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百八話 発見と歴史

 早朝訓練の後、立ち振舞いを学ばせるために、リフリケは屋敷の何処かへと連れて行かれた。

 その姿を見送ってから、俺とシャンティは昨日と同じように、町の中へ繰り出すことにした。


「今日はどこに行く気なんだ?」

「えーっと、お昼まで市場を見回ってから、剥製工房に視察の予定です」

「剥製工房?」


 そんなところに、なんの用があるのだろうかって、首を傾げる。

 すると、シャンティは得意気な顔で説明を始めた。


「その工房では、十日後に開かれる競売オークションに出品する、海の魔物の剥製を作っているのです。なので、どんな魔物なのか調べにいくのです」

「へえ~。でも、その剥製って、すんなりと見れるものなのか?」

「分かりません。けど、工房の場所が判明しているんですから、話ぐらいは聞けるのではないかと思います」


 そうそう上手く行くとは思えないけどな。

 とはいえ、競売が十日後にあるのか。

 シャンティに競売品を探らせようとしているあたり、ヘプテインさんがこの町に滞在しているもくてきも、海の魔物の剥製を競り落とすためなのかもな。

 ――あっ、そういえば。

 こちらに宣戦布告してきたあの男が、シャンティを狙う目的に『見栄と金』と言っていたっけ。

 海の魔物を競り落とせば、見栄を張る事が出来る。

 競り合いをする相手が少なければ、それだけ出金を抑えることに繋がる。

 となると、参加者を減らすために、シャンティを捕まえて、ヘプテインさんたちにその競売に出ないようにって、脅迫する気なのかもしれないな。

 そうするとだ、シャンティを狙う大本は、貴族か豪商人かのどちらかと言うことになりそうだな。

 だって、普通に暮す人にとって、海の魔物の剥製なんて、場所をとるだけの邪魔なものでしかないし。

 けど、出すお金を抑えるために、悪漢に依頼料を払ってこっちを襲わせるなんて、本末転倒じゃないか?

 ……いや、競りに金貨が動くことを考えると、悪漢を銅貨や銀貨で動かしたほうが安上がりなのかも。

 そんな事を考えていると、市場に到着していた。

 人ごみの中に入る前に、周囲の気配を探る。

 俺たちに注意を向けている人は、まだいないようだ。


「バルト、行きましょう!」

「はいよ。じゃあ、はぐれないように手を繋ぐぞ」


 俺たちは手を繋ぎ合って、市場の中に入った。

 食料品や屋台の料理は、昨日の今日だから、あまり代わり映えはしていない。

 けど、昨日食べられなかった物を中心に、シャンティがあれこれと買って試していく。

 そして、領地の反映に必要だと判断したものを、サンプルとして数個ずつ買い集めていった。


「次は道具や工業品を見て回りますよ」


 まずまずの成果に意気を上げるシャンティに連れられて、俺は店巡りを続けていく。

 すると、道具屋にて歯車を見つけた。

 円形に切られた厚く大きな木板の八方に、短い棒を突き刺しているもの。

 前世でよくみかけた、鉄で作られたと思われる、ギザギザな歯がついたもの。

 三角形や六角形の物もある。

 どんなことに使うのだろうと首を傾げながら、鉄製の円盤状の歯車を手に取る。

 大きさは手のひらよりも少し小さいぐらいで、歯はよく磨かれていて尖っていた。

 きっと、鍛冶魔法で作ったんだろうなと、その出来栄えを見て思う。

 歯車の歯に触れて、チクチクとした感触を楽しんでいて――ハッと思いついた。

 この鉄の歯車、フリスビーのように投げつけたら、武器にならないか?

