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二百五十六話 宝石加工店のグンツ

 ドワーフのグンツに会いに、彼の店に入った。

 中はかなり手狭で、カウンターと出入り口の間は、俺とチャッコが入ると満杯な感じになってしまった。

 そのカウンターの向こうに、グンツの姿がある。

 なにやら作業をしているようだ。


「お邪魔します。なにしているんですか?」

「ん? おお、さっきの兄ちゃんか。なに、鎖と楔を繋いじまったからな。外しているんだ」


 グンツは言いながら、鍛冶魔法を使い、楔の輪の中から鎖を外していく。

 本職は宝石の加工のはずだけど、鍛冶師顔負けの熟練した手つきだ。

 作業をじっと見ていたら、グンツはやりにくそうな顔になり、鎖をひとまとめにして床に置いてしまった。


「こんなのは後でやろう。それで、なにか用があってここにきたんだよな?」

「それはもちろん。実は、宝石を見てもらおうと思いまして」

「そういえば、いまは冒険者への支払いを宝石にしている人が多いんだったな。その価値を確かめに来たってことか?」

「それもありますが、宝石店で買った原石も見てもらいたくて」

「それぐらいならお安い御用だ。崖上で出会った縁だ。それぐらいはタダでやってやろう」


 グンツの気前のいい言葉に、俺はいま持っている宝石をカウンターの上に並べた。

 その中に、俺が魔法で大きさを加工した、あの宝石も混ぜて置いてある。

 グンツはざっと見やると、いの一番に魔法で加工した宝石を手に取った。


「ほぅ、いい物があるじゃないか。これは宝石店で買ったのか?」

「金貨が溜まっていたので、宝石の原石に替えたんですよ」

「兄ちゃんは、この町に居ついた奴じゃないと思っていたが、そんな理由で冬にくるとはな」


 呆れ声を出しつつも、グンツは宝石にじっと目を凝らしている。


「こいつは良い石だ。色味と艶めきに色気がある。ここ最近に出た物の中じゃ、一番と言っていいだろう」

「なにか、変な部分とかはありませんか?」

「ないな。金貨いくらで買ったかは知らんが、これ一つで三十枚分の価値はある」


 どうやら、俺が魔法で作った宝石は、本職の宝石加工職人でも見破れないらしい。

 ここまでくると、その評価は外から見ただけのものなのか、それとも中まで本物と変わらないかが、ちょっと気になってくる。

 俺が少しだまっていると、グンツが内緒話をするように囁いてきた。


「オレに加工を任せてくれりゃ、こいつを五倍以上に価値を跳ね上げてみせるぞ。どうする?」


 グンツ自身からの腕の売り込みに、俺は後ろ頭を掻く。


「宝石を加工したら、持ち運びに不便だと聞いたんですけど。ちょっと傷がつくだけで、価値が暴落するとも」

「なんだ、そんなことか。それなら、いい方法がある」


 グンツは別の小さな宝石に持ち替える。

 そして、薄板状の石片をカウンターの下から取り出し、鍛冶魔法で柔らかくしていく。

 その後で、まんじゅう作りのように、宝石を柔らかくなった石片で包みあげた。

 グンツは出来上がったものを、こちらに渡してくる。


「こうすれば、運んでいるときに宝石が傷つくことはなくなるし、知らないやつが見れば単なる石にしか見えないって寸法だ」

「なるほど。宝石自体には鍛冶魔法が通じないから、売るときに綺麗に除去すれば、綺麗なままで売れますね」

「そういうこった――って、よく兄ちゃんは鍛冶魔法と宝石の関係を知っていたな?」

「俺も鍛冶魔法が使えますから。いま帯びている武器は、自作したものですよ」


 体を捻って鉈を示すと、グンツは感心顔になる。


「ははぁ、よくもまあそこまで作ったもんだ。ドワーフ製と偽っても、通りそうな出来栄えに見えるぞ」


 話が脱線しかかっているので、俺が大きさを加工した宝石の話に戻すことにした。


「ありがとうございます。それで、その宝石の加工なんですけど」

「お、任せてくれるのか?」

「はい。お願いしようと思います」

「よっしゃ。こんないい物を扱えるとあっちゃ、気合を入れて取り掛からないとな」


 嬉しがるグンツに、一つだけ注文を出すことにした。


「加工の際に、なにか変な点に気づいたら、取りに来たときに教えてはくれませんか?」

「変な注文だな。なにかいわくつきなのか、この宝石?」

「まあ、少しだけ」

「ふーん。その様子からするに、盗品うんぬんではなく、採れた場所が問題っぽいな。この宝石が『二重宝石』じゃないかと期待しているなら、無駄なことだぞ」


 初めて聞く単語に首を傾げると、グンツは予想が外れたという顔をして説明してくれた。


「二重宝石っていうのはな、例えば紅い宝石の中に、黄色や青の宝石が入っているもののことだ。加工次第で色合いが複雑に出るから、単一色の宝石よりも価値が跳ねあがるってものだ」

「へぇー、そんな宝石があるんですね」


 魔法で石から宝石に作り変えられるこの世界でなら、そういう宝石もできるんだろうと思った。

 なにせ、その二重宝石とやらは、魔法で作れそうだからだ。

 手順はこうだ。

 まず石から紅玉を作り、鍛冶魔法でその周りを石で覆う。

 そして覆った石の方を、魔法で別の宝石に変える。

 こうすれば、二重宝石の出来上がりだ。

 とまあ、仕組みは考えることはできるけど、実際に作ろうとしたら内と外の宝石に魔法の影響が出るはずだから、そう簡単じゃないんだろうな。

 なんにせよ、俺手製の宝石が本物と遜色ないか、グンツに確かめてもらう話に戻そう。


「二重宝石うんぬんも含めて、その宝石に何か変わったことがあれば、教えてください」

「おう、任せろ。そんで加工賃だが、オレは腕の安売りはしない主義だ」

「分かってます。いくらですか?」

「いまの時期で、銭や宝石を貰っても仕方がない。食い物がいいな。脂が乗った鳥一羽か、一抱えほどの肉が適正価格だろう。むろん、酒一瓶でも構わない」


 そういうことならと、携行食を漁る。


「なら手付けとして、干し肉を渡しておきますね」


 小判型の干し肉を数枚渡すと、グンツは嬉しそうに一枚を口に含んだ。


「肉を食えば、作業にも身が入るってもんだ。出来上がりは三日後。その時までに、残りの代金は持ってきてくれ」

「分かりました。でもお酒だけは、当てにしないでくださいね」

「分かってる。酒だけは森で採れたりはしないからな、仕方がない」 


 肩をすくめるグンツと別れ、店を出た。

 俺は大人しく待ってくれていたチャッコの、頭と首元を撫でてやって、宿に引き上げることにしたのだった。

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