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五十九話 帰り道

 出立する日の早朝、俺たちは商隊と共に早々と村の外に出た。

 馬車の中には、二つの開拓村から来たものだと思う香辛料や果物、またはそれらの加工品が大量に積まれていた。

 俺たちが護衛する最後尾の馬車も、量は少ないけど同じものが入っている。


「貴重な品を任せられるとは、オレたちの実力が認められた証だな!」


 なんてことを、馬車の中身を見たオレイショが、胸を張って言っていた。

 けど俺は、馬車四つに乗せ切れなかったあまりものを、積んだだけだって思っている。

 そんなオレイショの隣にはティメニが寄り添っていて、二人は仲直りしたようだ。

 ティメニがオレイショの首輪を付け直した、って言い換えることも出来そうだけどね。

 そして、昨日は二日酔いで寝入っていたコケットは、すっかりいつも通りのダルそうな態度に戻っていた。

 顔色は悪くないので、体調不良は完全に治っているようだ。


「おーし。村の外はすぐに危険地帯だからな、初っ端から気合入れていくぞ!」

「「「おおー!」」」


 隊長さんの掛け声に、護衛の人たちが大声で返事をして、商隊が外の道をゆっくりと進み始める。

 昨日、村に押し寄せてきた魔物が倒されたからか、出てすぐに襲われるということはなかった。

 そのまま昼前まで、何事もなく進んでいけていたんだけど、先頭の馬車が停止した。


「どうしたんだ?」


 そんな独り言を呟いたオレイショと共に、俺は馬車の先へと目を向けた。

 偵察役の二人が、隊長さんと何かを喋っている。

 なにやら考え込んだ後で、身振りして十人ほど集めると、護衛の人たちだけで先に進んでいった。

 どういうことかと不思議に思っていると、他の護衛の人が俺たちに大声を放ってきた。


「アイツらが戻ってくるまで、馬車の護衛をするぞ。魔物が来ないか、ちゃんと見張れよ!」


 態々馬車を止めるところを考えると、何事かが先で起こっているんだって気付く。


「あのー! どうかしたんですか!?」

「ゴブリンのゾンビが、この前にたむろしているらしい! アイツらに任せれば、すぐに片付けてくれるさ!」


 お互いに大声での答弁が終わった。

 オレイショたちも事情を飲み込めたようで、武器を構えて周囲の警戒に入った。

 そういえば、大勢のゴブリンに襲われたとき、死体の首を刎ねてなかったから、ゴブリンのゾンビが現れても変じゃないかな。

 そんなことを考えながら、俺は弓矢を軽く番えて、魔物が来ても対処できるようにしておく。

 少しして、道の先から戦闘音が聞こえてきた。

 隊長さんたちの強さを考えて、すぐに終わると思っていたけど、なかなか音は止まらない。

 そんなにゾンビって強敵なんだろうか。それとも数が多いんだろうか。

 ちょっと戦いの行方が気になっていると、遠くの草むらが不自然に揺れたのが目に入った。

 何かが潜んでいるようだと、俺は弓を構えて曲射の体勢に入る。

 狙って当てるには、ギリギリな距離だけ――どッ!

