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百六十二話 総力戦1

 俺とオゥアマトを含め、闘技場にいた人たちは、町の外へ続く一本道へと出ていく。

 見上げると、壁上には弓やボウガンを手にした、射手たちが立ち並んでいる。

 視線を前に向けると、弱者区画の住民たちのその先に、土煙が見えた。

 恐らく、壊された大門が倒れた衝撃で、土が巻き上がったものだろう。

 その土煙の中から、魔物たちが飛び出てくる。

 大門という巨大な建造物を倒して高揚しているのか、森で見るときよりも生きが良いように見えた。

 その魔物たちへ、通路の左右にある高い壁の上から、射手が矢を降らせていく。


「ギギィィギャ――」

「グブギイィィ――」


 矢を受けて、死ぬもの、転ぶものがでてくる。

 前回、この通路で戦った際の魔物は、矢を受けて右往左往していた。

 けど今回は、矢や足元に転がる味方を気にせず走るものが多い。

 踏みつけられた魔物の悲鳴と、骨が折れ、肉が潰れる音が聞こえる。

 どうやら、矢だけでは全体的な進行速度は鈍らせられないようだ。

 ほどなくして、弱者区画の住民たちと、走り寄ってきた魔物たちが衝突した。


「だああああああ!」

「ピビイイイイイイイ!」

「こんな大勢で来やがって、帰れ!」

「ガイイィィィィィ!」


 壁上で聞こえたことによると、区画ほぼ全ての人が集まっているらしい。

 だからか、魔物の流れを完全に食い止めることができている。

 そのことに貢献しているのは、先頭で戦いに参加している門番と、意外なことにあの冒険者五人組のようだ。


「一匹につき、三人がかりで攻撃だ! 怪我をしないように注意しろ!」

「それで空いた隙間を通り抜けようとする魔物は、見過ごしちゃっていいわよ。なんたって、後ろにもまだまだ人はいるんだから」

「「「はい!」」」


 五人組の指示に従って、住民たちが動き始めた。

 堅実な戦いぶりを発揮して、魔物を一匹ずつ倒していく。

 その姿を、俺とオゥアマトに加えて闘技場に集まった人たちは、最後尾から見ていた。

 前に行って戦いに参加したいのはやまやまだけど、前が弱者区画の住民で塞がれていて、通るに通れない。

 けど、俺たち側に焦りはない。


「あの五人。この戦いを生き延びたら、弱者区画の元締めにでもしてやるとしよう」


 周囲に聞かせるように、ターフロンが言うほど、五人組が統率した住民たちの働きぶりが、目覚ましいからだ。 

 それこそ、このまま倒しきるんじゃないかと、思ってしまうほどだ。

 けどそれは、ゴブリンや一部の昆虫型などの、弱い魔物に限ってのことだった。

 足は遅いが力が強いオークや、トリッキーな動きの蜘蛛の魔物などに、対応が追いついていない。


「ブヒゥオオオオオオ!」

「シュシューーー!」

「ぎゃあああああああああ!」


 個体としての高い性能を押し付けるようにして、魔物たちは住民たちを蹴散らしていく。

 冒険者五人組は、率先してそういう魔物と戦いながら、周囲に指示を飛ばす。


「三人でダメな相手なら、五人、六人と増やして戦え!」

「背を向けて下がったところで、魔物は見逃してはくれないわよ!」


 叱咤を受けて、浮足立ちかけた人たちが、再び魔物と対峙する。

 また戦線が膠着する――かに思えたのに、ここでオーガがやってきた。

 それも、片目を潰された個体だけでなく、怪我一つない健全なオーガがもう一匹、現れていた。


「「グウウオオオオオオオオオ!」」


 二匹そろっての雄たけびと、オーガの姿を見て、住民側の戦意がごっそりと消えたのが見えた気がした。


「お、オーガなんて、勝てるわけがねえ!」

「こっちに下がってくるなよ! 後ろにも人がいて、下がれねえんだぞ!」


 一気に混乱した人々を見て、オーガ二匹が悠々と行動を開始する。

 まずは、手近にいた男の顔を、ぞんざいな手つきで叩いた。

 その一撃で、男の首が九十度横に折れる。

 

