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五十二話 露店で買い物

 装備購入を目標に、全員が依頼をこなしていく。

 俺は楽に稼げるガラス工房のお手伝いを多くし、透明化するガラスの在庫が切れたら採取依頼を受けることにしていた。

 オレイショは、荷物の積み入れや荷下ろしを一日に何件も入れることで、頑張って稼ぐ方針をとっている。

 食堂で働き続けているコケットは、賃金は安いそうなのだけど三食の食事代が浮くから、手元に残るお金はそれなりに多いらしい。

 ティメニは一日ごとに違うお店の手伝いにいっているらしく、その日どこで何をしているか、稼げているのかもよく分からない。けどお金は貯まっているらしい。

 そうやって頑張って依頼をして、お金を貯めていくと、十日ほどで露店の商品で装備を揃えられそうな目処がたった。

 もっとも、四分の一ぐらいは、俺が貸すお金なのだけどね。


「よしっ、では素晴らしい明日を迎えるために、露店に向かうぞ!」


 元気良く号令したオレイショが先導して、ヒューヴィレの町を歩いていく。

 しかしすぐに、女子二人が止めた。


「そっちじゃ、掘り出しもんないしぃ、こっちに行くから~」

「そうですよ。貯めたといっても、お金は少ないんですから。足と目で、良い装備を探さないと」

「お、おおぅ」


 オレイショはしどろもどろになりながら、進行方向を変えた。

 俺も少し暮らしてから分かったことだけど、この町の露店には開いている場所で、ちょっとした特色がある。

 俺たち冒険者にとって、関係がありそうな露店の場所は、三ヶ所ある。

 一つは大通りにある露店。行商人や旅人が方々から集めたものを売っている。色々な物が豊富で欲しいものが手に入りやすいけど、同品質のものを店舗で買うより少しだけ安いぐらい。

 オレイショが向かおうとしていたのは、こっちの露店っぽい。

 もう一つは、武器防具の商店やが立ち並ぶ通りの裏路地。ここの露店は店で売れない品質の武器や防具を物を売っている。かなり安いけど、品質がすごくバラバラで、買う人の目利きが必要になるみたい。

 コケットとティメニは、この裏路地の露店に行きたくて、実際にいま向かっているのもここっぽい。

 ちなみに最後の一つは、食材店が多い通りにある、食べ物の露店。安くて美味いものが多いけど、たまに冒険した料理を出したり、不味い店もある。今は関係ないみたいだけどね。


 さて、目的地につくと、前世の日本ではあまり見かけない光景が広がる。

 路地の左右にある建物を繋ぐように布が張られて、濃い日陰をつくっていた。

 そんな薄暗い路地の片側には、武器防具を並べた露店がずらりと並んでいる。

 道行く人は、商品に視線を投げかけながら通り過ぎたり、足を止めて物色したりしている。

 服装や格好からすると、冒険者の人たちも多くいるみたいだけど、商人もそれなりにいるみたいだ。

 この光景を見ると、別世界って感じだなって、ついつい思ってしまう。

 そんな風景をのんびり楽しんでいる俺とは違い、オレイショたちは真剣だ。


「ふんッ、よし、探すぞ!」

「値段交渉すれば、革鎧と武器をそれぞれが買えると思います」

「うぃ~。いいのあるといいけどねぇ~」


 訂正、コケットはいつも通りっぽかった。

 まず三人は、露店を一つ一つ巡って、どんな商品があるか見定めていくみたいだ。

 俺も後ろに続きながら、商品に目をやる。

 あからさまに出来の悪い革鎧や、何でここで売られているのか分からないほど良さそうな盾なんかがあって、見ていて飽きない。

 だけど、ちょこっとこの場所は薄暗すぎる気がした。

 武器というか、金属製の道具が歪んでいないかを、光を当てたときの反射の具合で確かめる。

 けど、路地には天井のように布が渡されているから、光りが薄くてそうし難くなっていた。

 少し先の露店で冒険者風の男が、布の隙間から差し込む光を剣に当てながら確かめているので、俺の勘違いというわけでもなさそう。

 たぶんこの暗さは、出来の悪いものを少しでも良く見せる、工夫なんだろうと思う。

 でも逆を言えば、出来の良い物も埋もれてしまうわけでもあるんだよね。

 そうなると、買う人の目利きが試される場所、ってことになるのかな?

