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二百二十八話 親玉スケルトン

 親玉らしきスケルトンが近づくと、俺たちが屋根に立っている建物の周りにいるゾンビたちが、通路を開けるように左右に分かれた。

 その空間を悠々と、御輿を運ぶオークゾンビたちが進んでいく。

 そして、俺たちから十五メートルほどの距離で止まった。

 御輿に座っていたスケルトンが立ち上がり、声を上げる。


「よォくぞォ、ここまァできたァなー。新たなァ死者の仲間となるゥ、冒険者たちよォー」


 親玉が喋りながら手を振ると、周囲のゾンビたちがパラパラと拍手を行う。

 どうやら本当に、あいつがゾンビたちを操っているらしい。

 それにしても、完璧に骨だけなのに喋れることが不思議だ。

 それはイアナも同じだったらしい。


「魔物が喋りましたよ?! しかも、骨だけなのに声を出せてますよ!」


 相変わらず直球な物言いをするなと呆れていると、親玉スケルトンが笑い始めた。


「ふゥはッはッはァ~。何事もォ、練習あるのみぃだぁ。何度も試せばァ、骨の身でもォ喋れるようになるゥわけだァ」


 骨なのに人間らしい反応を返してきたことで、イアナは緊張を緩めたようだ。


「じゃあ、その変に言葉を伸ばしているのは、練習不足ってことですか?」

「言葉とはァ、伝わればいいのだァ。これ以上のォ、練習は必要ないと判断したのだァ」

「たしかに、ちゃんとお互いに喋れていますから、これ以上上手く喋れる必要はないかもしれませんね」

「そうでぇ、あろうともぉー」


 なんで歓談しているかなぁ。

 俺はため息をつきたい気持ちをぐっと堪えつつ、密かに番えていた弓矢を素早く引き、親玉スケルトンに放った。

 けど、この行動は察知されていたようだ。

 親玉スケルトンが指を振ると、跳び上がったゾンビが矢の盾になった。

 御輿の高さ以上に跳ばせるため、よほど力を込めさせたのだろう。盾になったゾンビの両足が着地と共に折れ、前倒しになる。しかしやはりゾンビ、胸に矢を受け足を失っても、両腕で這って動いている。

 そんな健気なゾンビに一瞥もくれず、親玉スケルトンはこちらに暗い眼窩を向けてきた。


「会話中に攻撃をするなどォ、失礼なァヤツめェ」

「それは悪かったな。だがお前は、俺たちをゾンビの仲間にするって、敵対宣言しただろう」

「指摘されればァ、確かにィそうだァ。だがァ、お前たちはァ気にならないのかァ? 我が身が骨ェとォなった経緯をォ。そしてェ、どうして手下をォ集めェてェえいるのかァをー」


 言われてみれば、気にはなる。

 俺は周囲の状況を確認してから、弓矢を下ろして、親玉スケルトンに向き直った。


「……身の上話をするなら、聞いてやってもいいぞ」

「ではァ、語ろうではァないかァ。我が生と死、そして新たな生を受けた物語をぉー」


 かったるい口調で、長い話を語り始めた。

 イアナは興味深々な様子で聞き、チャッコは暇そうに後ろ足で頭を掻く。


「我はァ――いや俺はァ、お前たちと同じ冒険者であったァ。魔法を使えたァのでェ、重宝がられたものだったァ。しかしある日ィ、多数のゾンビにィ襲われェ、命をォ落としてしまったのだァあ――」


 そこで一端自意識が閉じ、再び現れたのは肉がほぼ腐り落ちたゾンビになったときだったそうだ。


「――死して魔物となった身をォ、嘆きに嘆いたァ。しかしィその中で、俺は気づいたのだァ。魔物になってもォ、魔法が使えることをォだァ」


 デモンストレーションに、親玉スケルトンは手に火を浮かべて見せてきた。

 魔法を使えると知って、俺は警戒を一段階上げる。そして、生活用だけでなく戦闘用も使える想定をしていく。

 こちらの心情を無視して、親玉スケルトンは語り続ける。


「魔法の力とォ、冒険者時代の知識を使いィ、俺は生きのび続けェた。そして我はァ、動く死者たちの王となったのだァ。そしてここに、死者の王国を築き上げるのだァ」


 途中の話ががすっぱり抜けた気がしていると、俺たちが足場にしている家が微かに揺れた。

 急いで周囲を確認するが、ゾンビたちが押したり叩いたりしている様子はない。

 いや待て、家の扉が開いている!


