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二百九十九話 港作りの第一歩

 棍棒が曲がってしまったイアナを荷物持ちに使い、俺たちは数度砂浜と森を行き来して、避難艇に食料を積んでいった。

 果物や野草に、野生動物の枝肉が数種類。

 その肉の中には、ストレス発散を終えて機嫌よさそうなチャッコが持ってきた、大鹿のものも含まれた。


「これだけ新鮮な食料がありゃ、『船病』も怖くありませんぜ」

「なんだ、その病気?」

「長い間、保存食ばっか食っていると、体調が悪くなる病気でさ。酷いものになると、口から血を吐くんですぜ」

「船医がいうにゃ、塩や酢の取り過ぎで体が参ってしまうんだそうで。治すには、新鮮な食料しか対処法がないんですぜ」


 なんか前世でそんな病気を聞いたことがあった気がしたが、明確には思い出せずに、栄養失調の類だろうと結論付けた。

 二隻の避難艇に食料を満載にし終えると、船員たちは沖で待つ中型船へと海原を漕ぎだしていく。

 本職だけあり、あっという間に姿が遠ざかり、ほどなくして船壁に到着していた。

 中型船に残っていた船員たちは、縄網で避難艇の荷物を先に回収し、続いて鉤付きロープで避難艇の引き上げに移った。

 その際、避難艇に乗っていた船員たちは、一度水面に飛び込んでから、船から垂らされた格子状に編まれた縄を上って船に乗り込んでいた。

 全てのものを回収し終えると、船員たちはこちらに大手を振ってから帆を満開にして、船をサーペイアルがある方向へと進ませた。

 ここが岩壁に囲まれた狭い砂浜なもので、中型船の姿はあっという間に見えなくなり、見るも聞くも海原の光景だけとなった。

 彼らが去ってから、俺は一つ伸びをして、今後の予定の青写真を描くことにした。


「まずは寝る場所と食料の確保。あと桶か何かに水を溜めておかないとね」


 この砂浜が夜の満潮時に沈没する可能性もあることを考えると、岩肌の坂の上、森の際に住居を構えるのが良いと思われる。

 そのことをテッドリィさんとイアナに相談すると、二人は一度頷いてから、注文を付けてきた。


「木で作った家じゃ、森の魔物が襲ってきたときに不安だねぇ。分厚い石の壁の方が安心さね」

「食料を備蓄できる大きな倉庫が必要ですよ。魔物や野生動物が狙ってくるかもしれませんから、ちょっとやそっとじゃ壊れない頑丈さがあれば欲しいです」

「備蓄を考えると、野ネズミに食い荒らされないように、接地して建てるのは駄目だよな」


 前世の社会の授業で習った、高床式倉庫と柱に鼠返しをつけることを、まず考えた。

 しかし、この世界では魔物という存在がいる。

 オーク程度の知能と膂力がある魔物が襲ってきたら、高床の柱を折られかねない。

 そう考えると、住居や倉庫は堅牢かつ、外からネズミや虫が入らないほど気密が高いものが必要になるだろう。

 となると、鍛冶魔法で岩を柔らかくして石材を作り、それで家を建てる方が建設的だ。

 石材のつなぎ目を鍛冶魔法で埋めれば、虫やネズミが倉庫や住居に入り込む対策は、窓や扉に集中すればいいしな。

 なにはともあれ、まずは試作をしなければと、倉庫併設型の住居を作るべく、岩肌の坂の上にある好立地を探すことにした。

 ほどなくして、整地しなくてもいいほどに、平たい地面がある場所を見つけた。

 ほど良く海岸から離れているので、高波の心配もなさそうだ。

 早速ここに家を作るべく、テッドリィさんとイアナにも拳大の石運びを手伝ってもらうことにした。


「こんなもんをたくさん集めて、家を作るのか?」


 海岸から拾ってきた石を積み上げながら、テッドリィさんが疑問を投げかけてきた。

 俺は一抱えほどある石を置いて、それを鉈の背で割りながら答える。


「鍛冶魔法で柔らかくして、ひとまとめにするんだよ。そのついでに、石から鉄を取り出そうってね」


 三人で集めた石が人ほどの高さに積み上がったところで、俺はその石たちに鍛冶魔法をかけていく。

 石からにじみ出るようにして、鈍色の液体――鍛冶魔法によって石に含有していた鉄が柔らかくなったものが現れる。

 それらは詰み上がった石の間を滑り落ちて、地面の上へと流れていく。

 魔法の感触で石から鉄が全て抜けたことを確認してから、続けて石だけを鍛冶魔法で粘土程度に柔らかくする。

 ひと纏めになるようこねながら地面に転がし、家の基礎になるように成形していく。

 もちろん、これだけの量では基礎に不十分なので、同じ工程を繰り返す必要がある。

 でもその前に、作った鉄でイアナの棍棒を作る方が先だ。


