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二百三十一話 親玉スケルトンとの再戦

 俺たちが朝食を食べ終え、戦う準備が整う瞬間を待っていたかのように、外がにわかに騒がしくなってきた。

 何百もの平原を歩く足音が聞こえてくる。

 俺は素早く拠点の戸締りをもう一度確認すると、体に攻撃用の魔法の水を纏わせ、天井へ勢いよく飛び上がった。

 天板を突き破りながら外へ出て、屋根の上に着地する。

 俺を追って、イアナを乗せたチャッコも、穴から飛び出てきた。

 俺たちは同時に、音のする方を見る。

 多数のゾンビとスケルトンの群れを引き連れて、御輿に乗った親玉スケルトンが近づいてきている。

 こちレが警戒する中、拠点から五十メートルほどの距離を空けて、ゾンビたちは停止した。

 親玉スケルトンは御輿の上で立ち上がり、こちらに大声を放ってくる。


「よォくもォ、我が腕をォ乱雑に扱ってくれェたなァ。探し出すのがァ、一苦労であったぞォ!」


 親玉スケルトンが掲げ上げた手の中には、俺が投げ捨てたり隠した、手首から先の骨が揃っていた。

 土汚れがついていないことから、回収後に洗ったりしたのかもしれないな。

 親玉スケルトンの演説は続く。


「しィかーしィ、姑息な手によるゥ、お前ェたちの時間稼ぎも、ここまァでだァ。その家ごとォ、叩き潰してェやるうゥ!」


 骨の腕が降られると、ゾンビやスケルトンたちが動き始めた。

 ぞろぞろとこちらに向かってくる。

 俺は弓矢を番え、とにかく頭を狙って矢を放った。一矢につき、一匹のゾンビかスケルトンが倒れる。

 この俺の行動を、親玉スケルトンは笑う。


「ふはァはー。ゾンビもスケルトンもォ、まだまだァいるぞォ。そんな筒の矢などォ、すぐに使い尽くすぞォ」

「そんなことは分かっている。だがそっちは、ここが何の建物か分かっていないようだな!」


 筒にある矢を使い尽くした俺は、一度拠点の中に入る。

 そして大箱を一つ持つと、また魔法の水を纏って飛び上がり、穴を通って屋根の上に戻った。

 蓋を開ければ、ぎっしりと矢が詰まっている。

 その数は、ざっと見ただけでも、百を超えている。

 俺は三本掴むと、一本を弓に番え放ちながら、親玉スケルトンに言ってやった。


「矢なら、そっちの配下の数ぐらいはあるぞ。弓の弦の予備だってある。下手に突っ込ませても、手勢が減るだけだぞ!」


 俺は証明するように、次から次に矢を放って、ゾンビやスケルトンをバタバタと倒していく。

 しかし、親玉スケルトンも言い返してくる。


「ふはァはー。お前一人でェ、どこまで倒せるかなァ。倒しきるより先にィ、我が手駒がその建物にとりつく方が早いィ。そしてェ、オーガのゾンビども!」


 その呼びかけに応じて、ゾンビたちの先頭に、オーガゾンビが現れた。

 数は十匹ほどと少ないが、腐りかけのオーガがその数いると考えると、かなり驚異的だ。

 なにせ、ただ放っただけじゃ、オーガゾンビの肌に矢が弾かれてしまうだろう。

 その上、拠点に取りつかれたら、生前以上の腕力で壁に穴を開けてくるはずだ。

 もしそうなったら、拠点の屋根に陣取る意味がなくなってしまう。

 けどそれは、俺が単純に『そのままの』矢を放った場合だ。

 俺は目を閉じ、魔塊がほぼ完全な量まで回復していることを感じる。

 長丁場が予想されるので、必要最低限の魔力を魔塊から取る。そして、火の攻撃用の魔法を発動させて、引いた矢の鏃を赤熱化させた。

 親玉スケルトンが何か気づいたようだが、何か対処される前に、オーガゾンビの一匹へ放った。

 赤い光を引きながら矢は飛び、狙い通りにオーガゾンビの頭に突き刺さった。


「ウゥゥオオオオー……」


 腐っていても、頭の中を焼かれる感触は耐え難かったんだろう。オーガゾンビは悲鳴のような声を上げ、頭を掻きむしりながら、平原に倒れた。

 俺は同じようにもう一本、矢を放ってもう一匹のオーガゾンビの頭中を焼いた。

 声を上げながら二匹目が倒れると、親玉スケルトンが身振りしながら配下に命令を始めた。


