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百六十四話 総力戦3・終

話が入れ替わっていました。

ご指摘いただいた皆様、申し訳ありませんでした。そして、ありがとうございました。

 巨樹の魔物へと、多くの人が向かっていく。

 たくさんの魔物を倒してきたので、とても士気は高かった。

 けど、気持ちの強さでどうにかなる相手ではなかったようだ。


「ア゛ア゛、オ゛ア゛、オ゛オ゛オ゛」

 

 幹の数か所にある顔のような模様から声を発し、巨樹の魔物は根を蠢かせる。

 一つ一つが人の足よりも太い根が、襲い掛かろうとする人たちへと向かう。

 大多数の人たちが武器や盾で受け止めようとした。

 だけど、振るわれた根の一撃で、後ろへと弾き飛ばされてしまっている。

 俺とオゥアマトもその例に漏れず、大きく後退させられた。


「ちっ、攻撃方法はツリーフォクと一緒だけど、重さが段違いだ」

「これは地道に、根を一つ一つ斬りおとさなければ、戦いにもならないようだな」


 オゥアマトが呟いたことと同じことを、味方に指示をするターフロンも思ったようだ。


「全員で根を斬っていけ。動く根さえなければ、あれは単なる樹と同じだ!」

「「「うおおおおおおお!」」」


 明確な指示を受けて、住民たちは巨樹の魔物の根を斬り落とし始めた。

 しかし一つが太いため、なかなかうまく斬りおとせない。

 逆に、根の反撃を受けて、人々が後ろへと大きく弾かれることが多い。

 俺とオゥアマトも、根を少しでも減らそうと奮戦する。

 けど、根の数があまりに多い。

 この数を、鉈の刃を赤熱化させて斬っていたら、俺の魔塊が先に尽きてしまう。

 かといって、魔法の水を体に纏わせて強行突破する方法は、水を根で吸収するツリーフォクと似た巨樹の魔物相手に通用するとは思えなかった。

 結局のところ、魔法を控えて魔塊を温存しながら、鉈で根を斬り落とすぐらいしかできない。

 困っていると、ターフロンが次の指示を飛ばしてきた。


「射手の手が止まっているぞ。次々に火矢を射て! 壁上にある油も、投げつけろ!」


 その声にハッとしたように射手が動き出し、火矢が巨樹の魔物に降り注ぐ。

 動く根に撃ち落とされないようにするためだろう、かなり上の方に火矢は突き刺さった。

 けど、ツリーフォクと比べて燃えにくくなっているんだろう。

 火矢の周辺が燻っていても、発火までは至っていない。

 そこに油が詰まった壺が投げ入れられ、火矢の残り火で発火。巨樹の魔物の幹が炎で包まれる。

 多少は効いているのだろうけど、前に同じ攻撃をしたのに生きているのだから、致命な一撃にはなっていないはずだ。

 取れる手を使っているのに、有効な手段が見つからない。

 それでも、前線で戦う人は根を斬り落とし、後方の射手は火矢を打ち続ける。

 少しして、俺の耳に人が争う声が聞こえてきた。


「なんで射手がこんな前に来ているんだ。戦う邪魔になる、下がれよ!」

「バカ! お前が後ろに下がってきたんだよ!」


 後ろをチラッと見ると、空いていたはずの射手たちとの間が、ほとんどなくなっていた。

 それどころか、闘技場がすぐ近くにある。

 前を見返すと、前進する巨樹の魔物に押されて、通路の壁が崩壊する姿が目に入った。

 遅まきながら、巨樹の魔物に押し込まれていることに気づく。

 そして、まずい事態になりかねないと思った。

 巨樹の魔物は、攻撃する俺たちを狙って前進してきている。

 けど、このまま通路を破壊し終わり、闘技場も壊した後は、市街戦に移らざるをえない。

 簡単に倒すことのできない相手だ、被害がどれほどになるか想像もつかない。

 そして、大門から俺のいる通路の途中まで、壁が壊されてしまっている。

 その壊れた部分から、森からくる魔物が町中に流入しているかもしれない。

 あまり長々と戦ってはいられない状況だと気付いてしまうと、気が段々と急いてくる。

 他の人たちも俺と同じなのか、段々と無茶な攻撃をするようになってきた。

 雑な動きになった隙を、巨樹の魔物は見逃さなかった。

 ある男性の体に、動く根が絡みついたのだ。


「うわっ! この、話しやが――ごぼおえええ」


 男のお腹が、根によって絞め潰された。

 口からはゲロと血を、下からも大小の弁と血が流れだし、巨樹の根にかかる。

 濡れた根は水分を吸収したのか、一瞬にして乾いたように見えた。

 そしてその根だけ、他の根より動きが良くなり、他の人を襲い始める。


「ぐあっ!! くそっ、ゲロまみれのものを、押し付けてくるんじゃねえよ!」


 狙われた人は必死に応戦し、どうにか防いでいる。

 けど、巨樹の根に絞め殺される人が、続出し始めた。