「今から棍棒を作るから、二人はまた石集めをお願いしてもいいかな?」

「よっしゃ任せとけ。積み上げてやるよ」

「武器づくり、頼みます!」


 地面の上に水たまりのような形で広がって固まっている鈍色の板と、イアナの曲がった棍棒を鍛冶魔法でひとまとめにしつつ、武器に最適な硬さへと練り上げていく。

 その作業の中、石を積んでいるイアナに問いかける。


「イアナはどんな棍棒が欲しいんだ。曲がってしまったものと同じでも良いのか? それとも変えた方がいいのか?」

「えーっと、武器のことは良く分からないので、バルティニーさんにお任せします」


 逃げるように石集めに戻るイアナを見て、それが一番困るのだけどと思いながらも口には出さずに、とりあえず鉄を棒状に伸ばしてみることにした。

 その後で、両手で扱うに適した長さにしつつ、攻撃力を増すために頭が少し重くなるよう工夫する。

 それだけだと重くなってしまうので、枝を使って中心部をくりぬいて、多少の軽量化を図る。

 こうやって工夫していくと、やはりというか、形が金属バットに似てきつつある。

 差別化を図るために、棍棒の頭にトゲやイボをつけようかとも思ったが、それはそれで別の何かに似てくる気がする。

 少し迷ったが、イアナの使い勝手を考えて、少し大型の金属バットに似た形に留めることにした。

 出来上がりかけを試し振りしたり観察しながら、少しずつ手直しをしていく。

 満足いく仕上がりになったところで、テッドリィさんとイアナの石集めも終わったらしい。


「ほら、イアナ。新しい棍棒だ。不満な点があれば直すから、遠慮なく言えよ」

「ありがとうございます。へぇ、なんか振ってみると重さが手に馴染む感じです!」

「イアナの成長に合わせて、少し重めに調整したのが当たったようだな。さて、家の基礎作りに戻るか」

「あたしらは、石集めするとするよ」

「わたしも集めますよ! この棍棒なら、岩を砕いて持ち運ぶこともできそうです!」

「直してはやるけど、あんまり乱暴に扱うんじゃないぞ」


 石集めに向かう二人を見送ってから、俺は鍛冶魔法で鉄を抜いた後で、石を粘土状にまとめて家の基礎に使用していく。

 その後で全員で作業を四度繰り返して、敷地面積の小さな家と、それに併設する倉庫の基礎が出来上がった。

 鉄もそれなりの量が集まった。

 その出来栄えに満足していると、そろそろ夕日が落ちそうになっていた。


「とりあえず、今日はここまでだな。砂浜にある物資は俺が運ぶから、二人はここで休んでて」

「おう、頼んだ」

「石集めに歩き回って、疲れましたー」


 家の基礎に腰掛けて休む二人を尻目に、俺は体に攻撃用の魔法で作った水を纏わせると、避難艇一隻分の物資をひとまとめにして運ぶ。

 家の建設予定地の横に積み上げると、森からチャッコが意気揚々と戻ってきた。

 その口には丸々とした大きな猪が咥えられているので、今晩のごはんはきまった。


「ありがとうな、チャッコ。すぐに捌いてしまうからな」

「ゥワウ!」


 待ちきれない様子のチャッコに応えて、猪の毛皮を剥ぎ、腹を裂いて内臓を出す。

 内容物が出ないように、喉と肛門の管を縛り、可食の臓器を切り分ける。

 それらは全てチャッコに渡して、俺は肉を捌きに入る。

 テッドリィさんとイアナも手伝ってくれて、あっという間に、毛皮の上には各部位の枝肉と、肉が削げた骨が積まれることになった。


「じゃあ、鍋を作って煮込んでいこうか」

「腹減って煮えるのが待てそうにないから、肉をそのまま焼いてくれないかい」

「物資の中に食塩や香辛料がありましたし、船員さんに渡さなかった香草もありますから、焼肉にしましょう!」


 テッドリィさんとイアナの求めもあって、俺は新たに拾ってきた小岩を竈と石板に鍛冶魔法に変える。

 その後で、竈に火を入れて、猪の肉を一口大の薄切りにしたものに塩と香辛料で味付けしてから、熱した石板の上で焼いていく。

 薄切り肉は焼ける端からテッドリィさんとイアナの口の中に消えていくので、大きめかつ厚めに切った肉を石板の端で焼いてイノシシステーキにする。

 すると内臓肉を粗方食い終えたチャッコが、俺に近寄り、体を擦りつけてきた。


「ゥワウ」


 厚い肉をくれと言われて、俺はまだ焼けてないと頭を撫でて待つように告げる。

 こうして、まだ大したもののない港になる予定の場所での、最初の一日は更けていくのだった。


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