「ええいィ! 他のゾンビたちよォ、オーガのゾンビを矢から守るのだァ」


 群れの先頭がオーガゾンビから、人型や獣型のゾンビに置き換わる。

 そういう対処をするならと、俺は遠慮なくゾンビたちの頭を、素の矢で射抜いていった。

 前列が薄くなり、オーガゾンビが狙いやすくなれば、赤熱化させた矢で射止めてやる。

 こうして着実に数を減らしていけているけど、ゾンビたちの歩みは止まらない。

 命がない上に、親玉スケルトンの命令に忠実なので、逃げ散らないことが厄介だ。

 それでも、拠点に取りつかれる前に、少しでも多く倒しておこうと、矢を放ち続ける。



 数秒に一本のペースで矢を放ってきて、五十匹近く倒したところで、ゾンビたちが拠点の間近に迫ってきた。

 ここまでこられてしまったら、狙いを変更だ。

 拠点に被害を出しそうな、オーガゾンビやオークのゾンビを優先的に矢で射ることにした。

 大箱から矢を拾いがてら、俺は親玉スケルトンの位置と様子を伺う。

 どうやら、この場所に到着したときと、同じ場所に居続けているようだ。その周囲に、盾に使うためらしき、ゾンビたちが二十匹ぐらいいる。

 安全な場所から、俺たちが死ぬ様子を見る気なんだろう。

 けど、そうはいくか。


「チャッコ、イアナ。用意はいいか?」

「ゥワウ!」

「は、はい。って、アレを本当にやるんですか?」

「このままだと、この拠点も崩されかねないってわかっているだろ?」


 俺の言葉を証明するように、壁を殴る音が聞こえてきた。

 アグルアース伯が頑丈に作ってくれた拠点だけあり、すぐに崩れるようなことはなかったが、あまりうかうかしていられない状況だ。

 イアナは周囲を見て、恐怖と困惑を感じながら勇気を絞り出すような、変に複雑な表情を浮かべる。


「わ、分かりましたよー。ああもう、なんで押しかけ弟子なんかになっちゃったのかなぁ……」

「嫌なら、この戦いが終わった後で、辞めたっていいぞ?」

「もうここまできたら、辞めたりなんかしません! むしろバルティニーさんには、わたしが立派な冒険者になるまで、面倒を見てもらいますから!」


 ムキ―と怒った声を上げると、イアナは背嚢を背に、棍棒を腰の鞘に、蒸留酒の火炎瓶を手に持ち、チャッコの背に乗ったまま抱き着く。

 チャッコは体を揺すってイアナの乗る位置を調整すると、一つ吠えてから、屋根から下に飛び降りた。


「ゥゥウワオオオオ――!」

「ひぃいいぃ! 速い、下りるのが早いですよ、チャッコちゃん!!」


 イアナが悲鳴を上げるが、無視してチャッコはゾンビの群れの上を走り始めた。

 背に荷物があるにしては軽快で、無人の野を走る犬ぐらいの速さは出ている。

 やがてチャッコはゾンビの群れを抜け、平原に降り立つと、より速さを上げて、親玉スケルトンへと向かっていく。


「またぁ、お前かぁ犬っころォ――んんッ~? その背に乗せたヤツの背嚢に、我が腕の反応があるなァ?」

「ゥワウ!」

「取ってみろとでもォ言いたいのかァ? ならば、望み通りにしィてやろうではないかァ!」


 親玉スケルトンが腕を振ると、護衛に侍らせたゾンビの数体が、チャッコの進行方向に立ちふさがる。

 それを見て、チャッコがイアナに吠える。


「ゥワワン」

「わ、分かってるよぉ。焦らせないで……」


 イアナは腰の鞘から鉄の棍棒を抜くと、チャッコの上で構える。

 けれど、チャッコが動いていると体勢を保てないようで、すぐに背中に抱き着いてしまう。

 チャッコは苛立った様子で、イアナの手から棍棒を咥え取ってしまった。

 そして柄を歯で噛み込むと、さらに速さを上げて、ゾンビたちに襲い掛かる。


「ゥグルルルルル!」


 走る速さと、首の捻りを利用して、チャッコはゾンビの頭を棍棒で殴りつけた。

 かなりいい威力が出たのだろう、殴られたゾンビは一発で倒れた。


「ゥグルルゥゥ!」


 二匹三匹と倒し、通り道が開いたら、素早く通り抜ける。

 近づくチャッコの姿を見て、親玉スケルトンは歯噛みしたような声を上げる。


「ええいィ! ただのゾンビは、使えぬなぁ! こうなれば、我自ら相手してやろうではないかァ!」