「――こぺっ?」


 不思議そうな呟きを残して、その男は横に倒れた。

 オーガの暴虐はなお続く。

 掴めば手足が潰れ、引っ掻けば骨ごと切り裂かれる。

 噛り付けば綺麗な断面を生み、蹴り込めば人がボールのように宙を飛ぶ。

 圧倒的な力の前に、下がれない状況の住民たちは、右往左往するしかない。

 その隙をついて、他種の魔物たちも反撃に転じる。

 冷静に対処できていたときには容易い相手だったのに、今では見る影もなくやられてしまっている。

 そして怖気づいた住民たちは救いを求め、五人組冒険者の背後に集まってくる。

 そうすれば必然的に、オーガたちの目に留まってしまうことになる。


「ああくそっ、見られちまった! 狙われるぞ!!」

「遅滞行為はできるけど、この武器じゃ倒せないわよ! 鉈斬りさんが後ろにいるだろうから、誰でもいいから連れてきなさい!」


 その言葉を受けて、前にいる人たちが一斉に俺の方を向く。

 そして、人が左右に割れ、一人分の幅の小道が出来上がった。

 名指しされちゃ仕方がないよなって、その小道を行こうとする。

 けどその前に、俺の横を誰かが通り過ぎる方が早かった。


「待ちわびたぞ、オーガとやら! さあさあ、尋常に勝負だ!!」


 俺の先を走っていったオゥアマトは、怪我のないオーガへと飛びかかり、殴りつけた。


「グオオオオォォォォ!」


 あのオーガが、その一撃で後ろに下がった。

 オゥアマトは少し距離を取ると、鉈を手に対峙する。

 両者の高まる戦意にあてられて、その周囲から人と魔物が距離を開けた。

 俺はその間に、小道を通り抜けて、片目のオーガへ向かう。

 攻撃用の魔法で、鉈の刃に水をまとわせてから、攻撃する。

 オーガは余裕ぶって、片腕を掲げて受けた。


「でぇやぁああああああああああ!」

「グガ――ガアアアアアアアアア!」


 俺の一撃で、オーガは左手首から先が失われた。

 そのことに驚いた顔になり、悲鳴を上げつつ、血を噴く手首を逆の手で押さえる。

 少し距離を取った後、こちらに憎々しそうな目を向けてきた。


「ググウウオオオオオオオ!」

「皮膚の硬さにあぐらをかくから、そうなる――ん?」


 片目オーガと対峙する向こう側にある、通路の壁の上。

 そこでこちらに手を振ってくる射手がいる。

 目を凝らすと、手にある大型ボウガンとオーガを、しきりに指さして見せてくる。

 どうやら、あのボウガンでオーガを仕留めたいようだ。

 それを見て俺は、少し前にオゥアマトから、一人でやり過ぎと指摘を受けたことを思い出した。

 ならと、ボウガンを生かすために、人の手を借りることに決める。

 俺は襲いくるオーガを避けながら、他の魔物と戦っている五人組冒険者を手招きする。


「そこの五人、ちょっと手伝って」

「えっ、はい!? 手伝いって!?」

「ちょっと、そこのオーガの足止めをして欲しいんだ。そうだな――五つ数えるぐらいの間だけ、押さえてくれない?」


 この秒数は、大型ボウガンから発射される杭の速さと、壁上からここまでの距離から算出したものだ。

 しかし、五秒間という時間は、五人組冒険者たちにとって、無理難題に聞こえたようだ。


「む、無理だ! さっき見てたでしょ。一撃で人が空を飛ぶんだぞ!?」


 少し前まで弱者区画住民を率いていた、あの勇ましさはどこへやら。

 オーガ相手になると、五人とも腰が引けてしまっている。

 どうやら、俺とオゥアマトがオーガをそれぞれ相手取って、窮地を脱したことで、意気地がなくなってしまったらしい。


「グゴオオオオオオオ!」


 雄たけびを上げるオーガの、横なぎに振るわれる腕を避けつつ、どうしようか悩む。


「このオーガは片目で片腕で、だいぶ脅威が減っているぞ。それでもダメ?」

「無理無理無理! 鉈斬りさんが、すぱっとやったほうがいいですよ!」

「そういうわけにもいかない――んだよ」


 オーガの足払いを飛び越しつつ、もっといい説得法を思いついた。


「ターフロンが褒めて、褒美もあげようとしていたのに、残念だな」


 言いながら、避けるのに邪魔なゴブリンの腕を掴み、オーガに投げつける。

 ゴブリンは爪で切り裂かれて、血を噴きあげた。

 その血が運よくオーガの顔にかかる。

 視界の悪さを危惧してか、オーガが俺から距離を取る。

 この間に、説得しきってしまおう。


「何かの役職に就けたいとかなんとか言ったけど、いまの君らの情けない姿を見たら、気が変わるんじゃないかな」


 五人組はダンゴムシ似の魔物を倒してから、ターフロンのいる方向へ顔を向ける。

 彼がどんな顔をしているか、顔を拭うオーガに注意を向けている俺にはわからない。

 けど、言うべき焚き付ける言葉はわかっていた。


「弱者区画から出たいっていたよね。たった五つ数える間オーガを足止めするだけで、ターフロンからの評価が上がる簡単な仕事を任せようと思ったのに、残念だなぁ」


