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百八十六話 少しずつ成長中

 アリクさんはオゥアマトと戦い、その後で俺の魔法の講義をする工程で練習して、日々が過ぎていく。

 日が過ぎるに従い、オゥアマトは配下の狼の魔物とも模擬線を行い、さらに実力を伸ばそうとしている。


「こい、狼。その調子では、僕に勝つことなんてできないぞ!」

「ゥグアル!」


 狼が飛びかかり、オゥアマトは避けながら尻尾を振るう光景は、傍目だと犬と遊んでいるようにしか見えない。

 けど、両方の顔は真剣で、遊んでいるつもりは欠片もないことが見て取れた。

 狼との訓練の甲斐があってか、オゥアマトとアリクさんとの模擬戦の決着時間が、少しずつ伸びてきていた。

 もっとも、オゥアマトが負けるばかりだし、アリクさんは水球以外の魔法を使っていないので、実力差はまだまだありそうだ。


 一方、俺はというと。

 相変わらず、二つの属性を混ぜ合わせることに、四苦八苦している。

 片手ずつに分けた別属性の魔力を混ぜ合わせるだけなら、一応はできるようにはなっている。

 けど、少しの調整間違いで、まったく結果が変わってしまうのが、この魔法だった。

 例えば、アリクさんが最初に見せてくれた、温風を出す生活用の魔法。

 風の属性の魔力を強めれば、風力が増す。火の属性の魔力は、熱量を上げることにつながる。これは簡単にわかる理屈だった。

 けど、風の魔力を強くした分だけ、火の魔力を強めないと、風が途端に温くなってしまうことに気が付く。

 そこからは、二つの魔力をどう混ぜたら最適かを感覚で掴むため、ひたすら練習が必要になった。

 凝り性かつ長命なエルフなら苦にもならないのだろうけど、俺はこの地道な作業がかなりきつい。

 その思いがついつい顔に出てしまうのか、アリクさんにたびたび心配されてしまう。


「大変なら、少し休んでもいいんだよ? どんなことでも気楽に気長にやるのが、上達のコツだからね」

「いえ。まだまだ頑張れます」


 幸いなことに、俺は細胞の魔産工場を長時間稼働可能な体質だ。

 この長所を生かして、日々少しでも多くという気持ちで、練習を重ねていった。




 そんな風に俺たちがひたむきに訓練する姿に、他のエルフたちも発奮されたようだ。


「久しぶりに、槍の訓練でもするかな」

「じゃあ私も、途中で投げ出した魔法の訓練、再開しようかな」


 そんな会話をしながら、年上のエルフたちが訓練場に現れるようになった。

 年長者だけあって、かなり上手だ。

 その腕前を見て、年若いエルフたちが教えを請いに向かう。


「あの、その槍捌きってどうやるの!」

「風で切り裂く魔法が上手くいかないんですけど。コツを教えてもらえませんか?」


 活発な交流が生まれ、年上と若年とで教え合いや模擬線が行われ始めた。

 中には、狼と模擬戦をしていたオゥアマトに、手合わせを願い出る人も出てくる。


「黒蛇族の方、一手御指南していただこう」

「うむ、その台詞はこちらとて同じこと。いざ、尋常に」

「「勝負!!」」


 弓使いの人とオゥアマトが戦う。

 素早く番え放つエルフの弓の腕は、彼が冒険者だったら、一流と言って差支えのない技量だった。

 飛び来る矢の数々に、オゥアマトですら防戦を余儀なくされている。

 けれど矢の密度は、アリクさんの水球の連射よりも薄い。オゥアマトは冷静に模擬剣で切り払って対応ができている。

 矢が尽きたところで、エルフの人が降参した。


「いやはや、ここまで防がれるとは思ってもなかった。まだまだ力をつけねばと、身が引き締まった」

「いやいや、なかなかの腕前だった。先に放った矢と同じ軌道でもう一本来るあの技など、驚きで矢を払い損ねるところだったからな」

「あははっ。なに、あれが精一杯。次にまみえるときは、三本は同じ軌道で放てるよう、これから精進しますとも」


 お互いに握手して健闘を称える。

 この戦いを見て、次から次へとオゥアマトに挑戦する人が現れだす。

 槍、剣、弓矢、棒に魔法と、多種多様な得物の人たちの挑戦を、オゥアマトは嬉々として受け入れている。

 俺は魔法の練習をしながら、取り入れられるものは取り入れようと、模擬戦を見学していく。



 模擬線を見ていて、あるエルフが使った魔法が気になった。

 その人は、俺と同じように左右の手に分けた魔力を混ぜて、魔法を発動させている。

 けど、その組み合わせ方が、盲点だった。


――魔力を混ぜ合わせたはずなのに、出ているのは風だけ。つまり、風に風を組み合わせている?