 そして、犠牲者が吐き出した体液を吸い、根の動きがどんどん活発になっていく。

 このままじゃ、どんどんジリ貧になってしまう。

 この距離なら、弓矢か手裏剣を赤熱化させて投げれば――いや、後ろに人がいて下がれなくて、射角が取れない。

 矢や手裏剣を放っても、根で防がれる可能性が高い。

 ここは、やったことがないから躊躇っていたけど、火の攻撃用の魔法を撃つしかない。

 一発二発は根で防がれるかもしれない。

 けど、撃ち続ければ、防御を突破できるはずだ。

 俺の魔塊が持つかが問題だけど、根競べなら負けない自信がある。

 そう決め、片手を空けると、巨樹の魔物へ手のひらを向けた。

 でも、魔法を放つ前に、オゥアマトが俺の体を抱え上げる。


「え、ちょ、なに!?」


 混乱しながら聞くと、ニヤリとした笑顔を返された。


「友よ。あの武器を赤くするまじないいを使い、ヤツを攻撃するんだ」

「要望はわかったけど、それとこの体勢と、なんの関係があるんだよ!?」

「もちろん、友が攻撃できるように、僕がヤツの近くまで運んであげる気だ」


 言うや否や、オゥアマトは俺を抱えたまま走り出した。

 巨樹の魔物の勢力圏内に入り、動く根が四方からやってくる。

 俺は迎撃しようと、抱えられたままで鉈を構えようとした。

 けど、オゥアマトから声がやってきた。


「友はヤツの幹を攻撃することだけを考えろ。なに、この程度の攻撃など、楽に避けられる」


 有言実行で、オゥアマトは小刻みにフットワークを利かせて、襲い掛かる根を避けながら前へと走る。

 その動きは、とても見事なものだった。

 俺に教えてくれている、フェイントを多用した動きで、巨樹の魔物の根をほんろうしている。

 けど、激しい動作で揺さぶられる俺は、たまったものじゃない。

 酔いそうになったので、オゥアマトに言われた通りに、赤熱化させた武器で巨樹の魔物を斬りつけることだけを考えることにした。

 オゥアマトの動きは、魔物の幹に近づくにつれて、より激しくなる。

 足の動きだけでなく、尻尾も使って、体を前に前にと進ませているからだろう。

 あと一分も続いたら、絶対に吐くな。

 頭のどこかの冷静な部分で考えながら、目前に迫りつつある、巨樹の魔物の幹を睨む。

 この速さなら交差は一瞬だ。

 そのチャンスを逃さないように、俺は鉈の刃を魔法で赤熱化させて準備する。


「友よ、いまだ!」

「――だあああああああああ!」


 オゥアマトの声に反応して、俺は鉈を振るう。

 赤熱した刃が入り、熱し斬る抵抗で、危うく鉈が手からすっぽ抜けるところだった。 

 鉈の柄を強く握り、しっかり保持する。

 オゥアマトが駆けるのに合わせて、巨樹の魔物の幹に炎を噴く線が描かれた。

 斬り抜けて鉈の刃が、魔物から外れる。

 それを手の感触で感じていた俺は、すぐに鉈を収めて、手裏剣を抜いた。


「オマケだ、くらえ!」


 魔法で赤熱化させた手裏剣を、狙いもつけずに巨樹の魔物の幹に投げつけた。

 その成果は確認せずに、オゥアマトに運ばれるがままに身を預ける。

 やがて巨樹の魔物の勢力圏から抜けたようで、激しい動きが収まった。

 前を見ると、倒れた大門と、壁が崩れてできた石くれが大量に散らばる光景がある。

 後ろを振り返ると、巨樹の魔物の姿。

 どうやら、オゥアマトは真っすぐに突き抜けてきたらしい。

 地面に降ろされた俺は、先に周囲の確認をすることにした。

 崩れた壁や倒れた大門の周りに、新しい魔物の姿はない。

 たぶんだけど、町の近くにいた全ての魔物が、襲撃に参加したため、一時的に魔物が森にいなくなっているんだろう。

 とりあえずは、崩れた場所の心配をしなくてもよさそうだと、安心した。

 懸念が一つ消えたので、もう一つの問題――巨樹の魔物の姿を確認する。

 オゥアマトの勝手な協力の下、俺がつけた刃傷と手裏剣が刺さった場所は、盛大に燃え上がっていた。


「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛、オ゛オ゛ーー」


 苦しげな声を上げて、巨樹の魔物が体を揺さぶっている。

 やはり、ちゃんと幹の部分に当たりさえすれば、俺が赤熱化させた武器は効果があるようだ。

 ならと、巨樹の魔物から距離を取る。

 弓矢を手にし、斜め上に狙いをつける。

 鏃を溶解する寸前まで赤熱化させてから、曲射で巨樹の魔物へ打ち込む。

 長い距離を移動した空気抵抗で、ヒョロ矢になってしまったが、どうにか当たった。

 刺さった部分から火が上がり、巨樹の魔物はさらに炎上する。

 同じ要領で、二矢三矢と打ち込んでいく。

 当たった矢が増える度に、炎の勢いは増していった。