 前世の知識にない風景に、あれこれ考えている内に、裏路地の端から端まで歩ききってしまったみたい。

 オレイショたちはそのまま進んで、表通りで話し合いを始めた。


「オレは、真ん中ぐらいにあった店が、武器の品質が一番だと思う。あそこで買わないか?」

「あの店は、わたしも目をつけていました。でも、出来を良く見せかけている可能性もあるので、手にとって確かめてからじゃないと」

「あたしぃ、終わり際の店にあった革鎧は、すぐに確保するべきなんじゃないかって思う~。あれ、すぐ売れちゃうんじゃない~?」


 それから少しの間、どこそこの露店が良い悪いと情報を交換して、三人は再び路地裏へと戻った。

 そしていくつか露店を通り過ぎた後、色々な革製品を並べている店で足を止める。


「おっちゃーん、これら、ちょい見せてもらっていい?」


 コケットがつんつんと何個かある革鎧を軽く突付きながら言うと、露店の店主は勝手にしろと言いたげな身振りをした。

 許しを得て、コケットとティメニが一つずつ革鎧を選び、表面や裏地を見たり触ったりしていく。

 遠目から見る限りだと、オレイショの着ている薄い革鎧が貧相に見えるほど、作りの良さそうだった。

 ただ、なんとなく、コケットとティメニには少し大きく、オレイショが着るにはちょっと小さい感じがした。

 子供用とも大人用とも言えない微妙なものだから、店舗じゃなくて露店で売り払う気なのかな?


「おっちゃーん。これ、ちょい着ていい?」

「わたしは、こちらの革鎧を試着したいのですが」


 またもや勝手にしろと身振りされて、二人は軽く革鎧の紐を緩めてから体につけ始めた。


「男性用なのかな~。ちょい胸が苦しいけど――紐を調節すれば、入らなくはないな~」

「……わたしはちょうど良いです」


 二人の体格にしたら少し大きい革鎧なので、胸が苦しいとすれば発育具合の違いなんだろうな。

 そう考えていると、ティメニが視線を俺とオレイショに向けてきた。

 俺はどうかしたのという態度をとり、オレイショは露骨なまでに視線を反らした。

 ティメニはむむっと俺たちを睨んでから、露店の店主に向き直った。オレイショが大げさなまでに、安心する姿が面白い。

 その間に、コケットとティメニは値段交渉に入っていた。


「えぇ~、それじゃあ高い。二つ、いっぺんに買うんだからさぁ、ちょちょいって負けてくれたっていいじゃんか~」

「そうですよ。それにこの革鎧が体に合う人なんて、わたしたち以外ではそうそう出てきませんよ」

「そうだよ~。あたしぃでも、ちょい胸キツイんだしぃ~。もっと体が小さい子供になんかだと、売れないっしょ~?」

「うぐっ……そ、そうですよ。わたしみたいに、ぴったりなんて、そうそういませんからね」


 女子二人にぐいぐいと詰め寄られて、店主はたじたじになっている。

 それから少し長く値段交渉は続き、最終的に革鎧を銅貨四十枚で、一つずつ買うと決めたようだ。

 俺からすると、もう素材代じゃないかってぐらいに感じる。

 けど、コケットとティメニは納得していないみたいで、あの露店から離れながら革鎧をつけつつ、愚痴を言い合っている。


「あのおっちゃん、お金にちょいシブかったしぃ~」

「もう銅貨五枚は値切れても良さそうでしたけど、あまりやると売らないって言われてしまいそうでしたしね」


 予定額よりも大分安く買った気がしたんだけど、ここまで値切るのがこの世界では標準なのかな?

