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三十八話 休養と新たな鉈

 石のゴーレムを命からがら倒した俺は、テッドリィさんと共に開拓村へと戻ると、冒険者組合へ向かった。

 テッドリィさんが足の怪我を組合所属の薬師に見せに行った間に、軽傷の俺は職員さんに倒した魔物の証明部位と、石のゴーレムの核を渡す。

 とても驚かれ、どうやってゴーレムを倒したのかと尋ねられた。

 攻撃魔法のことを言うと、冒険者証の書き換えとか面倒になりそうな気がした。

 なので、鉈で闇雲に腕を叩いたら運良くそこに核があったことにして、鉈は戦闘中に失くして矢で止めを刺したことにした。

 身振りを交えながらのそんな嘘に、職員さんは納得してくれた。


「そうだったんですか。それは運が良かったですね」

「はい。石のゴーレムから逃げ切れないとわかったときは、生きた心地がしませんでしたよ」


 そんな話をしている間に、テッドリィさんが足の怪我に包帯を巻いた姿で出てきた。

 近寄って職員さんに話していたことを伝えようとして、すり潰したヨモギの香りを何倍も濃くしたような変な臭いに、俺は顔をしかめる。 


「テッドリィさん、なにこの臭い?」

「この包帯の下に塗られた、軟膏の臭いだよ。安価なのに怪我が早く治るんだが、とってもクセェんだ。冒険者の間じゃあ『この臭いをさせるようになれば一人前。させ続けるやつは三流だ』なんて言葉もあるぐらい、有名な薬なんだぜ」

「ってことは、俺もそれ塗られちゃうの?」


 石のゴーレムとの戦いで地面を転がったので、俺の上半身には小さな擦り傷がたくさんある。

 その全部にその薬を塗られたとしたら、悪臭を放つ姿になってしまうのは、簡単に想像ができた。

 俺のそんな心配を、テッドリィさんが笑いながら否定する。


「あははっ。そんな小せえ傷に、薬なんか要らねぇよ。水でざっと汚れを洗い流しちまえば、簡単に治っちまうよ」

「それもそうだよね」


 前世なら水洗いの後で傷テープの出番なのだろうけど、この世界にはそんなものないしね。

 そんな話をしていると、革袋にはいった石のゴーレムの核を渡した報酬を、職員さんが持ってきた。

 テッドリィさんが代表して受け取り、口を開いて中を見る。俺も横から覗き込む。

 数ある銅貨の中に、金貨が一枚入っていた。

 この一枚は、石のゴーレムの核の値段なんだろうな。

 初めてな金の輝きを見ていると、テッドリィさんが金貨を摘み俺の手に握らせた。


「これはバルトの分な」

「えっ!? テッドリィさんの取り分は?」

「残りの銅貨で十分だ。バルトはあたしを助けてくれた上に、鉈も失っちまったからな。せめてものワビだ、黙って受け取れ」


 うーん、それで良いのかなと考えながら仕舞うとと、テッドリィさんは俺の頭を手で押さえつけてから口を耳に寄せてきた。


「バルトの性格が良いのは承知してっけどな、なんでも相手のことを考える必要はねぇんだぜ。報酬の分け前は、自分の働きに相応しいよりも少し多いぐらいに求めろ。バルトみたいに遠慮してばっかじゃ、他の冒険者に舐められるぞ。あと、尻軽女に集られるぜ」

「……そういうものなの?」

「当たり前だろ。冒険者の間じゃ、稼いだ金額のデカいやつが偉いんだよ。どんなに力があったって、どんな魔法が使えたって、稼げないヤツは見向きもされねぇ世界だ。だからこそ、食堂で酔ったやつがよくやるだろ。オレはなにそれを倒した、どこそこで貴重な石を手に入れたってな。まあ尻軽女は、稼げないヤツにも擦り寄ってくるが、金を散々に取ったらポイッだけどな」


 衝撃の事実に言葉がない俺とは対照的に、テッドリィさんは微笑ましげな顔で喋り続ける。

 

