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二百六十一話 事態の変化

話数がひっちゃかめっちゃかになっていたようで、ご迷惑をおかけしました。

訂正し、謝罪させていただきます。

 次の日。

 夜も明けきらないうちに、俺は起きた。

 同じベッドで眠っている、テッドリィさんに目をやる。

 起きている間は男顔負けなのだけど、その反動かのように寝ている間はあどけない表情を見せている。

 俺と一緒に寝ているときにだけ見せてくれる表情に、心を許してくれているんだろうなって、自惚れに思う。

 幸せそうな寝顔のテッドリィさんを一撫でしてから、俺は出かける準備をして部屋の外へ。

 ちょうどそのとき、イアナたちがいる隣の部屋の扉が開いた。

 顔を向けると、眠気眼のイアナが開けた扉の隙間から、チャッコがするりと出てくるところだった。

 たぶんだけど、俺が起きたのを感じて、チャッコがイアナを起こしたんだろう。


「おはよう。もう少し寝ていたら?」

「ふわぁ~、そうしますー……。いってらっしゃーいですー」


 頭が回っていない様子のイアナは、扉を閉める。

 そして、鍵をかける音が聞こえてきた。

 俺も出てきた部屋の扉を閉め、鍵で施錠する。使った鍵は、扉の下の隙間から中に滑り入れておく。

 

