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二話 ここはファンタジーな世界らしい

 赤ん坊になったと気がついてから、たぶん一ヶ月ぐらい経ったと思う。

 いま俺は、あの恰幅の良い母親が手を叩いているほうに、ハイハイで移動をしている!

 どうやら俺の意識が目覚める前に、数ヶ月は経っていたみたいだ。

 まあ、何はともあれ、適度な運動は体の成長にいいので、この体を前と同じチビにはしたくない一心で、ハイハイを頑張っている。

 しかし、体の重さに筋力が負けているのか、ときどき手や足が床を滑るので、これが意外と難しい。

 こういうときこそ、体が勝手に動いてはくれないものかと思う。

 だが、この一ヶ月でそういう状態は、泣きだす以外にはならないと理解していた。

 なので、自分で意識して必死にハイハイをするしかない。

 ここでの苦労が、将来の身長に繁栄すると思えば、床につく手と蹴りだす脚にも力が入る!

 やがて母親に到着すると、彼女は部屋の反対側へ移動して、また手を叩く。

 俺はまたハイハイで、それを追う。

 しかし、ハイハイだけしているのも気分がダレるので、この一ヶ月で分かったことを思い返しながらやってみることにする。

 俺が赤ん坊になった――いや、生まれ変わったのは、絵本とか漫画やゲームなんかでモチーフにされるような、古い欧州系なファンタジック世界らしかった。

 どうしてこの部屋から出してもらえないのに、それを知ったかだが。

 ある日の夜中、俺が――もちろん体が勝手に――泣いたときだ、母親が来る前に別の女性が二人来た。

 一人は部屋が暗いと見ると、指先に火を灯し続けて中を照らした。それこそ、魔法のように。

 いや、あれは実際に魔法だったらしい。日を跨いだあとで、その女性が水瓶に手から出した水を入れていたし。

 もう一人の女性も、赤ん坊になる前には見たことのない人種だった。

 頭の上に耳があって、尻尾もあり、人間と犬系統の獣をミックスした特殊メイクみたいな顔をしている。

 その獣っぽい人――短くして獣人と呼ぶことにする――に、遅れてやってきた母親が親しげに話しかけていたので、この世界では珍しくはないように感じた。

 このことから俺は、赤ん坊に戻ったのではなく、どこか別次元の魔法や獣人がいるファンタジックな世界に生まれ変わった。そう結論付けたわけだ。

 そんな風に思い返している内に、ハイハイの時間は終わっていたらしい。

 俺は母親に持ち上げられ、授乳され、オムツの中を確かめられた後で、ベッドの上に寝かされた。

 睡眠は体を成長させるために必要不可欠な要素なので、あっさりと目を瞑る。

 

「―――、――」


 何を言っているかはまだ分からないが、たぶんおやすみなさいとかそんな感じのことだろう。

 そう言い残して、母親はこの部屋から出ていった。

 そこで、ちらりと目を開けて、部屋の様子を確認する。

 誰もいないと確かめてから、俺は再び目を閉じて、体の中を探るように意識する。

 これは何をしているのかというとだ。

 魔法がある→なら人体には魔力があるはず→魔力を感じられれば、魔法が使えるかも!?

 といった感じで、ファンタジックな世界に生まれ変わったからには魔法を使ってみたいので、自己努力をしているわけだ。

 それでだ。約一ヶ月間行ってきたので、だいぶコツを掴んできて、魔力らしきものを感じることは出来るようになってはきている。

 しかし、感じられる量が、あまりにも少ない気が、ここ最近していた。

 なんというか、ヘソのあたりに、小石ぐらいの大きさしかないような感じなのだ。

 赤ん坊ならばこの程度が当たり前なのか、それとも平均以下なのか。

 そんな判断を下す材料がなく、この小石大の魔力をどう考えればいいか思い悩む。

 悩んでいるうちに――


「くー……くー……――ハッ!?」


 ――とこんな感じで、うっかり寝落ちしてしまうことが多いと最近知った。

 そのため、あまり悩んではいられなので、今日こそはこの小いさな魔力をどうするか決めようと思っている。

 さて、こんな量しかないので、体の外に出すのは怖い。

 かといって、この量が少ない基準だった場合、魔法が使えない恐れがある。

 しかし、魔力の増やし方なんて、前世になかったのだから知らない。

 さてどうするか――


「……くー……くー……くー……――ハッ!?」


 ――いけないいけない。ハイハイを頑張りって失った体力を、体が求めているようだ。

 とりあえずは、体の中でこの魔力を動かせるか試してみることに決めよう。

 体の外に出すわけではないのだから大丈夫だろうし、ストレッチは身長を成長させる基本だ。恐らく魔力にも効くだろう。

 では、目を閉じて魔力を感じて。それを動かすように意識を――


「……くー……くー……くー……くー…………」


 そして、お腹が減りすぎて体が勝手に泣きだした声で起きると、すっかり夜になっていたのだった。


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