「こういった勘違いは新人がよくやるんだ。まあバルトのことだからな、時間と共においおい分かっていくだろうさ。あんまり心配すんな」

「そういうもの?」

「そういうもんだ。冒険者に成り立てで、冒険者の流儀を完璧にやってみせるヤツが居たら、身分を偽っているか化け物かのどっちかだろ」


 うん。確かにその通りだ。

 そうだよね。テッドリィさんっていう教育係がついた、新人冒険者なんだから、知らないのは当然だ。

 問題は知ってから、ちゃんと行動できるかだよね。

 俺の気分が持ち直したと分かったのか、テッドリィさんが銅貨が入っている革袋を掲げる。


「よっしゃ。生きて返ってきた祝いに、今日はパーッとやるか」

「今日も、でしょ。最近は土のゴーレムの核を得るたびい、ぱーっとやってたでしょ」

「あんなショボクじゃなく、もっと盛大にだ。今日のあたしは、酔い潰れるまで飲むからな!」

「ええぇ……それは遠慮して欲しいなぁ……」

「バカ。さっき、冒険者は遠慮しねぇって教えただろうが!」


 口調は荒くとも楽しげに、テッドリィさんは俺の首に腕を巻くと、食堂へと引きずっていった。

 もちろん、宣言通りにテッドリィさんはエールを前後不覚になるまで飲みまくった。

 お開きになり、俺が支えて千鳥足で宿までくると、部屋の前で力尽きて寝てしまった。

 仕方がないので、引きずって部屋に入れるとベッドに投げ込む。俺も逃走と戦闘で疲れていたので、もう一つあるベッドに飛び乗る。

 シーツの感触を肌に感じつつ、明日は上着を買って鉈も作らないとと思いながら、目を閉じて眠りに入っていったのだった。





 翌日の朝、俺は呻き声で目を覚ました。

 発生源を探ると、どうやら隣のベッドで寝ているテッドリィさんが、二日酔いで苦しんでいるようだった。

 起き上がって近寄って見ると、見事なまでに青い顔で気分が悪そうにしていた。


「まったくもう。こうなるって分かるんだから、自分の限界以上にお酒を飲まなきゃいいのに」

「足を治療した薬師に、二・三日は安静にしてろって言われて、今日は宿にいるつもりだったから……あいたたたたっ。頭が、足が……」


 二日酔いで頭痛がして、治りかけの傷も痛むようだ。

 えっと、前世で見たテレビ番組で、二日酔いに効く簡単な方法は水を飲むことだと言っていたっけ。

 革で出来た水筒を取り、中身が少なかったので生活用の魔法で水を補充してから、テッドリィさんに渡した。

 すると、一気にほぼ全て飲みきってしまう。


「お代わり――うぷッ」

「補充はするけど、部屋の中で吐かないでよ?」

「大丈夫、分かってる。これ以上は飲まない。ただ水が手元にあると思うと、なんでか安心するんだ」


 体が水を欲しているのかなと思いながら、魔法でもう一度水筒を満杯にしておいた。

 

「それでテッドリィさんは、今日は宿で安静にしているの?」

「ああ。動いて傷が悪化するのも嫌だからな。バルトはどうするんだ?」

「上着を買うついでに、新しい鉈を作りに鍛冶屋に行くかな。銅のゴーレム狙いの冒険者さんたちのお蔭で、材料はあるみたいだから。鉄作りをする報酬の代わりに、鉈を作らせて貰おうかなって思っているよ」