 もしそうなら、提示されている金額を払うことが当たり前だった前世を覚えているから、二人みたいにできるか自信ないなぁ。

 そんな心配をしていると、オレイショが元気よく歩き始める。


「さて、二人が革鎧を買ったのだから、次はオレの剣の番だな!」

「お金が少し余ったので、買える武器があれば、わたしたちも買っておきましょうね」

「もとそうするつもりだったしぃ~。あたしぃ、剣が欲しいなぁ、細いやつ~」


 そんな話をしながら、三人は目星をつけていたらしい、たくさんの金属製の武器が並ぶ露店へ。


「いらっしゃいな。さあさあ、見てって買ってみてよ」


 さっきの店主とは違い、愛想良い人だった。

 言葉につられるように、オレイショたちが武器を手に取る。

 俺は必要ないので、遠巻きに眺めるだけだったんだけど、武器の出来栄えを見て少しだけ疑問を持った。

 出来すぎなぐらいに、ちゃんとした武器に見えたからだ。

 首を傾げながら、俺も短剣を一つ手にとってみた。

 バランス、形、刃のつけ方、どれも完璧に見える仕上がりに感じる。

 同じ感触を持ったのだろう、オレイショたちも掘り出し物だって、小声で喜びあっている。

 そんな中、俺はついこう店主に聞いてしまった。


「これ、盗品じゃないですよね?」


 この一言で、オレイショたちもその可能性に気がついたのか、驚きの目を店主へ向ける。

 けど、いやいやと否定するジェスチャーを返されてしまった。


「お兄さんが言いたいのは、こんな場所で売られているにしちゃ、出来がよすぎるってことでしょ。安心しなよ、それはうちの工房の半人前が作った武器だ。見習いが作ったものは店舗じゃ売れないけど、潰すにはもったいないから、こうして露店で売っているってわけさ」


 そういう理由だったんだ。

 ってオレイショたちは納得したようだけど、俺はまだこの露店の武器に何かが引っかかっている。

 だって、これだけ出来がよかったら、見習いが作ったものだって店で売れると思う。

 信用問題になりそうだと思うなら、見習い作って伝えておいて、それでも欲しい人に値引きして売ればいいだけだし。

 なにか秘密があるんじゃないかって、じっと手に持った短剣を見る。

 すると、なんとなく、色味が変な気がした。

 けど薄暗くて良く分からない。

 日の光を当てようと思って、どこからか差し込んでこないかと、布の天幕を見上げる。

 するとおかしなことに、ひときわ大きく分厚い布でこの一帯は覆われていて、少しも光りが入ってこれないようになっていた。

 まさかと思って、体から出した魔力を物に通して反応を見るという、素材を調べる鍛冶魔法を使ってみた。

 すると短剣の表面だけが鉄で、中は混ざった金属か石のような反応が返ってきた。

 より深く魔法で調べて分かったけど、刃の部分は他の部分より少し多めの鉄で覆っていて、中が別物だと発覚を遅らせられる工夫がされていた。

 これほど巧妙だと、実際に使ってみても偽者だと分からないかもしれない。

 そしてオレイショたちがこの場で見抜くことなんか、不可能に近かった。

 

