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二百五十五話 マインラ領の領主

 巻き取った鎖を抱えたグンツと共に、俺とチャッコは鉱山町へ戻った。

 冒険者組合に向かう途中で、グンツはある建物を指す。


「それじゃあ、オレは店に戻るとするよ。まあ、客なんぞ来やしないんだけどな」

「そういえば、宝石加工の店なんですよね?」

「そうとも。かなり腕は良いと自負しているぞ。奇妙な縁で知り合った間だ、仕事があれば受けてやらんこともないぞ」


 宝石が自作できると知ってすぐに、渡りに船だ。


「じゃあ、獲物を冒険者組合に卸してからきますね」

「おう。待っているよ」


 グンツと別れ、冒険者組合に入る。

 すると、俺が獲物を取ってきたと噂にでもなっていたのか、冒険者ではない人が大勢詰めかけていた。

 けど、前のときのように、我先に取ろうとはしてこない。

 彼ら彼女らの視線を追うと、職員の姿がある。

 どうやら、前のときにこっぴどく怒られたようだ。

 俺は安心して職員に近づき、持ってきた獲物を渡す。

 その量に、職員は笑顔になった。


「バルティニーさん。今回も大猟ですね。こうして食糧事情に冒険者が活躍すると、組合も鼻が高くなります」

「自慢になるから、もっと卸せってことですか?」

「いえいえ、強制なんてしませんよ。バルティニーさんが望む頻度で、うちに卸してくれれば、それで構いませんとも」


 建前で言っていると分かる口調だった。

 組合としても稼ぎどきだからなと理解しつつ、さっさと報酬を受け取ることにした。

 今回も、指の爪ほどの大きさの原石だ。

 革袋に仕舞っていると、組合の出入り口が騒がしくなる。

 職員がそちらを見て、嫌そうな顔になり、俺に小声で警告してきた。


「バルティニーさん。こちら側の机の下に、隠れてもらえませんか?」

「構いませんけど……」


 事情は飲み込めないが、素直に従い、さっと身を隠す。

 安心したような顔の職員に向かって、傲慢そうに聞こえる足音が近づいてきた。

 続けて、偉そうな声がやってくる。


「おい。ここにある肉は、全て持って行く。構わないな?」

「これはこれは、ビータン・マインラ・ウィッカーン様。申し訳ありませんが、それは出来かねますね」


 職員の言葉の人名に『マインラ』が入っていることから、どうやら相手はここの領主らしい。

 そのビータンという貴族は、傲慢な口調で職員に迫ってくる。


「おい、いい態度だな。この俺の号令一つで、組合なんて閉鎖できるんだぞ?」

「当組合は、王権によって独自性が認められています。そんな真似をして、平気なのでしょうか?」

「そうであっても、領主の権限で運営を停止させることはできるのだ。お前らが力を持ち過ぎないようにな」

「そういうことでしたら、どうぞご自由に。職員一同、別の土地で長い冬休みに入らさせていただきますので」

「……一職員が、ずいぶんと偉そうに言ったものだな」

「当組合の統括官から、こう対応せよとのお達しですので」


 にべもなく断られて、ビータンの物らしき歯ぎしりが聞こえてくる。


「ああ言えば、こう言いおって……。チッ、ならば依頼に出した分だけでいい」

「申し訳ございません。ウィッカーン様にお渡しする分は、ここにございません」

「なんだとぉ? 嫌がらせのつもりなら――」

「いえいえ、そうではございません。依頼料が少なかったので、冒険者の方がお受けにならなかったのですよ」

「少ないはずがない。相場通りの報酬のはずだ」

「相場は変化するものですよ。平時なら十分でも食糧難の今では、ウィッカーン様の依頼料は最安値です」

「業突く張りめ。他人の不幸で稼ぐ気か?!」

「我々も冒険者たちも、これが生業ですので」


 取りつく島のない様子に、憤慨したような地団駄が起きた。


「ええい! ならば、これを納めた冒険者を紹介しろ! 直接交渉してやる!」

「さて、どこにいるかは分かりかねます。問題のない冒険者について、どこに行きどの宿に泊まるかは、組合が知っておく義務はないですので」


 白々しい言葉に、俺は笑いそうになった。

 一方のビータンは、言い負かされて悔し気な声を出してくる。


「ぐぐぐっ。せいぜい、いまは大きな顔をしているといい。冬が明けたら、ほえ面をかかせてやる」

「食料を運んでくる行商の護衛依頼は、冒険者が受けていることはお忘れなく」


 職員の言葉に歯ぎしりが返ってくる。

 その後で、大きな足音が組合の外へと向かっていく。

 俺はこっそりカウンターから少し顔を出し、ビータンの姿を確認する。

 護衛らしき金属鎧を着る三人の間に、体中を宝石で飾り立てる、力士もかくやという、大恰幅な人物がいた。

 この世界だと、太っている男性権力者は悪者に見られる風習があるが、ビータンはその典型な人なようだ。

 彼が去ると、職員が出てきていいと身振りをする。

 俺は立ち上がりながら、疑問を投げかける。


「領主に、ああも啖呵をきってよかったんですか?」

「いいんです。我々がこの土地に組合を置いているのは、無能な領主に困る、住民の皆さんのためです。そうでなければ、とっくに引き上げています」

「それも統括官って人の指示ですか?」

「その通りです。人は生まれる親と場所は選べないのだから、人が困っている場所こそ、冒険者の力が必要だと仰られています」


 なかなかに好人物のようだ。

 けど、領主のビータンと職員が言い争っているところに来ないという事は、その統括官はこの町とは別のところに居るんだろうな。

 そんなことよりもだ――


「――それじゃあ、俺は次の約束があるので行きますね」

「引きとどめてしまって、申し訳ありませんでした。行ってらっしゃいませ」


 職員に見送られ、組合を出る。

 それからすぐに、肉を手にした人たちが、組合建物から出てきて、嬉しそうに走り去る光景が現れたのだった。

少し短いですが、区切らせていただきます

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