表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/313

二百四十三話 野盗の生きる道

 野盗を捕まえ、歩かせているのだけど、選択肢を間違えたかもしれないと後悔していた。


「止まれ。食い物を置いていけ!」

「ついでに、捕まえているヤツも解放してもらおうか!」


 このように言ってくる新しい野盗が、五人現れたからだ。

 半目を捕まえている方の野盗に向けると、仲間じゃないと首を横に振ってきた。

 次に目をテッドリィさんに向けると、肩をすくめられてしまった。


「運が悪いと、何度も野盗に出くわすって聞いたことがあったけどね。あたしでも、すぐに遭遇するのは初めてだよ」


 どうやら珍しい状況ならしい。

 それならしょうがないなと、俺は拳を握りしめて新しい野盗に近づいていく。


「待て、止まれ! この刃物が目に入って――あがっぉ」

「くそ、やりやがったな。容赦しない――ほごげっ」

「待て、悪かった。通っていいから、なっ――おおぐぅ」


 顎やコメカミを殴りつけて倒し、武器を奪って、ホーネスコのチチックに載せる。

 その後で、腕と腕を繋ぐようにロープで縛り、その端を先に捕まえた野盗のロープとつなぎ合わせてから、今倒したばかりの方を蹴り起こす。


「ほら、立て。そして大人しく、鉱山町まで歩け」

「――ハッ。くそっ、やられたのか」

「だがな、こんな優しい縛り方なんて、オレたちに逃げてみろと言っているような――」

「逃げてもいいけど、そのときの命の保証はしないぞ?」

「「――生意気言いました! 大人しく従います! お世話になります!」」


 こうして、十人に増えた野盗を連れて歩くことになった。

 道を進んでいると、野盗同士が内緒話を始めて、やや五月蠅くなる。


「なぁ、人数はこっちが圧倒的に多いんだからよ。武器がなくたって」

「馬鹿。お前らはさっさと倒されたから知らないだろうが、この縄の先を咥えているヤツは、オレを投げ飛ばすような恐ろしい犬なんだぞ」

「え? そりゃあ話を盛りすぎだろ?」

「いや、マジなんだって。従魔がこれだけ強いってことは、飼い主はより強いってことだ。だから反抗したら、片腕でくびり殺されかねないぞ」


 野盗たちが恐ろしい物を見る瞳を、俺に向けている。

 無視して歩き続けていると、ホーネスコが休憩を要求してきた。


「ずっと登り道で、足が限界です。休ませてください」


 情けない声に、野盗たちから嘲笑が起こった。


「へっ、情けねえな。この場所で行商したいのなら、もうちょっと足腰鍛えてこいや」

「そうだぜ。あまりに弱々しいと、鉱石売りも足元をみてくるぜ」


 彼らの勝手な言い分に、テッドリィさんが嫌悪感を抱いた顔を向ける。


「野盗に落ちぶれて、倒され捕まっている分際で、偉そうに言える立場か?」

「ぐっ。し、仕方ないだろう。食料がねえんだ。何もせずに、飢えて死ねってのかよ」

「そ、そうだぜ。オレにも家に飢えた兄弟がいるんだ。野盗でもしなきゃ、生きていけねえんだ」


 お涙頂戴な話を披露する野盗に、テッドリィさんは鼻で笑う。


「はんっ。なに言ってやがる。人様の不幸で飯を食うぐらいなら、餓死しやがれ。いやなら、食えやしない故郷を捨てて、冒険者にでもなりな!」

