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二百六十話 明日からの予定は

 魔法を使ったエルフ式調理法で、売らずに残した鳥を焼き上げ、それを部屋の中で食べることにした。

 樽風呂で身綺麗になったイアナとテッドリィさんと共に、焼いた鳥をナイフで解体しながら食べていく。

 その横で、チャッコが鳥の内臓を食べ終えて満足そうに床に伏せている。

 そんな食事風景の中、俺たちの話題は自然と、ここの領主のことになっていく。

 鳥のもも肉に齧りつきながら、テッドリィさんが肩をすくめる。


「領主貴族ですらひもじくて、盗賊の手を借りるだなんてねぇ。この土地、終わってないかい?」

「アリアル領に食料を依存していたらしいからね。食料を自分の領で作る考えは薄かったんじゃないかな」

「マインラ領には宝石や金銀が採れる鉱山があるんです。食料は育てるものじゃなくて、買う物って言う意識が強いんじゃないですか?」


 イアナの発言に、テッドリィさんが面倒くさそうな顔になる。


「そんで、買う金がなくなりゃ、住民が野盗になるってわけだ。やってられないねぇ」

「けど、野盗になってくれたら、領主としては楽なんじゃないかな。ほら、鉱山で働く奴隷が手に入るんだし」

「確かにそうだねぇ。ああ、だからアンタを狙ったのか」


 テッドリィさんは、納得がいったという顔をする。

 俺が訳が分からずに首を傾げると、説明してくれた。


「奴隷の雇い主ってのはね、奴隷たちに食い物を渡す義務が生まれるのさ。領主が大勢の鉱山で働く奴隷を囲っているなら、それだけ食うものが大量に必要になるってわけだ」


 聞きながら思い出したのは、俺たちがここまできた道中の光景だ。


「奴隷商が捕まえた野盗を買い取る馬車を廻していた事を考えると、結構な数の奴隷が生まれたんじゃないかな」

「その奴隷を奴隷商から買い、食糧難なのに奴隷の食いものも買うんだ。金銀宝石が簡単に手に入る土地の領主だって、金が尽きるってもんだろうねぇ」


 テッドリィさんの筋道立てた予測は、説得力がある。

 俺が理解を示す横で、イアナは顔を引きつらせていた。


「あ、あのー。旅の一座が街角で披露していたお芝居だと、貧乏貴族ってなにをするか分からない、典型的な悪役なんですけど。大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫って何が?」

