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四十四話 新たな出会い

 鍛冶魔法によるガラスの加工は、思ったよりも大したことがなかった。

 なにせ、大きな茶色いガラスの塊から、不純物を鍛冶魔法で取るだけ。

 そんな、やっていることは樽精製での鉄作りと、さほど変わらない作業だったからだ。

 初めてやったときは、不純物が多く残っちゃった。けど、何度もやれば不純物は少なくしていける。

 不純物がないガラスの棒を口に咥えて、その感触を魔力で確かめつつ塊の不純物を除去していけば、精度をより上げられもした。

 そういう手作業の面白さもあったけど、なにより依頼してくれたガラス工房の親方が、喜んでくれることが嬉しい。


「いやー、バルティニーにきてもらって助かったよ。オレは鍛冶魔法を使えても魔力が少ないから量が出来ないし、金の都合で鍛冶魔法を使えないやつしか雇ってないからな」


 その言葉通りに、工房の奥には熱された小さな窯があり、中にはどろどろに溶けて真っ赤なガラスがあった。窯の周りには、従業員の人たちが穴の開いた棒を手にして、ガラス作りに励んでいる。


「いえ、そんなことないですよ。こっちも綺麗な硝子細工をタダで見られて、役得ですしね」

「あはははっ、そう言ってもらえると助かる。まあ、お前さんが透明化した硝子で作ったもんだ。割らない限り、手にとって見ても構わないからな」


 お言葉に甘えて観察すると、前世でも見たことがないぐらいに、透き通ったガラスだった。

 そんなガラスで、小さな魚や鳥、木の枝を模してみたり、おはじきやビー球みたいなものや、宝石のような形にしたものを作っている。

 大雑把な部分を従業員たちに作らせて、親方が鍛冶魔法で細部を整えるやり方が主流っぽい。

 もちろんわざと色をつけて作った物もあるけど、数はそんなに大きくないみたいだ。

 不思議なことに、グラスみたいな生活用品は作っていないようだった。


「この工房は、ガラスの工芸品作り専門なんですか?」


 そう尋ねると、工房の親方が後ろ頭を掻く。


「そういうわけじゃないんだがな。硝子ってのは高いくせに割れるものだからな。必然的に金持ちの顧客が多くなってな。需要が多いのは、こういう美術品ばっかりなんだ。大事に扱わないといけない繊細さが、金持ちにウケるんだと」


 料理を大量に作っても食べるのは必要分だけ、みたいな金持ち風習の、美術品版ってことなのかな?


「じゃあ、食器をガラスで作ったことはないんですか?」

「金持ちが食器に見栄をはりたいなら、銀か金を使うって決まっているんだ。壊れる硝子で食器を作るなんて依頼、数年に一度、物好きがやるぐらいだな」


 そういうものなのか。ちょっとだけ残念だな。

 こんな透明なガラスで作ったコップなら、水だけでも美味しく感じそうなのに。

 自分用に作って持っておきたいけど、絶対割れちゃうだろうし。

 強化ガラスとか耐熱ガラスみたいなものは前世にあったけど、作り方なんて全く知らないから、諦めるしかないか。

 