「お喋りで気を引いているうちに、ゾンビを家の中に入れたな。そして、内側から家を倒壊させるつもりか!」

「そのォ通りィ。だが気づくのが遅かったなァ、やれェい!」


 親玉スケルトンが腕を振るうと、木が折れる音と共に、屋根が大きく下にたわんだ。

 俺はイアナとチャッコを抱きかかえると、両足に魔法の水を纏わせる。そして、屋根の硬い部分を足場に、少し遠くにある家へと跳び移る。

 倒壊する家の音を背に、イアナの悲鳴を横に聞きながら、空中を進んでいく。


「ひいぃぃぃやあぁぁぁぁー!」

「着くぞ。舌を噛む、口を閉じろ」


 屋根にヒビを入れながら降り立ち、イアナとチャッコを手放すと、弓矢を構えて親玉スケルトンを狙う。

 直射はゾンビの盾に防がれたので、今度は曲射で放つことにした。

 斜め上空に飛んだ矢は、重力に引かれて鏃が下に向き、親玉スケルトンの頭部へ向かって落ちていく。

 これは当たると思ったが、親玉スケルトンは対抗策をとってきた。


「風よォ、防ぐがいィー」


 伸ばした骨の手から突風が現れ、矢の起動がズレて、ゾンビの一体の頭に刺さった。

 矢が当たったゾンビは倒れたから、成果はあった。けど、狙いとは違う結果に、舌打ちしそうになる。

 そして、強力な風を手から出してきたことで、親玉スケルトンが攻撃用の魔法を使える可能性が跳ねあがった。

 撤退の文字が脳裏にチラついていると、チャッコが失望したという目を向けている姿が見えた。

 ふいっと顔を逸らすと、チャッコは屋根から飛び降りていってしまう。


「おい、チャッコ!」


 慌てて呼び止めようとする俺をしり目に、チャッコは足下に集ったゾンビを足場にして跳び渡っていく。

 素早い身のこなしで、手を上げるゾンビたちを抜けて、あっという間に親玉スケルトンにたどり着いてしまった。


「このォ、人に下った、犬の魔物めェ」

「ゥグルウウウウ!」


 犬と呼ばれて起こったような唸り声を上げ、チャッコは親玉スケルトンが伸ばしてきた腕に噛みついた。

 そして首を大きく振るって、肘から先の骨をもぎ取ってしまう。


「ぐぅおおおおォ。返せェ、この犬めェー」


 親玉スケルトンが無事な方の手を伸ばし、風の魔法を乱発する。

 しかしチャッコは、ゾンビの上を跳びまわって避ける。

 そのため、魔法で切り裂かれたのは、足場になったゾンビやスケルトンだけだった。

 どうやっても当たらないことに諦めたのか、親玉スケルトンは配下たちにチャッコを捕まえるよう身振りする。

 自分を狙って動く足場をものともせず、チャッコは無事な家の屋根に降り立つ。

 そして、戦利品を見せつけるように、口に咥えた骨を俺に振ってみせる。

 まるで、自分と同列でいたいのなら、これぐらいはやってみろと言っているようだった。

 小生意気な挑発を受けて、俺はやってやろうじゃないかって気分になる。

 俺はイアナを小脇に抱え、足に魔法の水を纏わせてると、屋根から飛び降りた。


「まさか、まさか、チャッコちゃんとおなじことしませんよね?!」

「いや、そのまさかだッ!」

「ひぃやあああああああー!!」


 悲鳴を上げるイアナを抱え、俺もゾンビたちを足場にして、親玉スケルトンへと跳んで向かう。

 二人分の重量を前に跳ばすために、魔法の水のアシスト力を上げているので、足場にしたゾンビが踏み砕けるが、些細なことだ。

 一直線に飛ぶように進むと、親玉スケルトンがこちらを向いた。


「二度もォ、同じ真似を許すとォ思ったのかァ」


 無事な方の手を伸ばし、手から石弾を放ってきた。

 魔法で防ぐ手もあるが、それだと逃げ切ったチャッコに負けた気になるから嫌だな。

 俺はゾンビを踏んで、横に跳んで石弾を避ける。そしてジグザグに蛇行しながら、親玉スケルトンに近づく。


「おおォのれェ。馬鹿にしてくれてェ!」


 親玉スケルトンが執拗に石弾を放ってくるが、狙いが甘い。

 避ける俺と抱えているイアナには当たらず、ゾンビやスケルトンの体が爆ぜる。

 苦もなく接近し終えた俺は、親玉スケルトンの手に、今までで一番の魔力が集まるのを感じた。


「砕けるがいいィー」


 魔法が来ると分かり、俺は退避行動代わりに、親玉スケルトンの背後に回るようにゾンビの上を移動する。

 それが功を奏したようで、骨の手から発射された、密度の濃い石の散弾を食らわずに済んだ。

 一方の親玉スケルトンは、俺たちを見失ったようで、周囲を見回している。

 明らかな隙に、俺はすれ違いざまに、親玉スケルトンの頭を横に蹴ってやった。

 すると抵抗なく、頭蓋骨がすっぽ抜けて飛んた。

 あっけない締めくくりだなと思いつつ、俺はゾンビたちを踏み砕きながら跳び、チャッコがいる家の屋根に降り立った。

 すると、チャッコが尻尾を軽く振りながら微笑んだ。


「フッ、ゥワオン」


 それでいいと言いたげな顔を、生意気だと撫でてやる。

 そのとき、チャッコの口にある骨の腕が動いたような気がした。

 本当かどうか確かめるため、白い骨を指で撫で上げる。すぐに、手首から先がくすぐったがるように動きだした。

 同時に、親玉スケルトンの笑い声も聞こえてくる。


「くゥはははッー。くすぐったいではァないかァー」


 まさかと思って、御輿がある方を向くと、ゾンビが掲げた腕から腕へと運ばれている、白骨の頭蓋骨が笑っていた。

 親玉スケルトンの体は、運ばれてきた頭を無事な腕で掴むと、首の骨の上に乗っける。

 どうやら頭が外れても生きて――死体だから、動けるようだ。


「ははッはー。すぐにその腕も取り返してやるぞォー」


 勝ち誇った声を上げる親玉スケルトンを見て、俺とチャッコは目を合わせる。

 そしてどちらともなく頷くと、ゾンビたちを踏みつけながら、廃村から脱出を始めた。


「ううぅぅぅ。がくがく揺れて、気分が悪いんですけどぉー。ううっっぷ」


 気持ち悪そうにするイアナと、気持ち悪く動き回る骨の腕を持ったままで。

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