよ?」


 そう返答すると、聞き耳を立てていたらしい護衛の一人が、仲間たちに声を上げる


「おおぉ。おーい、みんな。鉈斬りがよ、俺らにも金を分配してくれるってよー!」

「やったぜ。仕事終わりに、上手い酒が飲めそうだな!」


 護衛の人たちが嬉々として喜ぶ姿に、俺は喜んでもらえてよかったと思い、商人さんは少し嫌そうな顔をした。


「うぐっ……受け取る割合を増やすために、こんな方法を取るなんて、商人である私には思いつきませんでした」


 なんか勘違いしているみたいだけど、訂正せずに放っておこうっと。

 そして盗賊の人はアジトの場所を吐かなかったようで、彼らを馬車の中に押し込み、見張りに一人を同乗させて、ヒューヴィレの町へと再び進み始めたのだった。




 盗賊を捕まえた後は大した事件もなく、ヒューヴィレの町に到着した。

 商隊の人たちに惜しまれながら別れると、冒険者組合に向かう。

 町中を見ながら歩いていくと、三十日ぐらい離れていただけだけど、なんだか懐かしい感じがするな。

 少しウキウキしながら、組合の建物に入る。

 あまり人のいない時間に入れたようで、かなり空いていた。

 いつも対応してくれていた職員さんを見つけ、近づいていく。

 何かの作業中だったようだけど、俺の気配に気がついたようで顔を上げる。


「ようこそ、おいでくださいました。当組合になんの――……」


 俺の顔を見て、唖然、驚き、困惑の順に、表情を変化させながら、職員さんが絶句している。

 話が進まなさそうなので、こちらから声をかけ直すことにした。


「お久しぶりです。それで、どうして俺の顔をそんなに見ているんですか? なにかついてます?」

「い、いいえ。ついているといいますか、ついているから不思議といいますか……」


 何かが信じられない様子で、ぺたぺたとこちらの顔を触ってくる。

 そこまでして、ようやく俺が本物だと分かったようで、職員さんは少し考えこんだ後で近くにいた別の職員さんに顔を向ける。


「部屋に空きはあるわよね? そう、そこ、今から使うから、手続きをお願い。違うわよ、そういう間柄の相手じゃないの」


 小声で言い合っていたから、距離が近い対応してくれている職員さんの声しか聞こえなかった。

 どんな内容かよく分からず、首を傾げる。


「ごめんなさいね。それじゃあ、部屋の中でいままでの話を聞かせてちょうだい」


 職員さんに案内されて、小さな机と二脚の椅子だけがある、小部屋に入った。

 机を挟んで、お互いが向かい合うように座る。

 

「それじゃあ、商隊を離脱する日から、話してちょうだいね」

「あれ? オレイショたちから、事情を聞いているんじゃないんですか?」

「聞いてはいるけど。バルティニーくんの口からも聞きたいのよ。なにせ、死んだって聞かされていたしね」


 確認がしたいのかなと思いながら、あった出来事を語っていった。

 その際、中継村の警備の人から手渡された、例の手紙を職員さんに渡す。

 一通り、あの日から今日までを語り終えると、職員さんは手紙に目を通していった。


「……話は本当のようね。それで、オーガの角はもっているの?」

「そうだった。えーっと、はい、コレです」


 荷物から取り出した角を渡すと、職員さんは真剣な目つきで鑑定を始めた。


「確認したわ。文献にあるよりかは少し小さいけど、少なくとも野生動物の角を加工して偽造したものじゃなさそうね」

「疑わなくても、これは本物ですよ?」

「ごめんなさい。実物を見る機会なんて、そうそうないものだから、鑑定が難しいのよ」


 他意はないと笑顔で言われて、そういうものかと納得する。

 その後で、職員さんは困ったような顔になった。


「噂話に流れてきた『若冒険者・鉈斬り』って、バルティニーくんのことだなんて、考えもしなかったわ」

「あれ? ヒューヴィレの町まで、そのあだ名が聞こえているんですか?」

「鉈でゴブリンを両断し、オーガの首すら斬り落とす、凄腕の冒険者って噂がね。それにしてもあだ名って。威厳が出るように、『二つ名』っていいなさいね」

「そうなんですか。それにしても、俺よりも二つ名のほうが先にヒューヴィレの町につくなんて、変な感じですね」

「そうでもないわよ。ここはこの地方の物流の中心地だもの。色々な噂が、連日連夜、流れ続けてくるからね」


 多くの噂がヒューヴィレの町にくるなら、暇があったら調べてみようかなと、頭の隅に置く。

 そして、こちらの報告は終わったので、気になっていた部分を訪ねることにする。


「オレイショたちは、いまどうしているんですか?」

「バルティニーくんの奮闘のお蔭で、商隊は無事に戻ってきているわ。そしてあの三人は、その商隊とは別れたけど、まだ一緒に依頼を受けているわね。けど、雰囲気が悪くて近々解散しそうって、職員の間で噂になっているわ」


