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百八十七話 成長への考え方

 エルフの集落で過ごす日々は続く。

 俺は水属性を軸に、二種類混合する魔法を練習していく。成功と失敗を繰り返しながら、段々と勘所を掴み始めていた。

 そんな俺の横に多少のエルフたちが並び座って、彼ら彼女らも唸りながら魔法の練習をしている。

 その一方で、オゥアマトはアリクさんとの模擬戦をしている。

 相変わらず連戦連敗だけど、その後に行われるエルフの人たちとの一対二や一対三などのハンデ戦で、勝ったり負けたりしている。

 見ると、魔法相手が苦手なようで、その攻略に四苦八苦しているようだった。

 俺たちが経験を積み続けているように、この訓練でエルフの人たちも経験値を上げている。

 特にアリクさんは、俺が見せた武器や体に魔法を纏わせる方法を自己昇華させて、まったく別の魔法に組み替えてしまっていた。

 それが分かったのは、ある日のオゥアマトとの模擬線の中だ。


「いでよ、土人形!」


 アリクさんが地面を踏みしめて言葉を告げると、アリクさんの前に地面から土くれが立ち上がった。

 それは秒ごとに造詣が整っていき、やがてアリクさんとほぼ同じ形の人形になる。


「なんだそれは」

「バニーくんの魔法を見て思いついた、土人形の魔法――さっ!」


 警戒して足を止めたオゥアマトに、アリクさんと土人形が襲い掛かる。その動きは双子かと思うほど息が合っていて、見事な連携で追い詰めていく。

 ただでさえ勝てない相手が二人になったからか、オゥアマトや破れかぶれな攻撃をした。


「こぉのおおおおおおおお!」


 長い尻尾を力強く横に振り、アリクさんと土人形をまとめてなぎ倒そうとする。

 力任せで大雑把な攻撃に、アリクさんは微笑んだ。


「ふふ、甘い甘い。土人形、お願いね」


 アリクさんの言葉を受けて、土人形はオゥアマトの尻尾を受け止める格好をする。


「土くれ風情で防ごうなど、舐めるな!!」


 オゥアマトが吠え、土人形の胴体に尻尾が打ち込まれた。

 人相手ではないから手加減しなかったのか、土人形の腹部が半分ほど弾け飛ぶ。

 そのことにオゥアマトは得意げな顔になるが、数瞬後には驚きの顔に変わる。

 土人形が変形して、オゥアマトの尻尾にくっつく重りと変わったのだ。


「ぬあっ!?」


 声を上げたオゥアマトは、尻尾にくっついた重りにバランスを崩した。

 その隙を、アリクさんは見逃さない。

 素早くオゥアマトに近づき、後ろ頭に指を突きつける。


「はい、これで此方わたしの勝ちだよ」


 アリクさんの勝利宣言に、オゥアマトは模擬武器を手放して降参した。


「僕の負けだ。だが、ただでさえ勝てないのに、二対一になったら手の出しようがないのだが?」


 オゥアマトの模擬線にならないという苦情に、アリクさんは苦笑いした。


「いやぁ、ご免ね。この魔法を模擬線で使ってみたかったからさ」

「それは構わないが。魔法で自分の分身を土で作るのならば、アリク本人で一度、分身でもう数度、模擬戦ができると考えていいか?」

「申し訳ないけど、それはちょっと無理だね。土の分身って、けっこう魔力使うんだ。長時間は出してられないよ」

「むむっ、それならば仕方がないか」


 オゥアマトはひどく残念そうな顔で、理解を示したのだった。



 そんな模擬戦を見て、俺は舌を巻いていた。

 アリクさんの土分身は、恐らく攻撃用の魔法で作っている。動きの滑らかさから考えて、土属性に水属性を混ぜて使う魔法だろう。

 それだけでもすごいのに、自分の体から離れた場所に魔法を存在させ続け、なおかつ体がもう一つあるかのような連携をしていた。

 どれだけの想像力と魔力量、そして緻密な魔力操作が必要なのか、今の俺では想像すらつかない。

 魔法の頂きの一端が見えた気がして、その遠さに少し焦りを感じてしまう。

 そんな俺の感情を見取ったのか、近寄ってきたアリクさんが軽く拳をこちらの頭に当ててきた。


「こら。急いだって仕方がないんだから、着実に一歩一歩進まなきゃだめだよ。それに一足飛びに学ぼうとするなんて、飛び越えた場所がもったいないでしょ」

「越えた場所が、もったいない??」


 理解しずらい意見に首を傾げると、アリクさんは教師っぽく指を立てて説明をする。


「物事にはなんにだって、学ぶべき過程というものがあるの。それを一つでも飛ばしちゃうと、今はいいかもしれないけど、後で弊害が出てくるものだよ」


 前世での数学や科学の授業がそうだった。

 公式一つ、仕組み一つを覚え忘れ、それを生徒が覚えている前提で作られた後の授業内容が、途端に分からなくなったことがあったっけ。


「それは、なんとなくわかります」


 俺が理解を示すと、アリクさんは説明を続ける。


「それだけじゃないよ。飛ばした過程の中には、自分しか発見できないようなお宝が隠れていることがあるの」

「そうなんですか?」

「例えば、バニーくんの体に水を纏う魔法あるでしょ。あれは、君の魔力量と発想力があったから生まれたものだよ。他の誰かじゃ、上手くいかずに実現できなかった可能性が高いね」


 実際に俺よりも技術的に高いアリクさんが、その魔法を会得していなかったな。

 そう考えると、アリクさんが言わんとすることは理解できた。

 俺が納得するのを待って、説明は続く。


「そんな発見されずに終わるような技術は、どこにだってあるの。けど、全員が過程を一つずつちゃんと学んでいれば、いつかは誰かの手で日の目をみれるようになる。そして新発見された技術は、他の人に伝わり、また新たな発展の礎になるわ。そう考えると、過程を飛ばすのって『もったいない』でしょ?」


 たしかにその通りだ。

 見過ごされた技術があるなら、日の光を当ててやりたいと思う。

 けどそれは、飛ばした過程に価値が眠っているかいないか、自他ともに判別することが難しいともいえる。なにせ掘り起こせる人は、過程を飛ばすかどうかを判断する、その人しかいないのだから。

 加えてアリクさんの意見は、全ての人は基盤の回路やプログラムの構築法を理解してから、パソコンを使えと言っているようなものだ。

 とりあえずアプリやゲームをしたいという人には、受け入れがたい考え方だ。

 人間の気質や前世の発展ぶりを考えると、多くの人間は受け入れないことを選ぶだろう。 

 では、俺はどうか。

 たしかに理論や理屈はどうでもいいから、強力な魔法を教えてくれという気持ちは、なくはない。

 でも一つ一つ過程をこなし、日々成長する実感を得るのも、悪くはないと思っている。

 つまるところ、早く成長したいのなら、自分が努力すればいいだけだ。

 アリクさんという得難い教師がいるんだから、焦る必要はないしな。

 そんな結論が出たので、俺は再び練習に集中することにした。


「よっしっ。今日は水と火の魔力の割合で、温水の温度の変化がどうなるかを見ていくぞ」


 俺は気合を入れ直して、温水の魔法を使用していく。

 それを見てアリクさんは微笑み、こちらの頭を一つ撫でてから、他のエルフの指導に向かっていった。

 離れていた場所に座っていたアガックルは、まるで護衛のようにその後についていく。

 アリクさんの実力なら、守る必要なんてないのにと思いつつ、俺は魔法の練習に没頭していったのだった。


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