「さて、狩りに行くか」

「ゥワウ」


 元気よく、けれど声は控えめなチャッコが吠えたのを合図に、俺たちは宿を出ていく。

 早朝の町中は、廃墟のように静まり返っている。

 食料が乏しいので、一回でも食事数を減らそうと、住民たちは遅く起きてくるためだ。

 静謐な空気の中を歩き、町の出入り口から近くの森に入る。

 そこから断崖――いつも上っている場所を目指していく。

 程なくしてたどり着き、俺は水を体に纏わせる魔法を使い、チャッコは素の身体能力で崖上までいった。

 周囲を探ると、獲物になりそうな気配は薄い。

 どうやら、俺たちが上ってくる場所が割れて、警戒されてしまっているようだ。

 それでも、豊富に獲物や野草はまだまだあるようなので、狩りの心配は要らないと判断した。


「チャッコの鼻もあるしね」

「ゥワウ」


 任せておけと言いたげに鳴くと、チャッコは先に走り始めた。

 俺が追っていくと、チラチラとこちらを見てくる。

 なんとなく、追ってこれるか試しているような気がした。

 この程度なら、魔法を使わなくても追えると意地になり、俺は二つの脚を交互に素早く動かしていく。

 それから程なくして、最初の獲物が目に入った。

 冬でも餌が豊富な森で冬眠が要らないからか、大猪が土の上で寝返りを繰り返している。

 俺は走りながら弓を構えようとして止め、代わりに鉈を引き抜く。

 そして走る勢いのまま、地面から起き上がって逃げようとする猪の頭に、鉈を振り下ろした。


「たあああああぁぁぁぁ!」

「――フゴゴッ」


 一撃で、頭蓋から上顎まで鉈で叩き割った。

 大猪は頭から血を噴きながら、音を立てて地面に横たわる。

 鉈を引き抜き、血を抜くために首と後ろ足に切れ目を入れておく。

 幸先のいい成果に、俺もチャッコも機嫌が良くなった。


「この調子なら、昼頃に町に戻るまでにはかなりの量が集められそうだな」

「ゥワウ!」


 チャッコが、やるぞと鳴き、またもや先導して走り出す。

 俺は大猪を担ぐと、チャッコの後を追って、次の獲物を探しに行くのだった。





 昼までに、四つ足の獣を五匹、鳥を七匹狩り、持てる限りの果物や野草を集め終えた。

 大猟も大猟な成果をまとめ、いつものようにチャッコを連れて崖から飛び降り、崖下の森に着地する。

 昨日の今日で新しく協力してくれる野盗は用意できなかったようで、途中でゴブリンを狩り集めている人に出くわした以外に、町までの道のりに特異な点はなかった。

 町中に入り、冒険者組合へ。

 獲物を引き渡すと、職員が報酬を渡してくる。

 相変わらず宝石の原石をくれるが、その宝石たちを見て、俺は首を傾げた。

 渡された宝石の量と質が、前より落ちているように見えたのだ。


「昨日より、報酬が少なくなってませんか?」


 小声で質問すると、職員が少し困ったような顔を返してきた。


「実は、アリアル領から食料が届くと、知らせがやってきたんですよ」

「そうなんですか?」

「向こうにある組合の支部の話では、領地の脅威が早めに払拭されたので、念のためにと集めた資金や食料に余剰があり、それをマインラ領に開放するとのことです」

「食料がくる目途が立ったから、報酬を出し渋り始めたってことですね。しかし、それっていつ来た情報なんですか?」

「昨日の夜中です」

「そんな最新の情報を、依頼を出す人たちが良く耳にできましたね」

「人の口は殺す以外に塞げないとも言いますし、この町ではもともと食糧関係の話が広まりやすいという特徴がありましたので」


 そうなのかと納得すると、職員がおずおずと問いかけてきた。


「報酬に満足されないようでしたら、取りやめてもよろしいですよ」

「いえ、不満はありませんよ。それに、今日狩った獲物を持ち帰っても、近々町を離れる予定なので、持て余してしまいますし」

「おや、違う場所に向かう予定があるのですか?」

「この町に来たのは、金貨を宝石に替えるためでしたからね。食料事情が改善されるようなら、俺が居続ける意味は薄いですし」

「そうなのですか。腕のいい冒険者がいると、当組合としては心強いのですが。ほら、鉱山にでるゴーレムは脅威ですから」

「宝石のゴーレムの居場所が判明して、近日中に倒される見通しって聞きましたけど?」

「一匹倒しても、第二第三の宝石ゴーレムが出てこないとは、言いきれません。そして、それ以上に手強いゴーレムも現れる可能性があります。楽観はできませんよ」


 昔にテッドリィさんと過ごした開拓村の森にも、ゴーレムは複数の種類が出てきていた。

 それを考えれば、鉱山という石が豊富にある場所には、より多くの種類のゴーレムが出てもおかしくはない。

 対処が大変そうだとは思うけど、ゴーレムを倒して鉱山の安全を守ることは、ひいてはあの貴族の利益につながる。

 そのことが嫌だなと思っていると、職員が苦笑いを浮かべた。


「昨日バカ領主に命を狙われたばかりな人に、頼むことじゃありませんね。配慮が欠けておりました」

「いえ、それ自体は大したことじゃないんで気にしなくていいです。けど、あまり関わり合いになりたくないのは本当の気持ちです」

「それもそうでしょう。いつ出立するか決まり次第、教えてください。あなたに感謝する住民は多いので、彼らに知らせずに去ったら後が怖いですよー?」


 半笑いで脅し文句をだす職員に、俺は笑みを向ける。


「あははっ、それは怖そうですね。いまの予定としては、明日に出ることになってますけど、一日二日ぐらいは先延ばしできると思いますね」

「それはよかった。でも、この町は噂が素早く流れますから、先延ばしは必要ないと思いますよ」


 笑顔を交換して、俺は去ろうとする。

 そのとき、組合に駆け込んでくる冒険者がいた。


「大変だ! 鉱山がやばい!」


 大慌てな様子に、居合わせた全員が顔を向ける。

 駆け込んできた人は、息も絶え絶えな様子で、大声で報告を始めた。


「領主のヤツ! 大量の奴隷に武器を持たせて、坑道に入れやがった! 奴隷の人減らしと、宝石ゴーレムを横取りをする気だ!」


 話を聞いて、冒険者たちが浮足立つ。

 職員も苦々しそうな顔になる。


「領主が買った奴隷の大半は盗賊――つまり犯罪奴隷。生き死にの保証をしなくていいとはいえ、こうも人命を軽視する行いをするなんて……」


 その声を耳に入れ、俺は心配事ができた。

 イアナとテッドリィさんは、宝石ゴーレムを倒しに向かう冒険者たちの護衛として、あの鉱山にいるはずだ。

 奴隷たちがどんな命令を受けたかは分からないが、武器を持つ野盗が大量に入ったと考え変えたら、二人の身が危険だと簡単に想像がつく。

 俺は舌打ちしたい気分で、職員に問いかける。


「仲間を助けに行きたいんですが、坑道の地図はないですか?」

「すみません。坑道の把握は、冒険者組合ではなく、鉱物商や宝石商の組合の仕事ですので」


 要するに、地図はないらしい。

 こうなったら、チャッコの鼻だよりで探そうかと考えかけ、はたと思い出した。

 宝石の加工をお願いしているグンツは、宝石商とも言えることに。

 彼なら地図を持っているか、伝手で手に入れられるかもしれない。

 俺は職員への挨拶もそこそこに、チャッコを連れてグンツの店に向かうことにした。

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