「バルティニーさんは崖上の森から肉や野草を持ってきて、かなり稼いでいますよね。悪徳領主が難癖をつけにくるんじゃないかなと……」


 イアナが本気で心配している様子に、俺は苦笑いを返す。


「演劇の中で、そういった場面があったんだろうけど。それはあくまでお芝居だろ?」

「お芝居の中の方が現実に起こる事態よりも手ぬるい、って格言もあるけどねぇ」


 テッドリィさんの釘刺しに、俺は少し口を噤む。


「……用心することに越したことはないね。でも、テッドリィさんやイアナだって、気をつけないといけないんじゃないか?」


 指摘すると、二人とも分かっていない様子だった。


「二人は、宝石のゴーレムを倒す一団の護衛で、坑道に入っているんだろ?」

「そうだが、それが――ああー、領主の手勢がゴーレムを横取りしにくるって可能性もあったか」


 テッドリィさんが合点が言ったという表情になり、横でその言葉を聞いたイアナは顔を青くする。


「それって、わたしたちが危険ってことじゃないですか! 報酬が安いのに、土濡れになった上に領主にも狙われるなんて、割りが合いませんよ!」


 喚くイアナの口に、テッドリィさんは手にしていた鳥の胸肉を突っ込んで黙らせる。


「声が大きいよ。誰かに聞かれて、変な噂を流した罪で領主にしょっ引かれたらどうするんだい」

「むぐむぐ、ごめんなさい……」


 意気消沈しながらも、イアナは口に入った鳥肉をちゃんと食べていた。

 俺は、ここまでの話を取りまとめて、今後の方針を考える。


「結局のところ。この土地を離れるか、領主が何かしてくるんじゃないかって、注意しながら暮らすしかないね」


 俺の呟きに、イアナが返答で口を開きかけ、それよりさきにテッドリィさんが言葉を発する。


「明確に危険だと決まったわけじゃないんだ。それに今日、宝石ゴーレムがいる場所がようやく掴めたんだ。すぐに町を離れるって案に、あたしは反対させてもらうよ」


 その意見に、イアナはとても不服そうだ。


「例のゴーレムがいる場所が分かったんですから、わたしたちの依頼もほぼ終わりも同然じゃないですか。安全を考えて、町を離れるほうがいいと思うんですけど?」

「一度受けた依頼は完遂するのが、冒険者の鉄則だよ。同然じゃダメだ」


 テッドリィさんは厳しい目をイアナに向けつつ、続ける。


「それに依頼を取りやめる理由を聞かれたら、領主に狙われているかもしれないから町から逃げ出します、って話すのかい? 腰抜けって笑われるのがオチだねぇ」


 言われたイアナは、意外なことに、テッドリィさんを鼻で笑って返す。


「ふんっ。笑われるぐらい、どうってことないじゃないですよ。腰抜けでも、生きている方が重要ですし」

「他の冒険者に下に見られると、あたしらのような女性冒険者は苦労するってわかって言ってんのかい?」

「苦労するからって要らない場所で命を懸けるのは、単に向こう見ずなだけですよ。そういう人は、すぐに死んじゃうんですからね」

「へぇ。駆け出し冒険者が、一丁前の口を叩くじゃないか」

「悪いですけど、生まれてからずっと路上生活孤児だったわたしの方が、日々を生き延びるという点においてはテッドリィさんより先輩です」


 二人は睨み合うが、掴み合いに発展するほど、激情しているわけでもなさそうだ。

 放っておこうかなとも思ったが、俺も意見を言わないといけない気がした。


「俺もまだこの町に用事があるから、明日に出発って案は、どっちにしても無理だぞ」


 俺が告げると、イアナは裏切り者を見る目を向けてきて、テッドリィさんは喜びの顔を浮かべてきた。


「……命の危機なのに、暢気に用事ってなんですか」

「ま、バルティニーにしちゃ、この程度の苦難は大したことないんだろうさ。なにせ、オーガを鉈で斬り殺す猛者だからねぇ」


 二人が誤解しているようなので、それを解くために言葉を付け加える。


「加工するために預けた宝石を、取りに行きたいだけだよ。それが終われば、この町を離れてもいいとは思っているよ」


 そう話すと、今度はイアナが嬉しそうな表情になり、テッドリィさんは失望したような顔になる。

 どうすりゃいいのかと悩みかけ、全員の意見を叶える方法があることを思いついた。


「居場所が分かったんなら、明日のうちに二人が護衛する人たちを、宝石ゴーレムと戦わせることができるよね?」


 尋ねると、テッドリィさんは頷き返す。


「その通りだよ。明日一当てして、その経験をもとに攻略の手順を整えるって段取りになるはずさ」

「そのとき二人は、宝石ゴーレムと戦わないんだよね?」

「そりゃそうだよ。アンタが石から宝石を作れるんだ。命を懸けて戦うにしちゃ、意味のない相手だからねぇ」

「依頼内容も、あのゴーレムと戦う人たちを護衛して連れて行くってだけです。戦っちゃったら、逆に依頼違反になっちゃいますね」

「それならその依頼って、その人たちをゴーレムと戦わせられたら、果たしたってことになるんじゃない?」


 そう尋ねると、テッドリィさんは小難しそうな顔になり、イアナは光明を見つけたような表情になる。


「それは――そう考えても変ではないけどねぇ」

「いえ、完璧に依頼を果たしてますよ。宝石ゴーレムと戦う人たちにとったら、打ち倒したときに分け前を要求されないように、他に人がいないほうがいいに決まっているんですから」

「あたしは、予定外の金品を貰おうって気はないんだよ?」

「テッドリィさんがそう思っていても、あの人たちはそう考えないかもしれないじゃないですか」


 指摘され、テッドリィさんは眉を寄せて考える素振りをする。

 俺は慎重派なイアナらしい言葉に理解を示しつつ、ここまでの話題を終わらせにかかる。


「なんにせよ、俺たちは明日一日だけはこの町にいることに決まったんだ。その後のことは、また明日に話し合えばいいだろ」

「そうですよね。明日に、町から出る準備をしましょう!」

「あたしらが護衛しているヤツらが、依頼を打ち切るか分かってないんだ。準備をする気なのは、気が早いよ」

「やだなぁ、分かってますって。でも、準備することになると、わたしは思ってますけどね」


 ウキウキとしたイアナと、困惑顔のままなテッドリィさんを見つつ、俺は冷め始めた鳥肉を解体して口に入れたのだった。

 

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