「さて、目で楽しむのは終わりにして、もう一頑張りしようっと」


 休憩は終わりにして、新たなガラスの塊を透明にする作業に戻ったのだった。




 そんなガラス工房に通う日々が十日ほど経った頃、仕事の報酬を貰っていると冒険者組合の職員さんに呼び止められた。


「バルティニーくん、前に話した子たちが揃ったから、こっちにきてくれないかしら」


 ガラス工房の仕事が楽しくて、すっかり忘れていた。

 一体、どんな人と会うことになるのだろうと思いながら、案内された一室に入る。

 中に居たのは、事前に言われていた通りに三人。

 一人は、いまの俺より大柄な少年。薄っぺらな革鎧と、大きな木刀――いや、剣の形だから木剣を持っている。

 どことなく態度がデカく見えて、身長も含めてあまり好きになれそうにない感じがする。

 残り二人は少女だ。

 でも見た目からも、それぞれタイプが違う。

 片方は、地味な茶色の長い髪を持っていて、大人しめな態度で、先に球体がついた鉄の棒を持っている。

 顔と服装も地味な印象だけど、可愛らしく愛嬌がって、前世の学校にいたら男子の間で隠れた人気がありそうな子だった。

 もう一方は、派手な赤い髪を肩口で切り、不真面目そうな態度をしていて、武器は大振りの鉄製ナイフ。

 腕や足を大きく露出した服を着ていて、人を値踏みをするような瞳を持っているので、前世の学校にいたら遊んでそうと男子の評価がつけられそうな女子だ。

 体型は茶髪の子が控えめで、赤髪の子がやや発達しているようだ。

 そんな風に観察をしていると、三人も俺を観察し返す。

 そうして言葉もなく視線だけ向け合っていると、職員さんがことさらに明るい声を出した。


「はい。じゃあ、この四人で組んでもらうことになるから。自己紹介してね。まずは、最後に入ってきたバルティニーくんからいっちゃおうか」


 ぐいっと背を押されたので、仕方なく自己紹介をしよう。

 同年代のようだし、敬語は使わなくていいだろう。

 それに、まだ信用の置けない相手だ。

 不必要な情報を伝えないほうがいいだろうから、嘘は言わずに実力を過少に申告しておこう。


「バルティニーだ。出身は、ヒューヴィレからやや離れた場所にある荘園。武器を見てくれれば分かる通り、攻撃方法は弓矢が主体だけど、鉈でも戦える。すでに魔物を『何匹』か倒したことがある。ほかには『ちょっとした』魔法が使えるけれど、戦闘に使うことは期待しないでくれ」


 隠し事をしているので、素っ気無い態度になってしまった。

 でも、上々な自己紹介じゃないかと思う。

 しかし俺が弓矢を使うと言ってから、明らかに少年と赤髪の少女の態度が変わった。

 少年は俺を嘲るような表情になり、赤髪少女は当てが外れたという顔をしている。

 どういうことなと内心で首を傾げると、少年が完全にこちらを見下した態度になる。


「けッ。遠くから弓矢でチマチマ戦うなんて、同じ男として恥ずかしく思うぜ。魔物を倒したとか、魔法が使えるとか言っているけどよ。どうせ死にかけに止めを刺させてもらったとか、指先に小さな火を数秒灯せる程度だろ?」


 その言葉を聞いた瞬間に、こいつは自分のことしか頭にない性格だと直感した。

 俺はこの手のやつが、生まれ変わる前から嫌いだ。

 そんな嫌いな相手が言ったことを、一々訂正するつもりはない。言っても無駄だからだ。

 けど、こちらを舐める態度は気に入らないので、反撃はさせてもらう。


「で、誰だお前? 自己紹介する場面で、他人を批判して発言が終わったぞ。もしかして、自分は文句しか言えない笑えるほどの低脳です、っていう斬新な自己紹介か?」


 追加で半笑いで見下げた視線を向けると、少年は怒り顔になる。


「んだと、このチビが。喧嘩を売りたいなら、相手を見て言うんだな!」

「てめぇ……どこの誰が、チビだってんだ!」


 前世から一番嫌いな言葉を口にされて、俺は握り拳を固め、殴りかかろうとする。

 けど行動に移す前に、職員さんにやんわりと肩を掴まれた。


「バルティニーくん、いつもの君らしくないなぁ。ちょっと落ち着こうか」


 俺は釘を刺されて、怒りが収まるような簡単な性格ではない。

 けどなんとなく、肩を掴んでいる手を振り払ったら、まずいことになりそうだと思った。

 具体的に言うなら、石のゴーレムを相手にしたときのような、危険さを職員さんから感じたんだ。

 正直、チビと罵ってきたあいつを、力の限りにぶん殴ってやりたい。

 だけど、自分から特大の地雷を踏みに行くほど、意固地になるような場面でもないよね……。


「……分かりました。とりあえず、今は殴らないでおきます」

「そうしてくれると助かるわ。じゃあ、自己紹介の続きをしましょう。じゃあ、元気のいい男の子から再開ね」


 指定されたあの男子が、職員の言うことを聞いて大人しくした俺を見て、鼻で笑う。


「ふんッ。かなり年上とはいえ、女性に言い包められるなんて、やっぱり男らしくないヤツめ。いいか、偉大なるオレの名は――」


 煽るような言葉を受けて、また怒りが再燃しかけた。

 けど、職員さんが俺を掴む力を強めたことで、それどころじゃなくなった。

 痛たたたたたっ、肩が、肩がー!? 何でいきなり!?