「そ、そんなことができるなら、こんな真似なんてしない!」

「それで犯罪奴隷に落ちるなるなんて、馬鹿を通り越して、頭の中身が空な間抜けとしか言いようがないねぇ」


 飾りのない真っすぐな正論に、野盗たちが黙り込んでしまった。

 俺もイアナも苦笑いして見ていると、こちらに近づいてくる気配がした。

 まさかと思って、弓矢を構えて待つと、遠くに手に武器を持つ人たち――どうやらまた野盗のようだ。


「またか。連続で襲われることは珍しいはずなのに、どうしてこう野盗続きになるんだか」

「食料が足りないからでは?」


 イアナの意見に、捕まえた野盗たちから返答がきた。


「いや、マインラ領の各地から、この辺りに野盗をしにくるんだよ」

「あまり鉱山町近くで待つと、行商が持つ食料が少なくなっていて、襲い損になるんだよな」

「野盗の出稼ぎってことか。なんとも世知辛い出稼ぎもあったもんだな」


 俺は嘆息しながら、次の野盗を出迎えることにした。

 けど、前二つとは、この集団は毛色が違っていた。

 なんと、全員が女性の野盗だったのだ。


「痛い目を見たくなきゃ、有り金と食料を置いていきな!」


 先頭を歩いていた、見る限りでは食料に困ってなさそうな、恰幅が良い女性が曲剣を向けて脅してきた。

 その文句に、俺はなぜか安堵してしまった。


「よかった。言ってくることは、ほぼ一緒なんだ」

「なに呟いてんだい。玉無しの男野盗を倒したからって、いい気になるんじゃないよ! こちとら十年近く、冬はこれで食っているんだ。大人しく出す物を出せば、痛い目に合わずに済むよ!」


 女野盗たちが武器を向けてきたので、こちらもやることをやるだけだ。

 俺が握り拳を構えて前に出ると、なぜか向こうは腰が引けている。


「あ、あんた、女相手に手加減するって気はないのかい?!」

「特にないかな。野盗相手なら、容赦もいらないだろ?」

「あんた、それでも男かい! 男なら、女に優しくしてくれたって、バチは当たらないだろうに!!」


 身勝手な言い分に眉を潜めていると、テッドリィさんが俺を追い抜いて前に立った。


「なら、女同士ならいいだろ? それにあたしは、こいつ以上に容赦はしないよ?」


 鉈を抜き放って脅すと、女盗賊たちは明らかに逃げ腰になった。


「くそっ、なんて奴らだい! こっちはお腹を空かせた子がいるんだよ! ちょっとは食料を融通してやろうと――」

「ああ、女盗賊の姐さん。それ、少し前にオレが言って、餓死しろって面と向かって言われたっすよー」


 こっちが捕まえている野盗が声を上げると、女盗賊は口惜しそうな顔になる。


「こんな血も涙もないヤツラ、相手にしていられないよ! ちゃっちゃと逃げるよ!!」


 恰幅が良いのに、逃げ足はかなりなもので、配下を追い抜いて走り去っていく。

 その背に向けて、俺は弓に矢を番えて引く。

 けど、矢を放つ直前に、テッドリィさんに止められてしまった。


「女性だから、見逃せってこと?」

「ばーか、そんな柔なこと、あたしが言うわけないだろうに。ただ、これ以上連れ歩いても、管理が面倒ってだけさ。まして、矢で傷を負った野盗なんて、歩きが遅いからね。邪魔にしかならないよ」


