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百九十八話 近づく別れ

 空飛ぶ竜を追い払った翌日、朝食の席でアリクさんが唐突に俺たちに言ってくる。


「もうそろそろ、二人はこの集落にいる必要なくなったんじゃない?」


 出されたお茶を飲んで一息ついていたところだったので、俺は少し言われたことを理解することが遅れた。


「それって、俺たちに出て行けってことですか?」


 アリクさんが言うにしては変な言葉に眉を顰めると、違うと身振りが返ってきた。


「いやさ。バニーくんに教えるべき魔法のコツは伝え終わったし、オゥトちゃんも此方わたし以外のエルフと模擬戦しても物足りなさそうになっているからね。もう集落から出た方が、君たちの成長に良いんじゃないかなって、それだけのことだよ」


 確かに、学ぶべきものは終わって、あとは自己研鑽の領域に入っている。というよりも、ここ最近の訓練では、アリクさんとの模擬線以外は自己研鑽の時間の方が長かったよな。


「そう言われてみれば、そうかもしれないですね」

「相手不足だとは感じていたな。僕の友は、あの竜を魔法で追い払ったぐらいだ。アリク以外に、相手になるものもいるまい」

「いや、あれはアリクさんがいてくれたからこその結果だから」

「竜の腹に大穴を開けたのは、友の功績に間違いはないだろう?」

「俺単独だったら、避けられていた可能性の方が高いし」

「謙遜しなくてもいいと思うが?」

「謙遜じゃなくて、なんというか、実感がないんだよね……」


 思い返しても、あの光の魔法は未完成だって印象が強くて、あれで竜に大穴を開けたって印象は持てないんだよな。

 俺が言葉を濁していると、アリクさんが苦笑いを浮かべていた。


「どうやらバニーくんは、あの魔法の使い心地に納得いっていないみたいだね。魔法を発動するとき、どんな想像をしたんだい?」

「えーっと、言い表し難いんですが――」


 核の火をイメージしていたなんて、アリクさんに通じるはずはないから、別の言い方を考える。


「――全てを破壊する光を、魔法を使うときに想像していました」

「ほほぅ~。それはまた、大きなことを思い描いていたものだね。おとぎ話にでてくる、神の裁きの光が着想点かな?」

「えっと、まあ、そんな感じです」

「なるほどね。それなら、完成に近づくための助言が、ちょっとはできるかな」


 意外な言葉に目を丸くすると、アリクさんは照れ笑いをしていた。


此方わたしも超威力の魔法の開発とかに、のめり込んでいた時期があるんだよ。バニーくんのように想像から入ったんじゃなくて、試行錯誤して徐々に威力を上げていく方向だったけどね」

「そうだったんですか。ちょっと意外に思います」

「そうかい? 開発した魔法の試射で、うっかり森の主を倒してしまったから、今こうなっているんだけどなぁ」


 失敗談を語る口調だった。

 気分を入れ替えるためか、アリクさんはお茶を啜ってから、魔法の助言を始める。


「それでね、きっとバニーくんが不足に思っているのは、混合する魔力の種類が足りていないからだろうね」

「種類ってことは、三つ以上の属性を混ぜろってことですか?」

「そういうこと。でもこれが、なかなか難しいんだよね。いまの此方わたしでも、魔塊の魔力を使う魔法だと、四種類混合させることが限界かなぁ」


 長年生きているアリクさんですら、四種類しか無理ってことに驚いてしまう。


「そんなに難しいんですか?」

「試しに体中から湧く魔力を使う魔法、君がいうところの生活用の魔法で練習してみるといい。三種類混ぜるだけで、格段に難しいからさ。ちなみに、魔塊の魔力だとその倍以上難しくなるから」


 あの光の魔法を完成させるヒントは得られたけど、たぶん俺の命があるうちに完成させるのは難しそうだ。

 けど、三種類の魔力を混ぜる魔法の練習っていう、次の目標は決まったな。

 俺たちの会話がひと段落ついたところで、オゥアマトがアリクさんに質問をする。


「アリク。呪い師と戦うコツと、より実力を伸ばす方法を、教えてはもらえないだろうか」

「こつこつと実力を伸ばす――ってのじゃ、納得できないんだね?」

「うむっ。アリクと竜が戦う姿を見て思ったのだ。並みの鍛え方では、あの領域に行くのは不可能だと。ならば膝を折ってでも、先達の指導を請うのは当然だろう」


 オゥアマトの言葉に、アリクさんは苦笑いする。


此方わたしとあの竜は、森の主でもすごく強い方なんだけど、そこに鍛錬だけで匹敵したいって無茶を言うね」

「無理なのか?」

「できなくはないよ。黒蛇族なら、他の種族よりも少しは楽かもしれないかな」


 アリクさんは教えるべきか悩む仕草をして、オゥアマトの真剣な顔を見て折れたようだった。


「生き物っていうのは、自分の体が壊れないように、力を制御する機能があるんだよ。よく言うでしょ、恐ろしい敵から必死に逃げたら、今まで以上の走力が出たって」

「ああ、聞いたことがあるな。その話が、鍛錬とどうつながるんだ?」

「その機能を意図的にマヒさせると、一時的に超人的な力を得られるんだよ。その技術をまず身に着けてもらいたいかな」

「……話は分かった。だが、流れから察するに、その力を使えば体が壊れてしまうのではないか?」

「壊れるね。けど、その力に耐えられる体を作れば、これほど強い力はないよ。頑丈な黒蛇族なら、可能だと思うよ」


 オゥアマトは腕組みして考えると、重々しく頷いた。


「要は体づくりをすればいいということだな。なら自身がある。だが、力の制御を外す方はどうする?」

「それは簡単。いま、できるようにしてあげるよ」


 アリクさんは立ち上がると、オゥアマトの額に指を当てた。

 魔力を動かす雰囲気がしてくる。

 オゥアマトは黙って受け入れていたが、少し経って驚いたように目を見開く。


「どうしてだか、力が湧いたり消えたりしている感じがするのだが?」

「いま魔力で、力の制御を入れたり止めたりしているんだよ。これを繰り返しやると、自分の意思で外せるようになるんだよ。たぶんこれぐらいで大丈夫かな」


 アリクさんはオゥアマトの額から手を離す。


「さて、力が湧く感じを思い出して、意識してみて」

「ふむむっ。こうか?」


 オゥアマトは自分で額に指をつけながら、気合を入れてみせる。

 すると、存在感というか気配というか、そういう言い表しにくい何かが強くなった感じがした。

 効果を実感できているのか、オゥアマトは嬉しげに腕を曲げ伸ばししている。


「おおっ、なるほど。いつになく力が入る気がする。それこそ、力の入れすぎで骨が軋む音がするぐらいに!」

「あんまりやり過ぎると、筋肉が切れたり骨が折れたりするから、耐える体を作り終えるまで無茶はしないことだよ」


 アリクさんの苦言を受けたからか、オゥアマトの気配がすぐ元に戻った。


「ふむっ。少ししか動いていないのに、筋肉が張る感じがあるな。制御を外してまともに戦えるのには、時間がかかりそうだな」

「焦らず気長にやることだね。これは、バニーくんの魔法の訓練にも当てはまることだよ」

「うっかりすると破滅するってことは、魔法でも同じってことはわかってます」


 肩をすくめて言うと、アリクさんは微笑んだ。

 そしてこれ以上は本当に教えることはないと、俺たちにエルフの集落を去ることを強く勧めてきたのだった。


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