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二百三十六話 予期せぬ再会

 俺はイアナとチャッコに、身振りで待っていてと伝えると、言い合いをしている冒険者たちに近づいていく。

 接近に気づいた何人かが、俺に値踏みをする目を向けた後で、喋りかけてきた。


「オレらが女性冒険者を囲んでいるのを見て、格好つけに来たんだろうけどな。他人は引っ込んでろ」

「その通りだぞ、若造。この人数相手に勝てると思っているのか?」


 言われてしまったので、ざっと彼らの強さを推し量ってみる。

 十数人という数の多さは強みだが、全員合わせても、黒蛇族のオゥアマト一人より弱いだろう。

 俺なら、十分に勝てる相手たちだ。

 けど、争う気はないので、勘違いを正しておこう。


「その女冒険者――テッドリィさんと俺は知り合いだ。積もる話をしたいからと、近寄っちゃ悪いのか?」


 数に怖気づくことなく言い返したからか、冒険者たちが色めき立つ。

 けどそれは、俺と戦うためではなく、争いを回避したい心が透けて見える逃げ腰からの警戒だった。

 冒険者が臆病なのは、悪いことじゃない。

 けど、勝気な性格のテッドリィさんとは、合わないだろうな。

 そんなことを考えながら反応を待っていると、彼らより先に、テッドリィさんが笑顔で席をたった。


「よおっ、久しぶりだな。元気にしてたかよ。あっちがお前の席なら、向こうで酒でも飲みながら、別れてからこれまでのことを話し合うとするぞ」


 相変わらずの男口調で、親しげに俺の首に腕を回してくる。

 でもそのとき、俺はおやっと思った。

 以前とは話し方や肩の組み方が違うというか、親しく見える演技をしているように感じたからだ。

 疑問には思いつつも、テッドリィさんに別の質問する。


「なんか喧嘩していたようだったけど、しっかりと話をつけなくていいの?」

「いいって。とっくに、そいつらとは別れるって決まっていたからな。それに旧知のアンタと出会ったんだ。これからしばらく、一緒に行動しようぜ」


 テッドリィさんは腕で俺を引っ張っていく。

 彼女と同卓していた冒険者たちは、何か言いたげだったが、諦めたように食事に戻っていく。酒を一気飲みしているところをみると、やけ食いやけ飲みに走る気かもしれない。

 引っ張られて元の席に戻ってくると、イアナとチャッコから『誰だその女性冒険者』って眼が来た。

 俺はテッドリィさんに席を勧めつつ、紹介する。


「この人は、前に俺がお世話になったテッドリィさん。ちょっと困っていたようだったから、助けてきた」

「はんっ。あんなヤツら、助けてもらわなくたって、一人でどうにかできたけどね」


 ツンケンした態度に、イアナとチャッコが『本当に知り合いか?』って疑う表情を浮かべる。

 俺も最初は久しぶりの照れ隠しかと思っていたのだけど、これはもしかすると――


「――テッドリィさん。俺が誰か、思い出せてないでしょ?」


 指摘すると、開き直ったような態度を見せてきた。


「助けてもらってなんだけどな。あたしは、いままで色々なヤツらと組んだり出たりしてきたんだ。いちいち、個人の顔なんて覚えちゃいない。特にお前よのように、キテレツな格好で名を売ろうとするヤツなんて、別れたその日で忘れちまうだろうね」