 放った矢は上空へ向かい、やがて鏃を地面に向け直して落ちてきて、狙った草むらに飛び込む。

 しかし、命中はしなかったみたいで、隠れていた何かが逃げだして草むらが揺れる光景が見えた。

 さっきの矢が当たらないんだから、距離を空けられたらもっと当てられないだろうから、次の矢を射つことは止めておくことにした。

 隠れていた何かは、さっきの個体だけだったみたいで、それからは近くの草むらに変化は現れない。

 程なくして、ゾンビとの戦闘を終わらせて、隊長さんたちが戻ってきた。


「やけに数が多かった。まだこの付近にゾンビが残っているかもしれない。少し行進速度を上げて、この場所から離れるぞ!」


 隊長さんからの号令通り、動き出した馬車列の移動速度が、小走り程度に上がった。

 このことに早々に文句を言い出したのは、コケットだった。


「昼食前でお腹が減っているのに、小走りしなきゃいけないなんて~。ゾンビめ~……」


 相変わらずな言葉に、俺は苦笑しながら注意する。


「恨み言は分かったけど、そのゾンビのご飯にならないように、走るの遅れないでよ」

「そんなの分かってるって~。ああー、村から出てすぐこれだと、先が不安に感じるしぃ~」


 コケットは俺に言い返しながら、ダラダラしているように見えるのに何故か速いっていう、不思議な走りを披露する。

 オレイショとティメニも並走しながら、不思議そうにその走り方を見ていた。

 そんな小走りの風景は、商隊が昼休憩で止まるまで、続くことになったのだった。




 休憩が終わり、再び街道を進んでいく。

 日が傾いていき、もうそろそろ夕日になるかなと思う頃、道の先に一台の馬車が倒れているのが見えた。

 散乱している荷物の間に、地面に伏せた人影がある。

 それらを見て、商隊の雰囲気が二つに割れた。

 商人さんと御者の人たちは嬉しそうにし、護衛の人たちは面倒臭そうな顔をする。


「あれを回収するぞ。最後尾の馬車には、まだまだ積めるんだからな!」

「分かっている! 馬車を止めろ、生き残りと危険がないか確認する!」


 商人の求めに応じて、隊長さんが号令を出す。

 馬車が止まると、五人ほどが倒れた馬車に向かった。

 そして色々と調べながら、ゾンビ化防止のためだろう、倒れている人たちの首を切り落とし、最後に馬の首も切り落とす。

 その後で、身振りで安全を伝えてきた。

 馬車列が再度動き出し、倒れた馬車の横に到達する。

 魔物か肉食の野生動物に襲われたのか、馬や人の体には食いちぎられた痕があった。

 そんな観察をしていると、隊長さんが護衛の人を二人連れて、こっちまでやってきた。


「こっちは先に進んで、夕飯の休憩場所を確保しておく。お前らはこの二人と一緒に、馬車に荷物を積み込め――全部回収する必要はないぞ」


 最後の一言を小声で言うと、俺たちが護衛する馬車の御者に何かを握らせる。

 ちらりと、手の隙間から銀貨が見えた。

 御者を買収したってことはきっと、商人さんにはバレたくないことなんだろうな。

 そう判断して、俺は隊長さんが連れてきた二人の指示に、従うことにした。

 馬車四台が先行したのを見届けてから、オレイショたちも手伝い、テキパキと散乱している荷物を馬車に積んでいく。

 回収するのは、価値がありそうな物が中心で、食料品や大きな物は除外していった。

 そうやって、半分は空いていた馬車が、三分の二まで埋まった。

 最後に、護衛の人たちが他に目ぼしい物がないかを、確かめていく。


「まあ、こんなもんでいいだろ。これ以上積んだら、行き足が鈍っちまうし」

「空きがあることを咎められたら、次にまた馬車を見つけたときのためって、言えばいいだろうしな」


 護衛の二人がそう判断したので、俺たちは馬車と共に先に行った人たちを追いかける。

 すると道の先に、体が欠損し肉が腐ったゴブリン――ゾンビたちが現れた。

 数は十体ほどで、道を塞ぐように立っている。

 周囲に戦った形跡がないので、隊長さんたちが通り抜けてから現れたようだ。

 御者の人が馬車を止めようとする素振りをするが、護衛の人がそれを止めた。


「馬鹿ヤロウ。そのままの速度で動かし続けろ! 道が開いたら、一気に駆け抜けろ!」

「は、はい」


 その後で、片方の護衛の人が、オレとオレイショに顔を向ける。


「おい、小僧二人! 一緒に前に出て蹴散らすぞ!」


 そう言った後すぐに、護衛の人が剣を振り上げ、馬車を追い抜いてゾンビに突撃していく。

 俺は慌てて鉈抜いて追いかけ、オレイショも大剣を振り上げながら走る。


「でええいやあああああ!」 


 護衛の人が一体のゾンビの首を斬り飛ばしたのを見て、俺も続く。


「でやああああああああ!」


 鉈で頭をかち割ると、死んでいたことを思い出したかのように、ゾンビはその場に崩れ落ちる。

 俺の横では、オレイショが大剣を振るって、ゾンビの腹へと斬りつけていた。


「とおおぅりゃあああああ! ――って、なんでだ!?」


 腹が破れて腸が出ているのに、ゾンビはオレイショに掴みかかろうとしてきた。

 けどすぐに、護衛の人が助けに入り、ゾンビの首を切り落とす。


「馬鹿ヤロウ。ゾンビは頭を切り離すか、潰すんだ! それ以外じゃ止まらないぞ!」

「はいっ! 申し訳ありませんでしたッ!」


 元気良く返事を返しながら、オレイショは大剣を別のゾンビの頭に叩き込んだ。

 そうやって戦いながらゾンビを追いやり、道に通れる場所を空ける。

 するとすかさず速度を上げた馬車が通り過ぎ、もう一人の護衛の人とコケットにティメニも、道の先へと走っていった。

 俺とオレイショも続こうとするが、一緒に戦っていたほうの護衛の人に止められてしまう。


「追いかけるのは、ここにいるゾンビを全部倒してからだ」

「どうして、です――かッ!」


 ゾンビの頭をかち割りながら尋ねる。


「ゾンビは人間や動物に魔物だろうと関係なく襲って殺し、仲間を増やそうとする。あとあまりにも長く放っておくと、手強く成長することもある。だから戦いに余裕があるなら見かけた全てを倒すことが、街道を旅する者たちの暗黙の了解なんだ、ぜッ!」


 首を刎ねながらの返答に納得しながら、もう一つ尋ねる。


「なら、その成長したゾンビって、他のゾンビを操ったり出来ますか?」

「聞いたことないぞ。なんでそんな事を気にする?」

「この帰り道で、ゾンビに何度も襲われるので、そういう個体がいるなら納得いくなと思いまして」

「ははん、なるほどな。でもな、安易な想像は止めておいた方がいいぞ。現実ってのはその予想の上をいくことが常だからな」

「話してないで、こっちを倒す手伝いをしてくれ、ください!」


 オレイショはゾンビの頭を振り回した大剣でぶん殴りながら、変な言葉遣いをしてきた。

 きっと、俺に敬語を使いたくないけど、護衛の人には使わなきゃいけないと、考えたんだろうな。

 俺と護衛の人は顔を見合わせると、少し笑い合った。


「手伝って、さっさと馬車を追いかけましょうか」

「そうするか。あまり遅いと、隊長に弛んでるって怒鳴られそうだしな」

「ぬおおおおお、はやくしてっくれ、ください!」


 三体のゾンビに囲まれそうになっているオレイショの叫びを受けて、すぐに助けに向かった。

 そうしてゾンビを倒しきり、先に行った馬車を追いかけて、俺たちは小走りで進む。

 五分も経たないうちに、視界の先に馬車列が見えてきた。

 ほっと安心しかけたが、それはまだ早いと気が付く。

 なにせ、戦闘音が馬車のある方向から聞こえてきたからだ。


「うおおおおおりゃぁ! ゴブリンごときが、休憩中に襲ってきやがって!」

「生意気にも、人様の武器なんぞ使いやがって!」


 戦っている人たちの怒声の通り、どうしてだかゴブリンたちは金属製の剣や槍、そして革鎧などで武装している。

 しかも、馬車を囲んで襲っているその数は、五十匹は軽くいるように見えたのだった。

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