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二百三十話 温かい場所で小休止

 暖炉の前で車座になり、食材を山ほど入れた、ごった煮のスープを食べる。

 どうせ明日には親玉スケルトンと決戦になるので、遠慮なしに具沢山に作った。

 食事を進める中で、イアナがスープの中から、白い食材を木のスプーンで救い上げる。


「バルティニーさんが小麦粉を練って入れた、このスイトンっていうのいいですね。わたしたちはパンを作れないのにって、送られてきた小麦粉の使い方に迷っていたんですよ」

「本当は『うどん』――太い小麦麺にしたかったんだけどな。塩の量とか分からないから、妥協したんだ」

「食べられるものなら、何だっていいじゃないですか。そうそう、食べられるものと言えば。なんであっちの拠点からお酒だけ回収して、他の食材を持ってこなかったんですか?」

「言っただろ。ゾンビの腐肉がついていて、とても食べられそうになかったって」

「汚れたり腐った周りを削れば平気ですよ。不安なら、じっくり煮込めばより安全です」


 衛生感覚の違いに、ちょっと絶句した。


「……本気で言っているのか?」

「本気ですとも。傷んだものを食べるなんて、町に住んでいたときによくやってましたよ。むしろそうしないと、生き残れませんでした」

「路上生活って、過酷なんだな」

「言うほど大変じゃありませんでしたよ? でもそんな生活をしてきたので、食べられそうなものは見逃せない性分なわけです。だから芯まで食材が悪くなる前に、あちらの拠点から食材を回収しておきたいですね」

「……その傷んだものまで食べようとする姿勢は見習いたくないけど、生きる熱意には感心する」


 空になっていたイアナの器を取り、暖炉脇で温め続けていたスープをよそって渡してやる。

 イアナは嬉しそうに受け取ると、息を吹きかけてから、熱々のスープを食べていく。


「どうもです。ふーふー、はむはぐ。それで、親玉スケルトンとどう戦うんですか? チャッコちゃんが確保しているあの骨で、こちらの位置はバレバレなんですよね?」


 イアナが視線で指すと、暖炉の前で温まっていたチャッコが、前足で腕の骨を踏みながら顔を向けてきた。

 この骨は手放さないぞと、言いたいみたいだ。

 俺はチャッコに、安心していいと身振りする。


「これ以上、骨を隠したり捨てたりする気はないよ。むしろ、その骨がなきゃ、親玉スケルトンが釣れないじゃないか」

「その言い方だと、ここまでおびき寄せる気なんですか?」

「前の一戦で、ゾンビやスケルトンで俺たちは倒せないと、あちらも分かっただろう。だから腕の骨を取り返しに、直接乗り込んでくるはずだ」

「でもそのときは、大量のゾンビたちを引き連れてますよ、絶対に」

「そう、問題はそこだ。親玉スケルトンは、ゾンビを矢の盾に使ってきた。それを考えると、ゾンビが俺たちを捕まえて拘束したとき、一緒に魔法で吹っ飛ばそうとしてくるはずだ」