 職員さんは言葉を切ると、大きなため息を吐き出した。


「はぁ……バルティニーくんが生きているなんて思わなかったから、あのときはオレイショくんに悪いことを言っちゃったわ」

「どんな風なことを言ったんですか?」

「オレイショくんが無謀な仕事を勝ってに受けたから、バルティニーくんが犠牲になったって、詰るように説教をね」

「……別に、間違った説教じゃないと思いますけど?」


 なにせ、オレイショが危険な仕事を勝手に請けたのは本当だし、俺以外の人が連れ去られていたらオーガの餌食になっていたはずだしね。

 本心からそう思って言うと、職員さんは少し気が晴れたような顔になる。


「そう言ってもらえて、気持ちが楽になったわ。それで、まだなにか聞きたそうね」

「はい。結局、俺をオレイショたちと組ませた目的は、なんだったんですか?」


 この疑問に、職員さんは頭を抱えた。


「それ、されたくなかった質問よ」

「では、答えてはくれないと?」

「……いいえ、教えるわ。バルティニーくんが死亡した――と思われる事態になったことは、組合側にも落ち度があったと判断されているし」


 職員さんは俺の顔を見ながら、言い難そうに語り始める。


「バルティニーくんたち四人は、それぞれ教育係がつけられていたって、知っているわよね?」

「はい、それは聞いてます」

「実はね。それぞれ活動方面が違う人を、教育係につけたのよ。バルティニーくんには、単独行動派で護衛依頼を多く受けるテッドリィを。コケットちゃんには、同じく単独行動派で魔物討伐を主にしている人をね」

「そういう区分なら、オレイショは複数行動派の護衛の人たち、ティメニは複数行動派の魔物討伐の人たちをつけた、で合ってますか?」

「その通りよ。そして組合は、活動方面が違う人たちから学んだ新米たちを組ませて、お互いに教わった知識や戦いのコツなんかを共有させよう、って思惑だったのよね」


 つまり、各方面で優秀な人に、直接ノウハウを聞くと角が立つ。

 なので、その人たちから学んだ俺たちが、活動の中で仲間の動きを見て、自然にノウハウを蓄積していくことが望みだったらしい。


「けど、冒険者として学んだことが違うのに、組ませて上手くいくんですか?」

「もちろん上手くいかなくて衝突し、喧嘩になることもあるわ。けれどそれらを乗り越えることで、かけがえのない仲間になった組はいくつもあるの。組ませて失敗することもあるけど、今回のバルティニーくんたちみたいな、人死にが出そうになったことはほとんどなかったわ」

「それは、組合側が厳選した依頼を、その人たちに与えていたからですよね」

「それもあるわ。けれど、組んだばかりの仲間と命懸けの依頼を受けようとする人なんて、普通はいないわよ。そんなの、自分の命を投げ捨てるようなものじゃないの。あの護衛仕事を了承したのだって、オレイショくんからバルティニーくんが納得しているって聞いて、なら命の危険まではないんだろうなって思ったからなのに、オーガに襲われて死んだって聞かされてへこんだのよ。なのに生きてるし、鉈斬りとか呼ばれているし……」


 言葉が後ろに行くにつれて、愚痴になってきた。

 そんな職員さんの言葉に苦笑いしながら、納得してはいなかったんだよなって、思い返す。

 あの仕事を消極的にも請けてもいいかなって考えたのは、俺が攻撃魔法っていう切り札を持っているから、切り抜けられる可能性が高いと思ったからだしね。

 そう考えると、仕事に賛成していたオレイショとティメニはともかく、乗り気じゃなかったコケットには生きていた報告がてら謝らないといけないかな。

 そんな少し未来の予定を考えながら、愚痴を垂れ流す職員さんへ、笑顔を振りまき続けたのだった。

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