 どうしてそんなことをしているのか、試しに最小威力で自分でやってみた。

 普通に使うとドライヤーの風のように一直線にしか行かないが、組み合わせると竜巻や乱流を起こせるようになることに気づく。

 さらに試行錯誤すると、風圧の玉のようなものが作れた。

 攻撃用の魔法で作る風の球に比べたら、すぐ解ける上に威力が弱いけど、けん制としては十分な威力がありそうだ。

 材料も細胞から常時出てくる魔力を使うので、魔塊を使うときとは違って、残量を気にしなくていいのも利点だな。

 それにしても、同属性の組み合わせでも色々できるとなると、魔法の奥ってどれほど深いんだろうか。

 組み合わせを調べるだけで、人間の人生なんて終わっちゃうんじゃないか?

 そう考えると、使う魔法を取捨選択する必要があるな。

 そんな懸念を、俺は夕食後にアリクさんに伝えてみた。


「それってつまり、魔法を一つの系統に絞って、練習したいってこと?」

「一つとは言いませんけど、あれもこれもとやっていたら、どっちつかずに終わりそうで」

「その提案と似た練習をするエルフもいるけどさ。一通りできるようになった方が便利だと、此方わたしは思うけどなー。バニーくんぐらいの才能があれば、二十年もあれば全属性をおおまかに学べると思うよ?」

「二十年って……。あの、エルフと人間は寿命に差があるのですけど」

「ああー! それもそうだったね。いけないいけない、失念していたよ。そういうことなら、一つの属性とその派生に絞って練習したほうがいいかもね。バニーくんは、どの属性が好き?」

「好きというか、攻撃用の魔法で使えるのは、こんなのですけど」


 俺は手に水を、矢に風を纏わせたり、抜いた鉈の刃を赤熱化させてみたりした。

 この魔法を見て、アリクさんは面白そうな目になる。


「ほへー、初めて見る使い方だよ。体や武器を魔法で覆うっていう単純な発想を、魔力ずくで叶えているのか。威力に比して、魔塊の減りが早そうな魔法だね」

「水の魔法は、防御力や腕力を増したりできるので、重宝しているんですけど?」

「防御力と力を増すなら、土と水と火を混ぜ合わせて使う身体活性化の魔法がある――ってつい自分で使うことを考えちゃった。バニーくんは三種混合なんてできないもんね」


 ごめんねと謝ってくれてから、アリクさんは俺に提案してきた。


「そうだなぁ。バニーくんは水属性を使い慣れているっぽいから、そこを主軸にしようか。水は色々と汎用が効くから、おすすめでもあるしね」


 アリクさんは、俺の魔法の訓練法を改めると約束してくれた。

 そのことに安心してから、俺はもう一つ気になったことを聞いてみた。


「アリクさん。俺たちをこの集落に受け入れてくれたのって、エルフの人たちに刺激を与えるためですか?」

「それは僕も思っていた。いいダシに使われたのではないかなとな」


 オゥアマトも同意して聞くと、アリクさんはにこやかに頷く。


「そう願っていたことは事実だね。けど他の人たちだけのためじゃなく、此方わたしのためでもあるんだ」

「どういうことです?」

「いやさ。精神と肉体が劣化しないといっても、変化がない日常って暇なことには変わらないんだよ。暇つぶしに色々とやっても、時間が経つと極めちゃって進歩のしようがなくなっちゃうしね」

「新たな刺激を得るためですか?」

「うん。二人が来てくれてから、実にいろいろな発見があったよ。バニーくんが見せてくれた、あの魔力任せで単純な魔法なんて、此方わたしやエルフたちじゃ思いもつかなかっただろうしね」


 魔法のことは褒められているのだろうけど、素直に喜べない。

 反応に困っていると、オゥアマトが一言告げた。


「大半のエルフは喜んでいるようだが、不満を持つ者もいるようだぞ。特に誰かとは、あえて言わないが」


 この発言で、俺たちの脳裏に浮かんだのは、きっと同じ人物だろう。

 アガックル。俺とオゥアマトの監視名目で、集落を歩くと必ず忌々しそうな顔でついてくる、あの男。

 エルフたちが俺たちと仲よくしようとすることも、気に入らない様子だったっけ。

 彼の様子を思い出していると、アリクさんは苦笑いを浮かべていた。


「集落の将来を案じて視野狭窄になっているだけで、あの子も悪い子じゃないんだよ。嫌わないでやって欲しいんだけど……」

「向こうが嫌っているのだから、ムリだろう」

「仲良くする気のない人を相手にするだけ、時間の無駄ですよ」


 オゥアマトと俺のにべもない言葉に、アリクさんは苦笑いを強めたのだった。

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