 そういう理由ならと、俺は弓矢を仕舞うことにした。

 女盗賊が逃げ散るのを待って、鉱山町へ向かっての旅路を再開させた。





 盗賊を十人引き連れて歩いていると、問題が色々と起きてくる。

 まずは、水の世話だ。

 寒い冬とはいえ、運動すれば喉が渇く。

 ましてや、食糧目当てに行商を襲おうとしたやつらだ。大した食料を持ってきていない。

 そちらの世話をしてやらないと、空腹から動けなくなる可能性もある。

 とりあえず俺は、生活用の魔法で指から産み出した水を、野盗一人ずつにたらふく飲ませていく。これで空腹や渇きは紛れるはずだ。


「案外、こうして捕まって、奴隷に落ちるまでが、野盗の計画の内なのかもしれないな」


 思わず出した呟きに、イアナが反応した。


「この人たちは、奴隷になりに来たってことですか?」

「奴隷商店に売られれば、寝床と食べ物は出るだろ。飢えて死ぬよりかは、だいぶマシだろ」

「危ない賭けだと思いますけどね。だって、襲った冒険者によっては、斬殺される可能性だってあるんですから」

「こいつら、大した実力ないからな。ちょっと脅して食料が取れればよし。勝てなさそうだったら、すぐ降伏する気だったかもしれないぞ」

「なるほど。降伏する前に、バルティニーさんが殴り倒しちゃったってわけですね」


 適当な想像をしながら会話をしていると、ガラガラと馬車が荒れた道をいく音が聞こえてきた。

 道の端によって歩くようにすると、少しして頑丈そうな馬車が一台、近くに止まった。

 御者台に座る商売笑顔ビジネススマイルな男性が、こちらに声をかけてくる。


「まいど! お兄さんがた、倒した野盗の扱いに苦労しているようですね。どうです、わたしどもに売りませんか?」


 切り出してきたのは商売の話だった。

 その類の交渉なら、護衛の冒険者ではなく、雇い主の行商人の役目だろう。

 俺はホーネスコの背を押して、御者台の男の前に立たせた。

 その後で、肩をぽんと叩く。


「交渉は任せます。できるだけ、高値で売ってやってください」

「ええっ?! この人たちを、売り渡しちゃうのかい?」

「だって、連れ歩くの邪魔じゃないですか。それに、この馬車の人は、奴隷商の買い付けでしょうし、売っても問題ないと思いますよ」

「おおー、そっちの兄さんは慧眼ですな。その通り、わたしどもは奴隷商の、買い入れ担当の行商ですよ。こうして、野盗が頻発する地域に赴き、現地で現金で取引いたします」


 御者台の男が放つ調子のいい言葉を補足するように、テッドリィさんも口を開く。


「マインラ領では、よくいるヤツらだよ。行商人の中には、宝石の購入資金を得るために、自分の奴隷を売り払うヤツだっているぐらいだよ」

「おお、そちらのお嬢さんは、こちらの事情に明るいと見えますね。言ってあげてくださいよ。わたしどもは、ちゃんとした商売人だと」


 テッドリィさんは男に半目を向けてから、俺たちが護る行商人に忠告をする。


「ま、出した値段が気に入らなきゃ、売らなきゃいいだけの話さ。こういうヤツは、よくいるって言っただろ。また違う奴隷商の馬車と出くわすだろうさ」

「事実ですが、こちらが損をするようなこと、教えなくても良いではありませんか」

「うっさいねぇ。こちとら雇われの身なんだ。雇い主の損になるようなこと、黙っていられるもんかい!」


 そんな会話の後で、穂^ネス湖は野盗の引き渡し交渉を始めた。

 どんな値段がつくか興味がないので、聞き流していると、交渉していた二人が固く握手を交わした。


「行商は初めてって言っていたのに、交渉上手で驚きました。先ほど聞かせてくれた、女性野盗を捕まえた際には、ぜひ鉱山町の本店に売りに来てくださいね」

「はははっ。こちらは、護衛におんぶに抱っこですからね。確約はできませんとも」


 交渉を締めくくる言葉の後で、こちらが引き連れていた野盗たちは、奴隷商の馬車の中へと連れて行かれた。

 その代わりに、ホーネスコの手には、少し重そうな革袋が握られている。

 馬車が走り去ったのに合わせ、ホーネスコは自分のチチックの荷物の中に、その革袋を仕舞う。

 そして、こちらに満面の笑みを浮かべてきた。


「バルティニーさんが、怪我少なく野盗を捕えてくれたお陰で、かなり交渉が有利に運びましたよ」

「……こう言うのもなんですけど、本当に有利だったのですか?」


 ここまでの情けない姿に疑問を抱くと、ホーネスコは自信ありげな態度を見せてくる。


「もちろんですとも。私、商会で働いていたと言ったでしょう。奴隷の相場も、だいたいは把握していますからね。道端で売り買いしたにしては、いい値段で売れたと言っていいと思いますよ」


 この売買の一件で、商売人としての自信を取り戻したのか。ホーネスコの歩みは堂々としたものに変わった。

 けどすぐに、疲れから猫背に変わったのは、ご愛敬だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 穂^ネス湖…ホーネスコですよねw 完結作品なので修正はないのでしょうが、素晴らしい作品なのでやはり誤字脱字が残念です。 [一言] 誤字脱字は残念ですが、星5!評価させていただきました。…
[良い点] テンポいい [気になる点] 誤字が多い [一言] 誤字で笑ったのは初
[気になる点]  そんな会話の後で、穂^ネス湖は野盗の引き渡し交渉を始めた。 ホーネスコ [一言] 誤字報告欄開けてもらえませんか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