「ほぅ。巨大な松明のようだな」


 オゥアマトが呟いた感想のように、巨樹の魔物の上半分が炎に包まれている。

 けど、それは俺たちが見る側だけだ。

 反対側――ターフロンや住民たちが戦っている方に、火の手はない。

 巨大な体の半分しか焼けていないからだろうか、巨樹の魔物はまだまだ元気そうだ。

 たぶん、幹の深い中まで燃やせれば、倒すことができるんだろうけど……。

 この弓だと、ここからでは当てるので精一杯。

 とはいえ、近づけば根で阻まれて当てられないだろう。

 どうしようと考えて、この弓には、水をかけれると引きが強まる特性があったことを思い出した。

 早速、細胞から生産される魔力を利用する生活用の魔法で水を作り、弓を濡らしていく。

 滴るぐらいまで濡らし終えてから、弓を引いていく。

 もちろん、素のままじゃ引くことはできないので、体に攻撃用の魔法で生み出した水をまとわせ、そのアシストで引いていく。

 十分に引ききってから、少し動きを止める。

 ここから、体に纏う水を維持しながら、鏃を赤熱化させないといけない。

 攻撃魔法の同時使用なんて初めてだけど、できると強く思いながら、イメージをしっかりと固めていく。 


「水を維持したまま、鏃を赤熱化させる。水を維持、鏃に火……」

 

 呟きながら、魔法を行使していく。

 初めての試みなので、どちらか一方が解除されかかる。

 どうにか堪えつつ、よりしっかりと、どう魔法を使うかイメージし続ける。

 時間はかかったけど、体に水を纏ったまま、鏃を限界まで赤熱化させることに成功した。

 けど、異なる属性の攻撃魔法を二つ同時に使うと、魔塊の消費がより一層激しいことにも気づく。

 これは、切り札中の切り札だな。

 そう思いながら、俺は巨樹の魔物に向かって、矢を放った。

 パンッと空気が弾ける音を残し、赤熱化した鏃が空を裂く赤い色を引いて飛ぶ。

 巨樹の根が反応するより先に、矢は幹に突き刺さった。

 それも、矢羽の位置まで入り込むほど、深くまで。

 そして次の瞬間には、矢が幹の内から溢れた炎で燃え尽き、盛大な炎が矢傷から吹き上がった。


「オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛゛゛ーーー」


 今までにない大絶叫を、巨樹の魔物が上げる。

 それと同時に、魔物の枝に茂っていた葉っぱが、一斉に散り始めた。

 ツリーフォクを引き合いに考えると、どうやら致命傷を与えられたらしい。

 ふぅっと、安堵で息を吐く。

 そのとき、またオゥアマトに抱えあげられてしまった。


「今度はなに!?」

「安堵している場合ではないぞ、友よ。最後の悪あがきに、ヤツめ、こちらに倒れてくる!」


 オゥアマトの言葉に、俺は慌てて巨樹の魔物を見る。

 各所を燃え上がらせたその体が、斜めに傾いていた。

 そしてその角度は、こちら側に向かって、どんどんと鋭角になっていく。


「オゥアマト!」

「わかっている、逃げるともさ!」 


 オゥアマトは足と尻尾を使って、すごい勢いで横に走り始めた。

 その間にも、巨樹の魔物が倒れてくる。

 離れていたことが災いして、俺たちに倒れかってくる部位は、もっとも横幅が広い枝葉が伸びている部分だ。しかも、枝葉の多くが燃え上がっている。

 逃げきれなかったら、火にまかれて死ぬかもしれない。

 俺を抱えて、オゥアマトは必死に走り、前へと飛んだ。

 その一瞬後、俺たちの背後に巨樹の魔物が倒れ込み、土煙がもうもうと上がった。


「ごほごほ。オゥアマト、大丈夫?」

「平気ではあるのだが、消火活動をしないとまずいようだ」


 オゥアマトの言葉に疑問を抱いていると、土煙が収まってきて、周囲が確認できるようになった。

 なるほど、巨樹の魔物の燃える枝葉が、居住地にかかっている。

 このまま放っておくと、大火事になる可能性があるもんな。

 そう納得して、消火活動を始める。

 ほどなくして、魔物たちと戦って生き残った人たちも集まってきて、バケツリレーで火を消し始めた。

 その際に、なかなか火が消えなかった部分が、俺が攻撃した場所だったことに、ちょっと申し訳なく思ったのだった。


 



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― 新着の感想 ―
[一言] そのすぐ下の  口からはゲロと血を、下からも大小の弁と血が流れだし、巨樹の根にかかる。 便、ですね。
[一言] 2割目の 「うわっ! この、話しやが――ごぼおえええ」 離しやがれ、です。
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