 このままだと殺傷力が薄いだろうから、歯をもうちょっと大きくして尖らせて、飛距離を伸ばすために歯車自体の厚みを薄くして軽量化すれば、いけるんじゃないかな。

 要は手裏剣みたいな物に、作り変えればいいんだ。

 俺は思い付きを試すために、鉄の歯車を購入――しようとして、その銀貨を要求する値段を聞いて取りやめた。

 今の俺なら楽に払えるけど、自分で作れるようなものに、大金を払う気にはなれなかったからだ。

 なので、道具屋の片隅に置いてあった、鉄の武器や道具を溶かして作ったらしき、握り拳より少し大きな粗雑な鉄の塊を、安く買うことにした。

 試作するならこれで十分だし、本腰を入れて作る際には、俺が鍛冶魔法で不純物を取り除けばいいだけの話だからな。

 けど、シャンティは俺が鉄の塊を買ったことに、不思議そうな目を向けてきた。


「それ、どうするのですか?」

「武器を試作してみようかなってね」

「作るのですか? この町の家には、鍛冶魔法を使える職人や、鉄を溶かす炉などはありませんよ?」

「大丈夫。鍛冶魔法を使える人なら、ここにいるからな」


 俺が親指で自分自身を指すと、シャンティは驚いた顔になった。


「鍛冶魔法をお使いになられるんですか!?」

「まあな。というか、シャンティは魔法を魔導師から習ったりしてないのか? 習っていれば、生活魔法の延長線上にある、鍛冶魔法ぐらいは使えると思うけど?」


 荘園の主の息子でも魔法を教えてもらえるんだから、貴族の子息であるシャンティが教わっていないはずがないよな。

 そんな疑問を込めて尋ねたところ、シャンティはバツが悪そうな顔をした。


「我が一家は、辺境を開拓した騎士を祖とするので、魔法使い――魔導師とは反りが合わないのです。そのため、魔法を教えてくれるような人は、やってこないのです」


 どうやら店の中でする類の話じゃなさそうだ。

 道具屋の外に出て、道を歩きながら聞くことにした。


「シャンティの一家が魔導師嫌いって、どういうことだ?」

「それはですね、我が家の開拓の歴史を紐解かねばなりません――」


 シャンティがそれから語った内容は、要約すると次のようになる。

 シャンティの先祖は騎士で、魔の森を開拓することを命じられた。

 森の主を多大な犠牲を払いながら倒し、森を開拓していった。

 この功績が認められて、シャンティの祖先は貴族の仲間入りを果たしたらしい。

 その後も、次々に生まれる新たな森の主を倒して、森の開拓を続けていく。

 けど、人の損耗が激しいため、人員の補充を王様に求めた。

 それで人員の補充はあったものの、貧民や犯罪奴隷など、まともに戦えるような人はやってこなかったらしい。


「僕のご先祖さまたちは、せめて魔導師を一人だけでもいいから救援に寄越して欲しいと頼みました。けれど、それは叶いませんでした」


 仕方がなく、戦闘に不向きな人は土地の開墾に回し、戦える人を無闇に死亡させないために、森の開拓はゆっくりと行うことにした。

 そして、開拓に終始した初代当主が死亡する直前に、開拓した土地の広さを讃えて、侯爵位を賜ったそうだ。

 初代当主が死亡した後は、二代目当主が領地に接する森の主を倒し、新たな主を全て領域安堵型――つまり森の外に出てこない魔物に調整したそうだ。


「そうやって、土地の安全を確保したターンズネイト家は、住民全てに農業に邁進するようにと、お触れを出したそうです。ですが、これで終わりではなかったのです。そしてここからが、ターンズネイト家が魔導師を嫌う理由に繋がっていきます」


 そう断りを入れると、ここからシャンティは、苦々しそうに語りだす。


「我が領地は広大で、接する魔の森も広いので、十匹ほどの森の主が分け合って統治しているようです。ですが当時、その森の主の中に何匹か、魔導師にとって素材としての価値が高い魔物がいたようです」

「……まさか、その魔物を狙って、魔導師がやってきたのか?」


 テッドリィさんと行ったあの開拓村でも、銅のゴーレムが出ると分かった途端に、魔導師が三人もやってきた。

 それと同じことが、ターンズネイト家の領地で起こったんだろうと予想した。

 シャンティは、その俺の考えを肯定する。


「はい、その通りです。初代さまと二代目さまの尽力で、平和になった我が領土に、我が物顔で魔導師が十人もやってきたそうです」


 そしてここから、ターンズネイト家とその領民、そして魔導師たちのいざこざが始まったそうだ。


「開拓時に助けに来てくれなかったのに、苦労の末に平穏になるよう調整した森を、魔導師たちは森の主を殺すことで壊そうとします。そのことに反発すると、魔導師側は魔法の発展に協力しない不心得者たちと、こちら側を糾弾しました」


 話し合いは平行線を辿る。

 やがて魔導師たちが魔法の力を盾に要求を無理矢理通し、数匹の森の主を倒して素材を奪ったそうだ。


「その後、新しい森の主に領地を奪い返そうする魔物が立ったせいで、森に接する領地は荒れ始めました。しかし魔導師たちは、獲る物はとったと、あっさりと領地から出て行ってしまったのです」


 惨状を王に訴えても、魔法の発展のためと却下され、やむなく魔の森の主が全て領域安堵型なるように、再び討伐調整をしたそうだ。


「その戦いせいで、死ぬはずではなかった人が死んだのだと、いまでも我がターンズネイト家と領民は、魔導師に恨みを抱いているのです」


 そういう事情があるなら、魔法の使い方を子供に教えるために、魔導師を雇おうとはしないだろうな。


「あれそうなると、シャンティの領地にいる人たちは、魔法が使えないのか?」


 教師がいなければ、魔法を使うことは難しい。

 そう思っての質問に、シャンティは笑顔で否定してきた。


「いいえ。魔導師に習わずとも、魔法を学ぶ方法はいくらでもあります。そして魔導師の影響を領地から排除するために、独自で作った魔法を修める方法を広めています。今では我が領民の多くは、生活に魔法を用いているほどなのです」

「……あれ? シャンティは魔法を使えないんじゃないのか?」

「いえ、生活用の魔法に限りますが、使えます。僕が言いたかったのは、魔導師に教わっていないために攻撃用の魔法は使えない、という点だったのです」


 証拠にと、指先から水を出してみせてきた。

 だったら、ここまでの話はなんだったのかと、俺は肩をすくめてしまう。

 するとシャンティが、イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべてきた。


「あはっ。いえ、言葉が足りず、誤解させてしまったようで、失礼しました」

「いや、早合点した俺も悪かった。けど、生活用の魔法が使えるなら、鍛冶魔法もできるはずだ。武家に奉公に出される予定なんだから、自分の装備を調整できたほうがいいだろうし、後で教えてやろうか?」

「えっ、本当ですか!? なら、是非に!!」


 やったーと喜ぶシャンティの姿が微笑ましくて、俺は思わず頬を緩めてしまう。

 その後で、空にある太陽の位地を見る。

 もうそろそろ、昼飯時だな。

 買い食いして腹は膨れているから、屋台で何か買う必要はないな。

 そう判断した俺はシャンティと手を繋ぎ直すと、予定通りに剥製工房に向かうことにしたのだった。


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