 ちょっとわざとらし過ぎるかなと、自分の発言ながら思う。

 けど、五人組は乗ってきた。


「くそっ。その仕事をやってやるよ!」

「五つよ。五つ数える間しか、あのオーガの動きを止めないからね!」

「ちゃんとゆっくり数えるのなら、それで十分。合図したら、足止めをお願い」


 再び襲いかかってくるオーガを相手にしながら、大型ボウガンが当たりやすそうな位置まで誘導していく。

 俺が防御一辺倒なことに、オーガは調子づいて攻撃を続ける。

 一発どころか、小指の先が引っ掛かっただけで、大けがになりそうな威力の攻撃が眼前を通る。

 念のために、肌の上に薄く魔法の水をまとわせているけど、なかなかに恐ろしい。

 けど、誘導を終えた俺は、刃に水をまとわせた鉈をオーガの足の甲へ突き刺し、足下の地面にまで突き入れた。


「いまだ、お願い!」

「やってやる! 数えるぞ!」


 五人組が一斉にオーガに取りつく。

 堅実な戦い方が特徴の彼ららしく、牙や爪などの攻撃力が高い部位を、盾や武器で押さえながら、オーガの動きを止めて見せている。


「五!」

「四!」


 カウントが始まるのと同時に、壁上の射手がボウガンの狙いをつける。


「三!」

「二――うおおお!?」


 オーガが五人のうち一人を手のない腕で殴りつけて吹っ飛ばす。

 その隙に、壁上のボウガンから放たれた鉄杭が、空中を突き進む。


「一!」

「ゼロ、お仕事おしまい!」


 本当にきっちり五秒間だけ、五人はオーガの動きを止めて逃げ出した。

 逃げる彼らを追いかけようとしたオーガは、飛来した鉄杭に頭を貫かれ、地面に倒れる。

 俺はオーガの足に刺したままの鉈を回収がてら、ゾンビ化防止と死亡確認のために、その頭を斬り落とした。

 鉄杭の一撃で死亡していたらしく、大した抵抗はなかった。

 俺は落ちた首を拾うと、壁上へと顔を向ける。

 嬉しそうにしているボウガンの射手に、この戦果あたまを渡してあげたくなった。

 俺は腕にまとわせた魔法の水のアシストを使って、オーガの頭を下手投げで放り上げた。

 だいぶこの魔法にも慣れてきたので、狙い通りに、壁上まで送り届けることができた。


「どおおああああ!? オーガの頭!?」

「鉈斬りが投げたんだ。俺らの取り分ってことじゃないか?」


 そんな声が上から聞こえてきたが、あまり長くは構っていられない。

 俺が他の人と協力してオーガを倒し、オゥアマトが楽しげにもう一匹と戦っている。

 圧倒的優位が覆されて、魔物たちは浮足立っている。

 この隙を逃す手はない。

 そのことは、ターフロンも同じことだったようだ。


「今のうちに殲滅する! 強者も弱者も、一斉に襲い掛かれ! さらに奥から迫るツリーフォクに、そいつらを逃がすなよ!!」

「おうよ、やってやるぜ!」

「やぃいいいはあああああああ!」


 俺とターフロンが通った、人の間にできた小道を抜けて、最後尾に留まっていた闘技場に集めらていれた人たちが前に出てくる。

 その圧に押されるように、弱者区画の人たちも攻撃を再開する。

 五人組の冒険者たちが底力をオーガ相手に見せたからか、弱者区画の人の戦いぶりが、より勇ましくなっているように見える。

 俺も負けていられないと、鉈で魔物を倒していく。

 こちらの一斉攻勢に、魔物たちは耐え切れず、背を向けて逃げ出す。

 それを追い、一匹一匹を仕留めていく。

 少しして、魔物の大半が屍と化し、残りも逃げるところを殺すのみになった。

 けど、そうそう上手くはいかなくなった。

 なにせ、ツリーフォクの生き残りが、この戦場まで追いついてきたからだ。

 魔物たちにツリーフォクの後ろに隠れられ、こちら側は追いきれなかった。


「あと一歩ってとこで……。だが、ツリーフォクを倒せばいいだけの話だ!」


 誰かが言った言葉に、他の人たちはその通りだと同意する。

 そして、ツリーフォクごと他の魔物を倒そうと、攻撃を再開しようとした。

 けどその行き足を止めるような轟音が、ツリーフォクたちの向こう側から響いてきた。

 何事かと警戒する俺たちに、壁上の射手が大声で伝えてくる。


「樹木のデカイ化け物! 道幅が狭いからって、無理やり押し広げるように、入ってきやがってる!!」

「やばいぞ! あの巨体に押されて、壁にヒビ割れが!」


 知らせに驚き、目を凝らしてツリーフォクたちの間から、向こう側を透かし見る。

 すると、この通路の幅を埋めるような、巨大な樹木の肌が見えた。

 あれほどの巨体とは、距離があるうちはわからなかった。

 そして、あの魔物が退路を塞ぎきってしまったため、今後の戦いに影響が出そうだと歯噛みしたのだった。


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