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四十三話 新生活

 テッドリィさんと別れた俺は、冒険者組合にやってきた。

 目標であるご先祖さまみたいなデカイ男になるべく、魔の森の情報を得ようと思ったのだ。

 けれど、そうそう上手く話は運ばないみたいだった。

 

「バルティニーくんには、まだちょっと情報は教えられないかな」


 職員さんの意外な言葉に、俺は驚き、そして戸惑った。


「えっ!? どうしてですか!?」

「うーん、どう説明したらいいかしら……」


 少し悩んだ顔の後で、職員さんは理由を喋り始めた。


「バルティニーくんは、テッドリィから将来有望な子だって教えられているのね。開拓村での活動の成果を聞いて、なるほどって頷いたわ。色々と運が良かったみたいだけど、バルティニーくんの歳で報告にあるような戦果はあまりないしね」


 どうテッドリィさんが話したかは知らないけれど、冒険者組合は俺に好印象を持っているみたいだ。


「褒めていただいて、ありがとうございます。けど、それなら逆に情報も教えてもらえそうなものですけど?」

「そうね。例えばバルティニーくんが、粗暴な性格で戦うしか脳のない人だったら、魔の森に向かわせて暴れてこいって言うわね。でも、そうじゃないでしょ?」


 言われたことがよく分からず、首を傾げてしまう。

 すると、より詳しい説明が始まった。


「バルティニーくんは、弓での遠距離攻撃と、ちょっとした魔法による中距離の援護が出来る。接近戦は要訓練だけど、歳なりにこなせる。さらには字を読み書きできて、鍛冶魔法の腕は鍛冶師の親方さんから不満が出ないぐらいある。礼儀正しく、人当たりもよく、依頼は積極的にこなそうとしているので、好印象だわ」

「……なんだか褒め殺しをされている気分なんですけど?」

「そうじゃないわよ。だって、ここまで全部事実なんでしょ?」


 過大評価されている部分もあるけど、合ってはいるので頷いておく。

 すると、職員さんは困り顔になった。


「そんな幅広く特技のある好人物は、そうそう手に入らないわ。だから冒険者組合としては、見合わない危険な依頼で死なせたりしたくないわけ。その依頼にある危険を打ち破る実力がある、って分かるまでね」


 そこまで見込まれているのは、有り難い話なんだろうけど――


「――なんだか冒険者の組合っぽくない言葉ですね。やたらと過保護じゃありませんか?」

「でも、理解してくれているんでしょ?」

「将来果物がなる若木を、早々に材木として切りたくはない。って感じだということは」

「そうそう、そういうこと。その例に付け加えるなら、こちらで材木が必要になったのなら、適した木か要らない木を使うってことでもあるわ」


 要らないほうの木の扱いに興味が湧いた。

 けど、やぶ蛇になりそうだから、聞かないでおこうっと。


「そういう理由で、魔の森の情報を教えたくないってことは分かりました。なら、教えてくれる条件があるわけですよね?」

「そうなのよ。本当にバルティニーくんは話が早くて助かるわ。他の冒険者だと、こっちに暴言を吐いてきたり、勝手に行っちゃったりするから、説得にいっつも困るのよ」


 どうやら、職員さんが気を揉んでいたのは、俺が他の冒険者と同じ行動を取ったりしないかだったみたい。

 職員さんは困り顔から、安心した表情に変わると、説明を続ける。


「バルティニーくんに達成してもらいたい条件は、二つあるわ。

 一つ目は、ヒューヴィレの町をしばらく拠点にして、依頼を何度かこなしてもらうわ。

 二つ目は、その依頼を他の冒険者と一緒にやって欲しいの。それで気の合った人と組んでもらいたいの」


 それを聞いて、俺は少し変に思った。

 一つ目は、こっちの実力を確かめるためだからいいとして。

 二つ目は、聞いていた話とはちょっと違う気がしたんだ。


「テッドリィさんは、一人の方が良いって言ってましたよ。変に人数を組むと、依頼が通り難いって」

「え? そんなことはないと――ああ、商隊の護衛依頼に関しては、その通りね。商人って、顔なじみの冒険者しか使いたがらないの。なにかしらの理由で穴が空いたときに、一人か二人を入れるけど、それ以上の人数は入れたがらないの」

「なら、仲間を作ったらダメなんじゃないですか?」

「いいえ、そうじゃないわ。テッドリィを例にすると、苛烈な性格の割りにけっこう顔が広いの。だから薄い関係の仲間が、たくさん居るようなものなの。だから、商隊の護衛を飛び入りで受けられちゃったりするのよ」


