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百八十話 森人からの手紙

 黒蛇族の里に滞在している間、朝に訓練に参加し、昼は狩りか鍛冶場の手伝いをし、夜になれば寝るという日々を過ごす。

 訓練のときは、黒蛇族の戦士たちの指導の下で子供たちを相手することが多かった。

 次第に二対一や三対一で模擬戦をするように。もちろん俺が一の側で、魔法と武器はなしの訓練だ。

 でもそのお陰で、フェイントの練習も数多くこなせ、体の動かし方も併せてだいぶ上達したと思う。

 まだオゥアマトやプレゥオラなど、大人の戦士たちには通じにくいので、改良が必要だけど。

 鍛冶場の人たちとも仲良くなり、新しい形状のナイフの作り方を教えてもらった。

 

「このナイフの名前は、『かぎ爪』という」


 シンプルな名前の由来を聞くと、竜のかぎ爪を模した武器なのだそうだ。

 形状は、鎌の刃に垂直に柄をつけたよう。

 用途としては、草や枝を刈り取ったり、獲物の首を斬り裂いたりするためのものだそうだ。

 獲物の腹を裂く際に、深く刃が入り込まないので、解体の道具としても使うらしい。

 話を聞く分には、戦闘用武器と日用刃物の中間に位置しているもののようだ。

 ナイフの形状を見ていて、オゥアマトに鉈を上げたときのことを思い出した。

 その際に鉈を調整したのだけど、きっとこのナイフの形に近づけようとしていたんだろうな。

 今から調整しようかオゥアマトに尋ねると、首を横に振られた。


「今ではこれが手に馴染んでいるからな、形状を変えようとは思ってない」

「それならいいけどね。話ついでに、鉈の整備をしてあげるよ」

「おお、それは助かる!」


 よほど大事に使ってくれているようで、ほとんど直すところはなかった。

 強いて言うなら、オーガの口に突き入れたときについたと思われる歯形と、なにかの血脂が薄っすらあったぐらいだった。

 そんな緩やかな日々を過ごすこと、十日ほど経った。

 森人という異種族からの返事が、この里にきた。

 俺とオゥアマトは長老宅に呼ばれ、中に入って座礼をする。

 長老はパピルスのような紙に目をやった後で、こちらに視線を向けてきた。


「オゥアマトの要望は通った。先方はお主とその友を、快く迎え入れるとのこと。今すぐ旅立つといい」


 そう告げ、手にした紙を差し出してくる。

 顔を伏せたまま、オゥアマトは前へにじり進んで受け取り、そしてにじり戻てきった。

 すると、これで話は終わりとばかりに、長老は目を閉じ動かなくなった。

 俺とオゥアマトはもう一度深く座礼すると、長老宅を辞した。

 その後、オゥアマトは受け取った紙をしげしげと見つめる。

 三分ほどして、俺に差し出してきた。


「読めん。友は読めるか?」


 受け取って見てみると、俺の知らない字だった。

 この世界にある人間の文字ではなく、ましてや前世の日本語や英語といった感じでもない。

 というよりも、くねった線が書かれているようにしか見えず、右から読むのか左から読むのかすらもわからなかった。


「これが森人の字ってことしか分からないね」

「やっぱり僕の友もそうか。うむむっ、子供時代にこんな文字は習ってなかったのだがなぁ……」

「きっと長老とか同格の偉い人しか教わらない、特別な文字なんじゃないかな」


 それなら偉大な戦士であるプレゥオラはどうかと、旅立つ準備をしてから会いに行くことにした。

 借りた家を片づけ終えると、オゥアマトの狼の魔物を見に行く。

 雌たちに囲まれていた狼は、オゥアマトの姿を見ると立ち上がる。

 すると、行かないでとばかりに、雌たちが鳴き始める。


「クーンクーン……」

「ゥガル」


 旅立ちの邪魔をするなとばかりに軽く吠え、狼はオゥアマトの横に立つ。

 誇らしげに立てた尻尾が小刻みに揺れるさまを、雌狼たちは悔し気に見つめている気がした。

 狼の別れの場面なんてどうでもいいことだと、俺たちはプレゥオラに旅立ちのあいさつを含めて、手紙を見せにいった。


「この手紙が読めるかだと? ああ、緑肌の文字か」

「知っているってことは、読めるんですか?」

「読めはする。だが、意味を掴むことが難しい」

「どういう意味です?」

「手紙の文字と喋る言葉とが、緑肌の場合はかい離しているのだよ」


 話してくれたことによると、現代語を喋っているのに、古代の文字を使用しているらしい。

 前世で習った古典の授業が、現代人にさっぱりわからないのと同じ理屈なようだ。

 けど、重要な単語は分かるようで、プレゥオラが手紙のだいたいの意味を教えてくれた。


「要望を受け、許可した。二人を、招待する。詳しい話は、こちらに着いてから。この手紙が、通行証。こんな文面だな」


 返された手紙を、オゥアマトが受け取った。


「通行証というからには、なくさないようにせねばならんな」

「大事に保管しろよ。それでオゥアマトは、緑肌の集落の場所は知っているのか?」

「もちろんだとも。三つ子幹の大樹近くの、大山の麓にある集落が森人たちの巣だ」

「分かっているならいい。緑肌の連中は礼節にうるさくないからな、気楽にいってこい」


 プレゥオラからそう声をかけられた後、俺とオゥアマトはすぐに黒蛇族の里から出た。

 緑肌の森人という種族が暮らす集落はどんなところだろうと、俺は胸を膨らませながら、オゥアマトの後についていくのだった。


少し短いですが、話が森人の集落に移るので、ここで切らせてもらいました。

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