「それじゃあ捕まるわけにはいかないですね。でもわたし、そんなに走力と体力に自信がないんですが……」

「そこはチャッコに頑張ってもらうさ」


 話を向けると、チャッコは驚いたような顔を向けてきた。

 そして何をさせる気だと、目で問いかけてくる。


「難しいことは言わないよ。この拠点にくる際のように、イアナをその背中に乗せてあげて欲しいってだけだ」

「ゥワウウ!」

「嫌だって言われてもな。そうでもしなきゃ、親玉スケルトンを倒すのに不安が残って、その骨を手放して逃げることになりそうだぞ?」

「……ゥゥワウゥ」


 チャッコは項垂れながら、渋々という感じの声を出す。

 そして苛立ちを解消するためにか、前足で踏んでいる骨に噛みつく。

 普通の骨ならバリバリと食べてしまうチャッコでも、その腕の骨は硬いみたいで、少し削るだけで精一杯なようだった。

 それを見れば、魔法のアシストで脚力を強化していた俺の蹴りで、親玉スケルトンの頭蓋骨が吹っ飛ぶだけで割れなかった理由がわかる。

 不満そうなチャッコを撫で宥めながら、改めて思う。

 かなりな硬度を誇る、親玉スケルトンの骨を壊すには、やはり魔法の力を頼るしかない。

 俺は腹いっぱいにスープを食べると、暖炉の前で目を閉じて、魔塊を回すことに集中する。

 細胞から生産された魔力が、回る魔塊へと集まり、徐々に魔塊の量が回復していく。

 使う分には一瞬なのに、意識して復元するには苦労がいることが、魔塊の魔力を使った魔法の欠点だよな。

 けど、明日の決戦までに魔塊を全量に戻すには、こうして地道にためていくしか方法はない。

 じっと動かずにいると、イアナも食べ終わったのか、立ち上がってどこかへと行く。

 でも、その後すぐに戻ってきた。

 魔塊は回したまま目を向けると、丸めた毛布を手にしていた。

 イアナの不安そうに揺れている、暖炉の火を映す瞳は、まるで夜が怖い幼子のようだ。


「あの、今日は暖炉の前で、全員一緒でいませんか? ほ、ほらその、一緒にいれば、ゾンビたちがここに来たときに、対処しやすいですし」


 素直に寝るのが怖いとは言えない様子に、俺は苦笑してから、俺の横の床を叩く。


「二日ぶりに、温かい場所で寝られるんだ。一番温かいところで過ごさないとな」

「そう、そうですよ。温かい場所で寝られるなんて、とても贅沢なことですからね。ここで寝ないと、いけませんよね」


 イアナはウキウキとした様子で、暖炉の前に毛布を敷くと、その上に寝転がった。

 それを見たチャッコが、いい場所に寝ているなと言いたげな態度で、毛布の上に移動する。そして、少し端に行けと、鼻でイアナを押して退かそうとする。

 けどその行為を、イアナはじゃれついていると勘違いしたようだった。


「チャッコちゃんは、わたしと一緒に寝たいんですか? いいですよ、いっしょに寝ま――痛ッた! なんで顔を踏むんですか!?」


 チャッコは抱き着こうとしたイアナを踏み止めると、次に少し強く体当たりして、無理やり毛布に自分が寝るスペースを開けさせた。

 置き直した骨に顎を乗っけて、満足そうに毛布に陣取るチャッコ。

 イアナは諦め悪くすり寄り、毛並みに顔をうずめようとする。


「ゥワウ」


 チャッコは生意気だと前足で叩くももの、毛布から追い出そうとはしない。

 俺はその意図を察して、イアナに伝える。


「添い寝だったら許可してくれるらしいぞ」

「折角温かい毛皮がそこにあるのになぁ。でも、添い寝でもいいやー」


 イアナはチャッコの横に寝転ぶと、なぜか嬉しそうな顔になる。

 なにが楽しいのやらと、俺は魔塊の回復に集中することにした。

 小一時間も経つと、イアナがすーすーと寝息を立て、チャッコからは大あくびの音が聞こえてきた。

 俺は暖炉に薪を足して火力を強めてから、俺の分の毛布を両者にかけてやることにした。

 毛布分の温かさが増したためか、チャッコの瞼もすぐに落ち、すぴすぴと鼻で寝息を放ち始めた。

 寝入る様子に微笑んでから、俺は魔塊の回復作業に戻っていった。

 しかし、暖炉の前で居続けたことと、逃走に体力を使ったからか、俺も次第に眠りに落ちていってしまったのだった。





 床がカタカタと鳴る音で、俺は目を覚ました。

 ハッとして顔を音のする方へ向ける。

 チャッコの下にある親玉スケルトンの腕が、小刻みに動いている。

 急いで外へ続く扉に向かい、耳を当てて外の音を聞く。

 けれど、近くにゾンビやスケルトンが動く音はしない。

 俺は確認で、顔をチャッコに向けた。

 チャッコもゾンビやスケルトンを感じ取れないのだろう、首を横に振ってくる。

 ひとまずは安全らしいと安心すると、ようやくイアナが起きた。


「ふあっ?! な、なんですか、何の音ですか?」

「親玉スケルトンの骨が動いているんだ。もしかしたら、いまからここに行くぞって、知らせているんじゃないか」

「それが本当なら、どうしてわざわざ知らせているんでしょう?」

「さてな。俺が指の骨を投げ捨てて嫌がらせをしたから、その意趣返しに驚かせようとしているのかもな」


 受け答えをしながら、俺は拠点の戸締りをもう一度確認していく。

 その様子を、イアナが不思議そうに見ている。


「どうせ外に出なきゃいけないんですから、戸締りを確認する必要はないんじゃ?」

「いや。俺はこの扉を開けて外にでるつもりはないぞ」

「もしかして、食べ物が尽きるまで、ここに籠り続ける気ですか?」

「まさか、そんなことはしない。親玉スケルトンは魔法が使えるんだ。下手したら、この拠点ごと丸焼きにされかねない」

「すみません。バルティニーさんが言いたいことが、分かりません。どうするか、もっとはっきり言ってくれませんか?」


 別に意地悪をしたわけじゃないんだけどな。

 俺はイアナに答えを示すために、天上に指を向ける。


「あそこから出る。今度は建物内にゾンビを入れないよう戸締りをするから、足元が崩れる心配は要らない」

「ああー。屋根の上から、ゾンビたちを迎撃するわけですね」

「そういうことだ。そこで、ちょっとした思い付きの準備をするので、イアナは朝食作りを頼んだ」

「それはいいですけど、なにを準備するんですか?」

「飲まない蒸留酒がたくさんあるからな。一、二本、火炎瓶にしてみようと思っている」

「火炎瓶、ですか?」


 初めて聞く単語なのか、イアナは小首を傾げている。


「簡単に言えば、燃える液体を瓶の中に入れて、火種を点けた布を入れて口を塞ぐんだ。その後で、標的に投げつけて瓶が割れたら、火が付いた内容物が相手にかかるわけだ」

「へぇー、なんだか聞く分には、すごくゾンビやスケルトンに効きそうな道具ですね。でも、火が付いたお酒がかかっただけで、相手が燃え上がりますか?」

「……改めて言われると、どうだろう?」


 前世で見たテレビの面白映像で、火のついた酒を一気飲みする人がいたから、アルコールの火力は強くないかもしれないな。


「まあ、単なる思いつきだからな。試作して、上手くいけばもうけものってことで考えよう」

「……あれって高いお酒ですよね。火炎瓶なんてものにしたら、酒飲みの人たちが怒ってきそうです」


 イアナは肩をすくめて、朝食づくりを始めた。

 俺もなんとなく上手くいかない気がしてきたが、これ以外に蒸留酒の有効活用が思いつかず、とりあえず一本だけ試作するだけにしたのだった。



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