 テッドリィさんは口が悪いけど、さばさばした性格と面倒見のよさから、友人を作りやすそうだったっけ。


「なら、俺もそういう仲間作りを目指した方がいいんでしょうか?」

「うーん。バルティニーくんは、魔の森で活躍したいんでしょ?」

「はい。将来、魔の森を開いて土地持ちになることが、俺の目標の一つですから」

「なら、固定の仲間を作った方がいいわ。魔の森は危険が一杯あるんだから、命を預けられるほど深い関係にしないとね」


 そこまで聞いて、一つ目の条件であるヒューヴィレの町を拠点に依頼をこなすことが、仲間作りに繋がっているのだと気がついた。


「つまり、仲間になりたい人と一緒に依頼をやってみて、気が合うかどうか確かめる。人数が集まったら、魔の森について教えてくれるってことですね?」

「そういうこと。理解が早くて助かるわ」

「でも、そう簡単にいきますか? ヒューヴィレの町に、知り合いなんてほとんどいませんよ?」


 例外はテッドリィさんと、この町に来るときに知り合った冒険者さんたちだけ。

 両者とも、商隊の護衛を主にやっているから、この町にいないはずだ。

 そうなると、俺に当てはまったくない。

 そんな俺の心配を見取ったのか、職員さんはにっこりと笑いかけてきた。


「そういうと思ったわ。だったら、こちらから冒険者を紹介するわよ」


 是非――と答えようとして、ちょっとした予感がした。


「紹介するって人、俺と同じように新人で、同じような説得を受けていませんか?」

「あっ、バレちゃったわね。その通り、紹介するのはバルティニーくんのように、冒険者になりたての新米たち。でもこの一回だけよ。気に入らずに解散になったら、新米じゃない冒険者も紹介するわ」


 早口で弁明する職員さんに、俺はジトッとした目を向ける。


「騙すような真似をした理由はなんですか?」

「だって、新米ってだけで他の人は敬遠するんだもの。なら新米同志で組ませればいいって方針ができちゃってね。でもほら、バルティニーくんなら弓や魔法だって使えるんだし、新米の子たちを引っ張って力を伸ばしてあげればいいのよ」


 名案とでも言いたげだったので、俺は自分の視線を少し厳しいものにした。

 すると職員さんは、苦笑いを浮かべて困った顔になる。

 少しの間、お互いに喋らずにいたけれど、先に折れたのは俺の方だった。


「それが冒険者組合の方針なんだから、仕方がないですよね」

「え!? 新米の子たちと組んでくれるの?」

「なんでも試してみるのは大事ですし、それに新米なのは俺も同じですから」

「そう言ってもらえると助かるわ。本当にバルティニーくんは聞き分けの良い子で助かるわ」

「そういうお世辞はいりません。それでその人たちと、いつ会えるんですか?」


 質問を受けて、職員さんは机の端に置いてあった紙束を捲り始めた。


「うーんっと、教育期間が終わった子が一人、もうちょっとなのが二人ね。この三人を引き会わせたいから、もう少し待たせることになりそう。大丈夫かしら?」

「構いません。けどその間、俺は組合で依頼を受けられるんですよね?」

「もちろんよ。ああでも、町の外に出るようなものはダメ。町の中で出来る物を選ぶことになるからそのつもりでね」


 無闇に町の外に出て、待ち合わせの日に帰ってこられなかったらいけないから、その措置は当然かな。


「分かりました。じゃあ、僕にお勧めの依頼とかってありますか?」


 職員さんはまた別の紙束を取ると、ぺらぺらと捲っていく。


「そうねぇ……バルティニーくんは読み書きと、鍛冶魔法が使えるんだから……硝子工房の手伝いなんてどうかしら?」

「硝子、ですか?」

「そうよ。鍛冶魔法で硝子を加工するお手伝いね。専門技能だから、報酬はそれなりにあるわ」


 前世ではやったことはないけど、どろどろに溶けたガラスを噴いて作っている、テレビ番組の映像を見たことがある。

 楽しそうだから、やってみようかな。

 この世界では鍛冶魔法でやるようだから、前世で見た映像と同じではないのかもしれないけど、何かしらの役に立つかもしれないし。


「はい、その依頼、受けてみます」

「じゃあ――はい、これが地図ね。直接工房に行ってくれれば、仕事終わりに依頼完了の札がもらえるはずだから」

「分かりました。これって今日から行ってもいいんですか?」

「もちろん。会わせたい子全員の教育期間が終わったら教えるから、好きなだけこの依頼を受けていいわよ」


 にこにこと嬉しそうな職員さんを見て、少し不安になった。


「もしかして、この依頼って冒険者に不人気なんですか?」

「ちょっとね。鍛冶魔法を使える人の中でも、腕を持つ人が要求されるから、受け手が少ないのよ。依頼を出した先方は、少しでも人手が欲しいらしくて、困っていたところなの」


 また良いように人を使おうとして。

 ここはきっちり釘を刺しておかないとね。テッドリィさんにもそう教わったし。


「……そんな依頼を受けるんですから、食事でも奢ってください」

「あら、テッドリィに教育されて、ちょこっと可愛げが取れちゃったようね。でも、そのぐらいならおやすい御用よ。じゃあ、私が暇なとき食事デートってことで決まりね」

「え!? なんで、本当に受けちゃうの!?」


 まさかと俺が慌てると、職員さんがくすくすと笑い始めた。

 そこでようやくからかわれたと知り、憮然としてしまう。

 色々な人たちと接する職員さんと対等に渡り合うには、まだまだ子供の俺には経験が足りていんだと痛感したのだった。

 

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