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百四十二話 金策の誘い

 今まで使っていた弓と、宿で作った中で残す気のない弓は、武器屋に売りに行くことにした。

 そのついでに、鉄を仕入れて、普段使いの鉈を新たに作ろうと考えていた。

 けど、宿を出たら、ターフロンが手下を引き連れて通りかかるところに、出くわしてしまった。

 向こうも俺に気が付き、気軽に挨拶してくる。


「よぉ、鉈斬り。ツリーフォクを倒したそうじゃねえか。ん? なんでそんなに弓ばっかり持っているんだ?」

「その木の魔物の素材で、弓を試作してみたんだ。自分用に残すもの以外を、今から売りに行くところだ」


 理由を話すと、なぜだかターフロンの手下たちが、こちらに怒声を浴びせてきた。


「テメェ! ちょっと強いからって、調子に乗ってんじゃねえぞ、コラぁ!」

「ターフロンさんはな、この町で一番強いんだ。敬意を払えってんだよ、敬意!!」


 これぞ腰巾着って感じの言葉を受けて、俺はターフロンに問いかける。


「って言っているけど、言葉を正した方がいいのか?」


 あえてぞんざいな口調で聞くと、腰巾着たちが色めき立つ。

 しかし、ターフロン自身は、笑顔で彼らが発言しようとすることを止めた。


「構わねえよ。口調だけの敬意だなんて、聞いているこっちが不快になる。それに鉈斬りには、生意気な口を許せるだけの実力があるからな」


 ターフロンが許してしまったので、腰巾着たちは何も言えなくなった。

 これで挨拶は終わっただろうと、武器屋に行こうとする。

 けど、ターフロンがそれを止めた。


「ちょっと待て、鉈斬り。その弓、売る気なんだよな?」

「ええ。お金が欲しい理由もあるので」


 そのお金がウィヤワに会うためだと悟った顔を、ターフロンがする。


「よし。その弓を見せてみろ。良い出来だったら、買ってやる」


 そういうことならと、売る予定の弓を一つずつ交換で手渡していく。

 ターフロンは手渡すたびに、弓を曲げ伸ばしして、感触を確かめて行った。


「ほうほう。一つずつ、引く強さが違うのか。この町で人気の弓の強さを、武器屋で聞くつもりだったのか?」

「いや。ツリーフォクの素材を使うのが初めてだったから、どの部位をどれぐらい使ったら自分に合う弓ができるか、確かめるために作っただけ」

「ツリーフォクの枝や根で弓を作るらしいと噂を聞いたときは、耳を疑ったが。なるほど、悪くないな」


 その口ぶりから、どうやらターフロンがこの場所にきたのは、偶然ではないと分かった。

 ツリーフォク素材の弓の具合か、俺が本当に弓を自作できるのかを、確かめるためだったに違いない。

 そう考えながら、俺はターフロンに、自作した中で、まともに引けないぐらい強い弓を渡す。


「ぐぬっ。これはなかなか、強情な弓だな」


 筋骨隆々なターフロンも、この弓を曲げるのは容易ではないようで、力んで顔を赤くしている。

 それでも、俺が試したときよりも、だいぶ弓を曲げられているのは流石だ。

 ターフロンは額に浮いた汗を手で拭うと、俺に笑顔を向けてきた。


「うむうむ。なかなかにいい弓ばかりだな。最後のやつは我輩用にするとして、残りも壁上に布陣する射手のために買い上げさせてもらおう」


 ターフロンはある腰巾着に、顎をしゃくって何かの合図を出す。

 指示された男はうやうやしく、手のひら大の木の板を、大量に差し出した。

 それは、時代劇でサイコロを使った賭けのシーンで出てくる、板状のチップのように見える。

 その板の何枚かを、ターフロンは掴むと、俺に差し出してきた。

 受け取って観察すると、文字やら焼き印やらを押されていて、なかなかに立派な見た目をしている。


「これは?」

「鉈斬りは初めて見たのか。それはな、クロルクル内での流通貨幣だ。お前に渡したのは、一枚で銀貨十枚と交換できるものだな」


 ターフロンからの説明を受けて、もう一度板を見てみる。

 すると、焼き印の中に、銀貨と十枚という単語が、柄の一部として入っていることに気が付いた。


「へぇ……でも、板がお金の代わりだと、偽造されない?」


 純粋な疑問をぶつけると、ターフロンは大笑いした。


「ガハハハハッ。できるものならしてみるといい。ただし、偽造がばれたのならば、我輩の手下たちが殺しにいくから、留意するといい」

「……偽造は、即死刑なんだ」

「ガハハハッ。そう周知徹底させているのに、弱者区画にある偽造所は、潰すたびに新しく現れるので、手を焼いているのだがな」


 困っている風な言い方なのに、態度を見る限りではそう思っていなさそうだ。

 きっと、ターフロンにとって、偽造所と偽造者を潰すことが、楽しみの一つになっているに違いない。

 偽造の件はさておき、俺は渡された木板貨幣の数を数える。

 合計で、金貨一枚分ぐらいか。

 試作した弓の代金にしたら、上々といえる報酬かな。

 俺が不満なく木板貨幣を持つと、ターフロンは弓を腰巾着たちに渡した。

 その後で、ターフロンは俺に念を押してくる。


「次にツリーフォクを狙うときは、こちらに声をかけてこい。手勢を貸してやる。なんなら、弱者区画のやつらに動員命令をだしたっていい」

「……報酬の分け前は?」

「ん? そうだな……お前が三で、こちら側全体で七でどうだ。お前一人で倒したところで、ツリーフォクの大部分は捨てなきゃならないんだ。なのに、三割ももらえるのは破格だろ?」


 ツリーフォクは一匹まるまるで、金貨一枚相当。

 その三割を独り占めで、七割を手伝ってくれる人たちに分配か。

 どれだけ手伝いを貸してもらっても七割だけでいいし、売り先を自分で探さなくてもターフロンが引き取ってくれるだろうから、悪い取り引きじゃないと思う。

 けど、金貨二枚集めるには、ツリーフォクを六匹か七匹を倒すことが必要になるな……。

 利点と欠点を秤にかけて、俺は一つの提案をする。


「こちらが四割、そっち全体で六割なら、その話を受けてもいい」


 強気な発言に、ターフロンの片眉が上がる。

 しかし、怒ったりはしなかった。


「よし、それでいい。だが、報酬を上げる分、こっちの頼みも聞いてもらう」


 提案は受け入れてくれるようけど、クロルクルの実質的支配者だけあって、あっさりとはいかないみたいだ。


「頼みって?」

「行商がくるまで、予定ではあと二日ある。それまでに、ツリーフォクを最低一匹納品しろ。それができなければ、報酬の話は三対七だ」


 俺はツリーフォクを見つけて倒す自信があるので、その条件を飲む。


「分かった。それでいい。ツリーフォクを獲りに、今から森に行っても?」

「構わない。急ぎで手配が難しいが、外で作業中の木こりを十人、荷運び用の馬を二頭、そちらに回してやろう」


 ターフロンは言い終わると、腰巾着の一人の尻を蹴っ飛ばして、伝令に走らせた。

 

「では、ツリーフォクを待っているぞ」

「ちゃんと獲ってくるとも」


 ターフロン達と別れ、俺は新調した弓と共に歩き出す。

 期間が決まっていて急がなきゃいけないんだけど、外へ向かう道中で立ち止まり、屋台の料理で腹を満たしておいたのだった。


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