 かなりの痛みに、思わず職員さんの顔を見ると、笑顔だけど冷たい表情をしているように感じた。


「なに、バルティニーくん。いま、ちょっとだけ虫の居所が悪いの」


 どうやら、なぜか怒っているようだ。

 けど矛先は俺じゃなくて、いま自己紹介をしてるあの男子に向けてっぽい。

 どうして怒ったのかと考え――そういえば、『かなり年上』なんて失礼なことを、あいつが言っていたっけ。


「……いえ、何でもありません。けど、職員さんは綺麗なお姉さんですよ?」

「!――そうよね。やっぱり礼儀正しくて素直な子が一番ね」


 おべっかを使ってみると、職員さんは少し照れた表情で、俺の肩から手を離してくれた。

 ちらりと襟から中を見ると、肩に指の形が赤く残っている。

 ……うん。職員さんを怒らせないようにしよう。

 そんな決意をしたとき、ちょうどあの男子の自己紹介が終わったようだ。


「――とういうわけだ。って、お前、話を聞いてなかったな!」

「悪い。かなり長く喋っていたようだけど、耳に入らなかった。名前と特技だけ教えてくれ」

「このっ、失礼なヤツ! だが寛大なオレはもう一度だけ、自己紹介をしてやろう。オレの名前は、オレイショ。特技はお前と違って接近戦。この恵まれた体で敵をなぎ倒すことだ!」


 武器を掲げて宣言する姿は、少しだけ立派そうに見える。

 けど、大きいとはいえ木の剣を掲げているので、様になっているとは言えない感じだ。

 そして職員さんは、失礼な発言があったオレイショを無視する気なようで、話の流れを女子二人に向ける。


「じゃあ、そっちの二人。自己紹介してね」


 彼女たちは目と動作で、先を譲り合う。

 結果的に先に発言することになったのは、赤髪の少女の方だった。


「あたしぃ、コケットっていいま~す。特技ってほどのものはないし~、ナイフを使っているのもお金がないからで~す。なんで~、武器を買い換えたいから、依頼の報酬を多く分配してほしいかなって思ってま~す」


 少し気だるそうな言葉遣いと、軽く発達のいい体型を見せつけるような態度から、前世でいうギャル系な印象を持った。

 うーん。まだ組んでもいないうちから、お金の分配を言ってくるとなると……。

 テッドリィさんが忠告してくれた、気をつけるべき尻軽な女性って、こういう人のことなのかな?

 続いて、長い茶髪の少女の番だ。


「始めまして。わたし、ティメニです。あんまり特技はないけど、これからがんばって覚えます! けど、武器はこのフレイルなので、あまり前線に立ちたくないかなって思っています。けど、がんばります。よろしくおねがいします!」


 コケットの自己紹介の後だからか、はきはきとしたティメニは清純そうに見えた。

 それはオレイショも同じだったのだろう、好意的な目を向けている。

 けど、よくよく思い返してみると、女子二人の話した内容はあまり大差がないよね。

 どちらかと言うと、『~したくない』って言っていないコケットの方が、まともそうなんだよね。

 武器を買い換えたいって言っているのも、積極的に戦力に加わろうとしているとも取れるし……。

 うん。よく考えることと、印象の大事さが、よく分かる事案だ。

 そんな感じに自己紹介が終わったところで、職員さんが手を大きく打ち鳴らした。


「はい。じゃあこの四人で、これから最低でも一ヶ月間、活動してもらいます。なので、ここでどんな依頼を受けるかを、話し合ってね。決まったら、その内容に見合う依頼を選んであげるから」


 話し合いと言われて、オレイショが主導権を握りたがっていることが、ありありと見て分かる。

 コケットはやる気なさそうにしていて、ティメニは積極的に参加をしようとしていた。

 そして俺はというと、オレイショが難癖つけて自分がやりたい依頼を受けようと話をもっていくんだろうなと、なんとなくそう思っていたのだった。

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