 過日のように、親玉スケルトンは手を向け、魔法を使おうとする。

 チャッコは素早く移動し、親玉スケルトンの腕がない方へと走る。

 やはり、ない腕からは魔法が使えないようで、親玉スケルトンは必死に骨の腕を回して狙いをつけようとしている。

 その間に、チャッコはまたイアナに吠える。


「ゥグルル」

「分かっているって。今度は上手くやるから、怒らないでよぉ!」


 イアナはチャッコの背の上で、火炎瓶の布に生活用の魔法で火を点ける。

 そして、チャッコが親玉スケルトンに最接近するときに合わせて、瓶を投げつけた。


「せえ、のー!」

「なんだァ? 水、いや、酒かァ――酒が、燃えるうゥ?!」


 瓶が割れてかかった蒸留酒が、淡い火を出して燃え始めた。

 その結果を確認すると、チャッコは一目散に、冒険者たちが使っていた方の拠点へ走る。勢いのままに屋根に飛び乗り、イアナを背から落とした。

 親玉スケルトンは、燃える体に困惑しているようだ。

 しかし、あまり火力が強くないと分かったのか、次第に冷静になり、マントで体を叩いて消火を始める。

 そんなイアナとチャッコが引き起こした行動の一部始終を、俺は交わされたであろう言葉を想像で補完しながら見ていた。

 そして、弓矢を引き絞って、親玉スケルトンに狙いをつけてもいる。

 さらに言えば、矢の鏃は赤熱化させてあるし、弓は魔法でたっぷりと水を吸わせて引きの強さを極限まで上げているし、それを引くために全身に魔法の水を纏ってもいた。

 それもこれも、親玉スケルトンが俺から注意を逸らした、この瞬間のためだ。


「しッ!」


 短く呼気を放ちながら、俺は弓から矢を放った。

 弾丸のような速さで矢を打ち出した弓の弦が、戻りに耐え切れずに千切れ飛ぶ。弓自体も、反動で反り返ってしまった。

 ほぼ一直線に飛ぶ矢は、一秒と経たずに、親玉スケルトンの右の眼窩に突き刺さった。


「なんだア?! ぐおおおお、燃える、顔ががああア!!」


 矢から火が上がり、親玉スケルトンの頭が火に包まれた。

 これで仕留めたと、俺は思った。

 しかし、そうは上手くいかなかったようだ。

 親玉スケルトンは、すぐに骨の指を眼窩に突っ込み、燃える鏃を掴んで引き抜く。そして地面に投げ捨てると、右半分が真っ黒に焦げた頭蓋骨を、俺に向けてきた。


「よくもやってくれェたなァ。ゾンビたちよォ、損傷を無視して建物ごとそいつを殴り壊ァせえェ!」

「「「オオオアアアアアーーー」」」


 一気に激しくなった建物を殴る音を聞き、俺はここには居られないと判断した。

 弦が切れた弓を大箱に入れ、穴から下に落とし、俺自身は屋根から下へと飛び降りる。

 いつぞやのように、足に魔法の水を纏わせ、ゾンビやスケルトンを踏み壊しながら、上を駆け抜けようとする。

 そこで顔を燃やされて怒り心頭な親玉スケルトンが、号令を発した。

 

「体を左右に大きく揺すりィ、上にいるヤツを落とせェ!」


 ゾンビやスケルトンたちは命令を忠実に守り、上半身を大きく左右に揺らし始める。隣にいる仲間にぶつかるが、お構いなしだ。

 一方で俺は、足場が急に変に動いたため体勢を崩し、危うく転落するところで、別のゾンビを蹴りつけて跳び上がる。

 それを待っていたかのように、親玉スケルトンが、鏃を抜く際に燃えて黒くなった手を向けてきた。


「風よォ、切り刻むがいいィ!」


 魔法の風がやってくるのを見て、俺も対抗で攻撃用の魔法を放つ。


「『風壁』!」


 日本語を放ってイメージの補完をして、魔法を発動させる。

 俺の体の周りに濃い竜巻が起き、親玉スケルトンの風を受け止め散らす。

 防御しきったと判断し、俺は魔法を解除する。

 自由落下で落ちた先にいたスケルトンを踏み壊し、一気にゾンビの群れの外まで飛び出す。

 平原に降り立った俺は、赤熱化用の鉈を抜いて走り出す。

 後ろにいるゾンビたちの群れがやってくる前に、親玉スケルトンをこの鉈で斬り倒すために。

 

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