「そうか……悪ぃ、ちょっと寝かせてもらうわ……」


 具合が悪そうなテッドリィさんは、横になって丸まると眠ってしまった。

 普段の荒々しさとは反対に、寝顔が意外とあどけない。

 おっと、あまり見ているのは失礼だし、さっさと用事をすませに行っちゃおう。

 一応念のために、矢と弓は持ってっと。


「……いってきますね」


 小声で声をかけてから、静かに部屋を出ると、俺は村の中へと繰り出した。




 この世界の服が古着が普通で、しかもその高さに驚く。

 仕立てが良くて丈夫そうな物を選んで買ってみたら、銀貨に届きそうな値段だったからだ。

 故郷に住んでいたとき、両親は行商人と農作物で取引してたから、俺の価値観があやふやなのだと変なところで気がつかされてしまった。

 なにはともあれ、上着は入手したので、鍛冶屋へ向かう。

 中に入ってみると、ロッスタボ親方と銅のゴーレムを狙っている冒険者たちが顔を付き合せて、何かやっていた。


「おはようございます」


 挨拶をすると、冒険者たちはハッとした表情でこちらを向き、ほっとしたように話し合いに戻っていった。

 ロッスタボ親方は少し遅れてから俺を見て、小難しそうな顔をする。


「おお、お前か。仕事はない。他になにか用か?」

「はい。鉈を森での戦闘中になくしちゃったんで、鉄があれば買えないかなと」

「鉄ならそこにあるから好きに使え。後で使った分の料金を言ってやるから払え。作業は樽のあった場所にある机でやれ、こっちに来るなよ」

「分かりました。片隅を使わせてもらいますね」


 相変わらずせっかちなロッスタボ親方の言葉に従って、俺は鉄がある場所へと向かう。

 魔塊を回して生成した魔力を使って、幾つか手に取った鉄の質を感覚で確かめていく。

 どれもこれもが、ロッスタボ親方の作なのだろう。全て、かなり良い鉄だった。

 この品質なら、そのまま形を整えるだけでも、良い武器が出来上がりそうだ。

 流石はロッスタボ親方だなと思いながら、鉄を鍛冶魔法で柔らかくして、粘度細工のようにこねていく。

 その後で伸ばして畳んでを繰り返し、中に入った空気を抜くためにパン生地のように作業机に叩きつける。

 このとき、なぜだかちょっと鉄が温かくなるけど、気にせずにやる。

 作業を進めて、指一本ぐらいの幅の薄い長方形の板に、鉄を整え終えた。

 鉄が硬さを取り戻すまで待ちながら、ふぅっと息を吐きながら額の汗を拭う。

 そのとき、背中に視線を感じた。

 振り返ると、ロッスタボ親方が静かに佇んでいて、こっちを見ていた。


「もしかして、作業音がうるさかったですか?」


 恐る恐る尋ねると、ロッスタボ親方は俺が作った長方形の鉄を見て頷いた。


「ふむふむやはり基礎は出来ているようだな。そのまま作れ」

「は、はい……」


 言うだけ言って、冒険者たちのほうに行っちゃったよ。

 うーん、俺の鉄を練る作業が、及第点だったってことなんだよね?

 よく理解できかったけど、作業を再開する。

 長方形に鉄を作れば、ここからの作業は早い。

 刃になる部分を指で撫でながら、魔力を通して少しの部分だけ鉄を柔らかくする。

 そうすれば、あっという間に刃が現れる。

 あとは持ち手になる場所を柔らかくしてから少し削って、後で柄を取り付けられるようにする。

 これで、出来上がりっと。

 そのとき横から伸びてきた手が、出来上がったばかりの鉈をつかみ上げた。

 ハッとして横を向くと、何時の間にやらロッスタボ親方がいて、鉈の出来を真剣な目で見ている。

 少ししてから、今度は俺の手を取って、じっと見始めた。


「及第点だが細部が甘いな」

「え、ええ?」


 急にロッスタボ親方は、鉈の刃と持ち手部分を鍛冶魔法で直し始めた。

 指の一撫でで刃の角度が変わり、持ち手の形状が綺麗になっていく。

 ロッスタボ親方は直した場所を再度確認してから、俺に鉈を見せた。


「これが理想だ、いま見て覚えろ」

「は、はい。分かりました」

「ん、では柄を作ってきてやるから待っていろ」


 俺の返事が覚えたという意味と誤解されたようで、ろくに観察しないままに鉈を持ってかれてしまった。

 ま、まあ、刃の部分は見れるし、後で魔力を通せば柄の中にある部分の形状も、確認出来るしね。

 と思っているうちに、木の柄がついた状態で鉈が返ってきた。


「持ってみろ」


 というロッスタボ親方に従って、鉈を握ってみた。

 すると、まるで鉈の柄が俺の手に吸い付くみたいに、ぴったりな形状だった。

 指を一本二本と外して持ってみるけど、持ちやすくて鉈がぐらつかない。

 さっき俺の手を見たて確認しただけで、そして短時間にもかかわらず、こんなにきっちりと合うなんて……。


「柄は体の成長と共に形を直せ。自分のための物だけなら時間をかけていい。他者のには手を出すな、まだ早い」

「は、はい。分かりました。ありがとうございます」

「材料費はタダにしておいてやる、鍛冶の腕を上げろよ」


 ロッスタボ親方は軽く言い放つと、再び冒険者たちの元へ戻っていった。

 その姿を呆然と見ていて、ハッと気がついた。

 鍛冶の上達を条件に、鉈に使った鉄とか柄の木とかの材料費を、タダにしたってこと!?

 俺の本職は冒険者で、鍛冶師じゃないんだけどなぁ。

 と思いつつも、ロッスタボ親方なりの激励だろうと受け止めて、ありがたく条件と共に鉈を受け取らせていただくことにしたのだった。


個人的な事情で、明日の更新はお休みします

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