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百七十二話 里の様子

 黒蛇族の里を歩いているわけなのだけど、通り道に家がぽつぽつある以外、森の中と変わらない見た目だ。

 人間の村なら当たり前にある、畑や井戸すら見当たらない。

 魔物が跋扈する場所だというのに、本当に野生同然の暮らしをしているみたいだ。

 里の様子を眺めていると、家の陰からこちらを見る目に気づいた。

 顔を向けると、十歳にも満たなさそうな黒蛇族の子供が、俺に視線を向けている。

 目と目が合うと、ぱっと隠れられてしまった。

 道々で同じことがたびたびあり、警戒されているのかなと勘ぐってしまう。

 すると、道案内をしてくれている黒蛇族の戦士が、俺に喋りかけてきた。


「黒蛇族は他の里と交流がほぼない種族なものでな、君のような、鱗のない白っぽい肌がとても珍しく見えるのだよ。気を悪くさせたのなら、子供たちに代わり、私が謝ろう」

「いえ、怒ってはいないので、謝られることはないですよ」


 自分とは違う見た目の人がいたら、ついつい目を向けたくなる子供の気持ちは、理解しやすいものだし。

 俺が気にしていないことに、黒蛇族戦士が安堵した。 


「そう言ってもらえると助かる。だがあの態度は、戦士を目指す子には相応しくないものだから、注意をせねばならないな」


 戦士は大きく息を吸うと、周囲に大声を放つ。


「影からこそこそと伺うだけの臆病者は、立派な戦士となる資格はないぞ! 見たいなら、堂々と前に出てきて許しを請うのが、黒蛇族の子としてあるべき姿であろう!」


 森の中に響くような声での一喝から数秒後、バツの悪そうな顔をした黒蛇族の子が、隠れ場所から出てきた。

 そして、こちらに近づいてくると、なんと言っていいか迷う素振りをする。

 それを見て、俺はこそっと黒蛇族戦士に視線を向ける。

 助け舟を出していいかと許しを得るためだ。

 黒蛇族戦士は少し考える素振りのあと、子供たちに分からないぐらいの小ささで頷いて、許可を出してくれた。

 なので、俺から子供たちに声をかける。


「こんにちは。俺はバルティニー。見ての通り、人間だ。そして君たちの言うところの、呪い師ってやつなんだそうだ」


 友好的に喋りかけると、子供たちは少し驚いたような顔を向けてきた。


「白い人、呪い師なの!?」

「手から火、出せるの!?」

「水は! 水も出せる!?」


 なんでこんなに食いついたのかよくわからないけど、求めに応じることにした。


「もちろん出せるとも。火だって――水だってね」


 細胞からの魔力を利用する、生活用の魔法を使い、立てた指先から火を、そして水を出してみせた。

 結果子供たちの反応は、驚き半分、期待外れ半分という感じだった。


「本当に火と水をだした! けど、ちょっと小さいよ?」

「そうだよね。もっとこう、ぶわぁって出てくると思ったよね」

「しょぼいよね、しょぼすぎるよね」


 どうやら、あまりに大人しめに魔法を使ったことが、逆に子供たちに不満を抱かせてしまったらしい。

 そういうことならと、まず手のひらをその子たちに差し出す。

 何をするのかと注目してきたところで、生活魔法で手の上に火球を生み出してみせた。

 子供たちは火の大きさにギョッとした様子で、後ろに跳び退く。

 小さくても黒蛇族だと、その跳躍距離に驚かされた。

 一方で、子供たちも盛大に驚いてくれていた。


「び、びっくりした! なんだよ! 大きい火だせるんじゃん!」

「最初に小さいのみせて油断させるなんて、やるな白い人!」

「火が大きくだせるなら、水も多くだせるよね! 浴びせて浴びせて!」


 火球は気に入ってもらえたようで、きゃっきゃと笑いながら、次の魔法をせがんできた。

 かけろというならと水を出そうとして、その手を黒蛇族戦士に掴まれた。

 けど、言葉をかける先は、子供たちの方だった。


「これから私たちは、長老のところに行かねばならんのだ。お前たちに、あまり長く構ってはいられん」

「ええー、そんなー」


 不満そうな子供たちに、黒蛇族戦士は獰猛そうに見える笑みを浮かべた。


「お前たちの仕事はどうした。いまは、親の手伝いをする時間ではないのか?」


 その指摘に、子供たちはギクリとした顔をする。

 そして誤魔化し笑いを浮かべると、一目散に逃げ出した。

 子供たちの後ろ姿を見送った黒蛇族戦士は、再び俺たちを長老のいる場所へと案内を始めた。


「あの子たちを追いかけなくてもいいんですか?」

「構わない。行いは全て、己の身に返ってくるものだ。あの子らがどう日々を過ごそうと、それはあの子らとその親の問題だ」


 戦士である自分の仕事ではない、という風に聞こえる。

 冷たくないかと思っていると、先ほどと同じ獰猛な笑みを浮かべたのが見えた。


「怠けた日々を改めたいと、将来は奉仕者ではなく戦士となりたいと、あの子らが求めるならば、私は手伝う気でいる。それこそ、怠けた期間を後に後悔するようになるほどの、過酷な訓練を課してな」


 今からそれが楽しみだというような顔に、俺は苦笑いしか返せない。

 そこで、静かだったオゥアマトが、こっそりと耳打ちしてきた。


「満面に笑う顔が怖いことを気にしているから、指摘しないでやってほしい」


 脈絡がなくて、何を言われたのか分からなかった。

 すると、オゥアマトがさらに説明を入れてくれる。


「口では厳しいことを言っているが、あれは子供と遊ぶことを楽しみにしている顔だ。きっと、言うほどに厳しい訓練はさせないはずだ」


 その言葉に、もう一度黒蛇族戦士の笑顔を伺う。

 とても、オゥアマトが語っているようには見えない。

 けど、顔が怖くて勘違いされる人なんだろうと、納得しておくことにした。

 そんな確認が終わった頃、ある建物の前に到着した。

 その家は、長年そこに経っている様子の、補修痕だらけで苔むし、蔓が幾重にも絡まった古そうな家だった。


「この中に長老がいらっしゃる。まず私が、オゥアマトの帰郷と、君の来訪を伝える。少しそこで待っていてほしい」


 黒蛇族戦士はそう言うと、滑るような動きで苔むした家に入っていった。

 俺とオゥアマトは許しが出るまで、言われた通り、大人しく待つことにしたのだった。




キリのいい場所なので、短めになりました

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