「奇天烈って……」


 あんまりな言葉に絶句しかけて、はたと思い出した。

 この魚鱗の防具をつける前と後では、格好と身長が全く違うということに。

 これは分からなくても仕方がないなと思いつつ、ちょっと意地悪したくなった。

 俺は笑みを浮かべると、ワザと甘く囁くような声を作る。


「酷いな。お互いに、あれだけ熱烈に語り合ったのに」


 軽い気持ちで言ったが、テッドリィさんの反応は強烈だった。

 俺の顔面目がけて、拳を振るってくる。

 前はデコピンすら避けられなかったけど、成長したからか、殴る軌道が見えた。

 さっと頭を動かして避けると、テッドリィさんは少し驚いてから、きつく睨みつけてくる。


「その手の冗談はね、容赦しないことにしているんだ。大人しく殴られな」


 本気で気分を害した様子に、俺は慌てて弁明する。


「待った。本当のことで、まさかそんなに怒られるとは思わなかったんだよ」

「あ゛ーッ!? 誰が誰と寝たってんだ!!」


 殺しに来そうなほどの敵意を向けられて、これは証拠を出すしかないと判断した。

 最近では獲物の剥ぎ取りにしか使っていないナイフを、素早く抜いて、刃を持ちながら机に置く。

 このナイフは、鍛冶魔法で折れた剣から同じデザインの物を二つ作り、片方を俺、もう一方をテッドリィさんが持っているものだ。だから――


「――これを見れば、俺が誰か思い出せるんじゃない?」

「なにを言ってやが、る……」


 テッドリィさんは疑問顔で俺のナイフを見て、はっとしたように自分の左腰に手を当てる。

 そこに自分のナイフがあることに安堵してから、ぎょっとした表情をこちらに向けてきた。


「ま、ま、まま、まさか、バルティニーなのか?」

「その通り。お久しぶり、テッドリィさん」


 手を振って挨拶すると、テッドリィさんの顔の変化が面白いことになった。

 勝気な表情から一転して、驚愕で目を開く。そこから、別れる前日に一夜を共にした後に見た、優しげな顔つきに変わる。さらに顔が真っ赤になってから、口元が緩んだ状態の勝気を装う表情になる。


「ひ、ひ、久しぶりだね、バルティニー。まさか、ヒューヴィレから遠いここで再開するだなんて、思ってもみなかったよ」

「俺も驚いたよ。けど、テッドリィさんは変わってないようで、ちょっと安心したかな」

「あたしはアンタがバルティニーだって知って、心臓が止まるかってぐらいに驚いたよ。身長も体格も、服装だって、変わり過ぎじゃないかい?」

「まあ、色々あったからね」


 言葉を濁すと、テッドリィさんは生意気だと言いたげな表情になる。

 そして、イアナとチャッコを指す。


「いつかのあたしみたいに、いまはガキの教育係をやっているのか? それとそっちは従魔か?」

「教育係っていうか、イアナは押しかけて弟子だね。それと、従魔というより仲間なチャッコ。けっこう強い、狼の魔物だよ」


 身振りで挨拶を促すと、イアナは軽く頭を下げ、チャッコは威風堂々とした態度をする。


「初めまして。バルティニーさんに冒険者の手ほどきを受けている、イアナです」

「ゥワン」


 二者二様の挨拶に、テッドリィさんは面白がってそうな顔をする。


「そっちの従魔は気に入らないが、イアナはあたいと同じ匂いを感じるね。男装してまで、男性冒険者と対抗しようとしているあたりは特にね」

「対抗だなんて。この格好は、体を狙われないようにって――あれ? 男装だってよく見抜きましたね??」

「長年冒険者をしている、あたしを見くびらないでほしいね。体つきを見れば、一発でわかるよ。手足が貧弱そうなのに、立派なハト胸だなんて、サラシで押し付けているって言っているようなもんだよ」


 テッドリィさんは指で、イアナの胸を突く。

 服とサラシの下にある脂肪によって、軽く沈んでへこみが生まれた。

 イアナが体を捻って腕で胸元を隠すと、テッドリィさんは疑問顔になる。


「おや、生娘みたいな反応だ。もしかして、バルティニーとは寝てないのかい?」

「同室では寝てますけど、同じベッドで寝たことはありませんよ! あくまで、師匠と弟子なだけですから!!」


 茶化されてイアナが怒ると、テッドリィさんは獲物を狙う目をこちらに向けてきた。


「そうかい。男女の関係なら悪いと思ったけど、これは楽しみが増えたねぇ」


 その意味深な言葉がどういう意味か、俺は悟った。

 今日はイアナとチャッコ、俺とテッドリィさんとで宿の部屋を分けなきゃいけないだろうな。

 そんな近い将来のことについて考えながら、テッドリィさんとイアナの会話を横に聞きながら、冷えかけの食事を口に押し込むことにしたのだった。


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