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二百二十一話 ゾンビとの戦い方

 ゾンビとスケルトンが組んだときの厄介さを知った翌日、俺たちは本格的に討伐に乗り出すことにした。


「矢筒に入れられるだけ矢を入れたからな。まずは目に入るスケルトンを駆逐してから、ゾンビを安全に一匹ずつ倒していこう」


 そうイアナに話した俺の思惑は、朝一番から外されることになった。

 なにせ、アグルアース伯が雇った冒険者たち――およそ三十人が平原に陣取り、群がるゾンビとスケルトンを相手にしていたからだ。


「弱いなあ! 弱すぎるんだよなあ!」

「ゾンビは所詮ゾンビだし、スケルトンは珍しいだけで大して強くもないぜ!」


 遠間から見る限りでは、三十人は共闘して、ゾンビの数を減らしている。

 きっと、同じ場所に宿泊していて、話がつけやすかったんだろう。

 彼らは顎を鳴らし続けるスケルトンを後回し、あえてゾンビを呼び寄せることで、数を稼ごうとしているようだった。

 もうすでに彼らの足元には、倒されたゾンビが累々としている。

 ゾンビの数が多いからかだろう。身を斬るように寒い日なのに、濃い腐臭が離れている俺たちの方までやってきた。

 俺とイアナが思わず顔をしかめる中、鼻が良いはずのチャッコは平然としている。


「臭くないのか?」

「ゥワワン」


 チャッコの様子を見ると、臭いは感じていても不快に思ってはいないようだ。

 けど、強い臭いから粘膜を保護するためだろう、鼻水が少しでてきている。

 その姿に微笑みつつ、俺はイアナに顔を向けた。


「あの人たちが戦う邪魔になるから、移動するよ」

「え、戦いに参加しないんですか? たくさんゾンビが来ているから、簡単に討伐数が稼げそうですよ?」

「ここにくるゾンビたちは、あの冒険者たちが苦労して引き寄せているんだ。その努力を横から?っ攫う真似は、やってはいけない」

「そう、なんですか?」

「道義的にな。無論、助けを求められたらその限りじゃない。けど見る限り、彼らは助けを必要としてなさそうだろ」


 イアナが顔を、ゾンビを危なげなく倒し続ける冒険者たちに向け、納得した様子になる。


「そうですね。こっちが勝手に助けに入ったつもりでも、獲物を横取りしたとか難癖つけてくるでしょうね」

「難癖って……」


 相変わらず言葉の選び方が不穏だなと、俺は苦笑いする。

 その後で、イアナの背を押して、戦う冒険者たちから離れるように移動していった。





 先ほどの冒険者たちの戦う音すら聞こえないほど、十分に離れた場所まできた。

 ここにももちろん、ゾンビやスケルトンが点在している。

 俺はイアナとチャッコを連れ、昨日把握したスケルトンの感知範囲のギリギリ外を移動していく。

 その間に脳内で、スケルトンの感知内にいるゾンビの把握にも努め、倒す順番を考えた。


「さて、じゃあここから、イアナにも働いてもらうから」

「はい。何をするんですか?」

「俺がスケルトンを矢で射抜いた後、こちらの指示に従ってゾンビと戦ってもらう」

「……あのー、バルティニーさんが弓矢で全部倒すわけにはー」

「師匠に働かせて、弟子なのに楽をしようといいたいのか?」

「いえいえ。そうじゃなくて。そのー、ゾンビって臭いじゃないですか。体とか服に臭いが移ったら、イヤだなーって」

「イアナは女性だから気持ちは分からなくもない。けど、冒険者は血まみれ土塗れになって、自分が変な臭いになることは当たり前だ。それに慣れるちょうどいい機会だと思って、俺の指示通りに戦って欲しい」