「ふむ、これ以上の武器を露店で見つけるのは難しいだろうな。よし、これを買――」

「待った!」


 オレイショが不用意な言葉を出す前に、大声で制止した。

 周囲の人たちから見られてしまったけど、気にしてはいられない。


「――いきなり大声をだすな。驚くだろうが」

「いいから、ちょっとその剣、こっちに貸して!」


 奪い取るようにして、オレイショが持っていた両手持ちの剣の素材を鍛冶魔法で調べる。

 これもやっぱり、中身は鉄じゃない。

 俺は偽物だと確信を持って、短剣と両手持ちの剣を、店主に示す。


「これ、なんの素材で作った剣なんですか?」

「なにいっているんだよ。見て分かるだろう。鉄だよ鉄。それ以外にどう見え――」

「この剣は、あなたの工房で作っているんですよね。どこの工房ですか? ヒューヴィレの町の中にある工房ですか?」


 食い気味に尋ねると、店主の顔色が変わった。


「……言いがかりは辞めてくれ。気に入らないなら、買わなくていい。返してくれ」

「いえ、出来が良い武器だと思いますよ。鉄製なら、思わず買いたくなるぐらいです」


 周囲の人たちが見てくるが、俺が何を言っているのか分からないらしく、首を傾げている。

 それはオレイショたちも同じだったようで、俺を囲んで小声で責めてきた。


「おい、その剣が買えなくなると困る。さっさと謝れ」

「そうですよ。言いがかりをつけるのはいいですけど、単に批判するだけじゃだめなんですよ」

「バルティニー、焦りすぎて値切りに失敗しちゃってるから~」

「あのね、三人とも。これを買ったら、絶対に後悔するよ?」


 自信を持って断言すると、オレイショたちは顔を見合わせて、不思議そうにする。

 なので、俺はこの露店の武器の中身が鉄ではないことを教えた。

 それでも三人は、半信半疑だ。


「……お前の勘違いじゃないのか?」

「持った感じは、鉄の武器の重さですよ?」

「普通にしか、ぜんぜん見えないしぃ~?」


 信じてくれないのなら仕方がない。


「忠告はしたからね。後はお好きにどうぞ」


 オレイショに両手持ちの剣を返し、短剣を露店に戻して、俺は距離をとった。

 三人はどうしようかと、顔を見合わせていた。

 すると、コケットが面倒臭そうに頭を掻いたあとで、持っていた細身の剣を露店に返し、代わりに俺が戻した短剣を拾い上げた。


「おっちゃーん、これいくら?」

「お、おっちゃ……ええっと、銅貨で二十枚だよ」

「ふーん……じゃ、これ」


 コケットは銅貨を払って、短剣を買ってしまった。

 忠告を聞き入れてくれなかったことを残念に思っていると、コケットは自分のナイフを抜き、買ったばかりの短剣を斬りつけた。

 耳障りな音が鳴り、短剣の刃の部分に大きな切り傷が生まれる。

 これに焦ったのは、露店の店主だ。


「ま、待て!」


 制止する声をよそに、コケットはナイフを振るい続けて、短剣を傷つける。

 そして傷だらけにした後で、その傷痕を指で撫でた。


「おお~、バルティニーが言った通りだ~。へぇ~、おもしろ~い。外は鉄で、中が石な感――」

「うわああああああああああ!」


 コケットの言葉を消すように、偽物を売っている露店の店主が大声を上げた。

 周囲の人たちがビックリして振り返る。

 店主は自分の失態にいまさら気がついたのか、愛想笑いを周囲に振りまいてから、必死に俺たちを手招きした。

 近くに集まると、声を潜めて懇願してきた。


「何でもくれてやる。だからこのことは黙っててくれ」

「……くれるといってもね?」


 俺が視線をオレイショたちに向けると、うんうんと頷いた。


「そうだな。こんなイカサマ武器は、いらん」

「そうですよね。ちゃんとした武器ならともかく、偽物をもらっても」

「ええー、話の種になるじゃんか~。こんな偽物が売ってたってさ~。実物つきだから、食堂の酔っ払いに大ウケだって~」

「ほんとうに、それだけは勘弁してください~」


 店主は泣きを入れて、さっきコケットが払った銅貨を返し、そして剣を一つ差し出してきた。

 オレイショが受け取り鞘から抜くと、単なる実用的な作りの片手剣だった。

 面白味はない見た目だけど、丁寧に作られたことが分かるものだ。

 オレイショが俺に手渡してきたので、本物かどうか調べろということだろうなと、鍛冶魔法でちゃんと鉄製の武器かを確認する。

 本物なので頷いて答えると、オレイショは強気な声で店主に語りかける。


「この片手剣一本で、済まそうっていうのか?」

「す、すみません。本物な売り物は、それしか残ってなくて……」


 それが本当か嘘かは分からないけど、オレイショたちは手打ちにする気みたいだ。


「ちッ、仕方がない。黙っておいてやる」

「そうですね。片手剣がタダで手に入った思えば、悪くはない取引じゃないでしょうか」

「面白いものも見たし、いいんじゃない~?」


 オレイショたちの関心は、もう次の武器をどの露店で買うかに移っていた。

 ほっとした様子の店主に、俺はそっと近づく。


「ま、まだなにか?」

「いえ。本当に出来は良いと思いますよ、これ」


 偽物の武器を指して言うと、苦笑いされた。


「あ、あははははっ。もう、本当に、なにも出せませんよ?」

「いや、俺は本気で言ってます。いっそ鉄の武器って騙るんじゃなくて、石の武器を鉄で覆っているって宣伝した方が、売れるんじゃないですか?」

「……えっ?」

「安く売ってくれるなら、俺たちみたいな新米な冒険者だったら、とりあえず装備を整えるために買うかもしれませんよ?」


 店主にそう伝えていると、すでに別の露店へ向けて歩き出していたオレイショから声が飛んできた。


「おい、バルティニー、何してる。早くしないと、良い武器が売れてしまうだろう!」

「いまいくよ! ――それじゃあ、考えて見てくださいね?」


 混乱している様子の店主に別れを告げて、次の露店へと向かうオレイショたちを追いかけたのだった。

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