「ううぅ、分かりましたよー。こういう場面で、命令じゃなくてお願いとして言うなんて、バルティニーさんは卑怯です……」


 なにがどう卑怯かよくわからないが、とりあえずイアナはゾンビと戦うことを了承してくれたようだ。

 それならと、俺は弓矢を構え、少し先にいるスケルトンに狙いをつける。


「しッ!」


 短い呼気と共に矢を放ち、獣型のスケルトンの頭を粉砕した。

 仲間が倒れたことに気づき、人型のスケルトンが顔を巡らし始める。

 こちらに顔が向く前に、そいつの頭も矢で射壊す。

 少し進みつつ、矢で狙えるギリギリのスケルトンも、一通り壊していく。

 こうして感知範囲に隙間を作ったら、次はイアナがゾンビと戦う番だ。


「イアナ。まず、その人型の一匹だ」

「はい。いきます!」


 持ち手に革がまかれた、金属バットに似た鉄棍棒を手に、イアナは慎重にゾンビに近づいていく。

 十メートルほどの距離で、ゾンビがイアナに顔を向け、腕を伸ばしながら近づこうとする。


「オアアーーー」


 イアナは頬を引きつらせながらも、ゾンビを目で狙う。

 そして気合の声と共に、棍棒を振るった。


「いっ、せのー!」


 棍棒がゾンビの頭に当たると、カキンと、金属バットそっくりの音がした。

 音の大きさにイアナが驚いた様子を見せる。

 その中で、頭の半分がべっこりとへこんだゾンビは、その場に崩れ落ちた。

 それを見て、イアナが『やりましたよ!』って感じの顔を、こちらに向けてくる。

 俺は黙って倒れたゾンビを指さし、止めを刺すようにと身振りした。

 イアナは不満そうな顔になりつつも、ゾンビの頭に棍棒をもう一回振るう。

 頭の大半が潰れたんだ、このゾンビはもう動いたりしないだろう。

 でも念のためと、俺は首を落とした。

 転がるゾンビの首を蹴り放してから、イアナと共に次に狙う犬型のゾンビに向かう。

 イアナは棍棒を振るおうとして、タイミングが合わない様子で躊躇する。


「むむむっ。人のゾンビより的が小さいから、頭が狙いにくいです」

「なにも一撃で倒さなくたっていい。ひとまず体に当てて動きを止めてから、次で頭を狙ったっていいんだぞ」

「やってみます!」


 イアナは俺の助言通りに動き、まず棍棒でゾンビの上半身を、棍棒で横に叩いた。

 棍棒が奏でた軽く高い音の中に、腐った肉が潰れる湿った音が混ざる。

 ここでイアナは一度退き、様子を伺ってから、もう一度同じ場所を攻撃した。

 今度は骨が折れる音が混ざり、ゾンビは横倒しになった。

 イアナは背中側に回ると、肋骨の下あたりを踏みつけて、棍棒を逆手持つ。


「せーのー!」


 気合を入れて、棍棒の先をゾンビの頭に叩き込む。

 けどあの棍棒は、鉄パイプのように中空な構造だ。先で突いただけでは、あまり大きくはへこませられない。

 その上、イアナは細腕の少女なのでけっこう非力だ。遠心力が乗らない攻撃だと、打撃力は低い。

 致命にほど遠い攻撃を受けて、犬型ゾンビは反撃にイアナの足に噛みつこうとする。


「うわっ!? この、このこの、このこのこの!」


 イアナは驚きながら棍棒でまた頭を突き、続いて何度も何度も振るい殴っていく。

 段々とゾンビの頭のへこみ具合が大きくなり、ある程度潰れたところで動かなくなった。

 まだ半分も頭がへこんでないが、人型と比べて頭が小さいから、耐久力はあまりないようだな。

 新たな情報を頭に入れる俺の横で、イアナが困ったような声を上げる。


「わわわっ。棍棒の穴から、腐汁が垂れてきた!?」


 どうやら上下に貫通する穴の中に、ゾンビの体液が入り込んでいたらしい。

 イアナは急いで棍棒を振るって、腐汁を払い飛ばしている。

 それを見て、突いたときの打撃力不足を含めて、棍棒の頭の穴は塞ぐべきだな。


「イアナ、ちょっと棍棒を貸して」

「もしかして、魔法で水を出して洗ってくれるんですか!?」


 嬉々とした表情で差し出してきた棍棒を、俺は受け取る。


「……先の方をいじるなら、洗わないと触れないしな」


 俺は苦笑いしつつ、生活用の魔法で棍棒を水洗いした。

 その後で鍛冶魔法を使って、棍棒の先端の穴を塞ぎ、全体的な形を整えていく。

 イアナは横で見ていて、感心したような声を上げた。


「ほへー。バルティニーさんって、鍛冶もできたんですね」

「生活用の魔法が使えれば、応用で形を整えるくらいできるぞ」

「またまたー、そんな楽じゃないってことぐらい、昔に鍛冶場の整理を手伝ったときに教えてもらいましたよー。それに、わたし生活用の魔法なんて使えませんしね」

「簡単に教えてやろうか?」

「それって、体の中にある魔力の塊を回すって方法ですよね?」

「その通りだが、よく知っていたな?」

「路上生活してたときに、人のいい工芸の親方に教わりましたよ。できたら、弟子にしてやるからって。まあ、わたしには才能がなかったから、こうして冒険者をしているわけですけどね」


 聞いていて、俺は首を傾げた。


「魔法を使う練習はせずに、ぶっつけ本番で一回きりだったのか?」

「え、練習なんてするんですか? 親方は、できる人はすぐにできて、できない人はずっとできないって言ってましたけど?」 

「……それって遠回しに、出来るようになったら工房に来いってことだと思うぞ」

「ああー、なるほどー。だからちょくちょく、あたしらに顔を見せにきていたんですね」


 なんか抜けているなってお思いつつ、俺は手直しした棍棒を渡してやった。

 先端の穴が塞がり、使いやすいように形を少しシャープにしたから、ノック用の金属バットっぽい。

 形を変えてしまったけど、イアナには好評のようだった。


「扱いやすくなりました。ありがとうございます」

「その分、一撃が弱くなったからな。今まで以上に、的確に殴るように心がけないといけないぞ」

「はい。もしなにか不便に思ったら、バルティニーさんに直してもらうので、大丈夫です!!」

「いや、それは大丈夫じゃないだろ。まあ、使いにくいようなら直してやるけどさ」


 話しはお終いにして、俺は周りを見て、ゾンビとスケルトンの配置をもう一度確認する。

 そして、俺の真似をするように周囲に気を配るチャッコを撫で、作り変わった棍棒を握るイアナを連れて、次のゾンビへと向かうことにしたのだった。


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